第15話 死の光からは、おなじみの流れです。つまり、俺の成長ゼロって事だ。泣ける……
アリアさんが、倒れたアルファさんの元に駆け寄る。俺も、重い身体を何とか起こして、アルファさんの元へと向かう。
アルファさんは、吐血していた。意識は既に無い様子だ。
俺は真っ先に、自分の『光』を疑った。放射線被爆、1キロワット。1,000Wの「光線」。これが可視光線域であれば、まぶしいが大した光では無い。
問題は、光1,000Wの力が全て、ガンマ線に集約している点だ。アルファさんは防ぎきった様に思ったのかも知れないし、事実防ぎきった可能性もある。
が、今まさに倒れているアルファさんが、何処で吐血する程のダメージを受けたのかは正直謎だ。俺の光線かも知れないし、他のグレーディッドの攻撃かも知れない。
「アルファさんが倒れた! 全員様子を確認してくれっ!!」
俺は声の限り叫んだ。目の前には土作りのデカ物があるせいで、向こうまで声が通るのか怪しい。
幸いにして、最初に墜ちた風魔法のガンマさんが、フラフラではあるがこちらに来てくれた。
「アルファっ、調べるよ! [イン・ビュー][マギ・アナライズ]」
続いて、ゆっくりな足取りではあったが、メイド服がボロボロになっている土魔法士デルタさんが辿り着いた。
「アルファが倒れるなんて……どうガンマ、中身はどうなってる?」
「う……ん、魔導線に問題がある。随所で魔導線が寸断されていて、体内の魔力が暴走状態に近い」
魔導線? 魔力の暴走? ダメだ、地球の概念では計れない、これが放射線障害なのか、元から判別も難しいし知識も浅い。尚更分からない。
「これは俺の、イスヴァガルナ様の光の影響の可能性はあるの?!」
「イスヴァガルナ様の……あんた、仲間に『死の光』を使ったってーの?」
魔法を中断したガンマが俺に詰め寄る。
「使ったのは間違いない事実だ」
「このばっかやろー!!」
ガツン、とげんこつが顎に入る。モロ喰らった俺は立っていられず、その場に崩れた。
「イスヴァガルナの『死の光』っちゃー、国一つ焼き払うトンデモ兵器じゃねーか! なんでそれを味方に向けた! 向けるならせめてこっちにだろう!!」
「そうじゃ、ない……アルファさんから、全力を尽くすよう、秘策も全部出せと……それで、グレーディッドはその程度じゃ沈まないみたいな事を」
「信じるなよバカ!! 信じんなよそんなの……」
俺の目の前まで来て、へたり込んで、泣き出した。
あーあ。俺また、女の子泣かせちゃったな。この始末はやっぱり、俺がしないといけないよな。
「大丈夫、俺が何とかする」
「はっ?! グレーディッドでもないてめぇに何が出来るっつーんだよ!!」
罵声を背中に、フラフラな俺ではあるが、アルファさんの真横に座る。ここからは時間が勝負だ。
「シューッヘ君、何を」
「俺の邪魔をしないでくれ、アリアさん。好きだった、ありがとう」
俺はアルファさんの頭と腹の上に、手を浮かせて。
またあの時と大差ないな、と心の中では苦笑いしつつ。
これが招く結果は結局、あの時とは違うから只一つで。
俺がここで死んでしまう事が間違いないけれど。
[アルファさんの身体状況の異常のみを、15分前の状態に戻す]
俺は強く念じた。15分はやり過ぎだったかも知れない。多分10分くらいで戦闘は終わってる。
けれど、足りなくて『間に合わなかった』のだけは避けたかった。俺がしくじったことだから、俺がやられるのは、仕方ない。
案の定というか、前にも同じ状態になったな……そう振り返る一瞬の余裕だけはあったが、すぐに視界が歪み、俺は地面に頭から突っ込んだ。
視界が白黒に明滅を続ける。段々と、黒の割合が増えてくる。これで死ぬのか……本来地球で死んでるから、まぁ良いか。
ごめん、アリアさん。
ごめん。
***
「シューッヘ様!! お気を確かに!!!」
うわっ驚いた。ってアレ? ここ何処だ? なんかどこもかしこも白い。白い壁に白いカーテン。白衣の人たちに……ホントにここ何処?
ん? てか俺は……そうだっ、アルファさんに時空魔法を使って、それからどうなったっ?!
「あ、アルファさんはどうなりましたか?!」
「シューッヘ様、まだ動いてはいけません。身体に止めてある魔導極が外れてしまいます」
「魔導極? あ、なんかたくさん……」
ふと自分の身体を見ると、手から足からあちこちに、ペタペタとシール状の何かが貼ってあり、そこから配線が伸びている。
どうもこれを外してはいけないようなので、起こしかけた身体を元に戻す。ふかっとする寝心地、ここはベッドの上か。
「アルファさんは、どうなりましたか。俺、助ける事が出来ましたか」
「アルファは、今独房の中に居ります」
「独房? どういう事ですそれ」
独房、と言うと、俺の世界の言葉に正しく翻訳されているならば、逮捕された人間が入れられる場所だ。
アルファさんに何か罪があるという訳が無い。それなのに何故?
『あんた自分の立場がまだ分かってないの~? ノガゥア子爵さま』
「め、女神様?」
その声に、俺の横に立っていたヒューさんがさっと膝を折り屈んだ。
『子爵まで授けられる者を死の淵に追いやった。英雄を殺し掛けた。どっちを取っても、死罪確定モノね』
「そ、そんな。俺が助けたのが、まるで無意味に」
『無意味よ。女神が与えた力を甘く見た民が受難を受ける。それが当然。あんたはそこに、変な優しさを差し込んだ。
けれど、女神の力に民草が立ち向かうこと自体がダメなのよ。勿論、あんたを挑発して女神の光を使わせたことも。
どれもこれもダメなところだらけで、本来なら私が天罰下しても良いところよ。出しゃばると面倒だから人の手に委ねてるけど』
なんと……それって端的に言ってしまえば、女神様の怒りを買った、という事なのか?
『怒りを買った、なんて言われると私が文句付けてどうこう、って感じがして嫌な表現ね。単にバカな地上の民が神に抗った、それを罰されるだけよ』
……二の句が告げない。そう言われてしまうと、反論のしようも無い。
「大変畏れながら、女神サンタ=ペルナ様に申し上げまする」
『発言を許すわ、ヒュー・ウェーリタス』
「シューッヘ様は此度の出来事について、アルファの処罰を望んではおられないものと推察致します。
されど、こと罪状となるべきは女神様への反逆であり、シューッヘ様の存念如何という問題を超えております。
女神サンタ=ペルナ様としては、アルファなる者、処罰せねばならぬものでしょうか。お聞かせ願いたく」
『うーん、別にどうしても処罰しなくちゃいけないって程でも無いわよ。女神を軽んじたのは間違いないけれど、女神に対して直接刃を向けた訳じゃ無いからね』
「然れば、もしこのヒューが助命嘆願に動いたとして、女神様のお怒りを受けますでしょうか」
『別に怒らないわよ。英雄がどうの、貴族がどうのってのはあくまで人の世の話だし、女神としての接点はあくまで英雄として送った者を安易に殺されては困る、という位のことだから。再発防止が出来るなら、構わないわ』
ヒューさんが屈んだままの姿勢で更に深く頭を下げる。
「今の女神様の御言葉を受けまして、このヒュー、アルファの助命嘆願を国王陛下に行います」
「す、すいませんヒューさん。俺の軽はずみな行動で、随分大がかりな話にしてしまって」
「ふふ、全くですな。国王陛下のお怒りを買わずに済めば良いのですが」
含み笑いをするヒューさん。言葉とは裏腹に策があるのか、随分リラックスした余裕のある様子だ。
「では早速に行って参ります。お暇でしょうからアリアを入室させます。この度の立役者でもございますぞ?」
立役者? アリアさんが何か、あのメンツの中で出来たことってあったのかな。
と、考えている間に、ヒューさんはとっとと足早にいなくなった。俺の周りにはカーテンが掛かっているので、部屋の向こうは見えない。
向こうの方からは、プシューッとエアーが抜ける様な音がする。ここがもしイリアドームなら、ドアが全部そういう構造なのかも知れない。
パタパタパタと足音が聞こえる。アリアさんの足音に違いない。
カーテンがさっと開かれ、またすぐ閉じられる。来てくれたのは、アリアさん。少し嬉しい。
「シューッヘ君、もう大丈夫なの? あーでもまだ魔導極が一杯……」
「俺的には大丈夫なつもりなんだけど、ヒューさんからも動くなって言われてる。因みにここってどこ?」
「ここは、イリアドーム内の緊急医療処置室よ。あなたの状態が酷く悪くて、ここに運び込まれたの」
「俺、助かったんだよな……15分にしたのが良かったのかな」
「15分?」
アリアさんが、眉を寄せて「よく分からない」って顔をしている。
そりゃそうだ、魔法は詠唱してないし、その魔法も失伝したと言われる時空魔法だし。
「15分の時間分だけ、アルファさんの『異常状態』を時間戻したんだよ」
「時間を戻し……ってそれ、シューッヘ君、時空魔法が使えるの?!」
「うん。女神様から頂いた『全属性』に含まれてるみたいで、使ったのは2回目。前回も死ぬ寸前まで行ったよ」
「えぇぇ……そんな、幾ら人を助ける為だって、シューッヘ君に死なれたら……」
アリアさんの目が、何とも言えない悲しそうな、辛そうな目になる。
「えーと……前回は、マギ・エリクサーってのをヒューさんが使ってくれて生き残れたんだけど、今回は?」
「今……何使ったって言ったっけ? シューッヘ君」
「え? マギ・エリクサーだけど」
「ヒューさんも、シューッヘ君はとても大切な人だって思ってるのね」
「あぁ……マギ・エリクサーの価値って凄いらしいね、ヒューさんが言ってたっけ」
アリアさんの呆れてる様な顔も、これはこれで可愛い。
「で、マギ・エリクサーの件でもそうだけど、魔力が尽きたかそれに近い様な俺が、今何でこう元気なの?」
「今あなたは、このイリアドームの主回線と直接接続してるの。イリアドームの中にある魔導水晶から、魔力を直接補充しているんだって」
「イリアドームの魔導水晶って、城塞都市の照明とかに使われるんじゃなかったっけ、そんな凄い量を?」
「量はきっと調整してると思うけど……さすがにこの施設って丸々全部国家機密だから、あたしも聞いた限りしか分かんないなぁ」
「そっか。そう言えばヒューさんが、アリアさんのことを『立役者』って言ってたけど、俺の事助けてくれたの?」
と言うと、ちょっとアリアさんは顔を赤らめた。
「アレは、あたし必死で……」
「ん? 言いづらい? もし言いづらかったら、いいよ?」
「言いづらいって程じゃ無いんだけど……あたしさ、火急呼び出しの魔法使えるじゃない?」
「ああ、ギルドの時にヒューさんを呼び出した魔法?」
「そう、それ。それを、必死に何度も使ったの。メイドさん達からは、魔力は壁で吸収されて無駄だって冷たく言われたんだけど」
「確かに、あの壁の吸収力は凄かったな。俺の魔力放出を全部飲み込んでた様に感じたし」
「それでね? もう必死に、何度も、ヒューさんを呼んだの。何十回とかかな……そしたら、ヒューさんがさ」
「ヒューさんが、どうしたの? 来てくれたの?」
「うん。入口の扉を蹴破って」
「け、蹴破って?! そんなに脆い扉だとはとても思えないんだけど……」
かなり衝撃。あれだけ魔法をバンバン受けてもまるでノンダメージな扉、しかも蹴破るとなると、開く方向とは逆。
そんな扉を、蹴破った? ヒューさんどういう筋力……身体強化魔法みたいなものでも使ったのかな。
扉一枚と言っても、魔力吸収が内側に掛かってた特殊な扉だ、とんでもない物を破壊させてしまったな……
「あの状況って、本当は絶望的な状況だったんだって、ベータさん言ってた」
突然アリアさんが俺の横にちょっと腰掛けて言う。
「今日のリーダーのアルファさんの声と命令じゃないと、今日はあの扉は、規定の時間までは開かなかったはずだったんだって」
「うーんと、つまり他のメンバーは誰も開けられなかった、5時間の教練が終わるまでは閉じ込められてたってこと?」
「そうみたい。けれど、肝心のアルファさんが……シューッヘ君が魔法使った後すぐに目を覚ましたんだけど、上手く魔力が使えないって」
「あれ、おかしいな。俺が与えた異常状態は、完全に直ってたはずなんだけど」
「心身共に『異常』は無くなってたみたい。けれど、実戦演習で、魔力を急撃に使いすぎて、それが原因だって言ってたわ」
「そっか。あくまで俺の、女神様の光が痛めつけた『異常』に固執し過ぎちゃったか……」
「扉は、声と命令で開くはずだったんだけど、魔力が正常な状態で無いとダメみたいで、開かなかったの。それであたしが……」
必死に、ヒューさんを呼んでくれたんだね。俺の為に、必死になってくれて……
幸い今回は、いや前回もではあるが、どの位で死に至るか分からないけれど死ぬ前に戻ってこられて、良かった。
ヒューさんを呼んでくれて、ヒューさんはヒューさんで、閉じ込められた状況を強引に破壊して。
俺の為にって、みんなに色々無茶させすぎてる。
俺、どうお礼をすれば良いんだろう。
命を助けてもらったお礼って、地球でそんなこと考えた事無かったからなぁ……。
「アリアさん、俺なんて言えば良いか正直分からないんだ。お礼したい気持ちはあっても、言葉が追いつかない」
「ふふ、シューッヘ君らしいね。シューッヘ君、ちょっと不器用なところあるから」
アリアさんが俺の手に、そっと手を重ねてくれた。
「生きていてくれれば、それで十分。お礼の言葉になんて、あたし拘らないわ。きっと、ヒューさんも」
アリアさんの優しい口調とその言葉に、俺は何とも言いがたい安堵感と、温かい気持ちに満たされた。
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