第12話 難しい理論もこなすアルファは出来る子 ベータは説明が小難しい理論系。
都合50話投稿出来ましたー(^^)
「ノガゥア卿。魔力のみを単純に放出することはお出来になりますか」
「ど、どうだろう。こんな感じかな」
俺は、アルファに付き従ってさっきのフロアまで下りてきた。そこへ、魔力を単純に放出する様にと言われた。
うーん、魔力という物自体を、ハッキリと把握している訳ではないのだが……
とは思ったが、取りあえずやってみた。手から凄い勢いで水が出る、そんなイメージだ。
「よく出来ています。ではここに、火の魔法要素を加えます」
魔法要素を加える?
要するに、火魔法にするって事かな。
思っていると、俺の手の甲に、アルファが指2本を触れさせた。
[エレメンタル・プラス・ファイア]
アルファがそう唱えた瞬間、俺の手のひらから、もの凄い直進する炎が出た。まさに火炎放射器。アレだ。
と言うか、放射のスタート地点が手のひらに近すぎるのか、かなり熱い。即やけど、とまでは言わないが、我慢してないと手を引いてしまいそうだ。
「魔法の始点を調整する場合、多くの場合には魔法始動時に無意識的に行いますが、発動後の魔法でも調整は効きます」
と、アルファが吹き出す炎の最初の所に指を当て、ススッと俺の手のひらから火炎の始点を離してくれる。おぉ、これはありがたい。
しかしこの炎、大丈夫か? 距離が伸びすぎて、思いっきり、入口の壁を焼いてるが……
「因みにこの演習室の壁は全て魔力を吸収し、内部空間に再放出する仕組みになっています。床も同様です。
ですので、ノガゥア卿が余剰魔力を放出し吸収させればさせる程、アリアさんの回復も早くなり、2講目からの魔法行使が楽になります」
俺の視線を読んだな。俺の考えている事をまるで読まれている様だが、女神様の時の様に深層をえぐられる感じはない。
「俺のこの魔力放出って、炎以外にも応用が利くって事? 火の魔法要素以外で、みたいな」
「はい。水魔法であれば大量の水を生み、風魔法であれば暴風を巻き起こすでしょう」
「その時って、周りの物を消耗したりはしないの? 例えば火魔法だと、酸素をー、みたいな」
「サンソ?」
「あー酸素は通じないか。長い間狭い空間で火魔法の、こんな魔法を使っていたら、息苦しくはならないのかなって」
俺の言葉にピンと来たようで、アルファは目を伏せて首を横に振った。
「魔法要素という概念は、単なる概念ではありません。単離しての観測は出来ていませんが、あらゆる『物』の上位概念、つまり『全ての物の元』です」
「んー……つまり?」
「密閉空間で大量に物を燃やす、たき火などをすると、大層息苦しくなり、場合によっては命を落とすこともあります。
ですが、火魔法で作る火というのは、それ自体が周りに対して影響することはほとんどありません。熱を放つ点などはたき火と差がありませんが、何かを燃やしてはおりません」
「燃やしてる訳じゃ無いのに、火が出るんだ」
「左様にございます」
「とー……じゃ、例えば水魔法でも、水だけを、魔法要素を変換して純粋に「作る」の? 水魔法じゃ周りの水を「集める」んじゃなくて?」
「水魔法での水獲得は、周りの水を集める方法と、単純に魔法要素を水に変換する方法との2つがあります。一般的には前者の方法が取られます。後者の方法は極めて効率が悪いです」
なるほど、扱う物によっては、周囲環境の物を集めたり、または単純に発生させたりと、話が変わってくるのか。
「この辺りの複雑な話は、発生と具現化が複雑な様相となる土魔法の講義にて、実感頂ける事と思います」
ふむふむ。勉強になる。と、そろそろこの炎って止めて良いのかな。
「アルファ、もうこの炎止めても良い? これだけやってると、さすがにちょっと疲れてきた」
「任意のタイミングで止めて頂いて結構です、お疲れ様でした」
止めて良いらしいので止める。ひゅうっと弱火になって、最後にポフッと火が大きく膨らんで消えた。
んー、この魔法火炎放射器、戦争位にしか使い道は無さそうだけれど、魔力をグッと減らすには効果的なのかも知れない。結構消耗している。
それでも何だろう、炎を止めて、今単に息をするだけでも、何だか回復してくる様な感覚。温泉の湯気の中みたいな気分。
「ノガゥア卿、魔力の回復を実感できておられるご様子で」
「そう……だね、なんかこう、息を吸うだけでぐいぐい入ってくるというか」
「その感覚が、今この演習室を用いている全ての者にございます。つまり、アリアさんの回復の後押しにもなっております」
そっか。アリアさんが倒れたら、俺がこんな感じで、その単元の魔法をぶっ放せば、アリアさんを回復させられる。
イメージする回復魔法みたいな物とは全然違うが、どんな方法だろうと仲間を回復させられれば、それはそれで良い。
と、元の座席の方から、ジリリリ、とベルの様な音が鳴る。
「第1講義、終了でございます。お疲れ様でした」
ふう、随分濃密な第1講であった。無事、けが人も無く終了出来たのは、ある意味「運」かな。
アリアさんも、危うく大やけどするところ、すんでの所で回避出来ていた。見た感じ、ギリギリであり余裕はまるで無かった。
これが、グレーディッドの講義か。
グレーディッド本人は、息を乱す事すら全く無い。座学にしろ実技にしろ、教わることばかりだ。
……これがあと4講続くのか。そりゃ昼飯も入んないだろうねっていう予想、正しいわ。無理無理。
「2限目は水魔法、私、ベータが担当しますっ。怪我する事は無いと思うけど、魔法消費は激しいので、今のうちに回復しておいて下さいっ!」
ベータが立ち上がって宣言した。
幸いこの、魔力が俺のぶっ放しで満ちた空間と、さっきの特製ハーブ水のおかげで、俺の魔力は回復傾向にある。
アリアさんは……お、大丈夫な様子でこっちを見てくれた。少し疲れてみた甲斐はあったな。
***
「では2限目、始めますっ」
「お願いします」
時間が来て、2講目が始まった。
今度はベータさんが担当で、水魔法の教練になる。前半座学なのは共通な様で、ベータさんが分かりやすく上の方の席で立っている。
「まず、水魔法を防御に使う方法を考えてみましょうっ。アリアさん、どうですかっ?」
いきなりの問いかけからスタート。これは実践的なスタイルになりそうだ。
問われたアリアさん、ちょっとドギマギしたが、すぐ立て直して、答えた。
「えっ、防御ですか? 例えば、あたしじゃ出来ないけど、水の壁で火魔法を打ち消す、的な?」
「いい線行ってるんですけど、それは魔法要素を物質的に捉えすぎです、分かりますか?」
アリアさんは少し困ったように首を横に振った。
「火だから水。風だったら土でしょうか? その様に捉えるのは、魔法が作用した後に起こる事象に対してのみでOKですっ。
例えばっ、火魔法を使った結果生じた火災には、水魔法で水をぶっかけてあげましょう。ですが、火魔法自体に水魔法、これはナンセンスですっ」
ナンセンス、と断じられてショックが大きかったのか、アリアさんが固まっている。
「そもそも魔法要素と言うのは、透明な力だと考えて下さい。それに色を付ける。着色要素が、魔法ですっ。ノガゥア卿、ちょっと良いですか?」
俺? と思ったが、アリアさんで無ければ俺しかいない。俺はその場に立ち上がった。
「先ほどされていたように、魔力だけを天井に向けて、天井に当たる様に放出して頂けますかっ?」
「うーんと、こんな感じかな」
イメージをして、魔力を天井に向けて放つ。しかし天井に届かず、落ちてきてしまう様な感覚があった。
「今、ノガゥア卿の周りに、大量の『無駄になった魔力』が振ってきていますっ。天井に届かせられなかったですね」
「みたいですね」
「これも結局、魔法要素を『物』として、固定的に考え過ぎているからですっ。水柱であれば確かにこうなるでしょう。では、火柱であったら? ノガゥア卿?」
「火柱だったら、寧ろ天井に届くのが自然か」
イメージしてみる。放出を放水みたいに考えていた。もっとこう、気体を大量に放出する感じに変えてみる。
「うんっ、良いですねっ。天井に届いてます。今ノガゥア卿は、水魔法の放水のイメージから、火魔法の燃え上がりに意識がスライドしたので、魔法要素が天井に届きました。消費は同一のはずです」
「ハッキリとは言えないけれど、差は無いように感じる」
「今はそれで十分ですっ。では、同じ事をアリアさんっ、やってみましょうっ!」
アリアさんは頷き立ち上がって、手のひらを天井に向ける。
俺には魔法要素とやらは見えないし、距離があるから感じる事も出来ないので、アリアさんが単に天井に手を向けているだけにしか見えない。
「うんっ、アリアさんも良いですねっ。もう少しですっ。出力を上げるのでは無く、勝手に天井に届く性質の『何か』を考えてみましょうっ」
「何か……例えば煙?」
「良いですねっ、ではそのイメージでやってみて下さいっ」
アリアさんが、ちょっと力んでいるのか、顔に血管浮かべながら天井に向かう。
「良い感じになってますよっ、もっと細く、無風の中でたなびく香木の煙の様に、真っ直ぐゆっくり、を強くイメージしてっ」
俺にはそんなオーダーは無かったが、アリアさんには色々手厚い。
アレか、俺の魔力放出は、細かいこと言わなくても天井に届いたからOK、ってことなのかな。
アリアさんは、もう顔が真っ赤になっているが、音を上げるでも無く頑張っている。
……ただ、俺自身もそうだが、放出している魔力が見えないから、何をやっているんだろう感は結構ある。
「はい二人ともそのままを維持していて下さいね、[エレメント・プラス・アクア]!!」
ベータが手を伸ばして魔法名を言う寸前。他のメイド魔導師さん達がパッとカバンからシートの様な物を出して、身を隠した。
それに目を取られて一瞬手先を見なかった。次に目を天井に戻した瞬間、天井からバッシャアーーンと大水を喰らった。
「ぶへっ」
「きゃあ」
俺たちは揃って声を上げた。
俺はアリアさんを見た。アレ? 俺より濡れてないな。
「この演習室の床は全域、魔力吸収しますっ。なので、自分の上から降ってくる魔力が、横にはズレなくて、具現化出来た真上の分だけ、喰らいますっ」
言われて見てみると、丁度俺の周り、手を伸ばした範囲くらいまでの床「だけ」濡れている。
ただ、相当の量の水を直上から浴びせられたのは間違いなく、首が押し曲げられて少し痛くなった位だ。
一方アリアさんは、ちょっと髪と肩が濡れているくらい。
「魔法要素は、術者の意識の外にあっては、具現化も出来ませんっ。ですから、例えば魔法要素が自然に溜まっていても、勝手に突然発火・引火しませんっ」
「魔法要素が自然に溜まるって、そんな例が?」
俺の疑問に、
「ありますっ。その完全な結晶が、魔導水晶だと言われています」
即答。なるほど。魔力とやらの塊も、もう少し微細に見ると、魔法要素と言うのが集まってる訳か。
んん? つまり……魔力=魔法要素?
「ベータ、一つ質問。いわゆる『魔力』と『魔法要素』って、全く同じでOK?」
「残念、NGですっ。魔力は、その言葉通り、力としてどれだけ行使しうるか、という概念。一方魔法要素は、潜在的に力ではあるものの、生命力になったりもする、『全ての根源』ですっ」
「と、言う事は……魔力が尽きると死んでしまうと聞いたけど、アレは正確には、人体が蓄えられる魔法要素が尽きると、って意味になるの?」
「はいっ、まさしくそうですっ大正解!」
パチパチと拍手が、この広い空間に響く。
他のメイドさんは、俺たちにタオルを配りに忙しそうだ。
「魔法要素を魔力に置き換えて良い場面は多々ありますが、厳密には少し違う概念である、という事をまず押さえて下さい。
その上で、各魔法の色による違い、即ち、魔法として行使された場合の各属性の違いを考えた上で、最初の質問ですっ。
火魔法・ファイアーボールを打ってきた相手がいたとします。そこに、水魔法的に対処するには、どうしますかっ?」
んー、ベータはかなり知能派なのか? 聞いてきてる内容は理解出来るんだが、その向こうにある答えがまるで見えない。
極論「魔法的に」対処するのであれば、引火しない性質の魔法要素を意識して放出して、火の玉だったら吹き消せば良いってことだ。
ただこれが「水魔法的に」となるから、ハードルが一気に上がる。水の性質、火との違い。その辺りだとは思うんだが……
「まだ難しいですかっ? でしたら、1つだけヒントですっ。火の玉に見える魔法も、微細に見れば、まだ火ですらありません。
魔法という色づけのお陰で火の玉に見えるだけの、魔法要素です。但し、火の玉になる寸前でもあります。着弾すれば確実に火の玉ですしねっ。
火の玉になりそうなものを、効率的に妨害できるとしたら、何が出来そうですか?」
「えーと……もし薪だとして考えたら、湿気ったら燃えなくなるよね? つまり、火の玉を湿気らせる……魔法で?」
「アリアさんっ発想は凄く良いですっ! 後はその具現化のプロセスですねっ。」
「湿気らせる……霧の様に水魔法を吹きかける?」
「んーっ、今日の所は正解で良いでしょう、拍手!」
ベータが拍手をする。更にさっきしなかったアルファ他のメイド魔導師さん達も、拍手をしてくれる。
それ位に、これは難問だったんだろう。実際、霧的な水魔法で火が消える? 俺としては懐疑的だ。
「では、実践してみましょう。アルファ、よろしくっ」
「……[ファイアーボール]」
「はい来ましたっ、ここで素早く[アクア・フォグ]!!」
アルファから放たれ、かなりのスピードで迫っていたファイアーボールが、突然大きな霧の玉に化け、消滅した。そんな風に見えた。
「火と水という相反する性質による魔法消去術ですっ。これは大して魔力を消耗せずに、火魔法に直接対抗できる方法の1つですっ」
なるほど、魔力消費量もある程度は考えないといけない、か。
俺も、今はまるで天井に気付いていないが、ある時魔力の天井で困るかも知れない。
そういう日が来ない為にも、魔力の消費量を押さえつつ取れる最善手、と言うのを考えないといけないな。
「では、2限の残り時間は、[アクア・フォグ]が使える様になるまで、ひたすら鍛錬ですっ!!」
こうして2講目は、頭を悩ませた後はひたすら[アクア・フォグ]をタイミング良く発動する練習だった。
因みに[アクア・フォグ]は、火魔法だけでなく光魔法による攻撃にも良いらしい。但し発動タイミングは難しいそうだが。
俺がダダ漏れに放出した魔力が循環しているお陰か、アリアさんもバンバン練習しても、倒れる気配は無かった。そこが何より心安らぐ。
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