第8話 説教に次ぐ説教。ヒューさんあんた昭和のドコからタイムワープしてきた?!
部屋に帰って、溜息ついてたら一眠りしてしまって、早夕飯を食べて、少しぼんやりした頭で、思う。
多少、釈然としない思いが残る、と。アリアさんの「気持ち」が、純粋じゃなかったから。
うーん……でもこれって、単に俺が地球で完全非モテだったからなのか? 恋の駆け引き云々、言われてもピンと来ない。
これも駆け引きの一種だって考えれば、恋愛とか言うハードモードゲームのルール上アリなのかな……
地球でこの「恋愛」は、入口に立つ事すら出来ない超ハードゲーだった。故に知識も無いし、感覚などもっと無い。
この気持ち、どうすべきか。いつか悶々として、アリアさん自身に問いただすのが一番ダメそうなのは、何となく分かる。
身近な人に相談……うーん、ヒューさんに相談してみようかな。年齢差はかなりあるけれど、あの人モテそうだし。紳士だから。
「……と、そのようなお悩みを抱えられて、わざわざ身を隠してまでお越しになられた、と」
ヒューさんの口調が、既に何だか厳しい気がする。
そう、ヒューさんが言うように、「光学迷彩MAX」をまとって、ヒューさんを尋ねた。
「だってその……考えるだに恥ずかしいし、顔赤らんじゃうしで……」
「まぁともかくお座り下さい。シューッヘ様が如何に恋愛に慣れておらず、またチキィウという世界で慣れることも出来なかった理由もよく分かります」
俺が地球で非モテだった事、言ったことないぞ? しかも完全に断言された、当たってるから何も言えないが……
「シューッヘ様。誰しも、過去はあります。そして、過去があれば望む現在が違い望む未来も異なる、そしてそこに至るための思惑もございます」
「は、はぁ……」
「アリアの場合、悲惨な過去があり、その過去から抜け出すため、そして過去の無念を晴らす為の、思惑がございました」
「…………」
思惑の部分は、概ね分かる。俺の力も使って、復讐を果たすこと。
けれどそれは、色々明るみに出て、そして大きな考え違いが幾つも重なった結果と分かり、消えたはずだ。
「思惑というものは、必ずそこに感情を伴います。恨み、怒り、強い悲しみ。アリアの場合、その全てだったでしょう。そこで、でございます」
!!
ヒューさんの目が変わった、ち、超絶怖い目、なんで怖いと感じるかすら分からない、なんでだ……こ、怖い。
「モテる男という生き物は、女の過去を問いませぬ。勿論自分に危険が及ぶ範囲については別です。されどそうでない、例えばその女の
過去の男がどうだの、昔の恨みがどうだの、自分が利用されたのがどうだの。問いませぬ。問わないからこそ、モテる。
分かりますかシューッヘ様、問わないからこそ、モテるのでございます」
ヒューさんの圧力が半端ではない。対峙して座っているのだが、俺、喰われる? くらいの、恐怖を感じる。
「その点シューッヘ様はどうでしょう。行き違い、考え違いで生じたアリアの思惑、その思惑に捕らわれなさった。そこは認めます。
アリアがシューッヘ様を利用しようとしていた。あのまま進めばそれは『現在の危険』ですので、モテる男でもとやかく申します。
されど、その事はもう過去の事。そして更に言えば、アリアは、髪を下ろしてまで、シューッヘ様への忠誠を誓ったのでございます」
そ、そっか。髪を全部剃っちゃうのなんて、日本でも「髪は女の命」とか言ってた人がいた位だ。そこ辺りは異世界も変わらないのだろう。
そこまでして、俺に「謝罪」をしていた訳だ。だけどそれだけの重みを俺は、受け止めていなかった……
「ようやく少しお分かりになられたようですな。つまり、シューッヘ様は、元来大変女々しい。過ぎたこと、されたことに固執し、いつまでもそれを
心の真ん中か片隅か、何処かに引っかけたまま。この度のことも、既に終わったことだとハッキリ分かり、一時警告を放っておられた女神様すら
ご交際をお認めになった。それなのにシューッヘ様は、一体何を求めておられるのか。人間誰しも、生きておれば思うところも思わせるところも
ございます。その人間が、人間に恋をするのです。なのにシューッヘ様は何を求められる? 純粋ですか? ならば木彫りにでも恋せよという事です。
シューッヘ様。それでは決してモテませぬ。特に女性というのは、そういう女々しさや過去に固執する雰囲気を読み取るのに大変長けております故、
その様な男であったならば、女は避けて通りまする。チキィウにて学徒として同じ教室にいたとて、無視して通るか、排除にと女性陣まとまって動くやも知れません」
ううぐぐぐ……地球で女達に、集団で「汚いもの」扱いされて、それに男子まで乗っかってきて……嫌な思い出が、還ってくる……
「どうやらそのような事もあったご様子ですな。最初のきっかけがなんであれ、男として、女に鼻も掛けられぬというのは、何かしらの『欠陥』が
ございます。あくまでこれはわたしの私論でございますが。何十人やらからモテろとは申しません。一人。たった一人で良いのです、信用と信頼の
両柱が成り立った相手と言うのは。しかしシューッヘ様は、やもすると地球におられた際、女性のみならず男性とも、胸を開けた語り合い一つ
出来なんだのでは無いかと、恐れながら推察致します」
グサァァッ! 俺の心のゲージはあと2ピクセルよ……もうやめてあげて……
「折角、女神様のおかげで新しい環境を頂いたのです。名実ともに生まれ変わったも同然。折角なのですから、チキィウ時代のノガゥアシューッヘの
殻を破り、このローリスにて、シューッヘ・ノガゥア子爵として、立派に生まれ変わろうではございませんか!」
う、生まれ変わるぅ……? 俺にそんなことできんの?
俺は俺、野川修平ベースでちょっと爵位とか修飾が付くだけだよ……?
「自信が持てずに困っておられる、そんなお顔ですな。大丈夫にございます、人間、良しに付け悪しきにつけ、様々なタイミングで変わっていくものにございます。
例に出すには不向きでございますが……強盗団を始末なさる前と後とで、『命を狩る』事への無闇な恐怖心に、変化はございませんでしたかな?」
そ、それは、確かに……。あれ以前は、人を殺すなんてって感じの『絶対禁忌』な感じが凄く強くて、あの時は苦しかったけれど、
もし今誰かが俺に、殺そうと襲いかかってきたなら、俺はその相手を容赦せず痛めつけるか殺すか。冷静にどちらも選べると思う。
「お心当たりはあるようですな。このように、大きな出来事のみならず、些事であったとしてもそれが積み重なれば、人はどんどん変わっていきまする。
女性に対する対処対応が分からぬ少年だったとしても、既に身体の対応ならお分かりになりましょう、シューッヘ様?」
ゴフッ。またゲージが……
「それもまた一つの変化にございます。夜伽屋というある意味夢のようでいて夢も何も無い相手ながら、経験という意味では大変意義深いものになったはず。
強盗団の件、夜伽屋の件はいずれも極端に変化する例にございますが、それこそアリアと半日なり街の物売りをゆっくり巡る、いわゆるデートなどしてもまた、
シューッヘ様は必ず変化するはずです。アリアも、シューッヘ様より年かさであり、シューッヘ様に物言う位の胆力はありますので、デート中に文句の一つも
付けられるやも知れません。それに対して、いじける、ふてくさる、居直る、逃げると。そうしたらシューッヘ様は何も変わる事は出来ません。あくまでも、
相手がどうすれば満足するか、相手の不満点はいずこにあるのか。それらを素早く考察し、手を打ち、外れたようであればまた考察し直し……それがシューッヘ様の
経験値となり、対女性に於いても今後物怖じせず、堂々としていられるようになる事に繫がるのです。以上、お分かりになられましたかな?」
「は……い。俺のダメな点がトコトン分かりすぎて正直ちょっとキツいです」
「まだ仰せになりますか。ダメな点など人間であれば誰でも抱えております。わたしは国家の中枢に長く身を置き、数多の部下を率い、組織を統轄し、
政務をこなす一方、家庭にあってはただただ仕事人間であったが故に元は5人いた妻達のうち3人には、あまりに放って置かれて身の置き所がないと、
離縁状を突きつけられました。
本来わたしが、こうすればモテる、こうせねばならぬと言える立場になど、到底ございません。わたし自身が家庭の構築に失敗しておるのですから。されど、
自らに失敗した過去や痛恨の失態があると相手の落ち度や至らぬ点を指摘できぬ、と考えるのは早計でございます。そのような過去があるからこそ分かる事、
シューッヘ様のお言葉をお借りすれば、ダメな点があることを自覚できたのであれば、ダメな点を変えれば良いだけのこと。今回はわたしも少々言い過ぎたかと
思いますがこれもシューッヘ様のお為なればこそ。改善をせぬ人間に新しい展開は無く、新しい『自分』とも出会うことは出来ませぬ。ダメな点があるのが
悪いのでは無いのです。ダメな点を知ったならば、それを正す行動に、自らを進んで変えていくこと。それが出来れば、ダメな点こそ自らを育ててくれる
大切な『学びの短所』だと気付けるはずです」
「ヒューさんギブアップ。ホントにそれ以上はもう勘弁して……俺、生きてられなくなる」
「わたしは、シューッヘ様はもう少し骨のある方だと見込んでおりましたが、わたしの見込み違いでしたかな? こういう時には、熱い風呂にでも入って、
汗を流し、頭を空っぽになさると良いですぞ。一度頭が空っぽになると、乱雑にわたしが詰め込んでしまったものも整理され、ご自身で俯瞰できるように
なります。そこからは再び、シューッヘ様が御自身でお考えになる番です。さあさあ、タオルはこちらで用意致しますので、風呂に参りますぞ」
ほぼ生きるメンタル屍の俺の腕を強引に引っ張って立たせたヒューさんに、その足で風呂場にまで連れて行かれた。
***
「まだですか」
「まだですな」
「まだですか」
「まだまだ」
「もうさすがに……」
「飲み物はここにございます、まだまだ」
「俺、このまま死ぬのかな」
「若い人間はその程度では死にませぬ、まだですな」
「……俺、なんでヒューさんにこんなお仕置き受けてるの」
「そうです、その位の反発心をお持ちなさい」
「誰でも良い、助けて……」
「そのような心胆では、まだこのままです」
「俺死ぬかも、ごめんアリアさん……」
「良い加減でしょう!」
と沈み掛けた俺はヒューさんの肩に担がれ、風呂責めの刑? しごき? 特訓? よく分からないが、それがようやく終わった。
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