第5話 仲良くしていきたいのに、それは簡単には許されない道らしい。
「初級じゃ説明付かないって? どういう事?」
俺には魔法のことはよく分からない。けれど、目の前でアリアさんが不機嫌。それだけは分かる。
その不機嫌な理由は、初級かどうか、ということらしい。しかも、女神様絡みらしい。
「今日、あなたに使ってもらった魔法、覚えてるよね?
最初から数えて、
エンライト
エリア・エアロフロー
エリア・エアロクール
アジャスト
この中で、初級魔法と言える魔法は、『エンライト』だけ。
『エリア』にして範囲魔法にした時点で、中級クラス以上の魔法になるはずなの。しかも、シューッヘ君全力出してないでしょ、アジャストも含めて」
「ぜ、全力……の、出し方が分からない。俺は意識をして、唱えてるだけだから……」
「そう? それだけでアジャストみたいな広域魔法が使えるなら、誰だって使うわ。普通はそんなものじゃないのよ」
あ、アリアさんが、絶対怒ってる。
どうしよう、俺、もっとショボい生徒のふりしなきゃいけなかったのかな……
「あなたの魔法については、女神様が手を貸してるのかもって思う。そう考えないと、成立しないのよ」
だから、と言った後で、アリアさんは
「女神様に、この魔法の齟齬に付いて、聞いてみてくれない? あたし、余りにも規格外で納得できないの」
「わ、分かった。女神様に聞いてみればいいんだね?」
「うん、聞いて欲しいわ」
と、俺は急遽女神様と対話すべく、別にそのままでも良いのだが、片膝を突き手を組み、頭を下げた。
(女神様、女神様……)
『言葉に出さずに呼びかけたこと、まず褒めてあげる。今日は私の言葉を聞くだけ。上手くまとめてあげるから、
決して話してる最中は声を出さない・反応しないこと。出来る?』
(で、出来ます)
女神様のご様子が普段と違う。声がまず違う。いつもはこんな、緊迫した様な早口の御声ではない。
更に響き方が違う。まるで耳元でささやかれてる様な、そんな錯覚を受ける声の届き方だ。
何事なんだ……? ただ何にしても、声を出したり女神様の内容に反応してはいけない、と。守ろう。
『準備も出来たようね。順に伝えていくわ。まずその後ろの女。あんたに取り入ろうとそこそこ必死になってる、ただの女であれば良かったのにね。
その女は、あんたを利用して自分の過去の恨みを晴らそうとしている、なかなか厄介な女よ。
それに、生活魔法がどうのと言ってるけれど、普通に何百程度の兵を一撃で屠れる攻撃魔法を使えるわ。
それから。あなたの魔法の数値について。これは今あたしが書き換えておくから、この会話が終わったら弱ったふりをして、
それこそ倒れ込むくらいが丁度良いわね。それくらい演技しなさい。あんたの魔法やステータスは、全て7,000年前の基準での記載になっている。
私が書いたものだからね、基準が古いのよ。昔の人はその程度はこなせていた、ってただそれだけなんだけどね。
この女にとっては、あんたがそこまでとんでもない魔導師だと、嬉しい反面扱いを考えないといけないからかなり厄介。
だから不機嫌に見えるの。ここまでOK?』
女神様からの情報密度が濃い。けれど、理解出来るところと、理解したくないところと……
(取りあえず、OKではあります)
『じゃ続けるわ。本来ならその女、今後の安全上この場で始末すべきとも思うけれど、あんたにそれは酷よね。
だから、この場は見逃してあげる。今後も一応、自由にはさせてあげる。だけど、あんたを自分の復讐劇に
巻き込もうとした時点で、ドツボにハマる様にしてあげるから、あんたもその女に深入りしない方が良いわ』
(め、女神様。けれど俺、アリアさんのこと好きなんです。復讐に手を貸すのも……言われればしてしまいそうで)
『だから「この場は」見逃すだけよ。いざそうなった時には、天からの雷一つで人命なんて軽く吹き飛ばせるわ。
その女への神託よ、「雷はいつでも落ちるわよ」。そう伝えなさい。まとめると、あんたのステータス記載は
古代が基準だから今とズレてるだけ。そしてその女はかなり危険。私が手に掛けても良いんだけど、それだと
あんたが悲しみそうだから、ひとまず見逃す。けれど、私は見ているわ。神託、まず伝えなさいね』
と、そこまででフェードアウトされた様で、続けての御声はなかった。
「シューッヘ君、お話し無かったの? あたしも聞こうとしてたけど、何も聞こえなかったわ」
「……アリアさんへの神託が下ったよ。『雷はいつでも落ちるわよ』って」
「え、雷?……どういう意味?」
「俺にも分からない。今日の女神様は、何だかいつもと違ったから」
あ、そうだ。疲れたふりをしないといけないんだった。
俺は片膝から両膝をつき、更に両手もついてぐしゃっと地面に倒れ込んだ。
「シューッヘ君、シューッヘ君!」
アリアさんは俺を必死そうな様子で揺さぶる。とりあえず俺は気を失ったことにして、寝てることになろう。
「シューッヘ君……寝てる? 寝ちゃった……?」
2回言った後で聞こえてきたのは、
[マギ・アナライズ][イン・ビュー][トップ・ビュー・ウィンドウ・スキャン]
……そこで魔法かぁ。アリアさんもかなり無理してるはずなのに、それでもなお見たいのか、俺のステータス。
うーん、と唸るような声を出すアリアさん。目は閉じているので見えないが、俺の横に腰掛けたままで
そこからじっと動かない。きっとステータスウィンドウをじっくり見ているんだろう。
と、アリアさんが突然動いた。足音の方向からすると、水筒を置いたカバンの方だ。
……戻ってくる……
横に座ると、何かガサガサと音がしてから、
[トップ・ウィンドウ・ドロップ]
聞こえたのは、ギルドで聞いた魔法。確か、ステータスウィンドウの表記を紙に書き下ろす、コピーみたいな魔法だ。
ガサガサ、と音が、アリアさんの衣服の辺りでする。……記録した用紙を、衣服にしまう、のか。隠したいのかな……
「シューッヘ君、起きてる?」
不意に言われたが、ここは地球17年の『目立たないスキル』が上手く行っている。突然声を掛けられても反応しない。
「シューッヘ君……担いでいくのは、ちょっとこの距離たまんないなぁ。起こそ」
[ライトニング]
不意に俺の身体に電流が流れた様な、痛みとけいれんが走った。
「シューッヘ君! 大丈夫? 気付けの魔法を使ったけど、かなり消耗してるから早くお城に戻った方が良いからと思って」
何だか焦っている風な雰囲気を出しているが、気付けの魔法? 単なる電流魔法ではないのか?
「あ、あれ? 俺寝てた?」
すっとぼけてみる。
「シューッヘ君、消耗が酷いんだと思う。きっとさっきの数字は何かの間違いで、疲れが出たんだと思うよ。歩ける?」
「う、うん多分大丈夫」
立ち上がる。いつっ、……左足に電気的なしびれが残ってる。「ライトニング」の方がよっぽどキツいぞ……
俺は左足を引きずらないように気をつけつつ、アリアさんの肩を借りた。
……今までだったら、天にも昇る気持ちだったんだろう、この肩も。今では少し嫌悪感すらする。
そうして俺は、城壁の中へと、そして自分の部屋へと連れて行ってもらった。
「じゃあ俺、少し休むね」
「うん、無理させてごめんね。ゆっくりしてね」
アリアさんを、疲れた笑顔、というのを作って送り出す。
廊下を、カツカツカツと歩いて行く音がして……消える。
アリアさんの部屋はメイドさんトコだから、同じ2階の反対側フロア。まだ出られない。
俺はベッドから下りて、机に置いてあるハーブ水をコップに注いで飲んだ。
砂漠ではそう消耗した覚えは無いが、ライトニングがキツかった。殺意がないから絶対結界も発動しなかったし。
ふぅ……もう一杯。水分を得て、大分回復した感じになった。
今から、ヒューさんのもとへ向かう。情報の共有が必要だ。かなり……俺にとってはショックだが。
アリアさんがそろそろ部屋に戻っている頃だろう。俺はゆっくり扉を開いて廊下を見た。誰も居ない。
素早く、さっと階段へと移り、昇る。向かうは3階の東棟。中央ががら空きなのがどうしようないが……
光学迷彩とかって、出来るのかな。試してみるか。イメージは、以前見たあの動画を更に進化させた感じで……
([光学迷彩MAX]!)
……おおっ、俺自身俺の手がまるで見えない! 最初からこうすれば良かったな。
俺は余裕を持って、ヒューさんの部屋に移動することが出来た。
そして、敢えてそのまま、ヒューさんの部屋のドアをノックした。
ドアが開く。ヒューさん。ちょっと出て、左右をキョロキョロして、バタン。
これ楽しいかも。もう1回ノックしてみる。今度は訝しげな顔したヒューさん。
さすがにいたずらが過ぎると行けない。そして、俺がすぐ上のフロアにいる事も、今はアリアさんに知らせたくない。
俺は空いたドアからスルッと中に入った。
「むっ、何者だ」
「あっ、俺ですシューッヘです」
さすがにヒューさんの横を通ったら気付かれた。すぐ光学迷彩MAXを止める。
そして、しーっと、声を出さないようにと示す。びっくりした顔をしているが、頷いて、ドアを黙って閉めてくれた。
「この部屋、防諜を効かせられるんでしたよね、ヒューさん」
「はい。シューッヘ様のご様子から、火急のご用件と推察致します。直ちに準備を」
お願いしますと俺が言うが早いか、ヒューさんは詠唱に入った。
少し長い詠唱が終わった後で、ヒューさんは立ち上がり、俺に席を勧めてくれた。
俺は勧められるままに席に座り、声に出した。
「女神様、さっきの話、お願いします」
すると、ヒューさんはさっと片膝を床に付き、手を組んで構えた。
『ヒュー。そういうの別にいいから。今回は礼儀がどうこう言ってる程暇じゃないの』
「女神様、そしてシューッヘ様。恐れ入ります、さっきの話とは?」
『シューッヘ、あんた概要位は自分で言いなさいよ』
「はーい。えーと……どこから話そう。さっき、俺とアリアさんが魔法の練習してたのは、知ってますもんね」
「ええ。先ほどローブをお貸ししました」
「あ、借りたままだった。後で返しに来ます」
「お気になさらず。そのままお貸ししておくので、いつでもご利用下さい」
「ありがとうございます、えーと本題は……魔法の練習、してたんですよ」
「でしょうなぁ」
ヒューさんがキョトンとした顔をする。ヒューさんのキョトン顔は初めて見たかも。
「そこでアリアさんから促されて、アジャストを使いました」
「使った? 使おうとして使えなかった、ではなく?」
「発動は出来ましたよ。強さの具合とかは分からないですけど」
「……今なんと? アジャストを、使えたのでございますか? お待ち下され」
と、ヒューさんが窓際に寄る。空を眺めて、何かつぶやいて、戻ってきた。
「シューッヘ様。一体アジャストを何秒繫げてご発動を?」
「1分位かな? 続けないタイプの魔法だって知らなかったし、そもそも単発系の魔法を打ったことも無かったので」
「1分!! はぁー……向こう3日は、城塞都市内の気候はさぞ穏やかになりましょうなぁ」
ヒューさんが呆れた様な顔である。
そんな非常識なことをしてしまったのか? 初めてなのでよく分からないが。
「1分で3日分も、ホントに持つんですかぁ?」
さすがに盛ってる可能性がある。ヒューさん俺に甘いからなぁ。
「ええ、但しそもそもの話、普通であれば1分など到底。私でも出来るかどうか」
悩み顔がマジである。
えー……7,000年前の基準って、今の基準とそんなにズレてんの??
「アジャストで数日、となると、魔導水晶でもあれば別ですが、そもそも単独で行うものではございません」
「あー……。そりゃアリアさんも驚くか……」
「確かにそれは、驚愕の域と申し上げて良いでしょうな、私ですら驚きます」
「いやあの……そもそも本題はここからなんです。アリアさんが俺の魔法に違和感を持って、ステータス見たりとかして。
でも更に説明が付かなくなったみたいで、アリアさんの側から女神様の関与を疑われ、その場で伺う様にと強く言われたんです」
「アリア殿が? それは不敬ですな、女神様に押しかける様にせっつくなど」
「そこもそうなんですが、女神様からなかなかショックな事を告げられまして……女神様、この辺りで良いですか」
俺は思い出して陰鬱になってくる自分の頭の中に嫌気が差してきていた。
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