第4話 仲良く和気あいあいな魔法レッスンに……何故ならないんだ、俺の非モテ属性のせいか??
「シューッヘ君ー、こっちこっち」
砂地だが少し小高い丘になっているその頂上で、手を振るアリアさん。にこにこ笑顔が可愛い。
「はぁー、意外と距離があったね王宮からだと」
「でもあたしちょっと面白かった。城塞都市の裏門なんて、初めて使ったし」
今日は生活魔法訓練のために、外に出てきている。
最初は、何処か室内でと言われていたので、アリアさんを自分の部屋に呼んだ。
そこでアリアさんに促され、「自分の分かる魔法の中で一番馴染みのある魔法」として『エンライト』を使った。
街灯級にまばゆく光るエンライトに、寧ろアリアさんは青くなってた。
なんでも、エンライトは本来、相当燃費が悪い上に弱い魔法である、のが通常らしい。
初級魔導師であれば、小さな部屋を薄暗く照らす程度。しかも5分で魔力切れを起こすとか。
それが、街灯級である。しかも消耗感ゼロ。
消耗していない事実をアリアさんに伝えたところ、訓練は外で、という事になったのだ。
ヒューさんに場所を相談すると、アリアさんが進んで強く「開けた場所が向いている」と言っていた。
言われたヒューさん、ちょっと考えた感じだったが、大きく二度頷いて、城壁裏の高台を使うよう言ってくれた。
更に、俺とアリアさんの訓練中は、呼ばれない限り誰も近付かないようにと、連絡をしてくれたのだ。
俺としては、アリアさんと二人っきりが確定。邪魔者ゼロが確定。嬉しい。
多分ヒューさん的には、俺の魔法をまだ公にしたくないとかあるのかも知れない。
理由はともかく、二人きりで魔法の訓練が出来るのは、とても嬉しい。ずっと楽しみにしていたし。
「シューッヘ君、喉は乾いてない? 大丈夫? 水筒あるわよ?」
「今の所は大丈夫、アリアさんは?」
「あたしも。この暑さ避けのローブが役に立ってるわ」
そう。ヒューさんが貸してくれた黒いローブ。内側に銀張りがある。日本にもこんな日傘あった。
ヒューさんが言うには、城塞都市の中と外では、温度が結構違うのだとか。
そんなまさか、と思いはしたが、暑さ避けにこんな耐火ローブみたいなのを出してきたので、ギョッとした。
で、実際。
城塞都市の裏門は、お城の裏側にある。門までの道には二重の空堀があり、細い橋しか掛かっていないので怖かった。
門に辿り着くと、「ノガゥア子爵とご婚約者のアリア様ですね!」と確定口調で言われた。
俺はびっくりした一方、アリアさんは恥ずかしそうにうつむいていた。
そうして門をくぐり外へ。少しの間は城壁の影だったが既にそれでも中より暑かった。
そして直射光のある所へ行くと、もう相当暑い。俺はそこで初めてローブを身につけた。
ローブが赤外線を弾いているのか、日が暑い感覚はほとんど無くなった。高性能なローブである。
「じゃ、アリアさん。今日はお願いします!」
「うん、シューッヘ君。暑いから気をつけながら頑張ろうね!」
お互い挨拶を交わしてからスタート。礼に始まり礼に終わる日本人気質である。
「まず、本当だったら普通、単純で使いやすい、燃費が良くて実用性と応用力のある魔法が最初になるわ」
「はい!」
「あら良い生徒がいるわね、ふふ。でもシューッヘ君の場合、魔法の出力がかなり大きいから、メニューを変える事にしたわ」
「はい先生、どんなメニュー?」
「んー、[エンライト]があの規模で使える事が分かったから、今日はまず環境調整魔法から。いきなり重いわよこれ」
アリアさんがちょっといじわるな笑顔をする。小悪魔的で、これはこれで可愛くてならん。最高だ。
「今この高台の上、暑いよね? 風、欲しくない?」
「うん、欲しい。少しでも風があったら、涼しいかも知れないし」
「じゃあ実際に、風を吹かせてみよう。さぁ、どの位の範囲で風が吹くかしら。魔法名は[エリア・エアロフロー]よ」
「よっし頑張る! せーの……」
[エリア・エアロフロー]
そよ風であれば良かった。しかし、砂を巻き込む位に強い熱風が吹き付けてきた。
「風の範囲は抜群に広いわね、さすがシューッヘ君……でもこのままじゃ、快適じゃないわよね? どうする?」
「うーん、風を止める?」
「でもそうしたら、元に戻っちゃうわよ? 折角だし風が吹いてるのを利用して?」
「ううーん……風を冷たい風にする」
「良いと思うわ。これもさっきの魔法と同じで範囲魔法だからエリアが頭に付くわ。[エリア・エアロクール]」
「うん、冷たい風……」
[エリア・エアロクール]
スーッと風の温度が下がり、同時に空気自体が冷えていくのが分かる。
しかも、かなり寒い。城塞都市で迎えた夜でもここまでは冷えないかも。
容赦なくぐんぐん寒くなっていく。
「ちょっと寒いな、これ」
「シューッヘ君魔法止めて止めて! まだ魔力そのまま出続けてる!」
「えっ」
俺は意識して、エリア・エアロクール停止っ、と頭の中に思った。
「止まった……わよね、[マギ・ビュー]!」
アリアさんが初めて聞く魔法を使った。マギ・ビュー、というらしい。
「……うん、確実に止められたわね。凄いわねシューッヘ君」
「ん? 俺今、何を褒められてるの?」
「魔法を、ストップコードも無しに止めたこと」
「ストップコード? え、でも、魔法ってこう、止まれって念じて、普通に止められないものなの?」
「んー、止まるけど、時に止まらない事があるの。暴走、っていう状態ね。その時でも、ストップコードを口にすれば、魔法は止まるわ」
「へー、口にするだけで良いんだ。因みにそのストップコードって教えてもらっても良い? 使うかは分からないけれど」
「うん。ストップコードは[マギ・ダウン]。ストップコード自体も魔法なの。でも、力んだりする必要は一切無く使えるのよ。先人の研究と発見のおかげね」
「そ、うなんだ、ね。アリアさ、ん。かじかんできた」
「そうね、昼間の砂漠をここまで冷却しちゃうのは、凄い通り越して怖い力ね。でもこれなら……」
と、アリアさんがブルッと震えながら、口元に手をやる。もう片手は肘。何か考えているらしい。
「シューッヘ君。ここまでは、何とか普通の生活魔法の範囲。ちょっと規模と結果が凄すぎるけどね。けど、ちょっと試して欲しい魔法があるの」
「試して欲しい、生活魔法じゃない魔法ってこと?」
「ううん、生活魔法にくくれはする。あたしも聞いた事あるし試したことしかない、って程度の魔法。広域魔法[アジャスト]」
「アジャスト? 範囲魔法と広域魔法って違うの?」
「範囲魔法は、普通の人だったなら、私たちの周りでしか変化は起こらない。
今回のシューッヘ君の魔法がどこまで範囲が出てるか分からないけれど、少なくとも常人の域じゃないのは確かね……
でね? 範囲魔法とは別に広域魔法っていうカテゴリーがあって、それは『使えれば』だけど、ここから城塞都市の端位までが簡単にターゲットに出来る、本当に広い効果範囲の魔法よ」
ここから、城塞都市の端……
高台のおかげで、端が見えるので近い様に思ってしまうが、城塞都市自体数キロメートルの直径だそうだから、端は遠い。
「そのアジャストって、どういう魔法なの?」
「ある意味究極の生活魔法。『今居る環境を、自分に過ごしやすい環境にする』。使える人が居れば、なんだけどね」
「アリアさんでも使えない?」
「ごく一瞬、発動直前までは出来るけど、発動寸前に気を失ったわ」
「こわっ、それを俺に?」
「シューッヘ君なら、出来るんじゃないかなって思うのよ。あくまで勘なんだけど。一度見てみたいのよね、[アジャスト]」
「アジャストって、そんなに憧れる魔法なの?」
「うん。全くそう。生活魔法使いの最終到達地点みたいに言われる魔法よ。お願い出来ないかなぁ?」
と、アリアさんがちょっとくねってして、俺の目をじっと見る。
表情は、頼み込む表情ではなく、無理なお願いだけどみたいな、そんな表情。かなりシンプルに言えば困り顔に近い。
惚れた女性にこんな顔させてては、男として立つ瀬がない気が、少しずつしてくる。
「でも、負担は大きい魔法だから、無理にとは……でも見たかったな、アジャスト……」
だんだん諦めモードな顔になっていくアリアさん。え、えーいもうどうとでもなれ!
俺は城塞都市全域を視界に収め、そこ全体に、それから今自分たちがいる所までその範囲が伸びる様を想像して。
今の段階で力める全力で力んで、その魔法名を、成功する事を強く思いながら唱えた。
[アジャスト]!!
この魔法は独特だった。唱えた瞬間、パァン……とクラクションの様な音が、辺りに鳴り響いたのだ。
「鳴った?!」
アリアさんが突然大声で叫んだ。すごく驚いたようで、城塞都市の方に2、3歩歩み寄って行った。
「あ、アリアさん、今の音は?」
「はぁー、本当に発動できる人っているんだ……あ、今の音は『アジャスト』の告知音。アジャストは広域魔法で、
かつ安全策が組み込まれた魔法なの。魔法発動を周りに知らせるための、そういう目的の音よ」
音に気を取られていたが、今まで鋭く冷たく吹いていた風は「丁度良く」心地よい風に、既になっている。
驚いたのは、日が少し弱くなっている事だった。傘を差している訳でも無いし、雲がある訳でも無い。
丁度言えば、遮光フィルムを窓に貼った、その窓から世界を見ている感じ。というかその世界の中なのか。
その薄暗さは影っぽい感じになって、さすが広域魔法、城塞都市を完全に領域に入れている。
城塞都市の端の更に向こうの方が、今まで通りで明るく。その手前城塞都市全域と追加少しの部分は、幅広く薄曇りっぽい暗さの状態になっている。
「シューッヘ君、消耗度合いを測るけど、良い?」
「うん、それも魔法?」
「ええ、痛かったりはしないから、リラックスしてて」
と、アリアさんが俺に[マギ・アナライズ]を掛けた。
それから更に、[イン・ビュー][トップ・ビュー・ウィンドウ・スキャン]と立て続けに魔法を唱える。
消耗が大きいらしい俺の魔法も心配っちゃ心配だが、アリアさんもそう立て続けに魔法使って大丈夫だろうか、心配になる。
「えぇー?……間違っては、ないわよね、魔法計測だもん……」
独り言の様にアリアさんは言って、更にもう一度さっきの[マギ・アナライズ]から始まるコンビを唱え直した。
案の定というか、俺の心配が当たってしまったようで、アリアさんの顔色が目に見えて悪くなる。
でもアリアさんは、そんなことよりステータスウィンドウに出てきた数値の方が気になるようだ。じっと見ている。
俺も覗くと……ダメだ、言語が違って読めない。
「アリアさん、一旦休憩しよう。顔色が悪いよ」
「うん……そうね、休憩……しましょ」
どすっとそのまま砂地に座り込んでしまうアリアさん。
「だ、大丈夫? [マギ・アナライズ]って上級魔法なんだよね、ヒューさんから聞いたけど」
「そうね、上級に入るわね……今回は正確に見ようと思って」
「アリアさんの消耗具合の方が俺のより心配だよ、って言ってる俺も、何だか疲れてきたかな」
ふと、身体全体に倦怠感の様な重さを感じる。
「シューッヘ君、[アジャスト]の魔法が切れてない……ストップコード使って」
「う、うん。[マギ・ダウン]」
俺はただ呟くように口先で唱えただけだったが、何かバツッと、引いてる紐でも切ったかのように、疲れから解放される。
「あ、疲れは[アジャスト]の使いすぎだったのか。こりゃ確かに、丁度良いけど丁度良くないね」
あはは、と笑ったが……アリアさんは何だかじとーっとした目になっている。
「あ、アリアさん……?」
「シューッヘ君……あなたのステータス、何かがおかしいわ。女神様関連かしら」
「おかしいって、ど、どういう風なの」
「全属性初級、ってところは、前にも言ったよね? それだけじゃなくて、数値の減り方が」
「あー……でも、[アジャスト]使ったから、凄い減ったんじゃないかな?」
「違う、減ってないからおかしいの」
アリアさんは、ふぅ、と息をつくと立ち上がった。
そして、[タクティカルロッド]と聞こえた魔法を唱えた。するとアリアさんの手の中に、光る棒が現れる。
「いいシューッヘ君、まず、これがあなたの最大魔力量」
と、地面に数字が書かれる。2456、と。異言語でも読めるのは相変わらずありがたい、ウィンドウになるとダメだが。
「それで、今のあなたの魔力量が、これ」
続けて地面に、2321、と書かれる。
「シューッヘ君の魔力は、[アジャスト]を使っても尚、数値にして、135しか減ってない。割合で考えても、10%以下」
「確かに全然減ってないね、少し疲れた感じはあるのに」
「あたしが、発動できずに倒れる魔法よ? それが『少し疲れた』で済むのが、おかしいのよ」
アリアさんは、器用に棒を持ちながら腕組みする。
「しかも、あなたは[アジャスト]を、間違って継続発動魔法的に使った。あの魔法は、単発で使うものなのに」
「そ、そうなんだ」
「そう。あんな燃費の悪い大魔法を継続させてたら、誰でも倒れる。それで2~3日は最低寝込むわ」
なんだか、アリアさんの機嫌が悪い様に見える。アジャスト見せてあげたのに、なんで?
俺の魔法、数値も結果も普通と違うみたいだから、それでアリアさん教えづらくて怒ってるのかな……?
「……ねぇシューッヘ君」
「は、はい」
アリアさんの声がド真剣。ちょっと怖い。
「女神様に、あなたの『全属性』の部分とか色々、聞いてもらえない? 初級じゃ説明が付かないの」
「初級じゃ説明付かないって? どういう事?」
アリアさんの言葉に俺は、アリアさんの顔つきの理由が更に分からなくなった。
もし「面白かった!」「楽しかった!」など拙作が楽しめましたならば、
是非 評価 ポイント ブクマ コメントなど、私に分かる形で教えて下さい。
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どうかご協力のほど、よろしくお願い致しますm(__)m




