第0話 <sideアリア> ぼんやりする時間があると、ちょっと考え過ぎちゃうのよね。
新章スタートです!
≪side アリア real insight≫
んー……寝過ごしたと言えば寝過ごしたわ、もう8時。昨日は随分飲んだから、無理もないか。
ただ、昨日は話し過ぎた。酒の勢いで、シューッヘ君が気付く寸前程度まで、国王の「願望」に迫ってしまった。
国王陛下がお望みなのは、大型魔導水晶による魔法系武装の配備にまず間違いない。
更にもし品質が良ければ、握りこぶし程度の欠片で、携帯できる魔法兵器の開発が出来る。
陛下は、一見穏健派だが、実は戦力保有にかなり固執しておられる。平民が読むものでないとされている白書を見ると、『防衛予算』は常に増加であり、即位以来1年たりとも減少させた事が無い。
ローリス国軍の主力部隊は魔法部隊だ。これが他国と大きく異なる。魔導師を馬に乗せれば騎馬魔導師に、鎧を着込ませれば重装魔導師に早変わり。それだけ応用幅がある。
国軍主力の駐屯所在地自体が、一般的には伏されている。よく調べれば分かるが、相当分かりづらいようにはしてある。もっとも、魔法師団中心なので、駐屯地も変えやすいのだが。
どの国も、現在の主戦力は重装歩兵と騎兵戦力。例外は、遙か東方の国、名も知らないその国では、翼竜ワイバーン騎士団があると噂に聞いた事がある。
ワイバーンは、噂に聞くのを全てそのままと考えると、撃墜する事自体が極めて困難だ。飛行高度が高すぎて大方の魔法は届かない。一方、高高度からのブレス連発は、あまりに一方的な『虐殺』だ。
ただ幸い、西方3国も含め国境線を接する全ての国には、空を支配する戦力は無い。知られていない部隊がある可能性はゼロではないが、脅威になる程の規模あれば、自然バレるものだ。
ローリスは、地形・地理自体が防衛戦・籠城戦に向いている。それを他国もよく分かっているから、ローリスが攻められたのは、過去を遡っても魔族にだけだ。
城塞都市の外は遮蔽物の無い砂漠が延々広がる。重装歩兵が足を踏み入れれば重さが相当な足かせになる。騎兵も、昼の暑さ、夜の寒さに、慣れない人馬は共にすぐに疲弊する。
強行軍で攻め込もうとしても、唯一歩兵ルートのある西側には、随所に魔導師部隊が、常時展開されている。実力派部隊を避暑小屋や砂漠植物の農家に扮し、カモフラージュし隠している。
侵入が国を賭ける程の本気ならいざ知らず、多少の戦力ならたとえそれが精鋭部隊でも一方的に殲滅出来るし、偵察部隊は100%発見され全て葬られる。それだけの魔法部隊だ。
ローリスをルート外から意表を突き攻めるのは悪手。事実上不可能。まず北と東は広大な砂漠で行軍が極めて困難、南は魔導水晶鉱山の山脈で、陣取る程度なら一部平地もあり可能だが、水が乏しく長期間は無理だ。
そして、仮にいざ城塞内部に入れたとしても、ルート側からだと、外輪部周辺は未舗装で砂地が多数、また空き家・廃屋が多くある。魔導師が連携しつつ潜むには格好の条件だ。
そこを越えたとなると、貧民街・厚い市民区画・貴族地区と続いて、初めて王城に迫れる。その何処の段階にでも配する事が出来るのが魔導師部隊であるから、敵兵は一切気が抜けない。
このように、既に城塞都市自体で守備は鉄壁なのにも関わらず、陛下は防衛予算をこの9年間、少しずつ積み増している。ただ、これも白書によるが、予備費として「使っていない」金の増加がメインだ。
ローリスの防衛予備費は言わば、防衛用の貯金だ。その貯金がどんどん伸びている。単に兵力を上げたいなら、積み増すべきは兵隊の数。兵は1日では育たない。養成がいるので、早めに用意すべきもの。
しかし、陛下はそうされていない。主力部隊の規模は、多少の増加はあるがそれ程の変化が無い。単に新旧入れ替え時に少々新兵を増やしている程度。軍増強とはとても言えない規模だ。
だが、予備費だけは別。何故それだけの予備費を9年も前からずっと蓄える必要があるのか。あたしはその答えは、魔導水晶にあると考えている。
3,000年前の、魔族に支配された人々の主な労働の場であった魔導水晶鉱山。700本以上の坑道があるそうだが、噂の域を出ない。ただ昨日のシューッヘ君の話から、460本は最低でもある事は分かった。
そのうちの1本からでも。魔族が掘らせたランク・規模の鉱石が出れば。シューッヘ君には「米一年分」と言ったがそんなもんじゃない。イリアドームにあると言われるグレードの大型魔導水晶が1つあれば、それこそ国が買える。
なぜなら、その魔導水晶から配線をするなり送受信するなりして力を得れば、たった1つで、都市全ての照明が十年分まかなえる。しかも魔力は無くなったら、人力で足せばまた使える。
実際イリアドームからの魔導線配線は城塞都市全域にくまなく渡り、照明費もゼロだ。魔導師を山盛り集めて魔力を突っ込ませることで、無尽蔵に照明は使える。一部魔道具にはその魔力頼みのものもある。
更に陛下にとっては嬉しいだろう事は、掘り出した直後の魔導水晶は必ず魔力が満タンであること。その地の魔力をずっと吸って眠っているのだから当然と言えば当然。
これが意味することは即ち、何に使うにせよ、そのまま実用に出来るということ。生活用の照明にしろ、部隊戦闘時の魔力補充用にしろ。
あたしが以前、王国魔法研究所に勤める旦那を持つご夫人からギルドでのガールズトークで聞いた、噂程度の話ではあるが、魔導水晶を破裂させる実験、というのが行われていたらしい。
何でも、魔導水晶が蓄えられる魔力の上限を超えた量の魔力を詰め込み、過負荷の状態に何かの魔法を掛けると「猛烈な爆発」が起こるのだそうだ。さすがにご婦人はその「魔法」は知らなかったが。
ご夫人が言う「猛烈」がどの程度かは分からない。鉱脈を広げられる程度なのか、山自体を崩す規模なのか、山ごと吹き飛ばす程なのか。ただ「過負荷な蓄え」が爆発を招くなら、魔導水晶の規模がキーになるのは間違いない。
そこに来るのが、大型魔導水晶だ。掘り出せれば、既に100%までは魔力が籠もっている。それを「過負荷」の所まで持って行ければ、恐らく史上類を見ない爆発兵器の完成だろう。
開発期間すら必要ない。必要なのは、過負荷にするだけの魔力を籠める魔導師だけ。過負荷の状態でどれだけ維持出来るのか、また起爆の魔法が何かによっては、自爆兵器的な犠牲が必要な兵器だが。
……ノガゥア『子爵』。正式に呼びかけるなら閣下呼びなのよね、子爵だから。それかノガゥア卿。オーフェン辺りだと、その辺間違うと侮辱罪にもなるらしい。怖い怖い。
ここローリスだと、『姓に爵位』で呼ぶことも多々あるのよね。他の諸国では、あんまりそれはしないらしい。爵位間違えたらいけないから、ハードルの高い呼び方でもあるとは言える。
あたしは今のままの呼び方で良いのかな、シューッヘ君って。うーん……ちょっと悩むけど、注意されるようなら直す、で行こう。
男爵であれば王宮に居留まれた、という話もあの席ではあった。英雄は特殊だから、男爵位を持ちつつも王宮に居候、というのもあり得る。それは別に子爵位でも同じだ。
なのに、シューッヘ君は外に屋敷を構える事になった。確かに、子爵ともなればお屋敷を、という論は理解は出来る。家を持てばなおさら国に居着くだろうという、安直な考えもあり得る。
ただ、狙いは本当にその程度の事なのか? 家を王宮外に持つと言う事は、他の貴族との交流が生まれやすくなることでもあるし、行動の中心が王宮から離れることでもある。言い換えれば、目が届かなくなる。
英雄シューッヘ・ノガゥアを敢えてフリーにしたのは何故だろうか……もしかすると、特別な意味など無いのかも知れない。陛下の気まぐれ。それだって十分にあり得る。
廃坑開発を促したい?
まぁ、王宮に間借りで住むよりは、自前の装備品も増やせるし、人の雇用も自由に出来る。まだノガゥア子爵家の経済についてはあたしは聞けていないが、あたしの得た金でもそこそこおおごとも出来る。
鉱山開発には通常であればかなりの人手が必要だ。シューッヘ君が単に座して指示出すだけとは思えないから、現地に詰める事も増えるだろう。むしろ人を雇わず単騎で何かしでかす可能性も大いにある。
それか、逆かも知れない。「今までは」見ておく必要があったが、もうその必要が無くなったから外へ出す。
シューッヘ君は、暁の女神様と直接会話が出来る。そしてそれは、今ではヒューさんも出来る。専売特許であった女神様との交流が、陛下の手駒のヒューさんで出来るようになったから放出した。この可能性はありそうだ。
だとしたら、事は比較的楽観的に考えられる。シューッヘ君からは、あたしもそのお屋敷への移住を言われているから、王宮外に固定的な居場所が作れる。私も諜報がしやすいし、人を雇うにしても連絡が付けやすい。
そしてあたしにとって大きいのは、王室メイド達から解放されること。本当にあのメイド軍団は底知れない。何まで見えて、聞こえているのか。結局ハイアルト・サンルトラは手に入らなかった。残骸の発見すら不可能だった。
メイド達……あのメッセージカードは一体何? 漏洩、と言える程度の事が起こらなければ、時間的にメイド達が『子爵』を知れるはずがない。
普通に考えると、理屈が通らない……極論あり得るとすれば、メイドと近衛兵の両方に、遠隔念話クラスの上級魔法が使える物が居て、通じてた。その位に、本当に突飛なことしか、考えつけない。
だがそんなのって、事実としてあり得る話なの? そのクラスの魔導師となれば、現役時代のお母さんと同格かそれ以上。かなりの大部隊を率いて実戦を戦える。師団隊長、もしくは旅団長のクラスだ。
メイドの魔法力を確かめるには、メイド達をくまなく調べなければいけないが、個人的に非常に嫌な予感がする。調べるはずが手のひらで踊らされる、そんな『圧倒的実力差』がある危険性があり、近付くのも危険だ。
ひとまずは、シューッヘ君の「策」を待つか……。
あたしが口を出しても良いのだが、あまり目立って貴族の中にあたしを知られるとマズい。アリーシャと気付く者はさすがにおるまいが、絶対の安心などこの世には無い。
シューッヘ君とは、仲を深めつつ、魔法指導と称してシューッヘ君自身の魔法の調査もしつつ。まだまだ復讐の決行には、遙か遠い事は自覚しておかねばならない。焦るなアリーシャ、焦るなアリア。
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