第34話 アリアさんと夕食~♪ アリアさんとディナー~♪ アリアさんと話しながらステーキ!
俺はクラクラする頭を抱えながら、食堂に辿り着いた。
相変わらず玉座の間からの帰りの道も、どう考えてもループしてるのに辿り着く。アレは何なんだ?
多分国防・王様の防衛の為に仕組んであるんだろうから、ヒューさんにも聞きづらいしなぁ。
教えてくれないまでも、ヒントとかもらいたい。間違いなく魔法だろうから、その活用例が欲しい。
まぁともかく、夕食だ。まだ今日は早めの時間なので、日替わりもあるだろう。
日替わりは毎日変わる上に、一番美味い。人気だから、遅い時間には絶対無くなってる。
と、俺が食堂に入っていくと、アリアさんらしき後ろ姿の女性がご飯を食べている。
服装は、以前ギルドで見かけたようなパンツスタイル。髪飾りも無く、実用的だ。さっきの格好よりずっと。
「アリアさーん」
俺が声を上げると、もぐもぐしながらキョトンしてこっち向いてくれた。
「んー、んーんんーんっ」
何か言ってるけど口に物が満載らしく言葉になってない。
俺は近付いて、アリアさんの口の中が収まるのを待った。
「ごめんね無作法で。ギルドだと、食べられる時に食べろーって感じでさ」
「あーそっか、職業柄なんだね」
アリアさんのトレーを見ると、豚角煮に付け合わせは玉子。これは「豚ほろほろ煮」ってメニューだ。
「アリアさん、この時間だと実は、日替わりがオススメだよ? 遅くなるともう無いくらい人気なんだ」
「えっ?! そんなのを初日に逃しちゃったのあたし!」
なんだか凄くびっくりしてるというか『やっちゃった』みたいな顔をしている。可愛い。
「あはは、大げさだなぁ。初日の記念すべき食事は、好きな物ってのも良いと思うよ?」
「そっか、そう考えれば落ち込まなくて済むね。ありがと」
「あ、う、うん。俺も食事取ってくる、席、良い?」
「もちろん! 一緒に食べましょ?」
うんっ、とつい元気に答えて、俺は狙い目の日替わりを頂きにキッチンへと向かった。
と。日替わり、なんとラストワンの表示。左右確認、人いない、よしっ。
ツカツカッと急いで駆け込んで、最後の日替わりをお願いした。キッチンの人から、運が良かったねーと言われる。
日替わり、なんだろな。この時間で無くなるなんて、随分早いように思うけど……
「はい、お待たせ!」
ドンっと置かれた鉄板。なんとステーキである。これは確かに人気が出て当たり前の、高級メニューだ。
目の前でジュージュー熱そうに音を立てるステーキをやけどしないようにトレーに乗せ、ナイフとフォークも受け取り、アリアさんの元へ。
「わあ、厚切り肉の直火焼き! これは逃しちゃったなぁ」
アリアさんがちょっと惜しそうに言う。ステーキとは言わないんだな。
「でも、これ最後の一個だったんだ、ギリギリでセーフ」
「あ、それだったら。あたしじゃなくて、シューッヘ君に食べて欲しいからいいや」
と、ニコッて笑ってくれるアリアさん。うぅ、可愛くてたまらん。
そんなアリアさんの正面に座る。顔を上げるとアリアさん。最高のロケーション。
最高だけど……いつか、横に座って、並んで食べたいなとも思う。俺贅沢だなぁ……
「じゃ、いただきまーす」
「ん? なにそれ、詠唱?」
「ん? 何が?」
「その『いただきまーす』って言うのは、何?」
いつもの可愛らしいキョトン顔。撫でたい。でも変態に落ちたくないので我慢我慢。
「これ、俺がいた世界の俺の国での、食前の決まり文句みたいなものかな。こっちってそういうの無いよね?」
「決まり文句があるの? それを言わないと食べちゃダメ?」
「ううん、そうじゃないんだけど……色々言われてるけど、命を頂きます、って言う、宣言? 覚悟? うーんなんだろ」
「あー、命を……そうよね、その厚切り肉も、元々は生きてたんだもんね」
「そうそう。でも毎日そこまで考えて言ってないよ? 単なる習慣」
「でも、大事な考え方だと思う。素敵な世界にいたのね、シューッヘ君は」
「……ありがとう」
なんか、元いた世界を褒められるのも、気分が良いなんて初めて知った。
そんな誇れる人生じゃなかった地球人生だけど、良い下積みになった、のかな?
そこから俺は、ほぼ無言でステーキと格闘した。意外と固い肉だったので、顎には来た。
ナイフは、間違えて武器用のを出してるんじゃないかと思えるほどスパッと切れた。なにこの危ないの。
と、俺ががっつり食べに掛かっていると、もう食事を済ませていたアリアさんが頬杖をついてこちらを見てる。
「ん? 俺、何か間違ってるかな?」
「ううん、そうじゃないの」
と、クスッと笑う。
「男の人が食事にがっつくのって、あたし好きだなぁって。お父さんがそんな人だったから」
「お父さん、あぁ……」
ちょっと思い出した。お父さんを幼い頃に亡くしたって聞いてる。
「あ、シューッヘ君、気なんか使わなくて良いからね? もう良い思い出よ、10年も前の話だもの」
「そ、そう? でも……アリアさんのお父さんにも、会ってみたかったな。きっといい人だから」
「え、なんで?」
「アリアさんをこんなに、仕事も出来て気遣いも出来てって女性に育てたんだから、絶対いい人」
「なにそれー」
あははっ、とアリアさんが笑ってくれた。
「食べててね? んー、お父さんは冒険者しててね、あたし、小さい頃の記憶の方が鮮明なのよ」
「んー、ほうなんだ」
ステーキ熱い。しゃべりづらい。
「あは、熱いの無理して答えなくて良いよ、聞いててくれるだけで、十分嬉しいから……」
少しさっきまでの明るさが影を潜めて、懐かしんでいるのか、悲しんでいるのか、そんな表情になった。
「あたしのお父さん、よく本を買ってきてくれたの。色んな国の本。それで、読み聞かせてくれて。
小さい頃だったから、お父さんが読んでくれるだけで嬉しかったなぁ……でもそれが実は、全部魔導書だったのよ。
だから、小さい頃から色々な魔法の、なんて言うかな、共通のコツみたいなもの? を、何度も聞く事になったの。
それが上手く転んで、幅広くなんでも魔法使えないと難しい、生活魔法指導者になれたの。だから、お父さんにはとっても感謝してる」
俺は、最後の一切れをごくりと飲み込んだ。
「じゃあ、お父さんが最初の魔法の先生なんだね」
言うと、アリアさんが苦笑いっぽい顔をする。
「お父さん、バリバリの大盾戦士だったって聞いてるからなぁ。本人魔法の要素なんてからきしなのにね。
冒険してて、魔法の必要性を感じてたのかな、あたしには魔法を、教えるではなく、仕込んでくれたのよね」
と、遠い目をするアリアさん。うーー、何とか慰めてあげたいけど、何も思い浮かばないのが悲しい。
「あ、さっきも言ったけど、もう昔の事だから。今はあなたとの未来がとても楽しみ。魔法の先生としても、その……女性としても、ね」
少しだけ頬を赤くして言う。そうだよな、魔法はともかく、アリアさんの女性な部分は、俺が動かないと何にも動かない。
けど、さすがに、今日これ以上関係を深めるのはよそう。今日一日だけでも、相当接近している気がするし。
「そう言えばシューッヘ君、叙爵の儀の練習はどうだった? やっぱり難しかった?」
と、これはきっと敢えてだろうな、話題をスパッと切り替えてきた。俺も、それには乗ることにした。
「それが最初は本当に大変でさ。9歩歩いて、この範囲の誤差で止まれって言うんだよ」
手で大体2センチ四方の四角を作ってみせる。
「えっ、ガイドラインとか、目印とかは?」
「ないない、スタートラインだけはあったけど」
「うわー、その条件、許容誤差範囲狭いわねー、解決出来たの?」
許容誤差範囲、という言葉がサラッと出る辺り、仕事出来るんだろうなぁと感じたりする。
「何とか。魔法で解決した」
「シューッヘ君の、全属性魔法を? どう使ったの?」
「んーと、伝えにくいんだけど……動く度にその景色を半透明にして頭に焼き付けたんだ」
「えっ、なにそれ、ちょっと想像つかないわ」
「だよねぇ……最初にヒューさんのガイドで、正しい『一歩』を重ねていきながら、その際に景色を都度記録したの」
「ふんふん」
「その記録した景色は半透明だから、現実の視界と重ねるとズレが出来る。このズレが無くなるように微調整して、歩いたんだ」
「へぇ……その発想が出来る魔導師って、多分どの国にもいないと思うわ。もしかして、元のアイデアはチキュウからのもの?」
「うん、そう。ヒューさんには写真って言ったけど、スライドが正しいかな。そういう『半透明な画像記録物』が、地球にはあったんだ」
「単語はうまく聞き取れなかったけど、異世界のアイデアなのね。それを魔法に応用しちゃうシューッヘ君、凄いね!」
「えへへ、褒められると、やっぱり嬉しいな……」
多分俺は今、デレデレな顔をしている。リア充はぜろとか言っていた前世の俺、さようなら。
「それで、王様の前まで行くのね? それからは? 秘密とかになっちゃってる?」
「んー、特に秘密に、とかは言われてないけど、宣言文はさすがに言うべきじゃないかも」
「あー……そうよね、王様に直接申し上げる言葉を、あたしが先に知っちゃうのは失礼だわ」
「理解してくれてありがとう。これで少し肩の荷が下りた気分だよ」
「あら、どうして?」
「叙爵って、王様から一人で受ける儀式じゃない? 誰も味方がいないような、そんな気持ちになっちゃってて」
「ヒューさんは? あの人はずっとシューッヘ君の味方でいてくれそうなのに」
「そのヒューさんが厳しかったから、ちょっと心折れかけた。俺、まだまだだなぁって思ったよ」
「そっか。叙爵の事に限らず、心細かったり、寂しかったりしたら、いつでも話、聞くからね、遠慮しないでね!」
「ありがと……ホントに助かるよ」
と、そろそろ食堂が混んできたので、俺たちは今日はそこで散会することにした。
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