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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第4章 魔族領遠征編 ~親書を携え、馬は進む~

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第79話 お買い物の後の公務のトップ同士の会談のはずが

 ふんふーん♪ ふふーん♪

 小さな個室、というのは、何故か心が落ち着く。俺だけか?

 シャンプーもよく泡立つし、それでいて泡切れも良い。汚れ落ちは文句なしだ。久しぶりにスッキリした気がする。


 清涼剤入りと言っていたが、日本のスースーするのとは違う。何かハーブっぽい感じ。

 言うなりスースーじゃなくてスッキリさわやか、かな。強引な清涼感では無いのも好印象だ。


 因みに、持って入ったガラス瓶のシャンプーボトル以外にも、シャワーの下に箱があって、開けてみたら色々入ってた。

 見る限り、あと嗅ぐ限り、女性向けが多かった。白っぽい石けんだけは、優しい草の香りがしたので、試しに使ってみた。

 草の香りの石けんも、泡立ちは良い。日本の石けんと遜色ない位だ。これまでが泡立たなかったからなぁ……何だか感動。


「フェリクシア、タオルくれるー?」


 粗方流し終えて、外の護衛(おくさん)にタオルを要求。なんか亭主関白とかそういう昔の言葉っぽいな、俺。

 言うや、スライド式の扉が少し開き、茶色いタオルが差し入れられる。

 ふむ、タオルはさすがに普通の様だ。拭いても別に特別感は無い。


「ご主人様、服は中で着られるか? それとも出てから着られるか?」

「あー、中、結構湿気が凄いから、外出るわ。さっきの板、あるよね?」


 シャワーブースに俺とフェリクシアが入ると、その通路の8割くらいの幅の板のパーテーションがドスンと置かれた。

 因みに高さ的にはあくまでドワーフ用の様で、肩より上は出る。だから向こうも、こちらからは見える。


 スーッと音も無くスライドドアを開き、シャワー室の外へ出る。足拭きは、これも普通のタオルだな。

 どうもさっきの、シャワー室入って堂々と商品サンプル? を置かれてたのを見て、どれもこれも商品に思えてならない。


「では私は、あの板辺りで警戒をしている。着替えが済んだら教えてくれ」


 はーい、と気の抜けた返答を返しつつ、下着からあれこれと服を着ていく。

 うーん。そう言えばこのベルト、微妙に『星屑の短剣』の提げる部分と太さが合ってないんだよな。

 ベルト、扱ってないかなぁ。言えば出てきそうだし、何なら作ってくれそうだけど。


「ありがと、フェリクシア。着替え済んだよ」

「うむ、あとはこれだな」


 フェリクシアが預かってくれていた星屑の短剣が手元に戻る。

 ベルトを短剣の、掛け金具部分に通して、締める。うん、いつものバランスだ。


「ん? ご主人様、ベルトが気になるのか?」

「うぇ、また分かった? 俺そんなに分かりやすいのかな……」


 女神様謹製の読心術が無いフェリクシアにまで、今気になってる事を言い当てられてしまう。

 俺、そんなに単純なのか? いやまぁ、女性は鋭いとかって言うからなぁ……


「ベルト、このままでも良い感じなんだけど、ほら、こうすると少し縦に動くじゃん」

「ふむ……普段であれば問題は無いと思うが、ご主人様が不意に抜剣する時の安定性に、少し不安は感じる」

「不意に剣を抜く機会が、あるかどうかは分からないけど……フェリクシアから見て、ベルト変えた方が良いかな。どう?」


 フェリクシアが、失礼、と小声で言いつつ俺の腰の短剣の鞘を持って、少し上下に動かす。


「確かにご主人様の言われる通り、無視出来なくは無い範囲だとは思う。だが折角の機会だ、新調されてはどうか?」

「そっか。確かにこんな機会無いと、わざわざ『ほんのちょっと』の差でベルト変えようとも思わないからな、うん、そうしよう」


 そんなやり取りをしつつ、シャワースペースから売り場に戻った。



 ***



 口紅も買った。よくは分からないが、基礎化粧品らしい物もたくさん買った。

 チーク? というのも、あとグロス? というテカテカするのも買った。

 女神様翻訳的に不明な言葉っぽくないので、日本で多分聞いた事のある言葉なんだろうが、実物をハッキリと見たことは無かった。


 色々買ったが、大半はアリアの物だ。どうも化粧そのものが好きらしい。

 俺の分も、オススメされてた肌ケアの化粧水を買った。コットンも買った。

 フェリクシアにも何かと勧めたんだが、こちらは同じ女性でも化粧に興味が無いらしく、何も買っていない。


 因みにベルトは、今のが長さの方は丁度良いので、ドワーフさんに預けた。オーダーメイドになるそうだ。

 星屑の短剣も、フェリクシアの厳重監視の下で採寸がされ、短剣が上下に揺れないベルトを作ってくれる、と。


 そうして買い物が一段落して。


「ねぇシューッヘ、これからどうする? もうさすがに買い物疲れたよね?」

「う、うん……ごめん」

「ううん。女の子のお買い物に、文句言わないで居てくれただけでも十分よ。フェリクシアは本当に良いの? ここの化粧品、かなり凄いわよ?」

「以前からなのだが、普段私はシャンプーすら使わず、ひたすら湯で流すだけだ。肌が弱くてな。大抵何を付けてもかゆくなる」

「そっか、肌弱いんなら下手に色々しない方が良いかもね。じゃシューッヘ、買い物おしまいで!」


 アリアが満面の笑顔で手をグイッと天井に突き上げながら宣言した。

 ふー……ようやく終わるらしい。長かった。実を言うと、結構我慢するのが厳しかった。


「ふふっ、お疲れ様、シューッヘ。じゃ、ヒューさん達のいる、上、行く?」

「はー……そうだよね、俺達のんきに買い物してたけど、上じゃどんな話し合いになってることやら」

「ヒュー殿の事だから、外交的に失策をやらかす事は無かろう。が、ご主人様の言う魔王像を聞くだに、独壇場になっていそうな気はする」


 魔王の独壇場。

 いやまぁ、俺がいない場所で独壇場しててくれるのは別に良い。ヒューさんには悪いが。


 ただあの独壇場、新しい参加者が入っても止まる気配が無い独壇場なんだよな、雰囲気感じる限り。

 俺も巻き込まれるのか……別の方向性で疲れること確定だわこりゃ。


「行かない訳にもいかないし、ヒューさんほったらかして馬車に戻る訳にもいかないから、まぁ……行こうか」


 モチベーションはゼロである。行きたいか行きたくないか? 当然行きたくない。

 だがヒューさんを回収しないと、あのヒューさんでも魔王の相手は多分相当疲れる。

 普段忘れているが、ヒューさんも結構な歳だ。いくら外交慣れしてるとは言え、今回の旅程の中心は俺。というか『英雄』。俺が行かないと魔王の独壇場は決して終わらない。


「はぁ……あの、7階へ行くにはどうすれば?」

「こちらの奥の階段が、7階までございます! どうぞこちらへ!」


 若そうに見えるドワーフさんの後ろについて、フロアを後にする。

 既に開かれている大きな扉を抜けると、らせん階段。これを昇るらしい。


「こちらでそのまま7階まで行けます! 失礼ながら、私はこちらの担当ですので、ここで失礼しますっ!」

「あ、ありがとうございました。またその、ベルトが出来たら」

「はいっ! すぐ7階までご報告に上がりますのでっ!!」


 食い気味に返答するドワーフさん。

 あれ? もしかして緊張してたりするのかな、元気なドワーフさんなのかと思っていたが。まぁ、いいや。


 俺達は階段を上がっていった。



 ***



 7階。

 階段がここで終わって、更にあっちの方にも1つ階段があるが……目の前の光景が異様だ。


 鉄の壁。いや鉄かどうかは詳しくは分からないが、金属製の壁が建物の全幅に渡っている。

 鋳物の鉄のような表面がゴツゴツとした見た目の壁が、全く視界の全てを遮っている。


 そのど真ん中には、恐らくこちら側に開く引き戸なんだろう、大きな環が左右一対ぶら下がっている、もっと大きな扉がある。

 このショッピングタワーの、これまでの豪華さとはまるで違う方向の威圧感。飾り気一切ナシ。

 環が付いていて、切れ込みが辛うじて見えるから扉だと分かるが、唯一目立つあの環が無かったら、酷い行き止まりだと思いかねない。


 金属壁のあまりの物々しさは、応接室への入口というより、二度と出られない刑務所に入る扉の様にすら思えてしまう。


「ねぇフェリクシア、あの、扉……だよね? あれノックしても、音が通んないじゃない?」

「あの輪はそのために付いている、という事だろう」


 尻込みしている俺をよそにツッツッと扉まで進んだフェリクシアが、その環をぐっと持ちあげて、離した。

 ガン、という、なんとも味気ないというか、最上階の応接間にあるまじき物騒な音が鳴った。


 少し遅れて、扉がゆっくりと、観音開きに開いていく。フェリクシアはトン、トンと二歩、後ろへ飛んだ。

 音も立てず、しかしゆっくりと、扉が動いて隙間が出来る。なんと中側から、ここまで見てきたドワーフさん達よりもう少し小柄なドワーフさんが、頭を下に、腕を前に突き出して、ジリジリと進む。その歩みと共に、扉は押し開かれていく。

 小柄なドワーフさんは男性の様で、下を向いているが少し髭が見えた。そして、太い血管が幾つもガッツリ浮き上がったその腕もまた、実に男性らしいとも思える。


 最後にフンッとドワーフさんが息を吐き、扉が一気に開いた。そのまま開ききって、ガンガチャンっ、と壁に激突して止まった。良いのか? その雑さ。


「フウッ。お待ちしておりました、英雄閣下。既に宴は盛り上がっておりますぞ!」


 宴?

 と、思ったその時、部屋の中からやけに酒臭いニオイが漂ってきて鼻についた。


 酒飲んだ人の臭い息、の酒臭いではない。消毒薬のアルコールの、あのニオイだ。

 俺は思わずアリアを見た。アリアも酒臭さ、もといアルコール臭さに、眉をひそめている。


「ご主人様。ここは覚悟を決めて進まなければならない場面だろう」

「うわぁホントにぃ……」


 これ程入りたくない部屋は初めてだった。

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