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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第4章 魔族領遠征編 ~親書を携え、馬は進む~

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第71話 魔王の雑談 ~話題はあっちこっち~


「えっ、え? 何で魔王が俺の短剣の名前を」

「あれ? 魔王様から魔王に格下げか。まあ別に良いんだけど、人間の手のひら返しは昔からで、僕も相当慣れたしね」


 言われて、つい思わず『様』をすっ飛ばした事に気付いた時には魔王は苦笑していた。


「し、失礼しました、魔王様。えっと、ま、魔王様が俺の、あれ? 何でその、俺自身もあんまり言わないこの短剣の名を知ってるんですか」

「それは何も、僕がその短剣の制作者だからだね。ローリスの宝物庫にこっそり入れてきたのも僕自身だし」


 俺の頭はフリーズした。


 いや。

 一体どういう話な訳これ?


 ローリスの宝物庫に『こっそり入れてきた』? 

 宝物庫ってそんなにセキュリティーガバガバなの?

 いやいや、それより魔王からすれば敵方にもなろうローリスに、なんでこんな凄まじいチート武器を置いてってるの??


「その、魔王様……俺からすると信じられない話ばっかりなんですが」

「まぁ、信じたくなければそれでも別に構わない。けれど、その刃の強靱化加工ひとつ取っても、まだ人間の手では為し得ない仕事のはずだ。どうかな?」


 刃の強靱化。確かに星屑の短剣の刃は並大抵でなく丈夫だ。それこそ全ての兵器がこの丈夫さを持ったら、白兵戦のやり方が変わる程だろう。

 俺自身この短剣には何度も助けられている。オーフェンでサリアクシュナさんの『奇襲』からその正体を暴き、足首を斬り飛ばした時もそう。女神様との戦いで、お持ちの長杖を断ち切ったのもそう。

 その、俺自身とすら思えるこの短剣が、実は魔族の王である魔王謹製の、ある意味で邪悪な武器……俺、実は呪われてたりするの?


「し、信じたくないって事は無いですし、確かにローリスにも、多分オーフェンですら、この短剣ほどの刃は付けられないと思いますが……」

「だろう? けれど、その短剣は今こうしてここにある。人間が作れないのに何故今ここに現存するか。その答えは実は簡単なのさ、人間でない誰かが作った、って事だよ」


 単純に言われれば、まさにそうだろう。誰かが作らなければ、この短剣は存在し得ない。そして、これを作れる技術は人間サイドには無い。

 思い出せ俺、ヒューさんはあの時何て言ってた? 確かこの短剣、宝物庫から持ち出した、ってそれだけだったよな。

 来歴とかについては、確かに何も言ってなかった気がする。アリアが身につけている『ウロボロスの瞳』もだが、俺の叙爵記念品がいずれもハンパない件。


「まあ英雄、君は星屑の短剣をそこそこ使いこなしている様に感じる。あくまで直感だけれどね。実際に君がその剣を抜いたのを見たのも、今日が初めてだし」

「……初めて抜いた剣を、何故直感でも『使いこなして』るって思うんです?」

「んー、そぐい方、それから短剣の扱い方かな。魔導水晶が素材なのは解説が無くても魔力持ちに持たせればまず分かる。すると余計に、人間世界では極めて稀少な物であることも、同時に理解されると考える」

「はぁ」

「つまり、慣れてない人間がそれを腰に下げていると、動き自体が短剣を守るような、変に短剣をうやうやしく扱ったりね。そういう仕草になりがちと思う。けれど君にそれは無い、普通の鉄剣と同じような扱いをする」

「まぁ……そうですね。これを腰に下げる様になってそこそこ日も経つし……てか寧ろその『普通の鉄剣』を腰に下げた経験が、この世界に来る前も来た後も含めて全く無いのでどうとも言い難いんですが」

「ほう? 君があの女神の介入の元で転生を果たした元いた世界というのは、戦いや争いの無い世界だったのか?」

「戦いも争いもありましたけど、俺の住んでいた国は国単位では戦争しないって誓ってたと聞きますけど」

「それで実際、侵略も受けずに過ごせたと?」

「ええ。少なくとも、70年くらいは」


 俺が転生した後で第3次世界大戦とか始まってても知らんが、取りあえず俺が地球にいた時は、日本が戦争に巻き込まれたことは戦後無かったと言い切っても問題無いだろう。

 いや、検証しようもないんだから、いっそ何言っても『問題無い』のかも知れないが。敢えて嘘で固める必要も無いしな、検証不能な程にもはや縁遠い世界だし。


「70年もの間侵略を受けずにひとつの国としていられるとは。余程の大国か、または逆に資源も何も無く貧しい国だったのかい? 君の元いた世界や国は」

「世界が、となると正直どうとも……少なくとも俺のいた国は、その世界の中でも恵まれた方でしたね。飢え死にとかあまり聞かなかったし、ローリス南部の工場みたいなブラック企業も、基本的には許されてなかったみたいだし……」

「ブラック、企業? それはどういう意味なんだ、言葉は何となくだが分かる。が意味も繋がりも掴めない」

「あー、比較的新しい言葉だと女神様翻訳はダメなのかなぁ……企業は、働いている人の集まり。ギルドみたいなものかな……ブラックは、この場合色が黒いことではなくて、こう、後ろ暗いとか、怖い闇夜のイメージとでも言うか」


 言っててあまり的を射てないなぁと感じてしまう。

 ブラック企業、ブラック……白がキレイで黒が汚いとかヤバいとか、そういう"イメージ"の代物だしなぁ。伝えづらい。


「闇夜の労働? それは何か、深夜帯に働く事は禁止されていた、という事か? 照明の魔導具すら無かった世界なのか?」

「いや、照明は電気という、えっと、雷と同じ方向性の力でもって明かりを灯してました。というかブラック企業は夜勤の話じゃないです」

「夜勤は普通にあったのか。そうすると、後ろ暗いという意味からすると、人間世界で言う『法』に反した、強盗や窃盗団の労働か? 国が戦争をしなくても、そんな法を作らなければいけない程に罪人が多くては大変だったね」

「えーーっと、どう言えば伝わるのかなぁ、俺の言い方も悪いんですが……ブラックなのはその働き方の話で、真っ当な労働者が真っ当に守られるようにと、そういう法律があった、と……学校ではそう聞きましたが」

「ああ、そう言えば君は学生だったそうだね。それは聞いていた。君がどのような事を学んでいたのか興味はあるが、今日の主題はそこでは無いかな。むしろ今君が手でプランプランさせているその短剣だ」

「あ、ああ……」


 言われて初めて、プランプランとすら言われてしまう程脱力し、刃物である事も忘れてぶらぶら持っていた事に気付いた。

 日本じゃ、ハサミとか渡す時にも刃を持て、とよく言われたわそう言えば。さすがに剥き出しの刃物は、目の前のテーブルにでも置こう。


「ほう、僕が置いていった時と握りの革が違うね。さすがに革の劣化までは防げなかったか」


 魔王が腕組みをし、少し前傾になって乗り出す様に短剣を覗き込んでいる。


「革の劣化ってそんな早くは……って、魔王様、ローリスにこれを置いてったと言うのは、いつ頃の話ですか」

「ざっくり500年前かな」

「そりゃ劣化しますよ!」


 俺は思わずデカい声でツッコミを入れてしまった。定番のなんでやねんの手が動きそうになったのを制止できた俺を、今一番褒めたい。


「すると、500年も前の、大昔からずっと、ローリスの宝物庫ですかコレ……? いやでも、革が巻き直されてるなら、誰か使ったのかな」

「どうだろうね? 文化的に見て非常に先進的だった、あの賢王宣言を祝うつもりで、けれど目立って外交的な事をすると賢王たちの先駆的な内政を止めかねなかったから、僕だけ転移で中に移動して、本当にこっそりと置いて、それだけで帰ってきたんだけど」


 宝物庫の宝物が、500年前にふと勝手に1つ増えた訳か。

 宝物庫自体も見た事ないし入った事もないから規模感が分からないが、中に移動して、というからには、部屋程度の規模はあるんだろう。


 それこそ、ショーケースみたいなものに入れて飾っているならいざ知らず。ただ棚に並べた様な置き方だったら、突然1つ増えても気付けるのかなぁ……

 まぁでもきっと、何年かに一度くらいは、宝物の点検とかもしてるだろうから、気付くかなぁ。


「まぁ、君以外の誰かが使ったとしても、祭礼や儀礼で用いただけかも知れないね。刃に血の痕跡は無いし、見る限り僕が入れてない魔法が片側に入っている。これは君かい?」

「魔法? あぁ……あの反魔法って魔王様だったんですか。何だか腑に落ちましたが……そうですね、もう1つの魔法は、馬車にもいたメイドさんのフェリクシアが入れました」


 この短剣、反魔法ばかり活躍している感があるが、一応もう片側には、俺にその全魔力を注ぎ込む術式が、フェリクシアの手によって刻まれている。

 もっとも、一度も使っていない。オーフェンでサリアクシュナさんを「戻す」為に膨大な魔力が必要だった時も、動けなかったので魔導線を直結して無理矢理吸い上げたし。

 確か反魔法の方でない刃側の方を振りかぶるとそのモードに入るとか聞いていたが、そういう機会も無かったな。


「しかし魔王様、何でその……敵方にもなる様な人間の宝物庫に、そんな凄まじい武器を? それ持って攻められたら、危なくないですか?」


 そう。敵方に武器をプレゼントする意図が分からない。しかも単なる「良質な剣」のレベルではない、チート級の武器だ。


「まぁ、僕としては危険性は感じていない。これを量産できる技術も無い人間に渡して、ただ1人がそれで武装して乗り込んで来ても、戦争の役には立たないからね」


 なるほど。言われてみればそうか。

 武道場的な所での一騎打ちならともかく、人間対魔族の戦いとなったら軍を用いた戦争だ。

 その中の兵士1名が、凄まじい武器を持っていても、それこそ何万の軍勢に勝てっこないのは間違いない。


「僕として嬉しかったのは、僕の趣味で作ってる高機能武具が、実際に日の目を見てることかな。宝物庫に死蔵されても仕方ない見た目と力だしね。君に使ってもらえて僕は嬉しいよ」


 魔王はまた上機嫌そうに、顔一杯の笑顔でそう言った。てか今『趣味で作ってる』とか言ったよな? 武器作りが趣味って、物騒なのか職人肌なのか……


 体感では、まだ1時間半にはほど遠い。出発から20分も経ってないかも知れない。魔王の話し方のせいもあってお腹いっぱい感が強いが、時間自体は全然経ってない。

 もしかして他にも趣味で作った武具とか防具とかあるのかな。古代魔法にも詳しいし、魔王の雑談に本気で向き合ってみるか。学ぶ事はきっと多いだろう。

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