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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第4章 魔族領遠征編 ~親書を携え、馬は進む~

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第66話 魔王との条約交渉 トントン決まりすぎて怖いんだが。

 俺の応答に、魔王は少しだけ眉間にシワを寄せた。一国の主、そして魔族の長がした表情の元になる感情が何なのかは、俺には想像も付かない。


「英雄。君が考える妥当なバランスってなんだい? それに、そちらの条件を飲んだとして、どちらのエリクサーをくれるんだい?」


 う……俺が考えるバランス。これ、考え無しに何か言ったら、即採用とかされて条件飲んだ事になるやつだ。

 後ろの質問には答えられなくはない。渡すとしてもエリクサー一択。闇魔法に固有の回復魔法がある以上、マギを回復されると中ボスでもラスボス級になりかねない。


「俺の考えるバランスは少し置いておいて、お渡しするとしても体力の方のエリクサーにしたく思います」

「そうか、僕は既に今の時点で、マギ・エリクサーを手にする可能性は無くなったんだね」

「……そう考えて頂けると助かります」


 一瞬言葉に詰まってしまった。魔王は相変わらずあっけらかんと言うが、この一言の後に何が来るか、想像すら付かないのは厳しい。

 俺が外交交渉なんて経験したことも無いことに加え、そもそも前世でも交渉なんてする事が無かった。経験が根本的に無い。

 ただこうして話を長引かせているうちに、何とか落とし所を考えないといけない。こめかみ辺りがキューッと締まってくるのを感じる。


「では、交渉の物はエリクサーか。いずれにせよ僕らが合成し得なかった特殊な配合薬だ、僕にとって得るものは大きい」

「それは幸いです。特にマギ・エリクサーはローリスの秘薬とも聞いています。勝手に放出すれば、俺自身が陛下からお叱りを受けるところでしたので」

「国王陛下からの、お叱りか。やはりローリスは王権が強いから、相変わらず誰も王には逆らわない、君ですらもなのか」


 少しだけ語尾に驚きの乗った口調で魔王が言う。

 あれ、どうなんだろ。俺はどっちかというと陛下のざっくばらんなご性格しか知らない。後は厳しそうな面は、少なくとも俺に直接は向けられていない。


「俺は、陛下から随分とごひいきにして頂いているので、陛下をお慕いしております。あまり、国王だから、という意識では無いですね」

「ふむ。ローリスの専制君主は随分と融通も利かない恐怖政治を敷いていると聞いていたが、そうか、君は『そちら側』に飛び込めたんだね」

「そちら側……まぁそうなりますかね。ところで交渉の続きですが」


 この魔王という人物、どうにも話が脱線するので、馬が着く5分以内に結論を出すという前提どうしたのって感じになってくる。


「ああそうだったね。ではローリスに対して、過去に魔族がローリスから召し上げた魔導水晶、その総量の十分の一を返還する。もちろん関税条約はそのままだ。これならどうだい?」


 十分の一。言葉からすると随分目減りする感のある量だが、元々俺はその算出総量すら知らない。

 ヒューさんなら分かるかな……俺は魔王から視線を切って、ヒューさんに向けた。

 ヒューさんは跪いたまま、頷いた。


「ローリスが過去に産出し、奪われた総量であれば、十分の一でも相当な量になります。ただローリスの民としては、元々は全てローリスが占有すべきものという気持ちはございます」

「なるほど……魔王様、敢えて全部と言わないのは、やはり魔族領でも魔導水晶が価値の高いものだからですか」


 相手のニーズも知りたい。魔族にとって魔導水晶が無用の長物だったなら、何とかこの勢いで全部かそれに匹敵する量を目指したい。

 ただ、ローリスの都市照明って大型の魔導水晶で回ってるんだよな。そんな便利な物を使わない訳がないだろうから……


「全部か。もしそうなると、魔族領内で分割統治している全ての領域から、魔導水晶を取り上げないといけない。さすがにそれは、僕でも出来かねる」


 ハッキリした口調だった。さすがに全部は無理、となると、どの辺りまでなら大丈夫か。

 少なく言い過ぎて言質を取られるのは避けたいが、無駄に大きく言って相手の交渉の意欲を削いでもいけない。


「では……参考までに2つだけ、質問をしても良いですか?」

「構わない」

「1つは、返還して頂ける魔導水晶は掘り出したままの原型ですか? 特に、分割がされていないか、お聞きしたいです。

 加えてもう1点は、誰が返還対象の魔導水晶を選別するのでしょう。人間の専門家ですか、それとも、魔王様自ら?」


 立て続けに2つの質問をぶつけると、魔王は少し考えるように顎に手をやり、一言うーんと唸った。


 魔導水晶は、細かいいくつもの断片よりは、大きな1つの方が価値が高い、と以前聞いたことがある。

 完全未カットが最高なんだろうが、利用用途によっては砕かれているかも知れない。そんなクズ水晶ばかりもらっても意味が無い。


「原型かどうか、そして、返還する品物の選別者か……まぁ順に僕の考えを言っていこう。まず原型かどうか。特に分割についてだね。

 当時ローリスを統治していた暗黒魔竜族から献上された魔導水晶は、その鋭利な結晶部は削り、大小あるし形状も様々だけれど、いずれもぬめっと艶のある水晶塊に加工している。

 出来るだけ大きさを損ねたくなかったのは魔族も人間も同じだから、掘り出したほぼその大きさで今日の日まで保管、または利用している。

 それから、誰が返還対象を精査するか。魔導水晶に、それぞれ固有の番号を振ってある。掘り出し日順に並べる事も出来る。けれど誰が選ぶかと言われると、僕も困るなあ。

 出来るだけ大型の物も返還の対象に含めたいけれど、ある程度以上大型の物の多くは領内の都市を回すのに現在使っている。だから返すことも出来ないし」


「そうなると、クズのように小さい魔導水晶ばかりが返還対象になるという事でしょうか。それでは残念ながらこのお話は無かったことに」

「いやいや、ちょっと待ってくれ。都市運用クラスの大型も、全てを使っている訳ではないから、少ないが対象には出来る。さすがに大きい順に上から十分の一と言われると、国内での用途見込みもあるから、僕としても困るわけであって」


 魔王が、焦った?

 女神様の御降臨ですら、ウンザリした様子ではあったが焦ることは無かった魔王が、急ぎ発言を訂正するような動きに出た。


「そうだ、英雄。君自身が選べば良い。今回その外交成果を持っていくのは君だろう? ならば最後まで君が選ぶなら、僕も随時その是非を伝えることも出来る」

「俺が選ぶんですか。俺だけ? ヒューさんとかの助言は禁止ですか?」

「いや、君が望むのであれば、補助者を付ける事も構わない」


 うーん。今度は俺が、つい唸ってしまう。

 ほぼ妥結出来るだけの条件は整ってしまった。十分の一、という量が引っかかるが、400も500もある坑道から出た総量の十分の一なら、量も恐らく見込める。

 ただやっぱり、もう一声、って気持ちにはなる。言うだけ言ってみるか。


「量についてですが、十分の一は若干少なく感じます。継続交渉して更に返還の見込みがあるのなら別ですが、今回っきりであるなら、もう少しはと」

「君は粘り強いというか、些細な条件にこだわるね。十分の一と言っても僕がその最終決定権者だから、多少の融通は利く。じゃあまぁ、八分の一ではどうか。さすがに僕もこれ以上は厳しい」

「では、総量の八分の一を返還頂く、その中身については俺と仲間で精査し、それらの是非をそれぞれご判断頂ける、と。その条件でしたならば、エリクサーをお渡しします」

「言ったね? これは約束であり外交の契約だからね。必ずエリクサーは渡してもらうよ」

「はい、それはもちろん。ただ、受け渡しは魔導水晶と交換としたく存じます。やはり、外交ですし」


 外交という言葉をそのまま返しつつ、今すぐには渡さないことを明言する。

 魔王もそこは承知の様で、特に渋い顔をすることもなく頷いた。


「王城に入ったら、書記官に正式な書類を作らせる。あとは輸送の問題や魔力補充の部分、まあ実に些末な事だけだね。エリクサーか……久しぶりに燃える素材が手に入る」


 魔王が、その表情のほころびを隠せないとばかりに、口の端が上がってしまいヒクヒクしている。

 俺も俺で、思わず口から大きな溜息が漏れてしまう。打ち損ねたら国益を損なうラリーだったんだ、これ位の緊張で済んでむしろ良かった。


「さて、馬もそろそろ来るかな」


 魔王が、何故か森に切り開かれたルートではなく、空を見上げて言った。

 と、何処か遠くの方から、ヒヒィーンと鳴き声が響いた。え、今のどこ? 少なくとも、うん、進行方向・戻る方向のどっちからも来てないんだけど。


「英雄、飛翔馬の系統は初めてかい? 僕の馬は天を駆ける。ほら、もう見えてきたよ」


 魔王が指差す先の空に目を向けると、黒い点のように小さい何かが、徐々に接近しているのが分かった。

 黒いんだ、と思ってると、それが2つある事にも気付けた。段々近付くと、黒い馬だと言われる空飛ぶ何かの後ろに、大きそうな馬車っぽい物も見えてくる。


「飛翔馬! もうこの世界にはおらぬと聞いている馬を、魔王様はご自身の馬とされておられるのですか!」


 ヒューさんの目にも写ったのだろう、さすがにヒューさんも立ち上がり、ようやく馬と視認できるくらいに近付いた飛翔馬に首を前に乗り出して見入っている。


「ちょっと僕が着地場所を指示する必要があるから、君たちは魔法に巻き込まれない様に下がっていてくれるかい?」


 言われた俺達は黙って頷き、自分達の馬車の方へ足早に待避した。

 俺達の背中に、再び高くいななく馬の声が聞こえた。今度は大分近い。百メートルとかその程度しか離れていなさそうな声だった。


 馬車まで戻ると、アリアとフェリクシアは入口と逆の窓に並んで立って、空に目線を向けている。あの位置から見えるらしい。


「アリア、フェリクシア。馬が来るってさ」

「馬って飛べるのね」

「なんか、飛翔馬? とか言うらしいよ」

「伝説の魔法生物、ベガスースか、あれは。魔族に従っているのか」


 フェリクシアの口から、ペガサスみたいな言葉が出た。こちらではベガスースと言うらしい。


「フェリクシア、魔法生物って?」

「ああ、ご主人様。あくまで伝承だが、我々の様に生命力とマギの2軸を持たず、マギのみで生きる存在の事だ。よもや現存するとは」


 俺が再び魔王の方に顔を向けると、丁度飛行機が滑走路に進入する様に、2頭のベガスースが順に、こちらに向けて高度を下げて来ていたところだった。


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