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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第4章 魔族領遠征編 ~親書を携え、馬は進む~

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第57話 魔王外交の成果と結末


「となると、試してみた方が良いかも知れないね。出来てるつもりで何も出来ていなかった、では、英雄としての沽券にも関わるだろう」


 魔王が爽やかな笑顔をたたえて言う。いや沽券とかプライドなんてどうでも良いけれど、確かに出来てるつもりだけ、ってのは頂けない。


「そうですね、試したいですけど……そもそもどうやって?」

「それは簡単な話だよ。今僕の膝の上にある加工魔導水晶、これが魔導水晶と同じ性質があるとすれば、それから魔力を過度に吸い上げれば粉を吹く」

「つまり……敢えて放射線を出させる、と」


 事の危険性に俺が生唾を飲み込む一方で、魔王は相変わらずワクワクしてそうな笑顔だ。

 何故笑っていられる? ひょっとして魔王は、粉が放つ放射線に耐性があるとか?

 としても、魔王は無事かも知れないが俺達が普通に被爆してしまう。


「随分顔がこわばっているけれど、このサイズの板全体に粉が吹いても、大した放射線量にはならないから安心して良いよ。

 終末粉体は量が集まると飛躍的に線量が増す性質があって、その反対に、量さえ一箇所に集めなければ、陽光星の光の方がよっぽと有害な程度にしか、放射線は放たない」


 俺の懸念を見抜いて、粉体の安全性について魔王は語った。

 陽光星、つまりこの星の太陽。地球でも自然放射線とか話は聞いたが、この星の放射線ディフェンスは地球より弱かったりするのかも知れない。

 いずれにしても、この星にいる人達が日常浴びている自然放射線より線量が低いのなら、被曝と言うまでもない。気にしすぎない方が良いな。


「あとは、粉自体に直接触れると、非常に細かい粉だから皮膚から体内に入る。それはさすがに避けた方が良いので、何かの上に乗せるなりして、魔力を吸い上げようと思うけれど、どうだい?」


 どうだい、も何も無い。粉体の放射線制御が出来なければ、ローリスの死の工場を改善出来ない。

 選択肢は無い。とにかくやるしかない。俺は覚悟を示す気持ちを乗せて、深く頷いた。


「気張ってるな、英雄。光の無害化の手間は僕には分からないけれど、安全性は僕が保証する。金属の上がより好ましいが……あぁ、良いのがあったな」


 と、魔王は立ち上がり客車の後ろの方へと歩んでいく。

 ベールが取られ勇気の小金貨が輝いて見える炉の前に立った。


「金貨の中に大部分を埋めてしまえば、露出している所からしか放射線は出ない。正直ここまで安全策を採る必要はないのだけれど、英雄が不安そうだからね、やれる事はやろう」


 魔王は敢えて後ろにいる俺達に見せるように、加工魔導水晶の小さな板を指先でつまみ、それを肩越しに見せてきた。

 その水晶はそのままに、反対の手で勇気の小金貨をジャラジャラ音を立てながら、多分掘っている。

 少しして、見せつけていた水晶も炉の中に。背中しか見えないから多分でしかないが。それからまたジャラジャラ。埋めてるんだろう。


「よし、これで準備は万端だ。一辺だけが露出するように埋めたから、粉を吹けばその放射線自体は感知出来る。とても弱いものになるだろうけどね」

『さあシューッヘ、あなたの番よ。加工水晶から反応が無くなるまで魔力を吸い、その後その水晶の前に立ちなさい。無害化は手伝ってあげる』


 上座の女神様は微笑みのまま、俺に「時が来た」事を告げた。

 俺は頷き立ち上がり、魔王のいる炉に歩み寄る。気付いた魔王が真正面を空けてくれて、俺は炉の正面に立った。


 炉の中を覗き見ると、金貨の中に立てて埋められている水晶が見える。

 なるほど、一辺、と言ったのはこういうことか。線の様に水晶は出ていて、その部分以外は金貨で見えない。

 俺は大きく息を吸い、目を閉じた。自分の中の魔導線を意識する。


 魔導水晶から魔力を吸い上げるには、偶数本の魔導線を水晶に接続する必要がある。

 女神様のオーダーは、水晶の魔力残存ゼロまでの吸い上げ。ならば全力で吸い上げるまでだ。


 俺は今の俺が可能な最大本数である52本の魔導線を生み出し、小さな加工魔導水晶の一辺にぎゅうぎゅう詰めに接続した。

 魔導線同士は重なっても特にお互い干渉する事もないので、狭い所に52本でも問題は無い。

 そして、息を吐く。いよいよだ。俺はもう一度大きく息を吸ったタイミングで、魔力を全力で吸い上げた。


 って……あれ? 大して魔力が入ってくる感覚が無い。多少あったと言えばあったが……


「おっ。さすが英雄、見事だ。ここまでハッキリ粉を吹くのも珍しい」


 魔王の顔を見て、ついで加工魔導水晶を見た。

 さっきまでガラス板が金貨に埋まっていた状態だったのが、ふわふわした綿毛の様な物が生じて水晶自体も見えなくなっていた。


『あら、さすが私が見込んだ英雄ね。ゼロじゃなくてマイナスかしら。なかなか起こせる事象じゃないわよ、これは』


 いつの間にか背後にお立ちになっていた女神様。マイナス、と言われても、あまりピンと来ない。

 単に綿毛状の粉吹きが、触ったらふわふわして気持ちよさそうだなとか思ってしまうくらいで。


「さてこの粉からは、確かに放射線が生じている。想定より強い放射線だ、早めに対処をした方が良いだろう」


 魔王は腕組みをし、炉を、そして粉吹いた水晶を、睨む様にじっと見ていた。

 で、俺の番、なんだよな。これを無害化するタスク。女神様は簡単そうに言われたが、どうすれば良いのやら。


 取りあえず、どれだけの放射が出ているのか、見えるようにしてみるか。


「[光の性質操作 放射線を可視光線域内に全変換]」


 水晶に(というより粉に)手をかざし唱えると、粉が白くて少し強い光を発した。

 何と言うか、綿の中に豆電球を入れて光らせた位にはまぶしい。光線色は白だ。


「なんだ英雄、もう出来たのか。随分と呆気なかったな」

「へっ?」


 俺の口から気の抜けた声が漏れてしまった。声を掛けてきた魔王を見ると、さっきまでの睨みはどこへやら、腕組みはそのままだが視線に厳しさはなかった。


「えーっと……俺、放射線は見えないんで、まず準備として放射線を可視光線に全部変換して見える様にって」

「全部変換したんだろ? 結果がこれだ。放射線源である終末粉体が出す光が、放射線から可視光線に変わっている。つまり、無害化に成功している」


 ……あれ。俺、下準備のつもりが……それで終わった?


『やるじゃない、シューッヘちゃん。後はこれを、どう《あなたがいない時》にも使える様にするか、かしら。ね、魔王?』

「その、《ね》と言うのは、固定魔法式魔導板の制作要請、と受け取って良いか?」


 魔王は女神様のお言葉に、一転渋い顔になった。固定……なんだって? 要請、って事は、魔王がそのなんちゃらを作るとかなのか?


『シューッヘちゃん、考えてみて。今あなたは、終末粉体の無害化に成功した。けれど、あなたがその場にいないといけないとしたら、あなたの仕事は工場長になってしまうわ。

 魔法は、あなたもスクロールを知ってると思うけれど、もっと固定的に同じ魔法を発動し続ける、特別な仕組みもあるの。その一つが、固定魔法式の魔導板ね』


 スクロールは知ってる。この旅の途中でも、聖魔法の小さなスクロールのお陰で、俺は聖魔法も使えるようになった。

 ただ、女神様の仰る「固定魔法式の魔導板」というのがよく分からない。板、と言うくらいだから、何か板状のもので、固定式と言うからには固定設置して使うものなんだろう。


『あまり難しく考える必要は無いわ。大きさのある魔導水晶に意味のある魔法陣を刻むだけの事だから』

「魔導水晶に魔法陣? あ、魔力供給は魔導水晶がして、魔法の定義はその魔法陣が……」

『そういう事ね。工業的に使えるサイズの魔導水晶はローリスどころか人間世界に余りは無いわ。ここ数千年で魔族が殆ど収集してるからね。放出、してくれるわよね?』


 キョロッと魔王の方を向き、小首を傾げられた。そのお顔は角度的に見えないが、魔王の表情は完全に無表情でフリーズしてしまっている。


『あら? 魔王は占有した魔導水晶をあくまで自分達の物にしてしまうつもり? 世界の魔導水晶の管理者って建前があったからその収集を許した、って他の神に聞いたんだけど』

「……分かった。放出はする。だがあくまで必要な量を、だ。無尽蔵に魔導水晶を人間に渡せば、また必ず悲惨な事故を起こす」


 魔王の目は真剣そのものだ。過去の人間文明で、きっとその『悲惨な事故』というのがあったか、下手をすれば繰り返されたのだろう。

 俺達にしてみれば、魔導水晶そのものの量は、安全に加工魔導水晶を作れる量があればそれで良い。その方がローリスの産業をそのまま維持出来る。

 危険性のある産業ではあるが、それ以外に主たる産業を持たないローリスにとって、魔導水晶の過剰供給は国家的危機になりかねない。


「魔王様、俺が言うのも変ですが、その固定式魔導式板? を、必要十分な数作れる分だけ頂ければ、それで良いですよ」

『えっ? せっかく真性の魔導水晶がふんだんに使える様になるチャンスなのに、自分からそれを手放すの?』

「はい。ローリスの産業を考えれば、市場に魔導水晶が溢れる事はむしろ望ましくありません。加工魔導水晶を安全に作れる様になり量の増産も出来れば、ローリスは潤います」


 俺はあくまでローリス庇護下の英雄だ。オーフェンやその他東の方にあるという国々の事を考えれば、魔導水晶はたくさん必要だ。

 だが、ローリスが加工魔導水晶市場を完全に掌握していて、更に危険性無く製造が出来る様になるなら、魔導水晶本体は要らない。ローリスの産業保護のために。


「なるほど、此度の英雄は随分と国粋主義者らしい。まぁ僕としても、蓄えてある魔導水晶を根こそぎ持って行かれるのは我慢ならないところだったから、互いにメリットがあるね。それで妥結としたい。神はこの結論を認めるか?」


 一同の視線が女神様に集まる。

 女神様は、ゆっくりと微笑まれ、目を伏せて首を縦に振られた。


 これで俺は、この外交で成果たる成果を得られた訳だ。

 もちろんまだ固定式の魔導式板とやらを作れていないので、全て終わったという訳では無いけれど。


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