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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第4章 魔族領遠征編 ~親書を携え、馬は進む~

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第56話 労働災害軽減対策会議

 時計。

 この世界の時計が、電池とクオーツとで動いているとは、到底思えない。


 となれば、ゼンマイと歯車、と考えるのが鉄板だ。だがしかし、屋敷の掛け時計を誰かがネジ巻きしている様は、見たことが無い。

 時計の動力は何だ? 時計を動かす力を巨大化出来れば、圧縮機を動かす事も出来るのではないか?


「ヒューさんヒューさん、突然変なこと言うんですけど、時計ってなにで動いてるんですか?」

「はっ? 時計ですか? 時計は、都市魔導線からの放射魔力を受信して動いております。主に軍や豪商が使う、都市外への持ち運び型の場合は、主に加工魔導水晶となります」


 うぐ、ここも加工魔導水晶か。でも普通の時計の方は、魔導線からの漏れ? を原動力としている様だ。


 いや。そこでなく、俺が知りたい肝心のポイントはそこじゃない。

 魔力を、どのようにして、針が動く動力に変えているか、だ。


「時計って、動くじゃないですか。風魔法とかであれば、動かす力も作れて針も自由に進められるとは思いますけど、魔導線から漏れてる単なる魔力で、どうやって針を?」


 俺の質問に、意図まで伝わったかは分からないが、何かあると踏んでくれたのだろう。ヒューさんの目が引き締まる。


「時計の内部に、都市魔導線の魔力を受けて細かく振動をする、とても薄い金属板が仕組まれております。都市魔導線の魔力供給はとても安定しており、放射される魔力も常に一定量です。

 時計内部の金属板が、出力の固定された都市魔導線からの魔力を受けると、板の薄さに応じた固有の振幅でもって、微振動するように動きます。その動きを歯車に移して動力とし、針を動かしています」


 な、なる、ほど??

 つまり……地球の時計で言うゼンマイ動力の部分は、都市魔導線からの漏れ魔力が『振動板を揺らす』ことで動力にしている、って事かな?


「ヒューさん、その『魔力を受けて振動する金属板』って、時計にしか使えませんか? 時計に使う歯車よりもっと大きな物を動かせないですか?」


 俺の言葉に、何かインスピレーションを受けるところでもあったのか、ヒューさんの目が驚いた時のそれになった。

 ヒューさんは俺に対してはいつも表情が豊かで、人の気持ちを推し量るのが得意でない俺でも、分かる様にしてくれていてとても助かる。


「理論上は可能です。振動板を大きくし、導入する魔力量を相当量増やせば、振動幅も大きくなって、より大きな歯車を回す事も出来ます」

「ところでヒューさんは、水車や風車という物は、分かりますか?」

「はい。ローリスでは貴族領地も含めあまり一般的ではありませんが、他国では脱穀や製粉などの力仕事を自動化……シューッヘ様、もしや圧縮魔導水晶製造の自動化をお考えで?」


 ヒューさんが俺のやりたい事をズバリ言い当てた。

 俺は何だかとても嬉しくて、思わず口角が上がって、目も見開いたまま大きく頷いた。


「俺、思うんです。最初から全ての工程を自動化するのは無理だと思うけど、まずは一番危なそうな『粉の圧縮』を機械に任せるところから始めれば、って」

「そうですな……ただやはり一つの工程を機械化するだけでは、工員の健康被害はそれほど減らせないでしょう。特に圧縮の準備段階である、粉体を圧縮機に入れ込む辺りが、恐らく最も粉塵の影響を受ける工程かと」


 ううむ、そうは簡単に片付かないか。

 だが、方向性として間違っているとは思わない。三人死ぬより二人、それが一人になったなら、それも十分な進歩・進展だ。

 最初から全部を上手くやれなくても、少しずつで良い。出来る部分からやっていけば、それで良い。


「もしですよ? 粉体を圧縮まで全て機械化出来たとして、どうしても人の手が要るのはどの工程ですか?」


 俺のいた日本でも、大きな会社の工場は大抵機械化されていたと聞く。

 だがそれでも、ライン工と呼ばれる労働者さんはいたし、検査のプロセスも恐らく人の目でないといけない。

 魔王の見立てによれば、製品の状態の加工魔導水晶板から、放射線は出ていない。つまり完成後検査のプロセスは、無害化出来ると思う。


 問題は、外部から粉体を持ち込む、それを受け付ける、粉体を最初の機械に投入する、人、人、人。

 機械化でいわゆる労災は減らせても、どうにもゼロにまで出来る案は浮かばない。


「圧縮については、人材がいる時には密魔法使いがその任を務めます。密魔法使いがいない時は、工員が重い金属板で圧縮すると聞いております」

「密魔法使い。そこは可能であれば、離れた所から魔法を使ってもらえば、その人の健康被害は減らせますよねきっと」

「理論上はそうなりますが、密魔法を遠距離に放つのは少し難しいので、丁度人材に恵まれた時でなければ、そうなりません」


 ううむ、魔法が使えると言っても、俺みたいに距離も強さも自由って訳にはいかないか、普通の魔導師さんは。


「それに、そもそもの話にはなりますがシューッヘ様。工場作業の前提の話として、諸国を回り粉を集める人員がどうしても必要です。

 仮に、粉の投入口に粉体水晶を入れれば勝手に完成品まで出来る、というところまで機械化が出来たとしても、粉の収集人は……」


 うっ。そうか……ローリスの主要産業は『魔導具の魔力充填』と『粉体水晶の収集』だった。

 どうやって粉を集めているかよく知らないけれど、間違いなく至近距離で粉と接する。舞い散る粉も吸うだろうし、近付くだけでも被曝する。


「ねぇ君達。こういう時にこそ文明や世界の法則に詳しいであろう魔王に助力を請おうとは思わないのかい?」


 突然、本当に唐突に差し挟まれて、俺は思わずビクッとなった。

 ただ言ってる事はもっともだ。今の俺達ではまさに人智の及ばない領域。

 もしそれを、幾らかであっても追加で解決出来る、死人を減らせる策があるなら、俺は頭でも何でも下げる。


「魔王様、水晶の粉については、今ヒューさんが言った様な事で、最初の段階から危険性が避けられないんです。何かアイデアか、魔族領の進んだ知見はありませんか」


 俺も段々必死になってきているのを自分でも感じる。魔王にしてみれば、この質問に答えようが答えまいが、何の得も無い。

 ただ魔王の話し好きな性格に寄りかかって、呼び水を掛けたら話してくれるかと、ただそれだけを期待していた。


「粉体水晶からの放射線は、鉛などの重い金属で遮蔽出来る。だからまずは、収拾した粉を革袋に入れる様な事は辞めて、鉛の箱に集めると良い」

「つまり魔王様、畏れながらお伺いしますが、その放射線という光は何もかもを貫く訳ではない、という事ですか」


 ヒューさんも質問モードに入っている。

 ここはまさに『訊けるだけ聞き出す』のが絶対正解だと思う。


「放射線にも種類というか性質違いがあるけれど、粉体水晶の放射線は鉛板や厚めの鉄板で止まる。つまりその板の後ろにいれば放射線を受けないで済む。

 可能ならば鉛のガントレットの様な物を付けて扱うのが、安全を考えれば理想だけれど、さすがにそれは無理だろう。細かい動きが出来ない。

 そうなれば粉を扱う際の放射線被曝はやむを得ないとして、その後保管時に更に被曝したりするのを防ぐ、程度しかあるまい」


「失礼、被曝、とは?」


 ん? ヒューさんが言った。

 あぁ、被爆は一般的には放射線にしか使わないか。化学物質とかだと暴露を使うし。

 その辺り、女神様翻訳が訳し分けてるのも凄いが、魔王も正確な言葉を使ってるんだな。ちょっと感心してしまう。


「目に見えない放射線が身体を貫通、ないしは細胞に届いた時『被爆した』と言う。因みに粉の場合、吸い込んだ粉が放射線を体内で出し続けるから、内臓が内側から被曝する。それは『内部被曝』なんて言ったりもするね」

「ご高説、誠にありがとうございました」


 ヒューさんがうやうやしく頭を下げる。ヒューさんは老齢、そして知恵者だが、謙虚さを常に忘れない。

 俺もこういう年の取り方が出来れば良いなぁ……傲慢な年寄りになってしまって周りから煙たがられる人生は避けたい。


「それではシューッヘ様、出来る工程から機械化する事、収拾人には金属の遮蔽品を使わせること。これらを陛下に進言なさいますか。これも十分に、此度の外交成果と言えましょう」

「う……ん、確かに成果ではあるし、それで幾らかは、死んでしまう人も減りそうだけれど……」


 あくまでこれだけだと、少し減る、程度だと思う。根本的ではない。

 いやでも、完全を目指してそれが出来上がるまで停止しているよりは、少し半端でも動き出した方が……


「なあ英雄。君の『力』は、ペルナ神が後ろ盾と言う事は、あの1,500年前の地産英雄と同じく、光か?」

「へっ? あ、はい、光ですね。俺が認識出来る範囲で、にはなると思いますが、自由に光を扱えます。鉛板ですら遮蔽出来ない放射線とかも」

「その力、民を助ける為に何か活用出来ないのか? 例えば集めた粉から放射される光を変成させるなんて事は、君の力では出来ないか? 放射性さえ失えば、単に粉塵として気をつければ済む」


 光を変成させる? んー……少なくともやったことは無いな。

 幸いここには、その力の源でいらっしゃる女神様がおいでであるから、伺うのが早い。


「女神様、俺の力で光の変成って出来るんですか? 自由に光は発せますけど、既にある光を、となると……」

『出来るわよ』


 ……え? あ? 出来るの?


『何キョトンとしてんのよ、あなたに与えたのは光の全操作権限よ? あなたが光を生み出すのは当然、既にある光を変成させる事もたやすいわよ』

「で、出来るんですね……あれ、でも放射線源の放射線を、どう無害な光に……」

『難しく考えて理屈で変成させる事ももちろん出来るんだけど、単に有害を無害に、と荒っぽい定義してしまうだけで効くわよ。それ位強制力の強い力ですもの』


 女神様が与えてくださった力、底が知れない。放射線については一般知識程度しか無いから困った、と思った瞬間、解決策が来た。

 確かに魔法は意志と共に動く。でもそれって、物理も平気で越えるのか。いやまぁ土魔法の砂だって存在してない物作ってるから物理越えてるわ。魔法ってそういうものか。

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