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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第4章 魔族領遠征編 ~親書を携え、馬は進む~

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第54話 神のかしづき


『神として魔王に要請します。この子達と、フラットに話し合って頂戴。単一古代種、魔王、ガルドス』


女神様のお顔が真剣である。我らが女神様は、俺達の事をそこまで思っていてくださるとは……


「神の要請、か……既に頭は下げてある、という事が前提にあると考えないといけないんだよね?」

『そうね。あなたが古代から連綿とある規則を嗜んでいてくれるのは、私としては助かるわ』


古代の規則?


「まぁ……僕としては、最近少し動きの怪しいナグルザムの牽制も出来た事だし、人間達を代表する者と捉えてこの者達と話をするくらいは、しても良いと思っている。

けれど、さすがに僕ほどでは無いにしても、あの森を焼失させた程の魔導師は『バランスブレイカー』なのではないか? 古代規律に背く存在としての」

『あら、最大のバランスブレイカーがそれを言うの? この程度の魔力持ちなら過去の人間文明にもいたし、それこそバランスを崩壊させそうになったら、転移させるだけで片付くし』


何かよく分からないが、アリアの事をバランスブレイカーという言葉で言い表している。何のバランス?

ただそのバランスを壊しそうになったら女神様は転移させると仰る。端的に考えれば、この星から追放される訳か?


「いずれにせよ、神が(かしづ)き何かを請う時、その願いは叶えられなければならない。古代から伝わる言い伝えだ。そういう日が来るとは思ってもいなかったけれど」

『私の頭は軽いわよ? さすがに人間にヒョイヒョイ頭を下げたりはしないけれど、目的の為とあれば頭の一つや二つすぐ下げるわ』

「はぁ……その『神の傅き』に反して行動する者には、絶対的な虚無が待つと言い伝えがある。あれは実際何が起こるんだい?

ペルナ神の願いは聞き届けるとしても、古代からずっと変わらず言われていた規律でもあり伝承でもあるから、僕としてはその結末がどうなる話なのか、少し気になる。教えてもらえるかい?」


とんと分からない話のラリーが続いているが、女神様の表情は少し和らいでおられる。

一方の魔王はと見ると、うーん、うんざり? 嫌気とかよりもう少しだらしないと言うか、力が抜けていると言うか。


『神の傅きを無視した者は、その36分後に時空の裂け目が自動的に襲い掛かって、亜空間に飛ばされるわ。ね? とっても虚無でしょ?』


キュルン、とか言いそうな女神様のウィンク。御顔も整っておられるので可愛いと言える表情なのだが、何故かそういう気分にまるでなれない。

強いて言うならば、どんなに美人でも生首を手に持ってる人を可愛いとかとても言えない。たとえがアレだが、心証的にはそんな気分である。


「精神がずっと消えない僕にとって、亜空間への流刑は死罪よりも堪える。素直にペルナ神の要請を飲むことにするよ。それで良いかい?」

『ええ。魔族という、人間と対照を成す一団の長が、とても物わかりの良い相手で助かったわ。じゃここからは英雄の仕事ね、シューッヘちゃん』


女神様の御顔がこちらを向く。目を開いて俺の事をじっとご覧になっているが……俺が魔王と話すターンか、つまり。

俺はちょっとだけ頷いてから、魔王の方に身体を向けた。魔王はさっきまでのやる気無い顔から、多少はまともな表情になっていた。


「魔王様。そもそも俺の誤解や妻の魔法で森が」

「それはもういい。ペルナ神の要請は、フラットに話し合えという事。つまり今までのことは問うな、という意味でもある」

「そ、そうなんですか。じゃその……どこまで問わないのか、俺には分からないし取っかかりも無いので、こちら側は隠し立てせず全部出します、ヒューさん、2つ目の親書を」


俺はもうこの際、駆け引きとか抜きでもって、ストレートに言いたい事を言ってみようと思った。

魔王が理責めに詰めてくると、残念ながら俺ではとてもかないそうにない。ただ、お手上げで何も言えない、というのは避けたい。

相手の心証を悪くしたとしても、こちら側が持っている材料だけでも早い内に呈示してしまおうと、俺はそう決めた。


ヒューさんは俺の言葉を黙って頷いて受け、身につけたローブの中から新たな書簡を取り出した。

あのローブの収納の仕組み、どうなってるんだろう。ちょっと疑問でしかないが、この際それを聞いてる余裕は無い。


「第二の親書か。やはり僕の見立て通り、王の意図は別にあったか」

「魔王様を謀る様な事を致し、誠に申し訳ございません。ただこちらは、恐らく主題のみの短いものかと推察いたしまする」


ヒューさんはそう言いつつ魔王に寄り、魔王の前に横から差し出す様に親書を出した。

変なポジショニングだな、と思ったが、そうか女神様にお尻を向けない様にすると、ああなってしまう訳か。

俺も迂闊に女神様に尻を向ける様なことがない様に気をつけないといけないな。


「主題、ねぇ……これ、僕が封印解除しても構わない? 僕としては、その位の楽しみでもないとちょっと気が滅入ってしまう」

「封印を? それ自体は構いませんが、御璽にての封印、ローリス国民にあらざる者がその封印を解けるか、わたしには疑問です」

「まぁ全ては魔法だからね。ローリスの空気感それ自体も、その地区地域特有の魔力の波動に他ならない。地面魔力の再現も出来るし、多分それ以前に、御璽封印は僕にとってそこまで堅い封印でもないよ」


魔王はヒューさんの手から親書をひょいと取った。

そして親書の封緘の部分に、右手の指を2本綺麗に揃えて当てた。

濃い紫色の光が、魔王の指先と封緘を包んだ。その直後、さっきも聞いた封緘の割れるパキッという音が鳴った。


「なんと! 御璽の封印をわずか数秒で!」

「そんなに驚く事でもないさ。封印をもっと堅くしたかったら、封緘に使う材料を吟味しないと。このロウでは、御璽が本来持つほどの莫大な魔力を内包できない。それ故弱い。それだけの話さ」


驚いて固まっているヒューさんに、魔王は相変わらず流ちょうに解説してみせる。

なるほど聞いて分かったが、御璽の印鑑自体に強い魔力があっても、それを受け止めるロウの封緘が普通の材料じゃダメって事か。

俺が御璽を押すことは100%あり得ないけれど、何かの時の為に、魔導水晶を砕いてロウと混ぜるとか、素材の開発でもしてみようかな……


「うーん……本当だ、主題だけだね。『過去に我々から奪った魔導水晶を返還されたし』。英雄、全文がこれだけだ。英雄も同意見かな?」

「えっ? どうでしょう。俺自身ローリスの歴史に根ざしている訳ではないので……ただ、今現在の人間文明では、魔導水晶の総量が不足しています。それは深刻かも知れないです」

「魔導水晶の総量か。君達の1つ前の文明は、人工魔導水晶をエネルギー源として使う事を盛んにしていて、結局それが原因で星全体の放射線量が上がった、という敬意がある。それでも魔導水晶が欲しいのか?」


魔導水晶と放射線、か。

元々が高校生だった俺には少々荷が重いお題ではあるが、放射線自体知らないこの世界の人達よりはまだ俺の方がマシ、か。


「放射線の発生条件、俺が知る限りですが、魔導水晶から魔力を吸い上げすぎて生じる粉体が問題、と聞きました。魔導水晶が返還されたら魔導水晶が増え粉体も増え、という事を心配する前の段階で、既に問題が起きているのが現状です」

「既に? 確かにあの粉体は微粒子だし厄介な代物だけれど、水や溶媒に溶けないから問題と言うほどの汚染が、人間側に残した程度の魔導水晶から発生するとも思えないけれど」


人間側に「残した」と言ったな、今。

魔王の頭の中では、前の文明がアレだったから今回の文明の魔導水晶は魔王が管理する、みたいな話になってるのかな。


「ローリスにも工場があるらしいんですが、ローリスは国家規模でその粉体を各国回って集めて、それを圧縮して擬似的な魔導水晶を作成していると聞きます。その作業に従事している人達は、恐らくガンでしょうが、極めて短命です」

「おいちょっと待て、英雄。ローリスは何をしてるって? あの粉体を圧縮して再利用だと?! 一体何を考えているんだ!!」


魔王は今までの冷静さから一転、声を大にし、荒い声音で俺を睨み付けた。

オーフェンでの、サリアクシュナさんも、似たような感じだったな。魔族からすると信じられないことなのだろうが……


「何をと言われても……結局、魔導水晶が無いけれど、魔導水晶『的』な物はやっぱり必要で、その粉を集めて圧縮すれば代わりになると分かったから使ってるとかじゃないんですか? 俺も詳しい訳ではないですけど……ヒューさんは何か知ってたりする?」


よくよく考えれば俺一人で魔王の憤りを受け持つ必要は無かった。

ローリスの事を、国政レベル・国家レベルで一番深く知ってるのは、間違いなくヒューさんだ。

圧縮魔導水晶についても、俺にあれこれ言わないだけできっと色々知っているだろう。


「我々は、粉体から作れる擬似的な魔導水晶を、一般的に加工魔導水晶、または圧縮魔導水晶と呼んでおり、様々な魔導具、特に固定して用いる生活品などに、よく用いております。

研究により、魔導水晶を板状に薄く割り、偶数の魔導線をつなげると、安定して魔力が引き出せるという知見があります。加工魔導水晶もそれと同様の性質を持つため、板状の魔導水晶が得られない現在、代替品として、加工魔導水晶版を用いておる次第です」


ヒューさんの言葉を聞き終えた魔王は、長い溜息を吐き出しながら天井を向いて、その手のひらでもってその目を覆った。

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