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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第4章 魔族領遠征編 ~親書を携え、馬は進む~

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第51話 ターン・チェンジャー。いやテーブルごとひっくり返す規模のゲームチェンジャーですらある。


「恐れ入ります魔王様。我らが王からの親書に引き続き、ナグルザム氏からも書簡を預かっております」


 ついさっきの親書の時の様に、ヒューさんは再びうやうやしく書簡を魔王に差し出した。

 魔王は一言、ふん、と鼻で言うと、書簡をがっしりわしづかみにつかんで、すぐその封緘を押し破った。


 親書への対応とは少し違う、荒っぽい感じの対応。

 やはり魔王も、他国の王の書簡は相応に、で、自分の部下からの書簡は、そういう感じで扱うのか。


 スルッと書簡の巻きを解いて、魔王は視線を書簡に落とした。

 と、その時。一瞬見ただけで、魔王は言った。


「この書簡は、敢えて見せる為に作られた『偽書』だね。魔族に古くから伝わる方法でもって、別の言葉が籠められている。それは知っていたかい?」


 当然知らないので、俺は首を横に振った。


「まぁこの書簡の表向きな内容がこういう事を書いているという事は、秘された内容は真逆なんだろう。君達にとっては、ナグルザムが裏切ったと思える様な内容が待っているかも知れない。それでも聴いてくれるかい?」

「俺としては、魔族の人達とは幅広く、人間が交流を持てる様にその土台を作るのが役目だと思っています。もし現時点で魔族の方から悪く言われていて、その内容を知ることが出来るなら、直す事も出来ます。是非、お願いします」

「うーん、知って直せる内容ばかりとは、限らないんだけどね。まぁ君がそれだけ覚悟をしているなら、魔族陰書の封を解くとしよう。設定された音量が、もしかすると相当大きいかもしれないから、耳には気をつけて」


 設定された音量が大きい? その、魔族に伝わるって封印の方法だと、音声を録音出来るのか?

 俺が首を傾げている間に、魔王は『偽書』呼ばわりしたナグルザム卿の書簡を、握りつぶす様にして持ちそのまま持っている右手をぐっと天井に向けて伸ばした。

 その直後、ナグルザム卿の書簡からモクモクと煙が出始め、それはすぐに火に変わった。

 その様子を俺の左前で見ていたフェリクシアは、煙が天井に付くか付かないかのタイミングで手を煙に向けて、何かの魔法を唱えた。と、立ち上る煙は強引に向きを真横に変えられ、馬車にある排気扇に引き込まれていった。


 次の瞬間だった。


『魔王様!! 忠臣なる魔王様のしもべより申し上げまする!!!』


 ぐあ耳がっ!

 ナグルザム卿の声が、本人の発声の5倍はデカそうな音でもって、馬車の中に響いた。


「案の定、設定音量が大きいね。少し結界に包もうか、これだけ大きな声だとさすがに僕の耳も壊れかねない」


 魔王が、ほのかに光りつつ灰になり消えつつある書簡、馬車客室の中空で炎となって、浮きながら揺らめいている所に、球体の結界を張った。

 結界はまるでシャボン玉の様に、光を色々に屈折させて、虹色にユラユラと、こちらもうごめいている。


『この書簡を所持する英雄達に、我々は脅しを受けました! 国王親書と偽る書簡を持ち、魔族との平和的関係を模索するフリをし、我々を騙したのです!!』


 声は確かにナグルザム卿のそれだった。

 しかし、その言葉に――正直驚きよりも――女神様の仰った"ウソつき公爵"という言葉が、俺の頭の中に反芻される。

 何の目的でナグルザム卿は俺達に、そして主人であろう魔王にまで、あんなウソを吐くんだろう。

 英雄を陥れる? にしたって、勇気の小金貨が手元にあるのは事実だし、書簡の表向きでその内容にも触れている。

 勇気の小金貨を俺達が脅して騙し取った事にしたとしても、魔王の元に届ける任務を、俺達は進んで負った。その点も、書簡は触れている。


 全くナグルザム卿の狙いが分からないと思っていると、魔王がふと、溜息を吐く。


「やれやれ、ナグルザムには困ったものだ。御璽押印の上、その御璽の力で封緘された書簡。これが国王親書で無かったら他に何だというのだ」


 魔王のその第一声は、俺にとっては意外だった。

 魔王は、魔族達の王。それ故、魔族側の幹部にあの様に言われたら、きっと魔族の言う事を丸々信じるものだと……そう思っていた。


 がどうも、そうではない様にしか見えない。

 結界の中にある燃えくすぶりに、嫌気満々、という表情と睨み。チッ、とか舌打ちでもしそうな顔をしている。


「君達が間違いなく国王親書を有しているのは、僕自身が確認済みだ。相変わらずナグルザムは時にデタラメな事を言うから困る」

「あの……俺が言うのはおこがましい話なんですが、部下、ですよね? しかも、右腕とも伺っています。信用とか、信頼は、無いのですか?」


 ナグルザム卿が可哀想、というよりは、このまま話が進むと勇気の小金貨の一件についても偽書の一内容で済んでしまいそうなので、少しだけ、ナグルザム卿の肩を持つ。


「魔族の特性、というべきものかと僕も思うんだけど、ボスが決まらない性質がある。例えば君達人間に比較的近い、猿の仲間などは、一度ボスが決まるとそれが覆るまではそのボスを中心に所帯が形成される。けれど」

「恐れながら魔王様、我々人間が猿に近いとは、それはあまりにも酷うございます。我々人間はあのような、理性も無い毛むくじゃらの獣と一緒くたにされる事は望みませぬ」

「いやヒューさん、俺のいた世界では寧ろ、人間への進化の元を辿れば猿、というのは常識だったんだ。この世界で同じかどうかは分からないけど、元いた世界と人の姿が変わらないのだから、きっと進化の元も同じ猿で間違いないと思う」

「相変わらず英雄は、どれだけ技術が進んだ世界から、人間が全く蛮族な今回の人間文明の世界へと来たのだろう。それだけ基礎となる知識が異なると、この世界について受け入れがたい事も多かったろうに」


 少し哀れむ様な声と視線が俺に向けられる。

 いや、俺自身は、この世界に来て初めてモテたし、好きな子と好きな事したし、大満足なんだが……


「いえ魔王様、俺はこの世界、存外好きですが?」

「英雄がこう言ってくれるのがせめてもの、今回の人間文明での救いかも知れないね。君がもし人間を否定するつもりであったら、僕は君に力を貸していただろう。魔族全軍でもって、人間の掃討だ。どうだい、その方が『魔族らしい』だろう?」


 ニカッと明るい笑顔で言う。魔族らしい、というその印象は、あくまで人間側から魔族への印象に寄せてくれているのだろう。


「俺としては、この世界でも魔族から直接危害を受けた人達の時代が終わっていて、恨み節も世代を超えればリセットが可能かな、と。その辺りで、俺は魔族領との平和的交易を……あぁ、その前に。魔王様、あそこの白い布をご覧下さい」


 手を指して、魔王の視線が移ったのを確認して、俺は立ち上がった。

 少し緊張する。白布をどければ、そこには歴戦のもののふ達の生きた証、勇気の小金貨がある。


 歩んでいき、炉を覆う白布をバサッと取り除いた。

 相変わらず金のまばゆい輝きだ。これが魔族にとっては、生命の輝きとも言える訳だ……


「ほう、書簡にもあった勇気の小金貨か。また懐かしい物が出てきたね……この範囲では、さっきのナグルザムからの書簡の表面も、ウソでは無かったという事か」

「ナグルザム卿の書簡ですが、少なくとも俺達の中でもヒューさんが、封緘前の文面を確認しています。内容はその後、俺達の中で共有もしています。だから、と言うか、ナグルザム卿がウソつきだとは、つい少し前まで分からなかったです」

「ナグルザム、ウソつき、右腕……それは何か、僕を見て思い浮かぶ連想があって、そうつながったのかい? それとも、誰かから、そう聞いたのかな?」


 ん? なんだか魔王様の表情がちょっと険しい。と言うか、こわばっていらっしゃる。

 まぁさすがに魔王なんだから、ここで女神様の名を出した程度では怯まないだろう。魔王なんだから。


「ナグルザム卿がウソつき公爵と呼ばれていると、我らが女神様、サンタ=ペルナ様から伺いました」


 ……アレ? 魔王が唐突にフリーズした。貼り付いた様な笑顔のまま、指先一本動いていない。

 ひょっとして、我らが女神様は魔王様に対してまで無双してたり……


『久しぶりね、魔王ガルドス』


 俺が背後から聞こえたその御声に気付いて振り返ると、そこには金の腰紐をぶら下げた女神様が。

 ご、御顕現でいらっしゃるだと……! 俺は急いでソファーから飛び降り、女神様の横に駆け込んで跪いた。

 俺の動きに呼応する様に、俺のパーティーが続々と女神様の足下に跪く。御顕現されているので、フェリクシアにも見えている。フェリクシアも正確に女神様に向いて膝を折っていた。


「サンタ、ペルナ神……」


 その声音だけ聞くと、絶望の淵にでも追いやられたかの様にすら聞こえる。

 さっきまでの流ちょうさも、堂々とした声の張りも無く、呟くように女神様の名を言ったきりだ。


『私の使徒があんたの手下に随分からかわれたみたいね。魔族の長として、どう責任を取るのかしら?』

「ペルナ神が望むのであれば、こうする他に無い」


 ソファーからゆらりと立ち上がる魔王。既にその視線に生気は無く、どんよりした色合いを帯びていた。

 それでも責任感からなのか、足取りはしっかりしていた。跪く俺達の横を通り抜け、馬車の入口に立ち、その扉を押し開いた。


「いざ滅びの時。エルクレアを牛耳る支配魔族達よ。……滅せよ」


 一瞬、魔王が前に突き出して開いた手が、キラッと明るく輝いた。

 その光の感覚は、魔族に禁忌の聖魔法の光と似た感触があった。


『あら、素直に手下を切るのね。アレでどの程度の規模で屠れたのかしら』

「支配魔族、と標的を絞っているので、一般魔族人民に害は無い。無論、丁度真横にいたなどは」

『私は屠れた規模を聞いているの』

「う……およそ……五千と言ったところだろうか。魔力反応からすると、だが」


 俺は、女神様と魔王様との間でやり取りされた『命』の数に、正直ちびりそうとすら思える怯えを自分の中に感じた。

 今の、キラッとだけ光った、あれだけで。数千の命を狩り取っている、だと……

 しかも一般魔族と支配魔族を分けたターゲティング。とても俺に出来る技じゃない。


『五千ね。その反逆者の魂は、私の管轄に入れ込んで構わないわよね? 異存は?』

「あり、ません……」


 何か言いたげな魔王も、女神様の有形無形のプレッシャーに、言葉が継げないようだった。

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