表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第4章 魔族領遠征編 ~親書を携え、馬は進む~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

268/303

第49話 ローリス国王の書簡

お待たせしました、続きを書いていきます。

少しペースを遅めにします。2日おきに更新予定です。また途切れても、絶対最後までは書くので、お付き合いくださいませ。

 ヒューさんの詠唱は、普段のような『聞き取れない程のスピード』とはまるで違う。会話のスピード、である。

 ローリス国王、という単語が何度も出てきた。それはそうか、陛下以外に御璽を押せる立場の人はいない。

 何となく、陛下以外が聞いて良いものでない様な雰囲気を感じ、それ以上耳をそばだてるのはやめた。


 少しすると、筒状の親書を握るヒューさんの手が、淡い紫色の光を発しだした。

 光は強さを少しずつ増したが、ある瞬間その光がロウ封印の部分に凝縮される様に集まる。

 その次の瞬間、パキッ、と乾いた音が、小さな音ではあったがハッキリと鳴った。


「魔王様。無事封印を解くことが出来ました。第120代ローリス国王、ローリス・グランダキエ3世陛下より、魔王様へ……」


 ヒューさんは片手でつかんでいた親書を、両手をお盆のようにして乗せ、それを魔王の近くに寄せた。

 魔王は無言で頷くと、その親書を手に取った。割れたロウの封緘を指で払いのけ、筒状の親書を開く。


 魔王は親書に視線を落としながら、不意に足を組んだ。

 それまで随分行儀が良いというか、姿勢を正していたので、ちょっと驚いた。


「……ヒューと言ったか。この親書、御璽封印がされているからには、王以外は中身を知らない。それで合っているかい?」

「はい、左様にございます。わたしはもちろんのこと、英雄たるシューッヘ様も、親書の中身をご存じではありません」

「ふうん……」


 魔王はヒューさんの言葉に、何とも気のない様に聞こえる返事をしつつ、眺める様に親書の紙面を見ている。

 きっと何か言うんだろう、俺はそう思い魔王の次の言葉を待ったが、それはなかなか到来しなかった。


 親書の紙面は、それ程大きい訳ではない。今広げられた状態で、A3サイズの横、くらいしかない。

 その紙面を、随分長いこと魔王は見ている。精読してる様には見えず、全体をぼんやり眺めている様にしか見えなかった。

 魔王の言葉を待っているのは俺だけではない様で、膝を折ったままのヒューさん始め全員、静かに息を飲むばかりだった。


「人の代表者達。この親書は王の本心ではないね。いや言うならば、これも言いたいんだろうけれど、本当に言いたい事は別にある。違うかい、ヒュー?」


 唐突に開いた口から出た言葉は、ヒューさんに向けられた。だが思わず、俺も知っているだけに、喉に一瞬息が詰まってウグッとなった。


「如何なる内容を陛下がお書きになられたか、またその御存念など、わたしには遠く及びませぬ」

「んー、まぁ、立場上そう言わないといけないよね、あなたの場合は。じゃあ英雄、君はいかにも心当たりがある顔付きだけれど、どうだい?」

「え? あ、う……」


 魔王の薄笑い。いやそんな不気味なものでも無く、ちょっと意地悪そうに口の端を上げ、こちらに視線を投げてくる。

 突き付けられてる内容が内容なだけに、何を言って良いか言うべきでないか混乱し、俺の口からは変な音しか漏れなかった。


「魔王様、御前ながらご無礼を」


 頭の中はこんがらがる、額からも背筋にも、冷たい汗が湧くようにあふれ出てくる。

 そんな中不意に、俺と魔王の中間に、つまり俺の前方に、フェリクシアが立った。


「君は……あれ、君も何か知ってるの? この親書について」

「親書の中身について、特に知る事は無い。ただ、陛下の本心か否かは、私もその場にいたので少々分かる事はある」


 俺はそのフェリクシアの切り出しに、今このタイミングで第2の親書を渡す事が良い事だと思い切る事が出来ず、余計に慌てた。

 俺のそんな様を背中に感じたのか、フェリクシアはくるっと振り返って俺の元まで進む。


「ご主人様、相手が、な。奥様の様な技能を持っているかも知れない」

「アリアの……あぁ」


 言われて、アリアの読心術スキルの事を思い出す。

 もしかして、アリアが何か魔王の心も見通せてるかと思って、横に座るアリアの顔を見る。

 いつからそうなっていたか、気付けなかった俺も俺だが、アリアは堅い顔付きで蒼白な顔面をしていた。


「奥様、ご無理はなさるな。奥様がお倒れになったら、私がご主人様に叱られてしまう」

「…………」


 普段なら何か言って返すだろうアリアは、黙ったまま、前方に視線を向けている。

 がその視線も、一体何処を見ているか分からない。呆然としている、または……恐怖で何も見えていない。そんな視線だ。

 何があったか分からないが、普通の状態では無いのは間違いない。ひょっとして、知らないうちに魔王に何かされた……?


 俺はアリアの肩に手を掛け揺すった。

 するとようやく、アリアの目がいつもの目に戻り、ちょっとびっくりした様な顔をして俺を見た。


「アリア! 大丈夫か?!」

「えっ、あ、ご、ごめんシューッヘ。あ、あたし、その」

「魔王様。奥様は混乱しておみえの様だ。話すと長いが奥様は庶民の出、故に魔族全てを統べるという、一国の王に増して高い立場の方を目の前に、突然今から対談をというのは、幾らか荷が重い」

「ふうん。まぁ、それじゃそこは、そういう事にしておこうか。休憩でも挟むかい? その辺りの判断は、この面々の長である英雄に任せたい」


 不意に回ってきた俺のターンに、ある意味俺は救いの手と思って飛びつく事に決めた。


「はいっ魔王様、す、すいませんが、ちょっと休憩で!」

「そんなに慌てなくても、休憩でも作戦会議でも、自由にしてくれれば良いよ。本来僕が『待ち』の側で、君達が『来る』側だったはずなんだしね」


 と魔王は、さも普通の事のように、メイドさんワインある? と、上空で最初に遭遇した時のように温和な、それでいてキラリと何か輝きを感じる笑顔で、フェリクシアにワインをオーダーしていた。

 フェリクシアはすぐそれに反応し、ワインの選定なのか、魔王の横に移動して何か話している。


「アリア、アリアが大丈夫なら、色々聞きたい。外へ出られる? 俺とアリアと、あとヒューさんにも来てもらう」

「うん、大丈夫、ごめん心配させて、そのあたし」

「大丈夫、アリア。外へ出れば、絶対に安心な空間を作れるから。その中で、ね」


 アリアが半泣きな表情で頷いたのを確認し、俺はヒューさんの名をハッキリした口調で呼んだ。

 ヒューさんもその辺りの理解は早い。素早く俺達のソファーの横を通り過ぎ、馬車の扉を開放した。


「よし、行こうアリア。では魔王様、少しばかり休憩で、俺達は外へ出ます。何かあったら、フェリクシアに」

「ああ、分かった。僕好みのワインがありそうだから、ゆっくりそれを楽しんで待たせてもらうことにするよ」


 俺は礼儀を欠かない程度にかしこまりながら、アリアと共に馬車の外へと降り立った。


「アリア、ヒューさん。もう少し後ろの方に、良いですか」

「シューッヘ様、結界ですか」

「はい。アリアの様子から言って、多分アリアの能力と相性が悪いんだと思います。アリアも能力は制御出来てると思うんだけど……

 それに、その……『陛下の本心』のことも。俺の結界の中ならば、女神様でもなければ侵入は不可能ですから」


 ヒューさんになんとか届く程度に小さめに絞った声で言いながら、足早に、馬車も荷車も越えて、後ろへ。

 さっきまで馬が駆けられただけの、幅広い道に立つ。アリアとヒューさんが概ね『範囲』に入ったのを確認した。


 前方、馬車に向けて真っ直ぐ手を向けて、俺は宣言した。


「[絶対結界 俺から馬車後部手前1メートルまでの距離]」


 瞬間、全ての音と光が消え、次いで足音が止まった。

 3人の、少し荒い息の音だけが、自分の手さえ見えないただ漆黒の中にある。


「えっと、シューッヘ……?」

「あ、こっちこっち。って距離結構あったか、[エンライト]!」


 塗りつぶした様な暗闇の中に、いきなり眩しい光源が現れる。

 結界の中は一切反射をしないので、明るいのはその光源に照らされた『中にいる人』だけだ。


 アリアの顔も、ヒューさんの顔も見える。アリアは不安げな顔をしていた。


「シューッヘ、ごめんあたし……魔王の意識を読んだの。けれど……」

「けれど……読めなかった? それにしては、とても体調が悪くなってそうだったけど……」


 俺の言葉に、アリアは眉を八の字にしたまま、小さく頷き、頷いたまま話し出した。


「うん……魔王の心を読もうとすると、自分やシューッヘが(むご)たらしく殺される光景が、パーンと頭に押し入ってくるの。

 魔王の心を読む度に、あたし自身だったりシューッヘだったりヒューさんだったり、殺される相手も、殺され方も変わった。

 あれが魔王の本心だとしたら……そう思ったら、どうしようもなく不安になってしまって……」


 エンライトの光に照らされたアリアが、小刻みに震えている。

 俺は一歩アリアに近付き、エンライトを使っていない腕でもって、アリアを俺自身の胸に抱き留めた。


「あっ」

「アリア。あの魔王の様子から行くと、どうにも惨殺が趣味とも思えない。きっと読心術専用の結界とか、そういうのだと思う。

 俺も古代魔法はまだ全然読み進めてないから、どういう魔法か分からないけれど……そういうのがあっても不思議じゃない」


 アリアの髪に顔を埋めながら、小さな声でアリアに伝える。

 胸に顔を埋めるるアリアが、小さく頷く。それで良い、全ての魔法を手中にしている魔王だ。妨害魔法もお手の物だろう。落ち込まないで欲しいと思う。


「シューッヘ様。アリアが女神様から賜った心読みの力が妨害されたとしたならば、この結界も筒抜けである可能性はありませんか」


 ヒューさんが言う。俺としてもその可能性は、薄らだが意識している。

 けれど、魔王は過去に、イスヴァガルナ様との戦いで、『この絶対結界に』敗れている。

 もちろん戦いに使うのと作戦会議に使うのとでは使い方が違うから、魔王は絶対結界に無策、と断じることは出来ない。


 この結界が、基本的に全ての魔力を阻む事は既に実証済みだ。魔力はこの結界の境を越えて、入る事は出来ない。

 逆に中から魔法を外に向けて撃つ事は出来る。その性質は、アリアのエルレ茶バーニング大魔法でも遺憾なく発揮されていた。


 魔力が入れなければ、中の様子も探りようが無い……そう考えるのは、あまりに楽観が過ぎるだろうか。

 ただいずれにしても、魔王を目の前にしてこちらが強引にタイムアウトを突っ込んだ事実は変わらない。言わば自分から「今、この場は不利ですっ」と叫んだようなものだ。


 この隔絶された空間で、何を決めるか。きっと今後の行方を大きく左右するだろう。

 頭を絞れ、俺。何が使える? 魔王に知られている策、知られていない策。何が手札としてあるか。考えるんだ……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ