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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第4章 魔族領遠征編 ~親書を携え、馬は進む~

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第41話 俺の進む道


「仮にここが『ガルマの砦』でないとすると、エルクレア側からの地図は偽りの可能性がございます。いかがされますか、シューッヘ様」


 ガルマの砦じゃない可能性。

 どっちなんだ、本当に違う?


 フェリクシアの報告を聞く限り、少なくともこの壁は戦闘の真っ只中には無かった様だ。

 本当の『ガルマの砦』を誰かが見た事があれば


「あ」

「あ?」


 不意に出た俺のマヌケな声は、寧ろ俺の頭の中の回路をくるるんと巡って、過去を思い出させてくれた。

 本当の『ガルマの砦』を見た事がある人間が、この場にいる。


 俺だよ。

 俺自身だったよ。

 この世界での生活が長すぎて、すっかり忘れてた。


「女神様」


 俺はその場で片膝を付き、手を組んだ。


『あら、魔族領内に入れたのね。何その壁、新しいエルクレアの防壁かなにか?』


 そう。

 俺はあの日、ダンプにはねられて死に、女神様の御前に至ったあの時、女神様に見せてもらっていた。

 はっきり思い出した。女神様は、片面の塀が崩れた、もっとしっかりした建物を見せて下さいつつ仰ったのだ。


 『ここ、今の最前線ね。魔族軍に押されて、北方連合軍はかなり追い詰められてるわ』


「エルクレアに一杯食わされた様です。既にエルクレアは、魔族と人が半々で住む国になっていました」

『あら。エルクレアは見てないから知らなかったけれど、もう魔族の入植がそこまで進んでるの?』

「その様です。しかも情報戦でも負けている状態で、事実がまるで分からない混乱状態に陥っています」


 俺は女神様に、俺が思う今の俺達の状況を話す。


「シューッヘ様。やはり魔族は、一筋縄ではいかぬ存在……ナグルザム卿なる者の言った事も、洗い直す必要があると存じます」

「そうですね、ヒューさん。やっぱ俺じゃダメなんですよ、人生経験が違いすぎる……」


 俺の口から深い深い溜息がこぼれる。


「女神様。エルクレア王族の今の所在地はお分かりになりますか」

『うーん残念。エルクレアから魔族領以遠に関しては、何か大きな事がローリスに伝わってこない限り、見てないのよ』

「そうですか……因みに、ルナレーイ軍事王国について伺ってもよろしいですか?」

『ええ。今から150年前に滅んだ、今の文明では、今のところ最初で最後のドワーフ王の国。それが?』


 とても流ちょうに、国が滅んだという『真実』を語って下さる女神様。

 そう。真実は、ここにあったんだ。常に情報の真偽を確認する慎重さが必要だった……!!


「恐れ入ります女神様、ヒューにございます。よろしいでしょうか」

『構わないわ。発言しなさい』

「ルナレーイ軍事王国が滅んだと仰せになりました。一方我々は、現エルクレアの統治者を名乗る者より、ルナレーイは魔族との交渉の末に魔族軍に寝返ったと聞かされました」

『あらあら、ヒューがついててなおそんな与太話に騙されたの? それは頂けないわ』

「もし女神様がご存じであれば、ルナレーイの興亡について、真実をお教え頂きたく」

『私が知る範囲で、だけれど、当時ルナレーイ軍事王国の首都があった地点に、極めて強大な魔法行使があった。あまりに桁外れの魔法だったから私もさすがに気になって確認したんだけど、炸裂して少し経った辺りで見たはずなのに、地面が沸騰しちゃってたわ』

「やはり……」


 俺と同じくひざまずくヒューさんの顔を伺う。

 やっぱり、悔しそうと言うか、憎々しげと言うか、そんな表情。

 ごめんヒューさん、俺が変な理想論で、色々かき混ぜちゃったから……


「あ、あのっ、女神様!」

『あら、アリアちゃん。どうしたの?』

「ナグルザム卿が言った事は、全部ウソだったんですか?!」

『んーごめんね私、その瞬間を見てないから……って、今、誰って言ったかしら』

「えっ? ナグルザム卿、と……」

『あー、なるほどシューッヘちゃんがまんまとやられる訳ね。ヒューがいようがいまいが、それは相手が悪かったわ』


 アリアも、俺の拙い"魔族と共に手を取り合って"みたいな流れに、巻き込んじゃった。


 魔族は、もっと信頼しても良い相手だと、思ってた。

 サリアクシュナさんの例からも、人間と共存出来る相手だと、勝手に思ってた。

 けど、実際は……


「相手が悪かったって、女神様はナグルザム卿をご存じなんですかっ?」

『ナグルザム卿、あいつよね、ナグルザム・ド・ヴィナードを名乗る、小さい背の』

「そ、そうです! ご存じなのですね?!」

『ええ。あいつは魔王の片腕。情報戦に投げ込んだら、そりゃあ良い働きをするでしょうね。別名を"ウソつき公爵"っていうわ』

「う、ウソつき公爵……公爵、なんですか?」

『そこ? 魔族の世界に貴族制は無いから、単なるあだ名よ。それ位、ウソって言えばアイツ、って、もう代名詞みたいなものよ』

「え、じゃあ、えぇ……」


 ウソつき公爵、か。

 そのウソに、まんまと乗せられちゃった訳だ、俺は。


 目の前にある壁は正体不明だし、エルクレアで信頼出来る人なんていないし。

 どうしようか……ここは一度、ローリスに戻るべきか。

 更に進むにしても、いつ後方から矢だの魔法だのが飛んできてもおかしくない位置に、今俺達は居る訳だ。


「女神様恐れ入ります、更にお聞かせ下さいませ」


 ヒューさんが俺の横までにじる様に進んできた。


『ヒュー。今エルクレアを支配しているのがナグルザムだとしたら、厄介はそれだけじゃ済まないわ』

「と、仰いますと?」

『ナグルザムは、魔王の片腕と周りからも認められるだけの、凄腕の魔導師でもある。もし自身が兵を率いて出陣したならば、あなた方がどれだけ強くても、勝てないでしょう』


 横に並ぶヒューさんの口から、ぐっ、と押し殺す様な唸りが出る。

 ナグルザム卿、魔導師か。歩く時の支えの杖も、伊達じゃなかったのかな。


『どうやらここが運命の分かれ道ね。魔族との融和という新しい世界を切り開くか、再び魔族と血みどろの戦いを繰り広げる過去を繰り返すか』


 女神様の御声が、わずかに高揚している様に聞こえる。

 それだけ、女神様が示された二択は、大きな選択だ。


「シューッヘ様」

「シューッヘ」


 女神様の御声が聞こえている二人が、俺に『最終判断』を仰ぎに詰め寄る。

 この判断からは、逃げられない。時間的にも、保留も出来ない。

 直ちに今、ここで決める必要がある。この世界の、これからの歴史、そして人と魔族の生き死にの、全てを……


「ヒューさん、アリア。それにフェリクシア。俺の身勝手に付き合わせて、ごめん」


 俺は意識せずに立ち上がっていた。目の前に広がる、偽りのガルマの砦と、森林と。


 今この正体不明の壁の両面から攻撃を受けたとしたら、俺達は何処に逃げる事もかなわず、死ぬしかない。


 エルクレア側からだけ、または、レオンと呼ばれていた方面からだけの襲撃に留まれば、逃げる手もある。

 目の前の森を、アリアの魔法で壮大に爆破しながら南下し、エルクレアを迂回して大砂漠に直接出る。

 後は強靱馬の足とフライスさんの精霊魔法任せで、ローリスまで逃げ込む。馬を守る事が一番の要素になる。


 逆にレオン方面からだと……これも逃げの一手か。エルクレアに再度入るのはリスクが高すぎる。

 前進できないか後退できないかの違いはあれど、森を犠牲にして退路を切り開けば、本国までは逃げられる。


 ……逃げて、どうなる?


 俺がエルクレアで完全に騙された事。これは女神様の御言葉もあり、確実な事実だ。ローリスに戻れば、時間を掛けて答え合わせは出来るだろう。

 だが、英雄を謀ったとなると、ローリスはどう動く? 先陣を切って、戦時を偽装し英雄を騙したエルクレアに攻め込むかもしれない。

 その時、オーフェンは? 呼応して軍事連盟の枠組みで動くか、または最悪の場合……サリアクシュナさんの手でオーフェン王も首が飛ぶ、か。


 誰を信じたのが間違いだった?

 誰なら信じて良い? 誰も信じてはならない?


 エルクレアで出会った、女将さんや焼肉屋の店主、それに回復師の『先生』……彼ら・彼女らは、普通にエルクレアで生活をしていた。

 サリアクシュナさんも、4年前になるのか、オーフェンに侵略目的で入ったが、オーフェン王の愛妾となり今に至る。そこそこ長い。


 あのサリアクシュナさんの言葉、姿勢、意識。いずれも、オーフェンに根付いていた。人間と融和していた。

 サリアクシュナさんの赤い目で前後不覚に陥った時も、俺は『人間を討て』なんて内容は一言も言われてない。

 ただオーフェンに移住して、と言われた。オーフェンの為を想って、の行動にしか思えない。あるいは、オーフェン王一人の為。

 俺がローリス所属の英雄としてローリスを想う様に、サリアクシュナさんはオーフェン、あるいは王を想った。魔族領や魔族を想わずに。


 俺は……


「女神様。俺の勝手に、この世界を巻き込んでしまって、すいません。俺は、決めました」


 ふとアリアを見ると、とても不安そうな目をしている。

 ついさっきまでは、何も迷うことなく俺の腰に乗っかってはしゃいでたアリアを、こんな顔にさせてしまって。


『シューッヘ・ノガゥア。この世界に降り立った英雄として、あなたは魔族を討つの? それとも、魔族と手を取るの?』

「俺は、変われません。騙されたと知った今も。俺は、魔族と人間が手を取って、人間と魔族が共に発展する未来をつかみます」


 俺は言うだけ言って、そのままへたり込んでしまった。


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