表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第4章 魔族領遠征編 ~親書を携え、馬は進む~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

257/303

第38話 戦闘事後処理とエルレ茶 


「ご主人様、奥様。何事無かったようで、何よりだ。奥様は、魔力は大丈夫か?」


 いつの間にか背後に来ていたフェリクシアが、辺りを見渡しながら俺達に声を掛けてきた。


「魔力は大丈夫。女神様が仰った話なんだけど、消費より回復の方が圧倒的に多いんだって。だからかな、大丈夫みたい」


 平然として言うアリア。俺は再び焼け野原となった方向に目を遣る。

 かなり幅広く、木々が大地ごと根こそぎ吹き飛んだ跡であろう穴がたくさんある。

 これ、たった1人が魔法を使った結果、なんだよな……つくづく、大規模魔法は恐ろしいと感じる。


 山火事ならぬ森火事が起きなければ良いんだが……


「ご主人様も、ご自身の張られた結界に阻まれた様だな。怪我は無かったか?」


 思わず吹いた。

 吹き飛んで仰向けにばたついた、あのマヌケな姿がしっかり見られていた事に、気まずさより恥ずかしさが先に立ち、頬を強く熱した。


「だ、大丈夫……それよりフェリクシア、エルレ茶。1杯分だけでも何とかならないかな。アリアの思いはよく分かったから」

「どれ、見てみよう」


 そう言って、フェリクシアが俺達の横を越えて樽に向かう。

 樽はどうやら結界の境界線をまたぐ形になったらしく、ちくわを斜めに切った様な姿になっている。


 フェリクシアは屈み込んで、オープンになってしまった樽に触れたり、真っ黒になっている茶葉に顔を近づけている。


「せめてアリアが飲める分だけでも、焼けてなければ良いんだけどな……」


 俺の呟きが聞こえていた様で、フェリクシアがにゅっとこちらを向く。


「さすがご主人様の結界。通さぬものは意地でも通さぬ選別性の高さ、全く恐れ入る」

「そりゃまぁ、俺の結界ったって俺の力ってより、女神様から賜ったのを単に使ってるだけだからね。実質女神様の結界だよ」

「それも含めてご主人様の実力だ。女神様からそのような力を賜りたいと思っても、誰も賜れはしないからな」


 結界を褒められても、悪い気こそしないが、別段の喜びも無い。

 機能として仲間も馬も守れて、土色小人の侵入も防いだ。高い性能があるのは、よく分かる。

 だが、エルレ茶は焼けた。瞬間の判断でも『守るべきものは守れる』、そんな結界使いに俺はなりたい。


「それはともかく、俺の結界の選別性の高さってどういうこと? 何の話?」

「エルレ茶の話だ」


 そう言いながら、フェリクシアが黒焦げなエルレ茶の表面を撫でる様に払いのけた。

 と、黒い粉体に近い炭状になってしまったエルレ茶の下には、店でしこたま見比べた、あの『良い色』のエルレ茶の姿があった。


「ご主人様の結界の内側には、ほぼ影響が及んでいない。表面が焼けたのは、結界自体が熱されたのかもしれない」

「結界が、熱を持つの……? あいや、物理的なものも含めて弾けば摩擦も生まれるし、(ねっ)されれば熱は結界に移動する、のか……?」


 あまり結界について深く考えたことが無かったが、物理の法則を超える魔法的なものだから、物理法則は働かない様な気でいた。

 が、現に目の前のエルレ茶は、表面だけ焦げたがその下には熱が入っていない。

 結界も、仮に『熱され得る壁』の様なものだとしたら、結界が割り込んでミクロのオーダーですら完全に接していた状態の部分がその熱を受けても不思議では無い。


「結界が熱を持つ事例を、私は聞いた事はない。だがあの森の様子からして、通常の魔法の次元で考えるのは、恐らく間違いなんだろうと思う」


 フェリクシアはチラッとこちらを向いて言うやまた樽に、エルレ茶に向かい、丁寧に、それでいてパッパと大胆に、焦げたエルレ茶を払いのけている。

 見た感じ、樽の容積の、多分4分の1程度は無事だろう。これならアリアの分のエルレ茶は確実に確保出来るだろう。良かった……。


 ……すっかり安堵すると、欲が出るものだな。

 ふと、エルレ茶の味替えをしてみたくなった。


 本格的なのは茶摘みの時の仕込み次第だが、ちょっと一手間掛けるだけで、飲み飽きた緑茶の味替えが出来た。


「フェリクシア、エルレ茶ってほうじ茶にも出来るのかな」

「ホウジ茶? それはどういうお茶だ? 製法の一部でも教えてくれれば、ひょっとすると作れるかもしれない」


 アレ? ほうじ茶が翻訳通らないのか。

 茶葉を更に煎ってから飲む、って事が無い? まさか。うっかり湿気った茶葉を煎ることくらいあるだろうし。


 とは思いつつも、フェリクシアの顔がハテナマークのままだ。説明をしよう。


「ほうじ茶は、本格的なのは茶摘みの時に何かするらしいんだけど、それっぽいのが普通に茶葉を火で煎って、香りを立たせて作れるって聞いた事がある」

「あぁ、煎り茶の事かその『ホウジ茶』と言うのは。煎り茶であれば、茶葉の種別を問わず作れはするが、素材になるエルレ茶の味わいと焙煎が合うかは、正直分からないな」

「え~、あたし煎り茶のエルレ茶より、そのまんまの方が良いー」


 アリアが眉を八の字に下げて、口をとがらす。

 なんともわがままなお姫様的で、どこか幼さを感じさせるその様子は、存外可愛いと思える。


「俺は煎り茶にしてもらおうかな。エルレ茶も美味いんだけど、王宮のアレと比べちゃうと、ね」

「かしこまった。奥様の大魔法のお陰で森側の見通しもすこぶる良く、獣一匹見当たらない。最も安全な今こそ、ティータイムにふさわしい」


 そう言って立ち上がると、フェリクシアは馬車へと歩んでいった。



 ***



 かれこれ1時間ほど。

 煎り茶は完全に失敗だったが、幸い口直しが余裕で出来る程の生き残りエルレ茶を確保出来た。


 フェリクシアの、遠出時の標準装備なメイドバック(大きな籐バックみたいな)から取り出されたティーセットと、シートと。

 前にこれらを使ったのは、魔導水晶の採掘現場だったっけ。随分と昔の様に思える。あれから1年すら経っていないが。


 エルクレアという人・魔族混合の国を出たからか、話題はもっぱら魔族の話だった。

 外観の違いに始まり、歩き方の差や『笑顔』の雰囲気の差など、それぞれ思っていた事をお茶飲みながらダラダラと話した。

 俺はまるで気付かなかったのだが、フェリクシアとヒューさんは、一部の魔族の(にお)いが気になったそうだ。


 臭いと言われて、そう言えばあの『先生』が、少し変わった汗臭さをしてたのを思い出したくらい。

 エルクレアで出会った魔族の人々の中で最も接近したのが、あの『先生』だ。名前くらい伺っておけば良かった。



 そのエルクレアを発ったのが、午前6時くらい。そこからおよそ1時間程の地点で、敵襲に遭った。

 あの土色小人は、ヒューさんが言うには、ゴブリンではなかろうか、と。

 確かに言われれば、俺の知ってるファンタジーの、ザコ敵役の鉄板であるゴブリンに見える。

 ただ俺の思うゴブリンは、髪が乱雑で薄い。現実のゴブリンは、頭髪が割と豊富で、ヘアスタイルもそれぞれ決めていた様にすら見えた。


 まぁ、ゴブリンの外観の違いなどは、女神様翻訳で「同一」と判定される許容範囲の中だから、ゴブリン、で言葉が通じているんだろう。



「ところでシューッヘ様。概ねの距離で申し上げますが、もう少しでガルマの砦に至ります」

「あー、地図でデカデカと書かれてた、あの砦ですよね。意外と近いんですね」

「いえそこは、強靱馬の速度故そう感じられると思いますが、わたしは砦まで2泊野営して潜入しておりますので、近い感覚はあまりございません」


 えっ? あー、そう言えばヒューさんの報告で、敵対するはずの兵士が仲良さそうに宴会してるとか言ってたな。


「砦の近くなのに、あれだけの数のゴブリンが出るんですか? 砦の兵士達は、街道の安全とかは確保しない?」

「していない可能性が高いかと。あくまで彼らは、三国同盟を欺く『偽装戦闘』をするのが仕事ですので」


 にしても、ゴブリンの群れは随分な数に思えた。森からどんどん出てくる様は、割と恐怖感もあった。


「ヒューさんがガルマの砦を偵察? 視察? した時には、ゴブリンの様な生物は出てきましたか?」

「いえ。森は鳥類や小型のボアなどの野生生物たちが、あまり奥まで行かずにも観察出来るほど、平穏な森でした。

 また街道についても、今回強靱馬で相当な速度で駆けていますが、街道に草を食みに出てくる動物もおりました」


 ……その動物と強靱馬の衝突、なんて言ったら、その生物が死んでしまうのはもちろん、速度が凄すぎて馬車の損傷も相当だろうに。


「ただやはりわたしが感じた違和感として、それらの野生動物の姿が見えない。強靱馬の速度故見えぬのかとも思いましたが、そうでは無いのかも知れません」

「それはどういう事です? 野生生物が、今回のゴブリン達に住みかを追われてしまったとか?」

「森の中にいたであろうゴブリンの数にも寄りますが、ゴブリンどもがこの一帯の野生生物を、食料として刈り尽くした可能性もあります」


 なるほど……。

 森林生態系の破壊者は、地球では人間だけだったが、知能を持った生物は皆その立場になり得るのか。


「野生の生き物はともかくとして、ガルマの砦を通るに当たって、何か注意すべき事などはありますか?」

「わたしが見聞きした範囲で申し上げると、今は両軍とも兵を退いている時期に当たり、砦自体が無人のはずです。砦の門も強靱馬が余裕を持って通れるほどですので、支障は無いでしょう」

「となると、これでまた変な敵に出くわすような事が無ければ、いよいよレオンになる訳ですね。ってか休憩が早すぎでしたね、仕方ないですけど」

「まぁ、良いのではないですか? レオン側に、いついつに着く、と言った話は一切伝えてない突然の訪問ですので、着くのが遅くても早くても、どのみち警戒されて面倒事にはなりましょうし」

「はは……面倒事にはなるんですよね、やっぱり。拒否してる相手の居城に電撃訪問するんだから、摩擦は避けがたい、か」



 レオンという都市、そして獅子王。

 エルクレアでも情報が無いと言っても良い程の情報しか得られなかった。


 第一報への返答も、強硬な反発、って感じだったしな。

 ナグルザム卿は「味方に付ければ大きい」ってことを言っていたが、困難そうなら無理せず、とっとと行程を急ぐ事も、プランとして持っておこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ