表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第1章 現代の敗者が異世界転移すると勝者になるのって確定ですか?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/303

第25話 ヒューさんのメダルの行方と女神様の力の源 ~それとワントガルド宰相閣下の糖尿病疑惑~

 メダルは、俺の手から消えたんだから、確実に女神様のお手元に届いた。そこまでは良い。

 けれど、そのメダルを、女神様はどうなさるのか。大切にしてくだされば良いんだが……


 ヒューさんの大切なメダル。ヒューさんは、女神様には届いたんだからそれで良い、って言いそう。女神様のご自由に、とか。

 けれど、俺としては、ヒューさんが自分の人生それ自体の証として捧げたのだから、大切に、良い取り扱いをして欲しい。

 でないと、捧げ物として仲介した俺自身が病みそう。どうにか女神様、大切に扱ってください……


『んー、なるほどね。あんたとしてはそういう思いなのね。病むところまで行くかしらねぇ』

「シューッヘ様、今のは? お話しに少し飛躍があったように思いますが」

「あー、女神様は心をお読みになられるので、俺が思っていた事が伝わったんです。何でも伝わるんで、悪口とかダメですよ?」

「悪口など滅相もないですが……わたしの心も、女神様はご覧になられているのでしょうか、今の今、繫がりを頂いたばかりですが」

『ちょっと二人とも、一度に2つの質問をよこさないでよややこしいから。まずシューッヘちゃんのね』


 ちゃん?! 今まで"あんた"だったのに、なんでいきなり"ちゃん"なの?! しかも修平ちゃんじゃなくて、シューッヘちゃんだし!


『このメダルは、球体浮揚ケースに入れて飾るわ。これほどの物、滅多にないもの』

「球体……浮揚ケース? なんですそれ」


 名前からすると……でっかいシャボン玉みたいに浮く、飾り物用のケース、とか?


『そうね。天地前後裏表全部を見たいコレクションを入れる上等なケースよ。透明なガラスのボールの中心に、メダルが浮いている、と思えば良いわ』

「コレクション? となると、ヒューさんのメダルは、ずっと女神様のお手元に?」

『そうなるわね。ヒューも気付いてないみたいだけど、この刻印、前国王自ら打刻してるわよ。ローリスでの階級としては一番低い褒賞メダルだけど、

 年齢とか考えてそうしたのねきっと。でも王は、本当に義理堅かった。讃える文言を、自らの振り上げたハンマーで打刻している過去がハッキリ見えるわ』


 その御言葉に、やはりと言うか一番驚いていたのはヒューさんだった。

 よく「わなわなと震える」という表現を地球の小説で見たが、俺は今リアルに、初めてその「わなわな震える」人、ヒューさんを見ている。

 果たしてこの「わなわな」は、だったら渡さなければ良かった、の「わなわな」なのか、知ってたらもっと大切にしたのに、とかの「わなわな」なのか。


 ……無粋だが、直接聞いてみよう。


「ヒューさん、ショックを受けてるみたいですけど、どこに一番ショックを?」

「誠に、誠に全てにでございます。女神様が常にお手元にメダルを留めて下さることも、まさかあの刻印が先王陛下お手ずからの物だったことも」

「ヒューさんもしかしてですけど、後悔してます? 先代の王様が自ら刻印してくれたのに、って」

「いいえ! 後悔など微塵もございません。女神様からすれば、単に個人の思い出に過ぎぬ様な品物を受け取って頂けた、更にそれを女神様のお近くに置いて下さる。

 それだけでももう十分ですのに、私も存じ上げなかった刻印の秘密を教えて頂き、今日の日まであのメダルを大切にしておって本当に良かった、と……」


 ヒューさんの目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。

 ずっと王様に仕えてきたヒューさんの一生の、最初を作ったメダル。

 それが実は、王様自身が刻印して作った、って言うのは……さぞ衝撃だろうなぁ。


『ヒューは、単に個人の思い出の品、と言うけれど、捧げ物って、あたしも含め神にとってはそういう性質のものじゃないのよ。知ってた?』


 涙を拭くこともなく、ヒューさんが声の聞こえてくる方向を見つめる。丁度応接セットの机の上の上から聞こえてくる。


『あたしたち神の力の源って、よく祈りだと勘違いされるのよね。まぁ、完全な勘違いでもなくて、祈りも力になるんだけど。

 実は捧げ物として受けた物が持つ力・性質も、神としての力になるのよ』


 んー……捧げ物が力になる?

 ダンベル捧げたら力が上がるとか……ではないよな。

 正直、よく分からない。


『シューッヘちゃんが理解出来てないみたいだからもう少し言うと、このメダルの様に、人の心が凄く詰まった物品は、

 その「心自体」が神にとってのエネルギーで、それを捧げられることによって神はエネルギーを得る。だから力になるのよ』


 なるほど。人の心って、エネルギーなんだ、神様にとって。

 そっか逆に考えれば、祈りだって「祈る心」だから、それがもしエネルギーになるなら別の心でもあり得るってことか。


「女神サンタ=ペルナ様、畏れながらお伺いを立てます身勝手をお許し頂きたく(こいねが)(たてまつ)りまする」

『堅いっ。あたしそういうの苦手だから、何か聞きたいならもっと砕いた言葉で聞きなさい。でないと、答えないわよ?』

「さ、左様ですか。では改めて……サンタ=ペルナ様にお伺いしたい事がございます」

『うん。良い感じね。それで、聞きたいことって言うのは?』

「1つは大予言書について、もう1つは真の女神像にお掛けになられた魔法についてでございます」


 大予言書。

 俺があの大司教から写本をもらった、アレのことだ。

 なんでも、救世主が現れたら、人類は滅亡する、という事らしい。

 それって救世主って言わないじゃん、とか細かい所ツッコミたくなるんだが、ともかくこの世界で信じられている模様だ。


『あの予言書は、かなり当てずっぽうって言うか、いい加減よ? それこそ街で売ってる新聞の方が信憑性高いわよ』

「とは言え……救世主様が現れたことで、人類の滅びがとありますと、やはり不安がございます」


 女神様が、ふーん、と言って、沈黙した。

 予想でしかないが、ヒューさんの心の中を読みに行っているのだろう。


『不安って言うけどね。魔族領が今より大幅に拡大するのは、少なくとも20年後。ただ個別の戦闘で大規模なものなら幾らか起こるわね』

「ふむ……大予言書には、寧ろその様な個別の戦闘の事などは、一切記述はございません」

『だからいい加減な物だって言ってるのよ。アレに従って動いても、空振りに徒労に骨折り損に。良いこと何も無いわよ』

「されど、ここのみ詳しくお教えください。英雄様の降臨、救世主様の再来、それが何故人類の滅亡に繫がるのか。もしくは、完全に噓の記載なのか、を」

『気になるのは分かるけどね。もしシューッヘが、今の心を捨ててこの世界の人類に嫌気が差したら、人類は滅ぶわね。確定でね。それ以外の滅びは無いわ』


 無い、と明快に断言なさる女神様に、ヒューさんもそれ以上疑いを延々尋ねる事はしなかった。

 それにしても女神様、気になること言ってたな。俺が今の心を捨てて人類に嫌気が差したら人類滅亡、って、それ俺が滅亡させるって事?

 そりゃまぁ……女神様から賜った力、地球の高校までで習った科学、趣味でよく動画見てた兵器類の知識。

 この辺りを総合して人類を攻撃したならば、残らず殲滅することも不可能じゃないとは思う。


 けど、そんなに酷い心変わりを、俺がしてしまう可能性があるのかなぁ。

 女神様が敢えて仰るんだから、もしかするとあるのかも知れない。


『シューッヘちゃん、今その心変わりについて考えても、ほぼ無意味よ。時期が来てないから』


 と、女神様が仰る。

 反対から考えると……時期が来たら心変わりを考える事が有用になる。俺……人類滅亡させちゃうの?


 まぁでも、今考えても意味ない、と明言してくださってるのだから、今はそのことをウダウダ考えるのはやめよう。


『ヒュー。あなたはあなたで、大予言書みたいな雑多な物に振り回されず、真実を見なさい』

「ははっ! ……しかし、真実とは? わたしの浅慮にては、考えも及びませぬ」

『あなたが今仕えているのは誰? その人は何をしたいの? どういう性格? その人に平和的に過ごしてもらうには?

 《その人》に破壊を、人類滅亡をさせないようにするには、あなたがどうすれば良いと思う? そういう実用的な事を悩みなさい』


 ヒューさんが、改めて「畏まりました!」と叫んだところで、ふと女神様の雰囲気が消えた。

 これも不思議なものなんだが、女神様には独特の空気感がある。俺しか感じ取れなかったが、今ならヒューさんも感じるかも知れない。

 あれ? そう言えばヒューさんがしてた、真の女神像の魔法の話、思いっきり無視して帰っちゃったな。


 ……言いたくなかった、に一票。イスヴァガルナ様と密着24時間なんて、思い出したくも語りたくもないだろうし。


「ヒューさん、お疲れ様でした。初めての女神様とのお話し、どうでしたか?」

「いやぁ、緊張致しますなぁ……ただ、真の女神像については、伺えませんでした」

「ヒューさんもペルナ様とお話し出来るようになったんですから、また伺えますよ。ただイスヴァガルナ様みたいには、しないでくださいよ」

「建国の英雄を悪く言うのは、いささか抵抗がございますが……隙間も置かず語りかけ続けるのは、された側としては(たま)りませんな」

「相当酷かったみたいですよ? あの女神様が、思い出したくない事のトップみたいに言ってみえましたし」

「わたしも気をつける様に致します。ところでシューッヘ様、勝手な提案出申し訳ないですが、ティールームへ参りませんか? 緊張で喉が渇ききってしまい」

「良いですね、前回飲んだアイスティーも美味しかったですし」


 と、俺たちは4階のティールームへ行くことにした。




 ***



「おや、ワントガルド殿」


 カランカラン、とドアを開くと、カウンター席に見たことのある背中があった。

 その人物が振り向いた。ひげにクリームが付いている。髪は自然任せ、というと聞こえは良いが、ボサボサというかツンツンというか。

 因みにワントガルド宰相閣下は王様の前でも髪型はこのままだ。ドワーフ族は毛質が硬すぎて寝癖どころじゃないとかあるのかな?


「ワントガルド殿。甘い物はお控えにならねば、病気が悪化しますぞ」


 ヒューさんが言う。ワントガルド宰相、糖尿病とかなの?


「甘い物でも喰っておらんとやっておれぬことが出てきてな。やけ食いじゃ」


 ヒューさんの影から横にずれ、ワントガルド宰相のカウンターテーブルを見ると、ケーキがホールで置いてある。しかも半分食べた後だ。


「やけ食いをするならば、せめて肉にでもしておけば良いものの。フラワリー・ティーを2つ」


 カウンターの向こうにいる男性にヒューさんはオーダーをし、すぐ俺のイスを引いてくれた。


「あ、すいませんいつも」

「いえいえ、いずれ貴族になられる方ですので、自らイスを引く癖があるなら、むしろ直して頂かねば」

「そういうものなんですか貴族って」


 ヒューさんが頷きながら、自分のイスは自分で引いて座る。


「ヒューさんだって、この国の重鎮なんだから、自分でイス引いちゃだめなんじゃないですか?」

「わたしは、以前であればともかく、今は引退をした身。権力など無い気楽な立場です」


 と、楽しげに笑う。

 すると、あからさまに、という感じで、カウンターからデカいため息が飛んできた。


「お主ら揃って気楽よのお」

「宰相閣下は、ケーキすら味わえないほどに苛立っておられるご様子。何がありましたかね閣下」

「原因はお主らだよ、レリクィア教会の」


 その単語に、俺も「あー」となった。きっと真の女神像の話が宰相閣下に知れたんだろう。


「宰相閣下は、レリクィアの事、どこまで聞いておられるか?」

「相変わらず自分からは情報を出さぬ男だなヒュー。真の女神像とやらが、50年前にオーフェンに売却された、という話までだ」

「そこまで知れているのであれば、こちらが言う事も特にござらぬな、シューッヘ様もそうお思いでしょう?」


 はっ?! いきなり俺?!


「そ、そうですねぇ……後ちょっとだけ言うならば、祈りが全然通ってないよとか、それについてサンタ=ペルナ様は相当お怒りだ、とかくらいで」


 と……言い終えたら、広くないティールームの空気感が変わった。

 誰も口を開かないし、息すらしてないかの様な、変な静寂。


 その静寂を、青い顔して破ったのは宰相閣下だった。


「サンタ=ペルナ様は、今、お怒りになられてるのか……?」


 宰相閣下の目は真剣だった。


「えーと……何故ペルナ様の御機嫌に、そこまで関心が?」


 と俺は聞いてみた。

 すると返ってきたのは、国の重鎮らしい発言だった。


「サンタ=ペルナ様は、破壊を司る女神様。我々ローリスの民にお怒りであったなら、神罰で我々は根絶やしになりかねぬ」


 深刻な顔つきの宰相閣下。

 と俺は、ヒューさんの方を見た。思った通り、ヒューさんは普通の顔でいる。


「多分、今の今はお怒りじゃないですよ。むしろ御機嫌良いんじゃないかな」

「シューッヘ殿、何を根拠に?」


 眉間にしわ寄せた宰相閣下が、カウンター席から乗り出して問うてくる。


「さっき、俺とヒューさんとで女神様とじっくりお話ししてて、その時のご様子からです」

「……今、『俺とヒューさんと』と言ったか?」

「はい、ヒューさんも女神サンタ=ペルナ様とお話し出来るようになりましたから」


 宰相閣下は、俺の言葉にようやく少し緊張の張りすぎが収まったようで、ふーんと鼻息を吹いた。


「この件については、陛下もまだ対応を決めかねておられる。お主らも、まだ内密にな」


 そう言いながら、宰相閣下はケーキの上のイチゴのような赤い果実をフォークで突き刺した。


いつもありがとうございます。ご評価、本当にとてもありがたいです。

より一層頑張りますので、是非この機に「ブックマーク」といいねのご検討をお願い致しますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ