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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第4章 魔族領遠征編 ~親書を携え、馬は進む~

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第26話 俺のプライドの行き先

長く中断し申し訳ありませんm(__)m 引っ越しも片が付きました。

 ヒューさんが語った書簡の内容は、つまり俺たちが見せた誠意にナグルザム卿が感じ入ってくれた、というところだろう。

 魔族にとっては生まれ変わりの道具でしかないように聞こえた勇気の小金貨を、勇将たちの礼賛へと、意味を変えた。

 その勇気の小金貨を、敵方であった人間の側から、まさに敵将見事なりとでも言うべき調子で讃える。将のみならず、全ての兵も。


 行動面ではその辺りだったが、むしろ一番大きな要素は、ヒューさんの様変わりだったんじゃなかろうか。

 宝物室では、あろうことかエルクレアの魔族統治者であるナグルザム卿に、ほとんど喧嘩ふっかける様な調子であった。

 ナグルザム卿はあまり表情に現す方ではない様だが、さすがに少し苛ついている様子が空気で伝わってくるほどだった。


 それが、昼間の出来事。

 そして一転、夕方からの晩餐会では、当初ずっと黙っていた。


 俺としては、ただ黙々と食事をしている姿は、いつ暴発するか分からない爆弾の横に座っている様で肝が冷えた。

 けれど、いざ口を開いたら、昼間の調子とはまさに180°違う様子になっていた。



 アリアのお陰で、俺がヒューさんに抱いた嫉妬の念も、大分後退した。ただ決して完全には消えていない。


 確かにヒューさんは、事前にエルクレアの調査をしたりもしている。

 一番当事者なのかも知れない。


 けれど、晩餐会での主賓は俺のはずだ。ナグルザム卿の正面に座ったのが俺だったのも、それを証明している。


「ご主人様、書簡の内容に接しても、やはり嬉しそうではないな。ヒュー殿の行動は未だに心に掛かるか?」


 フェリクシアが言う。俺はさすがにギクッとした。

 ついさっき、暗い道中でヒューさんの頭を下げさせた。その役割をしてくれたのが、フェリクシアだ。

 フェリクシアの思う『謝罪』はされたのに、それでも俺がヒューさんに対してあまり変わらない感情を抱いているのは……




 ……どう考えても、俺の心の器が、小さすぎるよな……。




「まぁご主人様、そう陰鬱な顔をなさるな。大層な肩書きを持つ者なら、多分誰でも通る道だろう、今の思いは。

 誰がどうでという話でもない、大した話ではないと前置きした上で、私の王宮メイド時代までの事、つまり、昔の話をしよう」


 不意に昔のことを話すというフェリクシア。その顔を見て、ふっと肩の力が抜けた。フェリクシアは軽く微笑み、俺を見つめていた。

 俺は、今の今まで、自分が強く歯を噛み締めていたことに気付いた。口を大きく開け頬をぐりぐりとしてから、フェリクシアに向き直る。

 そして、ちょっと大きく息を吸って、吐いて。そうしてフェリクシアの言葉を聞く準備を整えていると、


「ふふ、昔を思い出す。まだ王宮勤め前の、軍役時代のことだ。話は短くはならないから、私も飲み物をもらって良いか?」


 俺の顔を見てちょっとだけ片方の口角を上げてから、スタスタとグラスとワインの台まで歩いて行く。

 ちょうどワイン台の近くにいたアリアがフェリクシアと何やら言葉を交え、ワインはあの濃い赤に決まったらしい。アリアの手でグラスに注がれた。


「さて……私が軍役していた時の立場は、多くは準指揮官という肩書きだった。実力だけなら指揮官にでもなれたんだろうが、指揮官は概ね貴族でな」

「あ、ああ……」


 フェリクシアの話、出だしから暗い印象を受ける。

 俺のつたないファンタジー知識から言って、実力のない貴族の上官が、実力者の部下に酷い嫌がらせをしたりするのは、あまりに定番だ。


「中には人の良い貴族指揮官もいた。が、そういう者に限って今度は運の方が無くてな。

 滅多に出ないようなグレードの魔物に出くわして、部下を逃がそうとして最初に喰われていた」


 何か思い出す様に、少しだけ斜め上の中空に視線を投げながら、口を添えグラスを傾ける。


「逆に、『貴様なぞ喰われてしまえ』と思える様な性格の貴族は、敵の急襲を受けるといつの間にやらいなくなっていて、残った者たちでなんとか敵を一掃したら、どこからか戻ってきたりな。

 そして言うんだ。この有様はなんだ、準指揮官の貴様は何をしていた。味方に負傷者が出ているではないか、けしからん、とな。初めてその手の叱責を受けた時は、目の前が真っ白になったものだ。


 一番格上の指揮官である事を、そこまで堂々と横に置いた発言をされると、何故かこちらの自信が無くなるものだ。もしかして本当は、私がやらなければ行けなかったのでは、と思えてしまってな。

 もちろん、事実で言えばその逃げ出した正指揮官こそ敵襲に対して部隊を指揮して対処するべき人間なんだが、やはりこちらも人間、ハッキリと断言でもって断罪されると、本当は私が……と思ってしまう。

 王宮の時代も面白い事は色々とあった。王宮メイド長のカッパは分かるか?」


 ふといつもの冷静な、それでいて少し温かみを感じさせる微笑みをうかべながらも、俺の視線をロックして、首をちょっとだけ傾げながら言った。


「カッパさんは覚えてる。恰幅の良い中年女性で、よく笑うこう……まさに『おばちゃん』って感じの人だよね?」

「はは、そうだな、おばちゃんか。間違えても本人の前でその言葉を出すなよ? いきなり上位クラスの[スタン]で気絶させられた後、そのまま拷問室に入る羽目になる」

「怖っ」


 カッパさんのイメージと言うと、よく笑う明るくて気さくなおばちゃん。結構下っ腹含め丸々としていて、ガタイの良いおばちゃん。

 だが当のカッパさんにおばちゃんと言ったら、キツい魔法が飛んでくるという。マジか。


「王宮メイドとして務めていた時は、直接職場の上司に当たるのはカッパだった。だがそのカッパは、なかなか性格がエグくてな」

「そうなの? あの雰囲気からして、結構緩い感じのキャラかとおも……あぁでも、そう言えば土魔法のデルタさんが、演習場でカッパさんの名前聞いたら怯えてたよなぁ」


 俺が言うと、フェリクシアは頷いて、俺からロックしていた視線を外した。



「デルタは、悪気は無いんだろうが、失言が多いんだ。それでメイド同士のいざこざになることも多々あったし、もちろんカッパから厳しい指導を受ける事も、メイドの中で一番頻回だった。


 カッパの『指導』は、私も過去に2度受けたが、本当に『もう殺してくれ』と何度叫んでも許されない、かと言って自死すらも封じられた上で行われるから、本当に逃げようがない。地獄より地獄的だろうと思う。

 う……む……。今思い出しても少々背筋に凍り付く感覚が昇ってくる。カッパは、何もない時にはご主人様の言う『おばちゃん』並の、普通に陽気な人物を演じているが、何かあると豹変し、折檻が大好きな危ない人間に変わる」


 折檻が好きな人間って、つまりリアルにドSってこと?


「カッパの『叱責』は、理不尽な理由では行われない。対象に非があり、かつそれが個人の非で終わったのが単に運だった、という様な時だ。つまり下手をすれば、メイド部隊を巻き込んだかも知れないミスをした時に行われる。

 だがそのお仕置きが、それはもうキツくてなぁ……魔法の達人だから出来る、身体への責め、精神への責め。どちらか片方だけでもまさに『殺してくれ』と言いたくなるものが、身体と精神と、恐らく魂の様なものへも、そのお仕置きは及んでいたんだろう」


「それ……お仕置きって言うより、単に拷問では?」


「そうだな、カッパがお仕置きと言うからお仕置きと言ったが、実態は拷問以外のなんでもない。ただその拷問のおかげか、二度と同じミスは繰り返さなかったな、私は。デルタはしばしばやってたが」


「……ねぇフェリクシア。それって俺に、ヒューさんに対してお仕置きやその……拷問をと、そう言うことを、すべきだってこと?」


「ん? ああ、そう捉えられてもおかしくないし、それでご主人様が良ければ構わない。私がむしろ言いたいのは、長たる者もう少しひねくれろ、と言いたいんだ」

「ひねくれろ?」

「ああ。先に話したダメ貴族にしろ、カッパにしろ、人の上に立つ者はどこか頭のネジが飛んでいる。私の目から見ると、ネジが飛んでる位でないと、長く一番上は務められないものだと思う」

「そ、そう言うものなのかなぁ……」

「まぁ、私の少ない経験から物を言っているから、偏っているかも知れない。酒も入っているからな、マトモに聞かなくても構わない」


 フェリクシアは再びグラスに口を付け、スッと一息で残りのワインを飲み干してしまった。


 もしここが日本なら。そんなネジの外れた、カッパの様な危ない上司は、パワハラだと言われて追いやられる。間違いない。

 けれどここは、この世界は……部下のミスがそのまま人の死に直結する、平和ではない世界だ。日本とは前提が全く違う。


 俺も、今までのままでは、いけないのか?

 このメンバーをもっと積極的に仕切って、命令して、そして……叱責や折檻も。

 それは本当に、どうしても避けがたいことなんだろうか……。


「ちょっとフェリクの例は極端ね。でも軍に関わる人だとその位は普通なのかな?」


 うつむいていた俺の視線の外から、アリアの声が聞こえた。見るとアリアは、フェリクシアの所まで進んで、フェリクシアのグラスに再びワインを注いでいた。


「アリア、俺……」

「うん。シューッヘなら、ここは凄く迷うところよね。大丈夫、あなたはあなたのやり方で、このメンバーを統治すれば良いのよ」


 と、ニコッと笑ってみせてくれる。笑顔はいつもと同じだが、俺の心の不安はより一層増した。


「あー、やっぱりそういう心の動きになっちゃうわよね。シューッヘは優しいから」


 苦笑い、という表情で俺の横に来て、そのまま俺は手を引かれ、ソファーに腰掛けた。横にアリアも座る。


「いっそ、女神様に丸投げで伺ってみたらどうかしら? あたし達じゃ考えつかない様な解決策があるかもよ?」


 女神様。

 そう言えば俺にはもう一人、いや一柱か? 心強い味方がいたんだった。

 女神様はローリスでの信者獲得に成功されて、力とかも増してるかも知れない。


 俺の小さい悩みなんて、軽々吹き飛ばしてしまえるだけの力が……


 俺は頷いて腹をくくり、女神様に伺ってみる事にした。

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