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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第4章 魔族領遠征編 ~親書を携え、馬は進む~

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第23話 決めゼリフを持ってかれた俺、ふてくされる。

 

「将兵たちの命の証とも言える勇気の小金貨を、王都へ帰還させる役目。どうか我々に担わせては頂けないか。人間はもう、魔族に敵対しない。その意志も、魔王様にお伝えしたい」


 ヒューさんがその身を乗り出して、ナグルザム卿に迫る勢いで言い切った。

 その勢いに少し押されて呆然としてしまったが、今の一言は確実に、この晩餐会で成果が得られるか否かを分ける言葉だ。


 まさかあのヒューさんがここまで言うとは思ってもみなかった。

 ただ、ヒューさんは「国王」というものに相当入れ込んでいるところがある。

 魔王様の事も、魔族の王、という枠組みで考えると、ヒューさん的には飲み込みやすいのかも知れない。


 言い切った後微動だにせず、ヒューさんはじっとナグルザム卿に視線を向けている。

 対するナグルザム卿も、しばしその視線をじっと受けていた。

 幾つかの呼吸が通り過ぎる頃、ナグルザム卿がスッと部屋の奥の方を向き、誰かに合図する様に軽く手を挙げた。


「ナグルザム卿?」


 俺は思わず言葉を出した。突然誰かをそこに呼ぶのは、ちょっとふさわしくない様に思えたからだ。

 ナグルザム卿は俺の反応など織り込み済みの様で、チラッと俺の方を見たがまたすぐ視線が外れる。


 とそこへ、銀の大きなトレーに2つの紙の巻物が乗せたものを、見た感じリザードマンな兵士が持ってきた。


「ご苦労。さあ、ヒュー殿。貴殿にはこちらの書簡をお預けします。封印前ですので、中を見て頂いて結構です」


 トレーから、右側にあるアイボリーな色合いの紙の筒を取って、ヒューさんに向けてずいっと突き出した。

 ナグルザム卿の表情は、ある種相手を認めている様な、仲間を見る様な視線と感じた。


 ヒューさんの方はと言うと、少し驚いた様な顔をしていたが、差し出された書簡に手を伸ばし、受け取った。


「では失礼して」


 そう言いながら、するすると巻物状の書簡を開く。


 じっと書簡の上に視線を落とすヒューさん。しばらくそうしていたが、読み終えた辺りで目を閉じ、そのまま書簡を丸めていった。


「いかがです? 事前に、万が一にもこのような事態になった場合にと、まさにその万が一を願いながら、したためた物です」

「お心砕き、誠に痛み入る……これだけの物を預けて頂いた以上、必ずや魔王様には、人間の新たな段階をご認識頂くよう、精一杯努める」


 と、ヒューさんがナグルザム卿に書簡を返してしまう。アレ? 俺は読めないの?

 ヒューさんが着席して、テーブルにあるティーカップに手を伸ばす。少し震えているのが見て取れた。


「ヒューさん、大丈夫?」

「はい。問題は発生しておりません。書簡の内容については、後ほど」


 と、ティーカップに口を付けた。


 何となく枠外に置かれてしまってちょっと嫌な気持ちはあるが、パーティーとしての成果は、きっと十分だろう。

 書簡の内容は気になるが、あれだけアンチ魔族だったヒューさんが、あそこまで礼をもって相対するのだから、相当丁寧な『何か』なんだろう。


「さぁ、今日この日が、魔族と人間との新しい関係の幕開けとなるでしょう。魔王様もきっとお喜びになることでしょう。

 東の外れに当たるこの地から魔王直領までは、幾つもの越えねばならぬ難所がある。されど貴殿らであれば、それらも越えられましょう」


 ナグルザム卿が浪々と語る。と、それが合図だったのか飲み物のボトルを持ったタキシード風の服を着た魔族が、それぞれの横に立つ。

 テーブルのグラスを取ろうとしたがふと制され、新しいグラスを渡された。そしてそこに、真っ赤なワインが少量注がれる。


「古式に則り、この約束は血の盟約といたします。我々がこれを違える事はなく、貴殿らもまた、違えぬ事が求められます」


 血の盟約、か。それでさっきのよりかなり赤が強い赤ワインなのね。

 しかし、違える事はないとか言われていても、何を違えるのかとかはヒューさんしかまだ分かっていない。

 まぁ何にしても、ここまで友好関係を築いておいて、魔族さんたちを裏切るつもりは毛頭無いので良いんだけれど。


「魔族と人間、双方の発展と、我らが魔王様の未来永劫の統治を祈念して」


 ナグルザム卿がグラスを差し上げる。それに促されるように、俺たちもグラスを持ち上げた。

 少量のワインを一気に飲み干したナグルザム卿。俺たちもそれに倣い、グラスのワインをスッと飲みきった。

 さ、さすがに赤い成分が強いだけあって、どっしり重くて飲みづらい。少量で良かった。俺には重くて厳しい。


 この祝杯で事実上お開きだったようで、ナグルザム卿が立ち上がり、机越しに手を伸ばして、こちらも立ち上がったヒューさんとがっちり握手。

 ヒューさんに促されて俺たち3人も立ち上がった。変な表現だが、"勇ましい笑顔"をしたナグルザム卿からそれぞれ視線を受ける。


 再びナグルザム卿がヒューさんの方に向き直って、


「ヒュー殿。書簡は封印を施した後、宿に届けさせます。いつ頃出立されますか、英雄ご一行は」

「英雄様ご当人に聞かないと分からない事もありますので何日に、とは言いかねますが、近いうちとは申せましょう」

「そうですか。出立の日が決まりましたら、教えて頂きたい」

「かしこまりました」


 と、ヒューさんが頭を下げて席を立ち、入口の方へと歩き始めた。

 このまま俺たちだけ居る訳にもいかないので、俺たちもヒューさんの後ろについて、会場を後にした。



 ***



「ヒューさん、見事に決めましたね。格好良かったですよ」


 俺は努めて冷静を装いつつ、ヒューさんをねぎらう声がけをした。

 あのセリフは、本当だったらこのパーティーのメインな俺が言うはずだったセリフ。

 けれど、ナグルザム卿もヒューさんの方を信頼したようで、書簡もヒューさんだけに見せていたし。


「あたしたちも役に立てたかしら。結局わいわい言ってるだけで、ナグルザム卿の言葉に押し負けちゃったけど」


 と、アリアが言う。


「アリアも頑張ったよ。アリアの、人間の要望としてってところ、結構良いポイントだったと思うよ」

「そう? 少しでも役に立てたなら、良かったわ」

「フェリクシアには、本当に感謝だよ。俺うっかり、単なる宴会で終えてしまうところだった。フェリクシアがるつぼの話を出してくれたから」

「まぁ、メイドの職務として、主人が宴会を楽しんでいたならその興を削がないようにしつつ必要事項を伝える、というものもある」

「うん、まさにフェリクシアはメイドの鏡っ! これからもサポートよろしくね」

「ああ。ご主人様が割とうっかり屋なのは、最近段々と分かってきた。ならばそのように対応するまでのことだ」


 ふっと息をついて口角を上げるフェリクシア。うん、この人の冷静なサポートは心強い。


「ところでシューッヘ様。もうすっかり夜ですが、夜市などに行かれますか? おなかは十分でいらっしゃいますか?」

「あ、おなか……」


 ふむ。言われて気付くが、確かにちょっと小腹が減っている。

 晩餐会の料理は豪勢で、量も凄かったんだが、後半の料理はナグルザム卿との対談バトルで、一切手を付けていない。

 あのリゾットみたいなのも、それからメインっぽいレアに仕上げたステーキなど、美味しそうなのはあったが……あの空気では、とても手は出せない。


「そうですね、おなか空いてます。夜市って安全ですか? 女性が2人いますけど」

「エルクレアの夜市には街のガードがそこかしこに立っているので治安は良うございます」

「それじゃ、ちょっと夜市に寄って、おなかを満たしていこうか。アリア、フェリクシア」

「うーんあたしパスかな。書簡がいつ届くかも知れないし、その時誰も居ないと良くないから」

「私は腹具合の都合でパスだ。ご主人様たちは手が止まってしまっていたが、私は食べてたからな」


 はっはっ、とフェリクシアが笑う。うー、あの美味い料理をしっかり食べてたのか。さすが一流メイド、目立たず行動、はお手の物か。


「そうすると、わたしとシューッヘ様だけですが……」

「じゃ俺も辞めておきます。宿で何か食べられる物、ありますかね」

「ええ、恐らく。女将に言えば、腹しのぎ程度ですが何かあるかと」

「じゃそれで良いです。はー、疲れた疲れたっと」


 どうもこう……ヒューさんが丁寧にしてくれる度に、イラッと来る。

 決してそれが悪意だったり、慇懃無礼の類であればヒューさんに怒鳴りつけられるんだが、あくまでヒューさんは善意で、俺の事を持ち上げ、丁寧に扱ってくれている。

 一方俺は……晩餐会のあの場面で、俺を差し置いて……という思いが胸を締め付ける。こんな思い持つ事は間違ってる。そう思う。けれど……ダメなんだ。


 俺は疲れたと連呼してヒューさんから離れ、少し前を歩いた。

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