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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第4章 魔族領遠征編 ~親書を携え、馬は進む~

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第21話 穏やかな空気の大激論


「必要とかじゃない何か? フェリクシア、それは何?」


 俺の問いに、フェリクシアはかなり声を絞って、ボソッとつぶやいた。


「いやなに……あのるつぼはどうするのかと思っただけの話だ」



 るつぼ。

 勇気の小金貨。

 魔族の将たちの生きた証・戦った証……



 俺はふわふわと酔っ払っていたのがサッと消えて初めて、かなり酔っていた事に気付いた。


「……すっかり忘れてた。ありがとう、フェリクシア。その……ナグルザム卿」

「聞き耳を立てていた訳でもありませんが、この姿では耳も良いので聞こえました。ご無礼を」

「い、いえ……」


 俺の心臓が嫌な感じに存在感を増す。いきなりのセンシティブな話題だし、忘れていたのはあまりにもマズかった。

 宝物室では、魔王の下に俺たちが届ける、という事を俺は確かに言った。だがナグルザム卿の反応は芳しくなかった。

 魔族には魔族の慰霊の方法があるのかも知れない。さっき宝物室では、そこまでは考えが至らなかった。


 魔王が将に授けた物だから、魔王に返すべき。ただそう思っていた。

 だがよく考えれば、その将の遺族だって、欲しいかも知れない。都市単位とかで英霊の持ち物として崇めるのかも知れない。

 どういう慰霊感を魔族が持っているかも知らないのに、人間だけの考えで持って行くと言ったら……そりゃあ、印象は悪かろう。


「ナグルザム卿、その……俺としては、魔王様が下賜された物なので魔王様に、と思ったのですが、それは……魔族の方々とは感覚が違いますか」


 自分自身情けなくなる程に声が弱い。

 頭の中に、宝物室で俺の行動を魔王へのゴマすりと断じたナグルザム卿の顔と声が浮かぶ。


「王からご下賜頂いた物は、その者の宝でありその家の家宝、という風に我々魔族は考えますが、人間は違いますか」

「い、いえ。違いません」

「勇気の小金貨の半分程度は、鋳溶かされひとつになってしまっている。これでは遺族へ渡す事もままなりません」

「そうですね。もっとも、金貨の形状の物でも、誰の物なのかは分からない、というのが人間の考えですが、そこは……?」

「魔王様であれば、それぞれの金貨に残る魔力の色合いから、誰に下賜した物かお分かりになります。しかし、鋳溶かされていては、それもかないません」


 つまり、魔王に返還したとしても、半分は持ち人知れずになってしまう。いや半分だけでも追跡出来るのはむしろ凄い事だが。

 300年以上経ってる様な物からも、渡した相手を特定出来るとしたら、やはり不滅の魔王、規格外に凄まじい。


 俺はナグルザム卿にどう次の言葉を紡いでも反感しか買わない気がして、言葉に詰まった。

 もっともこうして押し黙っているのもまた反感を買う事は分かっている。が、言葉が到底出ない。


「ナグルザム卿。メイドの分際で発言する事をお許し願いたい」


 ハッとして横を見ると、フェリクシアが椅子に真っ直ぐ腰掛け直し、ナグルザム卿をじっと見据えていた。


「フェリクシア殿と仰いましたな。あなたの魔力の濃さを見て、ただのメイドと判断する魔族はおりませんよ。どうぞご発言を」

「かたじけない。我が主には悪意も他意も無いのだが、少々正義感から先走る癖がある。主に変わって、お詫びを申し上げる」

「悪意が無かろう事は、我々もよく分かっています。あなたの主は、まだ若い。ヒュー殿をこの場に連れてこられただけでも、十分な外交的功労でしょう」

「そう考えて頂けるとありがたい限りだ。魔王様が勇気の小金貨を各将校と紐付け出来るのであれば、尚更るつぼごと、魔王様の下に持ち込むべきと私は考える」

「ほう? 形ある小金貨は家族の下なりに戻りましょう。されど、300年前からの物ですから、既に滅んだ一族もあるでしょう。そして、ひとかたまりの方も問題です」

「それらについて、魔族の慰霊方法は分からず人間の考え方になってしまうが、慰霊塔の様な物を建立しそこに埋葬してはどうか。少なくともここにるつぼのまま留めておくよりは良いと思うのだが」

「慰霊塔。つまり、合同埋葬の様な形式ですな?」

「そうなる」


 フェリクシアとナグルザム卿の素早いラリーが一旦止まる。

 ナグルザム卿は目を半分伏せ、フェリクシアから視線を外し何か考えているようだ。


「魔族の慰霊、埋葬の原則として、墓は必ず1人の物を用います。家族であっても、です。合同で埋葬する、というのは我々魔族の文化として、受け入れがたい」

「では逆に、将たちの働きを讃えるための施設ではどうか。死は一人で受け入れるものとしても、賛美は部隊単位であったり、出兵者全員の単位で受けるものではないか?」


 フェリクシアは冷静な声音でナグルザム卿に畳みかけている。

 再びナグルザム卿は目を伏せる。そして少しの沈黙の後、言った。


「賛美の碑なり塔なりであれば、確かに多数者を同時に対象にしても、我々にとって違和感はありません。因みにひとつ伺っても?」

「ひとつと言わず、いくらでも」

「大した度胸のお嬢さんだ。あのるつぼを魔族が帰郷させるのではなく人間がそうさせる事に、何か特別な意義はありますか? もしそれが無ければその仕事は、同族たる魔族の仕事と思いますが」


 その言葉に、わずかにフェリクシアが上体を反らした。

 今度の沈黙はフェリクシアの方だ。表情はあまり変わらない様に見えるが、目線が机の上の一点で止まっている。


 確かに今のナグルザム卿の問いは厳しい問いだ。

 勇気の小金貨は人間と戦って果てた将の遺物。

 供養であれ賛美であれ、わざわざ敵方に当たる人間がその遺物を扱う意義は見出しがたい。


 と不意に、アリアが手を挙げた。大きくではなく、ちょっと前に手を出す感じで。

 俺にとっては意外だった。アリアは女神様からの読心術はあるが、政治的な発言に強い訳ではない。


「どうぞ、アリア・ノガゥア夫人」

「発言の機会を頂き、感謝します。まず確認をしたいんですが、将がいる、という事は、よりたくさんの兵の方々もいた訳ですよね?」

「それはもちろん。将のみで戦場に出ても、集中砲火を受け沈むだけですからな」

「あの勇気の小金貨は、確かに将の方に与えられた物ですが、同時にその将の下に就く兵の方々への鼓舞でもあると思うんです」

「ほう、なるほど。確かに、軍の部隊として考えれば、勇気の小金貨は単純に個人の所有物、という訳ではなくなりますな。それが?」

「私たち人間との戦いに於いて、あの金貨の量だけ、将の方が犠牲になっている。つまりその数倍の兵もまた、犠牲になっていますよね?」

「そうですな。正確な数どころか概算すら記録がないので、どれだけの兵が出兵し死んでいったのかも不明ではありますが」

「もし将の方だけを讃えたら、きっと兵の方たちが化けて出ると思うんです! だから、讃える施設は将だけでなく、全て戦いに参加し命を落とした魔族さんを対象にすべきだと思います!」

「ば、化け……? あぁ、霊魂の不確実な人間という生き物には、そういう考えがあるのでしたな。まぁ死者が化けて出る事は無いにしても、全ての将兵を共に讃えるべき、という考えは賛同出来ます」

「ところで、もしナグルザム卿が戦いに敗れてしまったとして、仲間からだけ讃えられるのと、敵からも『あいつは大した敵だった』と同時に讃えられるのと、どちらが嬉しいですか?」

「突然のご質問ですな。あくまでわたくしの感覚で言えば、敵・味方の双方から讃えられる方が」

「そこで私たちです! 当時の、実際に戦った人間ではありませんが、人間世界を代表して魔王様にるつぼをお渡しすると共に、礼賛施設の建立を『人間の要望』として訴えます!」

「……つまり、人間との戦いに敗れた魔族たちを、人間の側から、魔族一同で礼賛する様にと訴えかけると。そういう事ですかな?」

「実際に礼賛するかどうかは個々人によりますが……過去の大きな戦いの主役たちの功績を、形ある施設として現す事は必要なことだと思うんです!」


 やり取りが早い。かつ、アリアのテンションがちょっと高すぎる。

 少しのインターバルを、フェリクシアとアリアのおかげでもらえた俺。頭も少し冷えて、全体像が見えるようになってきた。


「形ある施設とすべきかどうかは、魔族が考えることであり人間がとやかく言う事ではありません。違いますか?」

「う……そ、それは……」

「アリア。ありがとう、後は俺が。ナグルザム卿、俺の以前いた、異世界的な考えなんですが、『輪廻転生』という考え方があります。言葉として、伝わりますか?」

「意味は掴めます。死してもいずれ生まれ変わる、という意味でしょう」

「はい、そうです。魔族の方は、死後の世界で小金貨1枚分の労働を果たすと生まれ変われる、と仰いましたね?」

「ええ。それは間違いありません。敢えて言えば、小金貨を持っていた将は、即時でも機会があれば生まれ変われています。おぼろげですが前世の記憶も、若いうちは保持されます」

「その生まれ変わった新たな、けれどこれまでの続きの世界に於いて、死んだ自分の働きが何も讃えられていないというのは、寂しくないですか? 自分の働きがまるで無かったかのようで」

「それは確かに、そうですな」

「更に言えば、生まれ変わっていつまで待っても讃えられもしない、となったら、次の人生、と言うのか分かりませんが、生まれ変わった時に、再び軍属しますか?」

「軍属」


 俺の言葉に、眉をピクッと動かし言葉を反復した。


「はい。軍人として死んで生まれ変わって、讃えられもせずまた死ぬかも知れない軍人に、再びなる覚悟なんて、持てないのでは? 俺だったら、絶対嫌です」

「それは考えた事がありませんでしたな……確かに最近、若者の魔族軍への軍属が減っている。単に戦闘機会が減ったからと思っていましたが……」

「前世の記憶が、残るんですよね? 若いうちだけ。となると、その若いうちに受けた軍を忌避する感情は、無意識に沈んで一層根強くなってしまうのでは?」

「それは、否定しきれませんな……無意識に忌避する世代がもし生じているとしたら、長期的に考えて、侵略以前に単なる国防にとってすら、かなりの問題です」

「ルナレーイを崩壊させ、戦線をここエルクレアまで前進させた上で膠着させた。これは魔族全体にとって非常に大きな功績だと思います。

 それを、後追い的ではありますが、人間の側から『大した敵だった』と認める。それを子供が訪れても分かる施設にする。そうすれば、軍属を志す魔族が減っていく未来は回避出来るかも知れません」


 押している。いや、まだ論点の全てを論破出来ている訳じゃない。

 かなり強引な論法で押しているから、足下をすくわれる危険もある。


 俺は自分を落ち着けようと、一度大きく息を吸った。

 その時、俺の右手側でガタッと椅子が音を立てた。

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