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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第4章 魔族領遠征編 ~親書を携え、馬は進む~

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第18話 いたずらがよく効き過ぎる件 あと庭綺麗だわ。


「これはお見掛けしない方ですな、旅のお方ですか?」

「えっ、あ、はい。ローリスから旅をしてきました」

「それは大変だったでしょう。まぁお入りください。あ、置いてある物には触れないでくださいね、どれも高価な物ですので」


 回復所の近くまで行くと、大きな帽子――ファンタジーで僧侶がかぶりそうな――を身につけた白髭の人物が応対してくれた。

 しかし、開口一番「中の物は高いから触るな」とは、なかなか随分な物言いである。確かに鼻につくな。


「ローリスの方であれば心配ないかと思いますが、皆さんは人族の方で間違いありませんな?」

「はい。ここにいる全員、人間です」

「それでは、困りごとをお伺いしましょう。あらゆる病気、怪我、更には疲労まで、幅広く対応しております」


 と、言われて、俺はふと困った。

 今の体調は、昨日の美味い食事のおかげか温泉のおかげか、絶好調である。回復魔法を必要としない。

 俺がまごまごしていると、ヒューさんがスッと俺の前に出て、司祭風の人物に軽く頭を下げ、言った。


「わたしがお願いしたいです。どうも最近腰の調子がイマイチで」

「腰ですか。腰は上半身と下半身をつなぐ要ですからな、大変重要です」

「痛いですとか動かぬという事は無いのですが、どうも重くてならんのです」

「ほう、それは困りましたね。大丈夫ですよ、ガルニアの主神、我らがシンティラ様の御加護の元、腰の重さは解消されましょう」

「それは実にありがたい。是非施術をお願いしたい」

「……失礼ながらご老人、お支払いは大丈夫でしょうか? シンティラ様にお願いするには、お金が必要になりますが」

「この位でよろしいですか?」


 と、ヒューさんは金貨1枚を懐から取り出した。司祭なのかその人物は、手を皿にしてニュッと出した。


「これだけあれば、シンティラ様もお喜びでしょう。では、回復魔法を施術させて頂きます」


「ああ、少しお待ち下さい。どういう訳か旅の仲間が回復魔法の様な魔法が使える様になったのです。

 本職には到底かなわないから辞めておけと言っておるのですが、若さ故の無謀で……恐れながら見てやって頂けますか」


「ああ左様ですか。生半可な知識や偶然得た体験で魔法を使うのは本来大変危険です。

 本職として、その魔法の何処が本来の回復魔法に届かないか、診断して差し上げましょう。ただ……」


 と、ヒューさんは懐から更に金貨1枚を出した。また手を皿のようにして受け取る司祭。かっこわるい。


「あー、ガルニアの秘奥である回復魔法が使えるとうそぶくローリスの者はどの者だね。試しに私にやってみなさい」

「あ、俺です。じゃ、早速。[ヒール]!」


 こういうのは予告なく突然やるのが効果的、だと思う。相手に心の準備をさせない内に、先制攻撃である。しかもフルパワー。

 俺の手から、ギラギラと輝く金の紙吹雪の様な、長方形の光が司祭に降り注ぐ。司祭はそれを頭から足先まで浴びる事になった。


「どうですか、先生。俺の魔法は、これは回復魔法になっていますか?」

「……あ……あ……」


 ん? 先生と持ち上げてみた司祭らしい人物の様子が、ちょっとおかしい。

 目は恍惚として、視線が定まっていない。口は半開きに開いて、手も中空でぷらぷらしている。

 ……やり過ぎた? それか、強すぎる聖魔法には副作用でもあるのか?


「あのー……先生?」

「はっ! あ、こ、これは……ガルニア王族の御方、お、お戯れはお辞めください」

「へっ? 王族?」

「今の魔法は、王族の方のみが行使できると伝わる、セレスティアル・ヒール。わたくしめも初めて拝見致しました……」

「へぇ。普通のヒールと何が違うんです?」

「わたくしめにそれをお聞きになりますか? 光の聖回復符の形状がまず違います。普通は粉体、ハイ・ヒールでごく小さな四角形、エクストラ・ヒールで初めて『四角形だと視認できる』大きさの四角です」

「俺のヒールは?」

「お、お戯れを……セレスティアル・ヒールは、長方形の聖回復符が放たれ、比類無き回復をもたらすとされています。王族の方でしたら、ご存じでしょうに……」

「で、先生の体調はどうです? 良いですか?」

「は、はいっ。お陰様で、長年の腰痛がございません。肩こりも、目がショボショボするのも、全て治っております」


 ふとここで、俺の心にいたずら心が生まれた。


「俺がここに来た、またエルクレアにいた事は、内密に。国家極秘事項ですから」

「はっ、はい! それはもちろん!!」

「それから、これから回復魔法を受ける人々への施術料は、今の半分にしなさい。良いですね?」

「は、半分?! そ、それでは私の生活が……」

「生活に困りますか? 国で調査を入れましょうか?」

「い、いえ……は、半分にさせて頂きます」

「半分にしたところで、他の回復所がそのままの価格なら、あなたの回復所に人は殺到するでしょう。忙しいですが、大きな損にはならないはずです。では爺や、行きましょうか」


 さも俺が王族かの様に振る舞ってみてるのを、ヒューさんもアリアもフェリクシアも、悪乗りと言っていい調子でカバーする。


「あのっ王族の御方! 頂いた金貨は……」

「取っておきなさい。但し、使う事は許しません。祭壇に奉納し、今日の日の記念としなさい」


 言っててむずがゆい。俺には上品な王族の真似は荷が重い。

 他のメンバーも、そろそろ我慢の限界なのか、笑いを堪えるのに必死という感じだ。


 もうこれ以上堪えるのが厳しいので、足早に回復所を出て、道を曲がって少し進んだ。


「へー、シューッヘ君、ガルニアの王族なんだ」

「たー、勘弁してよ俺そんなのになった覚えないよー」

「は、ははは、あの司祭の様子は痛快だったな、ご主人様もなかなかやる」

「見事に鼻っ柱をへし折りましたなシューッヘ様、いやお見事、ふっ、ふふ」


 大笑いまではしないものの、皆腹を押さえて笑いを耐えている。

 勢いで「半額にしろ」と言ってしまったが、実際問題、生活大丈夫かな、あの人。


「ヒューさん、施術料半額に、つい、しちゃいましたけど、生活できます?」

「シューッヘ様はお優しいですな。回復所は元手が掛からぬ商売ですので、余計な経費を掛けなければ、半額でも問題無いでしょう」


 因みに、とヒューさんが続けた。


「エルクレアの回復所は、宣伝広告を打つ事が許されております。そこはローリスと大きく異なります。

 半額にしたという事も宣伝をしなければ伝わるのが遅く、資金繰りに問題も出かねませんが、エルクレアは広告費が安いので誰でも広告が打てます。

 高くない広告費で、日刊の新聞や広報に広告を打ち、素早く業態の変化を伝達出来ますので、これからあそこは連日、盛況な安い回復所として流行ることでしょう」


 おお、ヒューさんが経済アナリストみたいな事を言ってる。


 何についても知ってて理解も深い、心強い仲間だよな、ヒューさん。

 これで魔族への偏見が何とかなってくれれば……今日の晩餐会に賭けたい。



 こうして暇を潰した俺たちは、もうしばらくあちこち見て歩いた後、王宮へと向かった。。



 ***



「ローリス国・国使の皆様。本日はおつとめ御苦労さまでございます。晩餐会のお時間まで、庭園にてゆったりとお過ごし下さい」


 俺たちが揃って門に辿り着くと、門兵さんの鎧がさっきまでと違っていた。

 さっきまでは革鎧で、今は、これは銀なのかな、綺麗な輝きの鎧になっている。

 ただ革鎧同様に軽装な鎧で、肩と胴体と腕とを守るパーツだけ付けている。


「こちらの通用口からになり申し訳ありません。頭にお気をつけになり、くぐってお入りください」


 と言って、綺麗な鎧の門兵さんが先導してくれる。大きな門の横にちょっとある、小さな通用口。

 俺も門兵さんの後に続いて、低い通用口をしゃがんでくぐる。

 再び背を伸ばして前を見ると、花と緑が見事な庭園があった。


 門兵さんの後ろを付いて歩いて行く。左右をキョロキョロと見てみると、花ばかりでなく緑ばかりでなく、バランス良く庭が造られている。

 庭というと枯山水の様な日本庭園を思い浮かべてしまうんだが、これはもっと生命力に満ちた庭だ。ほのかな花の香りも心地よい。


 しかし、門兵さんは何も気にせずどんどん進んでいく。アレ? ここが庭の中心ではないのかな。


 少し歩いて、宮殿建物の角を曲がった。お? 王宮はてっきりあれだけの小さいものかと思ったら、奥に接続廊下があって別棟があった。

 宮殿と別棟は、開放型の廊下で繋がっている。その廊下も横切って進む。すると、行き止まりになった。木々が密に植え込まれ、高さも背の倍くらいある。


 門兵さんが、別棟側に向いて手を上げる。なんだろと思っていたら、目の前の樹木の壁が、左右に開いた。

 意外な動きにビックリしたが、どうも植え込みのところが地面ごとスライドしているように見える。

 別棟の方に目を遣ると、別の門兵さんがグルグルと手動で、丸い円盤みたいな物を回している。棒か何かが出てるようで、それを掴んで回している。


 改めて前を向いた時には驚いた。樹木の壁は、門のように開かれていた。

 その先にはちょっとだけ小高い丘があり、そこにテーブルと椅子が並べられていた。


「あちらにお席をご用意いたしました。今お茶のご用意をいたしますので、どうぞかけてお待ち下さい」


 ニコッと笑顔を残して、門兵さんが今来た道を戻っていく。

 俺たちは顔を見合わせたが、ともかく危険も無さそうなので、丘の上の椅子に向かった。



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