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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第4章 魔族領遠征編 ~親書を携え、馬は進む~

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第13話 女将さんがいい人で良かった……

 女将さんは、俺に合わせた歩速でスタスタと、俺の前を歩いている。

 言ってたとおり、出ていた腕だけのダメージの様だ。見える赤みがヒリヒリしてそうで痛々しい。


 ただ辛うじて、命に関わる様なものでなかったのは幸いだ。取り返しが着かないところだった。


「あ、あの……いいですか?」


 ちょっと気まずい思いもあり、俺は声を掛けた。


「うん? どうしたんだい?」

「いえ、王宮の先生って……闇魔法の回復魔法の先生、みたいな方なんですか?」

「そうだよ、もう気付いてると思うけどあたしゃ魔族。かなり人寄りの猫族でね、思わず階段半飛ばしに飛んじまったから、おたくのパーティーの爺様に何か言われるかなあと思ってたら、もっと痛い目見たわ」

「ご、ごめんなさい! 怪我させるつもりは無かったんですけど……」

「怪我させるつもりでやってたら、もうあの場で喧嘩よ」


 と明るく笑ってくれる。怒っているとかでは無さそうだ。


「うちの爺さん……ヒューさんが、魔族にちょっと良くない印象なのは、ご存じで?」


「ええ。少し前にしばらく、うちの宿じゃないんだけど、エルクレアの中層地域を中心によく見かけたわ。

 あたしも一度、何かで話したけど、旅の魔導師で終の棲家を探してるって言ってたわね。ホントは何?」


「ヒューさんの本当の姿は、まぁたしかに魔導師なのは間違いないですが、多分国一番クラスの魔導師です、ローリスの。

 それで今回は、ローリス国王陛下の親書を携えて、エルクレア王と会談をと……思ったんですけどね、既に王族はいなくて」


「あー……国の人なのかあの爺様は。スパイにしては堂々としてるし金持ってる風だったし、何かと思ったら。あ痛」


 何気なく腕を組んだ途端痛みがあったらしい。すぐ腕組みを離した。


「闇魔法の回復魔法は、俺も以前それっぽいものは見たことあるんですけど、その時コピーする雰囲気でも無かったので……」

「その『コピー』がもう異世界だからあたしにゃよく分かんないわ。魔法がコピー出来るなんて、魔王様でも厳しいんじゃないかしら」

「そうですか? 魔王陛下であれば、古代からの魔法も全部ご存じとのことなので……って、そしたらそもそもコピー必要ないじゃないですか」

「あら、それはそうね。あんたも魔王様の事、幾らか知ってるのね。他国でも魔王様は有名なの?」

「んー、残念ながらと言うべきか、知られてなくて恐れられてる、って感じの、良くないパターンになってますね。無知故の恐怖、みたいな」

「あーん、魔王様ももっと広報とか出せばいいのになぁ。エルクレアとロザンドの土地交換にしても、凄く人間の利便性とか考えて」

「ロザンド? それは?」

「アレ? 知らない? エルクレア王族が移った、魔族領内にある昔の……なんだっけ、ルナレーイ? の領地だった所。城もあるし、水もふんだんに使えるんだって」

「城付きなんですか? あーそりゃ、王族も納得で移動しそうな気がします」

「エルクレアは、表向き、というか軍事同盟国相手には、魔族との戦争での消耗、という形で義援金とか集めてたけれど、実際は魔族との融合都市を作ってた、って国だからね。

 エルクレアの王族含め、国民も多分だけど魔族領にも魔族にも、偏見とかは持っていないわよ。今エルクレアに増えてるのは、どちらかと言うと新参の魔族で、ここで一旗、って奴らね」


 おー、さすが商売人さん。国の事情がよく分かってる。

 とは言え、聞いた事なかった話も結構ある。ロザンドの話もそうだが、義援金ってそんな形で得てたのか。


「とすると、エルクレアにはもう、魔族の権利概念とか生存権の概念とかも入ってきてるんですか?」

「あたしにゃ難しい事は分かんないけれど、生存権は当たり前の……って、ローリスじゃ当たり前じゃないの?」

「聞きませんねぇローリスでは。そもそも生存している事を権利として考える考え方も無ければ、貴族以外の命は軽いです。簡単に処刑とか言いますし」


 そうだ。思い出すとちょっと頭をもたげる。貴族特権を使って、俺はアリアを娶ったんだ。

 もっと正々堂々とした形の方が、絶対格好良かったよなぁ。でも俺がそれ以外でアリアなんて素敵な女性を、ねぇ……


「なんだか冴えない顔してるねぇあんた。処刑した怨霊でも取り憑いてんの?」

「えっ、い、いえ。俺自身は誰かを処刑した事は……いや刑には違いないから処刑? と、取りあえず、殺した事はないです」


「ふーん……エルクレアでも、生存権は度々裁判の主題になってね。

 大抵は王族への不敬罪で処刑された人の権利が、って。

 でももう、その人死んじゃってるのよね。議論しても遅いわよ」


 腕が少し上がりかけて、下がった。腕組みをするクセがあるんだろうな。


「その場合、裁判をしてるのは遺族の方ですか? それとも……」


 日本でこのパターン、たまたま見かけた。

 遺族や被害者そっちのけで、『○○の会』とかいうのが主体になってて、単なる政治活動になってる裁判。


「あんた、そういう権利の無い国にいる割には、分かってるわね。

 そう、遺族が主体の裁判の方が圧倒的に少なくて、政治家か、モドキが騒ぐばっかり。

 故人もあれじゃ、落ち着いて眠れないでしょうに」


 チラッと俺の方を向いて、両手を肩の所で開く。地球と同じ、どうしようもない、のポーズだ。

 故人も、かぁ。故人。ん? 魔族でも、故『人』なのかな。


「あの……ちょっと細かい事を伺っても良いですか? 実はちょっとだけ困ってて」

「あーなんだい? 難しい事やら国のどうのこうのは、あたしにゃ分かんないわよ?」

「えっと、その、数え方の話なんです。こう、人を数える時は、ひとりふたり。じゃ魔族さんを数える時は?」


 言うや、スッと振り返った。


「あぁ、そんなことかい。人型の強い魔族は、人と同じでひとりふたりで数えるわ。

 獣形態が常だったり、虫魔族とかみたいに人間擬態の出来ない種族は、1体2体、が一般的ね。

 どっちでも失礼にはならないけど、決して1匹2匹って数えちゃダメよ? 

 それは家畜に対してする、下げずんだ数え方だからね」


 止まって、俺の目をじっと見て、教えてくれた。


「あの……応用編で、虫型の魔族も1匹2匹はダメなんですか?」

「エルクレアには虫型魔族はいないと思うから数える機会がないわねえ。虫だと1匹でも失礼にならないのかしら、ちょっと分からないわ」

「ありがとうございます! 俺達の任務って、魔王城まで行って魔王陛下とお話し出来れば……ってトコなんですけど、数え方でしくじったら、あまりにも……」

「あら魔王城まで? ここからだと遠いわよ、うんと。魔王様もお忙しい方だから、うん、お会いできると良いわね。幸運を祈るわ」

「ありがとうございます」


 俺は魔族の人に応援されたのが何だか嬉しくて、自然笑顔で頭を下げていた。

 気付くと、もう随分歩いて、王宮らしくない王宮が目の前だった。


「じゃあたし、ちょっと申し込みしてくるわ。あんたも来る?」

「行きます。出来ればその魔導師さんの魔法、近くで見たいので、見学1名お願いしたいです」

「生粋の人間で闇魔法って、普通は相性悪いけど大丈夫? 体調崩しても、責任取れないわよ?」

「俺の知人に、骨の騎士団をボコボコ製造する人もいたんで、多分大丈夫です」

「へぇー、スケルトンを? それ、そのスケルトンを打ち倒してテイムしてないと出来ないから、その人は凄まじく強いわね」


 フェっ?!

 あの性悪ロリのイオタさん、強いのは召喚だけじゃなくて本体もなの?!


「じゃ、付いてきて。すいませーん、第3地区で『紅の酒』やってるルリファスって者ですけど、回復師さん急ぎで手配できます?」


 王宮の門番さん。さっきの人だ。いや「人」じゃないかもだけど。


「回復師の手配だな? おや? そちらは……」

「あ、先ほどは、ナグルザム卿には大変失礼をいたしました。今日は女将さんの回復魔法の見学で」

「む……う、うーむ。この者は、あー、いわゆるガルニア系統の回復師ではダメで」

「大丈夫よ、魔族だって事はもう伝えてあるし、この怪我、聖魔法で受けたものだし」

「聖魔法? 誰に? ガルニアの回復師が魔族に聖魔法を行使したならば、捕まえに行かねばならない」

「こちらの御仁よ。さすがお国背負ってエルクレアに来てるだけあってか、ローリスの人のはずなのに聖魔法使えるの。余波の光だけで、これ、こんな」

「うわ、これは酷いな。放っておいたらアザになる。すぐ魔族回復師を手配する。ノガゥア卿は、いかがされますか」

「ぜひ見学させてください。闇魔法系統の回復魔法が使えれば、道中怪我をした魔族の人も助けられます」

「……と、仰っても……見ただけで使えるほど、簡単な魔法ではありませんぞ? よろしいんですか?」

「はい! 見たことがあるだけでも、違うと思うんで!」


 ここはちょっとバカを演じておくことにした。

 マギ・アナライズからコピーが出来る云々を言うと、ナグルザム卿にまで警戒情報が飛ぶといけない。


「ルリファスと言ったな? 中に入って、3番応接で待っていてくれ。手配をしてくるから。痛みはどうだ?」

「触ると痛いし、触んなくてもジンジンするから結構痛い方に入るわね。やっぱ聖魔法には太刀打ち出来ないわ」

「そりゃ、種族的に無理なものは無理だ。冷やしながら待つか?」

「あーそれありがたいわ。やけどだもんね、ちょっと冷やしたい」

「分かった。それはすぐ手配が付くから、第3応接に持っていかせるから、ともかく二人とも入ってくれ!」



 再び城門――単なる木のデカい扉なんだが――が開いた。


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