第23話 女神様とお話しを重ねてみると、荒っぽい方かと思ってた印象はちょっと違っていたと分かった。
女神様の御発言の続きを待って、概ね1、2分。
沈黙が続いたが、それでも女神像の力の話でもあり、是非聞きたい。故に待つことにした。
「あ、あの女神像はね……あの……」
「はい。ペルナ様が宜しければ、是非お聞かせ下さい」
「あの……か、感覚共有の魔法が掛けてあったのよ」
……ハイ?
すると、イスヴァガルナ様が常におなかに巻き付けていたってことは……
「そう! そうなの!! いつもアイツの腹で暖められてる気持ち悪いぬくみが常に届いてて、もーホントに最悪だった……」
「腹に巻くなっ……て、言えなかったんですか?」
「何度も言ったわよ、優しくも、厳しくも! けれど『決して落とさないように』とか、『命を守って頂ける気がして』とか、色々言って、結局ずっと」
「あー……なんで感覚共有なんて掛けちゃったんですか? それさえ無ければ、まぁその……上からご覧になって気分悪い、で済んだのに」
「そうよねぇ。でも、感覚共有を掛けておくと、その場で念話をこっちから届けられるのよ。だから戦いのサポートも出来るから、と思って……」
念話を、女神様から……ってアレ? 俺って、女神様「から」話しかけられたこと、無かったっけ?
「あんたは別よ。異世界転移転生の間で直接話してるから、あんたの世界の言葉で言えば『縁が深い』。だから常に双方向よ」
「で、のぞき見付き、と」
「人聞き悪いわよ、あたしそんないつも覗いてる訳じゃないんだから。要所要所、だけよ」
そうか、なるほど。女神様とご縁が深い、直接会ったことがある、というのは、凄いアドバンテージなのか。
感覚共有に頼らず……ん? 感覚共有の魔法って、どうなったんだろ。
「伺います。その感覚共有の魔法って、さすがに3,000年の時を経て効果止まってますよね」
「女神バカにしてる? 女神が一度付与した魔法、たかだか3,000年で剥がれる訳ないじゃない」
3,000年が"たかだか"。うーん、世界が違う。
いや、そこでなくて。
もし今でも感覚共有の魔法が生きているのであれば、女神像を探す事も難しくはないのでは?
「女神様、その感覚共有、今もアクティブですか?」
「ううん、2,000年ばかりずっとただ祀られてて暇してたから、止めてはあるわよ、なんで?」
「いえ、もし今起動して頂いて、そこから周辺の情報でも何でも取れれば、女神像奪還のとっかかりが、と」
「なるほどね、じゃ」
とその時、俺の部屋の扉が開いた。
「シューッヘ様、お昼時にございます……おや、虚空に向けて何をなさっておいでで?」
ヒューさんだった。うーん、タイミングが残念。
「今、ペルナ様とお話ししていたんです。結構色々情報が手に入りました」
「な、なんと! それは誠に申し訳ないタイミングで扉を……」
ヒューさんが見るからにしょげた顔をして、うつむく。
幸い俺と女神様とのリンケージは、ご縁が深いらしいのでいつでも可能だ。
ヒューさんが思う程、何かお話し申し上げるのに苦労をする事さえ無い。
「大丈夫ですよ、ただ、一番重大な場面ではあったので、また後で一人になれる時間を下さい」
「それはもちろん。この度はお邪魔をしてしまい、ペルナ様にも何卒お詫びをお伝え下さい」
ペルナ様ー、お詫びですって。
『ほんと、このヒューって男は律儀よね。こういうタイプの、もっと若くてイケメンな騎士があたしも欲しいわ』
……うーん女神様ぶっちゃけ過ぎです。
そうして俺たちは、いつもの王宮内食堂へと向かった。
***
今日のご飯も大変美味しかった。ポトフ?的な煮物と、分厚い肉の焼いたの。カットステーキ的なののセットだった。
さすがに王様は来ないが、警備兵長さんも含めて王宮で働く人は皆、同じ食堂を使う。
なので、体力系の仕事の人にも満足してもらえる様にだろう、たんぱく質多め、量も多めだ。
少なく食べたい人は、おかずをパスする、というのがここのルール。小盛りは非対応らしい。
後は少ないが定番メニューはある。それも量は多めの小盛り不可。
ヒューさんはさすがに俺ほど食べないので、肉は食べていなかった。ポトフにも少し肉があるので、それで良いんだろう。
「シューッヘ様、先ほどの女神様とのお話しで得られたこと、宜しければお教え頂けますか」
今日初めてついてたデザートドリンクの果実ジュースを飲んでいると、ヒューさんがそう言った。
「構わないですけど、ここで話すには、ちょっと衝撃的過ぎる内容ですね」
「そんなに衝撃的なお話しが、女神様から為されたのですか」
「そりゃもう……細かいところまで含めると、ギョッとしたりゾッとしたり」
「んん? なにやら複雑なご様子で……それでは、わたしの部屋にお越しになりますか」
と、笑顔で言うヒューさん。
そう言えばヒューさんが俺の部屋には来ても、俺がヒューさんの部屋に行ったことは無い。
せっかくの機会なので、ヒューさんの言葉に乗ってお邪魔してみることにする。
「じゃ、是非お願いします、お部屋は何処ですか?」
「3階東棟の奥になります。ですので、ここから行くのが近いですね」
今いる食堂は、3階の西棟。ちょうど大階段を左に行ったところにある。
「じゃ、直接お邪魔しても?」
「構いません、歓迎致します」
と、笑顔のヒューさん。
***
……と言う訳で、ヒューさんの部屋の前まで来た。
ヒューさんの部屋は、俺のフロアより1つ上。
だからか、既に目の前の扉、床の絨毯の厚みからして、重厚感が違う。
目の前は、ザ・重役室、って感じだ。
「シューッヘ様、わたしの部屋は、いつも雑然としておりまして、お恥ずかしい限りですが」
「誰でも長い間暮らしていればそうなりますよ」
「はは、そうですな。では、どうぞお入り下さい、お足元に気をつけて」
地球で言えばニスががっつり塗ってあるテカテカの扉、といった調子の扉が開けられる。
一歩入ってみると……うん、広い。俺に割り当てられた部屋の1.5倍は広い。
広い、んだが……動けるスペースは俺の部屋の半分程度だ。
何が場所取ってるって、書棚だ。部屋の奥に薄膜のカーテンの様な物が掛かっていて、多分あそこは寝所だろう。
入口から、そのギリギリ手前まで。廊下側の天井近くの高さの書棚が占拠している。当然中身は満タン。
そして、部屋の中心の奥側に、如何にも執務机という感じの立派な机がある。その裏にも書棚。
俺の部屋とは違って扉開いた側の方にも、スペースがあった。因みに俺の部屋は角部屋。
ヒューさんの部屋のそのスペースには、大小様々な箱類が置いてある。これ地球だと段ボールなんだろうが、全て木箱。
単なる四角い木箱もあれば、上蓋が宝箱的な木の箱もある。積んである段は……Maxで6段か。
「あ、じろじろ見ちゃってすいません。偉い人の執務室って、今まで一度も入ったことが無くて」
「本来であればシューッヘ様もこの位のお部屋は使って頂かねばならないのですが、あいにく空き部屋がございませず……」
「俺、あれ以上広い部屋もらっても、置く物も無いし、持て余すだけですよ」
と、ヒューさんが先導してくれて、執務机の前にある革張りのソファーに座る。
相変わらず俺が奥。ヒューさんが入口寄り。この上座下座問題は、いつか何とかしたい。
「それじゃヒューさん、女神様のお話しを」
「シューッヘ様少しお待ち下され。先ほど伺う限り、何やら衝撃的な内容が含まれておりそうです」
「ですね、多分かなり驚くと思いますよ。特に女神様の」
「しばし。しばしお待ち下され。この部屋に、進入禁止と防諜の結界を張りますので」
「ぼうちょう?」
「要するに、のぞき見・立ち聞き・魔法による盗聴などを防ぐことにございます」
と、ヒューさんは両手を斜め上にかざし、早口で何やら唱え始めた。
ヒューさんでも詠唱を要する魔法なのか? あの猛烈な火柱を一言で発動したヒューさんが。
……しかも意外と長い。あっ、でも、もうそろそろ終わるっぽい、手をグッと握って、目を閉じてる。
「……ふむ。これで問題ございません。ここでお話し頂く内容が、意図せず漏れることは決してございません」
「ヒューさん、今割と長い詠唱だったように思うんですが、ヒューさんでも手こずる程、その防諜? 魔法って大変なんですか?」
「あぁいえいえ、そうではございませんでしてな。この魔法は、いくつかの魔法の合成魔法でして、言い換えればわたしのオリジナルでございます」
「オリジナルだと、詠唱が必要、ってことですか?」
「無詠唱にて意識をして発動することも出来ますが、複数の合成魔法故、漏れがないか一つ一つ確認しつつ魔法展開を致しました。それ故敢えて、詠唱スタイルを執りました」
なるほど。複数の魔法の合体魔法だから、パーツ欠けみたいな事が無いように詠唱してたってことか。
「じゃ安心して……うーん、何から話そう」
女神像が美少女フィギュアな件。
イスヴァガルナ様の鉱山の伝承部分は、実は女神様の仕込みだと言う件。
ローリスの3分の2、というのがそこまでの数でもなかった件。
イスヴァガルナ様がガチストーカーでヤバい件。
しかも、別に人命捧げろなんて一言も言われてないって件。
……まずはこの辺りから話すか。
俺はヒューさんに、あらかじめ話を聞いても卒倒しないように心の準備を、と伝えた。
ヒューさんは緊張したのか、つばを飲み込んだようで喉がぐいっと動いた。
「では、お話しします。まず、『真の女神像』なんですが……」
***
話し始めて、どれ位が立ったのかな、俺の位置からだと確認出来る時計が無い。
フィギュアと言ってもやっぱり通じなかったので「極めて精巧で、現し身に近い像」と説明した。
さすがのヒューさんも、「3分の2」が『人命でなくても良かった』件については、かなり驚いていた。
その際、女神様から伺っていたイスヴァガルナ様の性格というか気質も話した。ヒューさん、実に渋い顔をしていた。
ヒューさんはその件については、
「まぁ……イスヴァガルナ様の早とちりで随分と犠牲は出ましたが、今の繁栄に繫がっていると思えば」
と、何とか自分を納得させたい様な言葉を紡いでいた。
また、ヒューさんも俺と同じ「5,000人強」ってところには驚いていた。
なんでも伝承によると、3万人以上が暮らしていた、となっているとのことだった。
女神様がリアルタイムでご覧になって言ってる数なので、5,000強は100%間違いは無い。
「シューッヘ様。女神様と、真の女神像については、よく分かりました」
と、ヒューさんは俺に頭を下げた。いやそんな大した内容まだ言ってないよ?
「ここからがちょっと興味深い、今に繫がる話です、ヒューさん」
「今に繫がる、と申されますと?」
「実は女神像に掛けられた魔法、というのがあって、さすが女神様御自身が掛けられた魔法なだけあり、今でも効果を出せるそうなんです」
「3,000年前の魔法がですか。さすが暁の光の女神様、御力に底が見えませぬな」
「それで、どういう風にとかその辺りを詰めようとした時に、お昼になりました」
「なんとそれは、一番佳境になるタイミングでお訪ねしてしまい、申し訳ない」
また頭を下げるヒューさん。
ヒューさん偉い人なんだからもっと堂々としててくれて良いのに。
「それで、女神様とのお話の途中だったので、防諜がしてあるこの部屋は、うってつけかも知れません」
「そうですな、頂いた御言葉をすぐ教えて頂けるのは、とても嬉しゅうございます」
……女神様から、聞いて、話す。聞いて、話す。
結構これ、面倒じゃね? 一手省けないかなぁ。
「じゃ、女神様とお話しますね」
「物音を立てて邪魔などせぬよう、気をつけます」
「そこまでしなくて大丈夫ですよヒューさん、そんなに堅苦しくもないですし、集中力とかも要らないので」
苦笑いしつつ、俺は意識を女神様の御姿を思い浮かべることに絞った。
「女神様女神様、先ほどは途中になって失礼しました」
俺が声に出して言うと、
『意外と早かったわね。あとお昼美味しそうだったわね。今度よこしなさいよ』
と、いつもの女神様の声が「俺の耳と頭に」響く。現実には音も声も無い。
ここだ。このプロセスを省きたい。
ヒューさんに話を共有するにしても、漏れがあってもいけないし。
『ふーん、気持ちは分からなくないけど……条件厳しいわよ、それ』
「どんな条件でしょう。噂の真の女神像が無いとダメとか?」
『さすがにそこまで無理難題は言わないけど』
と、そこまで仰って言葉が止まった。
俺から聞きだそうにも、こうもノーヒントでは当てずっぽうにすらならないので待つことに。
『そのヒューってさ……あたしの信者じゃなくて、イリアの信者でしょ?』
「は? はぁ、多分そうだと思います。ペルナ様の事を知ってるのは博識だからで、信仰ではないでしょうね」
『あたしが、声をそのまま伝えるのに絶対必要で、同時に最低限の条件ってのが……私の信者じゃないとダメなの』
なんか……ペルナ様、照れてる? 声が困り顔な乙女に聞こえる。
『なによ、あたしが困り顔な乙女だとそんなに似合わない?』
「いえいえ、決してそうでは……ただ、ちょっと意外だなと思って」
『意外ってなによ意外って』
少し不機嫌そうなペルナ様の御声。
「1,000年とか3,000年とか、前へ出られてる時が少ないので、信者なんて要らないみたいな感じなのかと思ってました」
『信者は……いるならいるに、越した事はないわよ……供物で美味しい物食べたり、綺麗な服着たり、さ』
「ん? 綺麗な服ですか? あのローブが女神様の正装なのでは?」
「それはそうなんだけど、やっぱり別の服でおしゃれもしたいじゃない。もちろんオフの時に着るのよ?」
女神様意外と乙女説。
『乙女で悪い? それとも、似合わない? あたしは破壊だけしてれば良いって、あんたもそう思うの?』
「俺、そんな乙女な女神様も好きですよ。伝承とか世間は色々言うと思いますけど、なにせ、『女神』様ですから」
『ど、どういう意味よ、それ』
「女の子がおしゃれにもグルメにも興味無いなんて寧ろ不自然です、って意味です」
……ん?
あれ……答えが返ってこない。
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