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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第4章 魔族領遠征編 ~親書を携え、馬は進む~

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第10話 温泉、温泉~♪ (男湯)

 温泉も風呂の内なので、下着だけはこそっと持って、受付に降りた。


 受付で、水のボトルをワインボトル程の大きさのに2本、そしてグラスが2つと。

 それらがピッタリサイズで入るよう加工が施された、『ワイン樽の下半分のミニチュア』みたいな入れ物。

 ボトルとグラスを仕切りの大きさに沿って入れると、確かに丁度ピッタリで、ガチャガチャ言ったりしない。


 これは、ヒモで吊り下げる形で持っていくものらしい。

 持ち上げてみると、水の重さ程度。樽は軽量だ。


 女性陣は赤と白のワインをそれぞれ1本ずつ受け取り、同じ形状の樽にグラスと共に入れていた。

 うーん、ワインでも良かったかも。いや、俺はちょっと真面目な話もしたいから、酒はやめておいた方が良い。俺、弱いし。


 地下への階段を降りていく。

 日本だったら、ここまででのれんを1枚は必ずくぐっていそうだが、そういう物は無い。


 階段を降りきると、正面には鏡があり、道は右へと続く。

 右を向くと、手前と奥とに目立つ色の扉があり、奥の行き止まりには、形の違う扉があった。


「お、手前の扉が男湯みたいですね、向こうが赤、こっちが青」


 上辺が弧を描いている扉は、エルクレアの家々のペイント同様、派手に感じる原色をそのまま使って塗られている。

 異世界に来たはずなんだが……男の子は青くて、女の子は赤いな。生物的に女性が赤を好む何かがあるのか?


 奥の扉に目を遣ると、ドアノブの所に小さな掛札で「関係者のみ」とあった。

 温泉のバックヤードになってるのかな? まぁ今気にする部分ではない、か。


 取りあえずそれらを気にしない事にして、目の前の青い扉を開けた。

 むあっと、蒸し暑い風が中から吹いてくる。


「うおう、もうここから湯気ゾーンか」


 ヒューさんも入って、扉を閉めてくれた。

 奥からチョロチョロと鳴るだけの、静かな空間に鳴る。


 家族風呂のような~、だったか? そんな記載で、部屋にあった案内に書いてた位だから、脱衣所は広くない。

 更衣は壁に作り付けの棚に入れる模様で、「田」の字に区切られた棚がある。取りあえず、飲み物類の樽を、棚の下に置いた。


「シューッヘ様、この温泉は、臭いませんな」


 ヒューさんが天井の方を見たり、更衣室を眺め回しながら、言った。


「硫黄泉って種類の温泉は臭うんですけど、他のはそこまで強い臭いはしませんよ。ここは硫黄泉じゃないみたいですね」

「硫黄。なるほど、あの臭いは硫黄のものでしたか。温泉については、教わることばかりになりそうです」

「あはは、俺もそこまで詳しい訳じゃないですけど、前の世界じゃ、市内の山の中に日帰りの温泉施設があったりもして」


 そこまで言って、はたと思った。

 この世界、温泉が珍しいって言うけれど、温泉では稼げない程度にしか、温泉って『無い』のか?

 それとも、温泉が人気を得ない他の理由があったりする? 風呂大国・日本に生を受けてた人間として、気になる。


「ヒューさん、温泉って珍しいって話、さっきしてましたけど、どの位珍しいんですか?」


 俺の質問に、ヒューさんはふと真面目な顔になり、あごに触れながら深い思考をしているっぽい。

 そこまで考えさせるような質問したつもりじゃなかったんだが……


「少なくとも……西方三国で、温泉源を有している事を大っぴらに出している所はございません。

 ローリスなどでも、場合によっては温泉源はあったやも知れませんが、飲むのに適さない水が湧いても、ローリスでは誰も喜びません」


「えっ? 誰も喜ばない? もしかして、温泉の健康効果って知られてなかったりします?」


 俺は思わずヒューさんに一歩詰め寄ってしまう。

 いやだって、温泉がだよ? そんな扱いって。


「健康効果、ですか? 温泉は自然に湧き出る風呂の湯、または水、という程度の意識が一般だと思いますが……」

「それはもったいない! 温泉は、一大観光資源になるほどの『天然資源』なんです! 本来だったら、泉質を分析して、それぞれの温泉の健康効果を別個に謳ってっ」

「し、シューッヘ様。こと温泉の話になると、非常に、熱弁をなさいますな。それ程に温泉というのは良いものでございますか?」

「はいっ! 健康にも良い、泉質によっては、美肌効果があったり、皮膚病に効くとか貧血に良いとか、色々あるんですよ!」

「それは真ですか。そのような意識で温泉を捉えたことがございませんでした。健康になれる資源でございますか……」


 つい熱く語ってしまったが、ここはまだ脱衣所だ。熱く語るなら湯に浸かりつつの方が良い。

 さすがに語りすぎたと感じた俺は、少し気恥ずかしさを感じながら、服を脱いで棚に入れた。

 ヒューさんはローブをバサッと脱いで、それを棚に丁寧に畳んで置いた。この辺り、ヒューさんは丁寧で品が良い。


 樽を吊り下げて、浴室に入る。ガラス扉を開けると、もうもうと湯気がこっちに来た。


「うわぁ、温泉なんて久しぶりだなぁ。転生前にも、もっと行っときゃ良かった」


 何となく懐かしさを感じるような、タイル張りの浴室である。

 浴槽は岩をくり抜いた物で出来ている。岩の裂け目から湯がチョロチョロと出続け、湯面に注いでいる。

 これは源泉掛け流し――温泉を語る上で、一番喜べる要素。それこそこの「源泉掛け流し」だ。


 源泉掛け流しとは、つまりずっと温泉の湯、源泉を入れ続けることで、汚れた湯は強制的に薄まり、また溢れて出て行く。

 そういう循環で衛生が保たれている温泉が源泉掛け流しの温泉だ。

 日本だと、そこに更に循環ろ過追加の、より衛生的なスタイルが専らだが、古式の温泉には循環ろ過なしの掛け流しスタイルのものもある。


「かけ湯かけ湯、湯桶は……これ?」


 かけ湯をするにはともかく湯がくめれば良いんだが、洗い場の方の端にあったのは1つの四角い、木の升だった。

 振り返ると、浴室の入口横に、その升が積み上げてあった。三角になる様に積み上げるのは、何処の世界でも同じらしい。

 ヒューさんの升も、と思い三角形の所から2つ取る。これも樽同様軽い素材。この辺りの木材なんだろうか?


「ヒューさん、かけ湯はこれでするみたいですよ」


 手に取って、見せる。意外と手一杯になるもので、指を目一杯広げないと落としそうだ。


「升ですか。計量升などはありますが、風呂用に木製の升を用いるとは、珍しい」

「俺がいた世界では、酒を升に入れて『升酒』って飲むスタイルもありましたよ。温泉浸かりながらの升酒とか」

「升酒。木にも酒にも寄りますが、香りが移ってさぞ美味しいことでしょう。健康になる温泉と酒とは、贅沢ですなぁ」


 前世で升酒を飲める年では無かったので、その味は分からない。ただ雰囲気は良いよな。


 升で温泉の湯をすくう。

 ひょっとして、このまま飲んでも良いのかも。ちょっと口を付けてみる。


「シューッヘ様?! 風呂の湯は飲むものではございません!」

「ん……俺のいた世界では、温泉の湯は『飲むもの』だったんです、飲めない温泉の方が多かったですけど」

「なんと! 温泉は、浴用だけでなく飲用でも健康に良いのですか? してこの湯は、いかがですか?」


 独特の風味が残る口をモゴモゴしながら、ちょっと考えて、答える。


「どうなんでしょうね、俺も、飲用出来る温泉は珍しくて、1、2回しか経験は無いんですよ。

 でも確かそのどちらも、源泉掛け流しでした。あ、飲むのは専用の蛇口がありました。浴槽から直じゃないです。


 この温泉、味から言って、塩泉とは違う……なんだろ、この風味と重さ。飲料水より何かこう、ずっしりした感じの喉越し。

 飲んじゃダメなヤツだったかな……うーん、自信無いなぁ」


 と、答えていると、腹の中にポッと灯がともったような温かさを感じる。


「ほっ? なんか、あったかい」


 不快な感じでも、また酒の様な焼ける感じでもなく、カイロをペタッと貼ったような、ホッとするぬくみ。

 気分的には、何とも落ち着く感じがして良いんだが、それだけで飲用可と言い切れないしなぁ……


「飲んだ限りでは、悪印象は無いです。けれど、味の無い有害成分なんて幾らでもありそうだし、今の時点で飲用は勧められないですね」

「左様ですか。温泉を飲む、という一見突飛な行動が、実は身体に良いという事がある、というそれだけでも、わたしには新鮮でした。さあ、浸かりましょう」


 ヒューさんは柔らかく微笑んで、さっとかけ湯をして、いつの間にか樽を引っさげて、浴槽に入っていった。

 樽?! とヒューさんの行動には面食らってしまったが、俺も遅ればせながら湯に入る。


 浸かると、ジワジワ温かい。

 ん? 腕に気泡が……


 気泡が凄いっ、これ、炭酸泉じゃん! すごっ!

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