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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第4章 魔族領遠征編 ~親書を携え、馬は進む~

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第4話 ナグルザム卿のお誘いに、つい気分良く乗る。


「城の宝物に興味はございますか、英雄殿」


 ふと唐突に、ナグルザム卿に言われた。


「う、うーん……野次馬根性的に、見てみたいなーくらいの気持ちはありますが」

「正直な青年は好感が持てるものですな。エルクレア国王らが粗方持っていった後の、寂しい宝物庫がありますが、ご覧になりますか」

「い、良いんですかね、ご当主不在の宝物庫を覗いてしまって……ねぇ、ヒューさん」

「宜しいのではないですか? そのご当主とやらは、魔族に早々に寝返っておるのです。我らで接収しても問題無いでしょう」

「もーヒューさん、なんでそう刺々しいんですか。俺が言うのもなんですが、ヒューさんあとでお説教ですよ」

「は、はぁ。申し訳ございません」


 ヒューさんが頭を下げる。


「ご主人様。管理者のいなくなった宝物庫に入るのであれば、十分に警戒をして欲しい。罠が仕掛けられている事がとても多い」

「そちらのメイドの女性も、聡明な様で。人材に恵まれましたな英雄閣下。そこのご老体は如何様か知りませんが」

「ナグルザム卿、貴殿は何を意図して」

「まあまあヒューさん、少し落ち着いてくださいってば! ナグルザム閣下、ご案内頂けますか?」

「わたくしの足取りでは皆様の足手まといになりましょう。この衛兵に案内させますので、ご存分にどうぞ」


 ナグルザム卿がボソッと衛兵に声を掛けた。小声過ぎて聞き取れなかったが。


「では、ここからは私が皆様をご案内いたします。この城に秘匿する区画は既にありませんので、どこでも仰ってください」

「それではわたくしは、ここで失礼いたします。皆様の旅路が幸多きものにならんことをお祈りいたします」


 俺はナグルザム卿に頭を下げ、進んでいく衛兵さんの後ろについた。

 アリアもフェリクシアも、ナグルザム卿に丁寧に頭を下げているのに、ヒューさんだけは突っ張った態度のままその前を通り過ぎる。


 ホント、後でお説教だわ。


「この上の階に、謁見の間・玉座と、宝物室がございます。宝物室へは玉座の後ろから入る構造になっておりますので、続いてお進みください」


 衛兵さんの後ろを歩いて行って、ついさっき昇ってきた階段を横目に、逆サイドへと進んでいく。

 幾つもの部屋は、模様で中が見えないガラスがあって様子は分からないが、人か魔族か、誰か複数名いる様だ。

 王宮跡地と言うべき所かも知れないが、空いた部屋を使って公務が為されているのかも知れない。


 回廊の端に辿り着くと、街が少し見える外窓があった。俺は疑問に思ってた事を聞いてみることにした。


「衛兵さん、良いですか?」

「はい。何でもお尋ねください」

「エルクレアの建物の色が、もの凄くこう……カラフルと言うか、色がむちゃくちゃと言うか、アレは何なんです?」


 俺が自然眉をひそめてしまいつつ尋ねると、衛兵さんは軽く笑った。


「そうですね、外からみえた方は驚かれるかも知れません。

 民間信仰の様なものでして、エルクレアでは古くから、多彩な色が邪気を守る、と言われているんです。

 隣の家とも色を変えると更に邪気は遠ざかる、ともありまして、結果この目が痛くなる様な色彩の街が出来ています」


 ハチャメチャな色使いだと思ったら、そういう理由があった訳か。


「なるほど、民間信仰……平たく言うと、おまじないの様なものですか」

「ええ、ざっくり言ってしまえばそうです。ですが、随分古くから変わらず伝えられている伝承でもあり、歴史でもあります」


 おお。伝承・歴史と言われると、俄然重たいものに感じる。不思議なものだ。


「よく分かりました、ありがとうございます」

「何かあれば、いつでもどうぞ。この階段を上がり、扉を通ると玉座の間です」


 階段を上がって行き、再び廊下に出る。向こうの方に、開かれた大きな扉があった。


「あれ? 玉座の間の扉、開け放しですか?」

「ええ、王族もいませんし、ナグルザム卿も玉座を占められる事はされませんので」


 衛兵さんが進む後をついて、玉座の間に入る。

 見回してみると、赤の絨毯にひな壇、そこに赤い布張りの玉座と、王妃様の席かな? 2つ並んでいる。

 天井にも赤い布がゆったりと飾られている。太い柱と天井が布でふわっとつながっていて、見た目綺麗だ。


「わあ素敵! 騎士とか出てきそう」


 アリアがキョロキョロしながら、女の子らしい声で言った。

 騎士、ナイトの意味の方なんだろう。そう言えばローリスに騎士はいなかったのか、少なくとも俺は会った事ないな。

 ヒューさんが「騎士か爵位か選べ」と前王に言われたらしいので仕組みとしてはあるんだろうが、騎士に出会った事が無い。


「我が国には、金騎士と銀騎士という2つの騎士団がございました。全て国王陛下と同道しましたので、今この地にはおりません」

「金の騎士さんと銀の騎士さんで、役割分担があったりしたんですか?」

「はい。金の騎士はもっぱら特攻型の攻めの騎士隊、銀の騎士は陛下を始め味方を守る役目を果たします」


 ほう、名誉的な騎士というより、戦闘集団の騎士なんだ。

 ヒューさんに勧められたそれとはまた違うな。


「では宝物室を解放いたします。けたたましい音が鳴りますが、すぐ止みますので耳を塞いでお待ち下さい」


 言われるまま、耳に指を突っ込んで口を開く。

 単に音だけなら口を開く必要は無いんだが、魔法の爆発なんかで想定外にデカいのが来ると、口開けてないと耳がやられる。

 そのクセで、デカい音=口を開ける、みたいな習慣がついてしまった。


 衛兵さんがレンガ造りの壁にある取っ手に手を掛けると、予告通りけたたましいベルの音が鳴り響いた。

 重たげに壁を模造した扉が開かれ、中に衛兵さんが入ると程なく、音は止まった。中にスイッチでもあるんだろう。


「ではどうそお入りください。先ほどメイドの方が罠の危険性をご指摘されましたが、奥の奥にある開かない箱以外は、危険な物はございませんので」

「開かない箱?」


 玉座の後に隠すような宝物室であれば、余程重要な物があっただろう事は想像に易い。

 ただ大事な物は持っていくだろうし、開かない箱だけ残していくのは少々意味が分からない。

 欲深い誰かを罠に嵌めるための箱なのか、今の王には不要で意味ない物を破棄していっただけなのか。

 俺としてはその、開かないと言われる箱が気になった。開かないと言われると余計開けたくなる。


「その箱は、動かす事も開く事も出来ません。床に固定されているようで、持ち上げようとした兵は腰をやられました」


 と衛兵さんが苦笑いをする。固定されてるのか。そりゃエルクレア王も持ってはいけない訳だ。

 てことは、単に蓋が閉じてるだけで中は空っぽ、って事もある訳か。それだったらつまらないな。


「その箱ばかりは、安全確認のしようも無く放置されております。自由に扱って頂いても構わないのですが、安全の保証はしかねます」

「もしエルクレアの宝の様な大切な物が入っていた場合は……」


 ちょっと気になって聞いてみた。元から盗賊をするつもりは無いが、何か面白い物が得られればそれはそれでとか思ってしまう。


「新生エルクレアに宝物は必要ない、という事を、ナグルザム閣下はよく仰せになります。あまり特殊な物だと話し合いが必要かも知れませんが、いずれ皆様の帰属になる様な気はいたします。これも保証は出来ませんが」

「そう言えばナグルザム閣下は、このエルクレアをどういう国にしていこうというおつもりなんですか?」

「正直、一衛兵な私では理解の及ばないところも多々ありますが、ナグルザム閣下もあなた方と同じく、魔族と人間の融和の可能性を考えておいでのようです」

「そうなんですね、そういう方が、魔族領の奥まで一緒に来てくれたりすると楽なんですけどねぇ……」

「はは……さすがにエルクレアの統治者様でいらっしゃいますので、あまり長くエルクレアを空けていかれては、国民が困ってしまいます」

「ですよねぇ、はてさてここからどういう事になるやら」


 俺は言いながら、周りをしっかりと見回していた。

 中には金属のラックがあり、そこにはたくさんの箱類があったのであろう、埃が箱の形に残っていた。

 ラックに幾つか残る物と言うと、皿が重ねて残されていたり、豪華な壺がラックの最下段にあったりはする。

 わざわざ宝物室に入れるだけの壺だから、外国からの贈り物なのかも知れない。興味はないが。


 さて、懸案の箱は?


「なんだか全く盗賊の物言いですけど、開かない箱ってどこです?」

「ああ、こちらです。ラックが入り組んでて見えないですねそちらからだと」


 衛兵さんについて行くと、確かに箱はあった。想像していたより二回りは大きい。

 箱である。木箱である。宝箱とかでは全然なく、ホントに木箱。

 ワインとか瓶で入れて熟成させるとか? そんな用途にでも使ったかの様な、デカいがどこにでもありそうな木箱。


「……これ、ですか?」

「はい。お宝の匂いが全くしないでしょう?」

「そ、そうですね……ワインか何かをエイジングさせてるとかかな」


 手を伸ばしかけた俺に、フェリクシアが素早く俺の手をつかんで止めた。


「軽々に触れない方が良い。魔法的な観察を済ませてからだ」

「あ、ああ……」


 いきなり手をつかまれたのでびっくりした。

 とは言えフェリクシアの言うことに道理があるので、俺は箱から少し距離を取った。


「[マギ・アナライズ]」


 あまり慣れは無いが、マギ・アナライズの魔法を行使する。

 流れてくるマギを観察していく。ん? 木箱のはずなんだが、金属質が強く感じられて、中に魔力が染み込まない。つまり、中身も探知出来ない。


「俺じゃダメだこれ。木箱なのに金属の箱みたいにしか感じられない」

「変わろう。念のため少し離れていてくれ、魔力感知式爆発魔法なんてものも、世の中にはあるくらいだからな」

「ん? 魔力探知式?」

「魔力を照射されたのをきっかけに、辺り一面吹き飛ばす魔法爆弾だ」

「恐っ!」

「大丈夫。特有の、反応・探知する為の魔力が発されてないから、この箱にそれはない。では、[マギ・アナライズ]」


 飛び退いた俺の横を微笑ましいものでも見る様に、フェリクシア先生は箱に入れ替わり近付いて魔法を行使した。

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