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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第4章 魔族領遠征編 ~親書を携え、馬は進む~

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第4章 プロローグ1 砂漠の中を突き進み、まずは今宵のお楽しみへ。

4章スタートです!


「まもなくライラスに到着いたします。この馬車は人目を引きますので、多少離れた所に停車いたします」


 ローリス城塞都市を発ったのが午前中だった。今は夕暮れ、そろそろ日没だ。


 馬車は快適どころか、屋敷にいるのと変わりない感覚ですらあった。

 広さこそ屋敷のホールより多少狭く、ソファーベッドがあるので動けるスペースは少ないが、とにかく揺れない。

 砂漠の上を、まるで滑る様に進んでいるっぽい。外を見ても一面砂漠なので、進んでないかの様な錯覚を覚えもする。


 内部は魔導空調が効いている様で、ひんやりと涼しい。窓も遮熱なのか、砂漠の灼熱感はゼロ。

 道中、移動版[アジャスト]を使おうと当初思っていたが、まるで必要が無かった。

 客車の中は快適そのもので、アリアは昼寝を、フェリクシアと俺とヒューさんはそれぞれに読書をして過ごした。


 フライスさんの風の精霊魔法の効果なのだろう、客車にいると風を切る音すらしない。

 試しに窓を開けて顔を出してみると、馬が砂を蹴る音はするし足下の砂地は凄いスピードで後ろへすっ飛んでるのに、顔に強い風が当たる事はない。

 客車の先頭に付いている窓を開けてフライスさんの様子を見てみると、そちらも風は無く、小窓から普通の声で会話が出来た程だ。

 因みに速度は、80クーレア毎時程度のゆったりした速度です、と言っていた。いやどこがゆったりなのか。強靱馬の馬力はどんだけだ。


 それもこれも、フライスさんの精霊魔法と操馬術があってこそのものなのだろう。

 幾ら馬車の性能が良くても、砂漠である以上ある程度起伏はある。80キロものスピードで走れば、普通は飛んで跳ねてしまう。

 だが、そういった事は一度たりと無かった。客車にいるとまるで、なめらかに地面に沿って滑っている様な、そんな感覚だ。

 精霊魔法と言うと、フェリクシアの[イフリート]しか俺は具体的なのは知らないが、フライスさんの精霊魔法も相当な規格外だ。



 俺は横の窓を開けて、進行方向を見た。

 まだ距離はありそうだが、大きな水場に夕日がきらめいている。綺麗だ。

 その水場の周りに、幾つもの石組みらしき建物があるのが見て取れる。見る限り、平屋の建物ばかりだ。


 その水場から少し右に離れた所に、ローリスの中央市場の様な、大きなテントらしき物が見えた。


「ヒューさん、ライラスのキャラバンって、あのテントですか?」


 俺は窓から指差しながらヒューさんに声を掛けた。


「左様にございます。キャラバン、は移動商隊の事で、あのテントの市場は、バザールと呼ばれます」


 バザール、か。女神様翻訳は今日も相変わらず調子が良いようだ。

 地球の中東由来のカタカナ語すら正確に翻訳してくれる。この力こそ実は、最強のスキルなのかも知れない。


「バザールでは何が売られてるんです?」

「その時々で様々にございますが、香辛料やハーブ、織物や民族衣装など、特定の土地ところの産品は、バザールならではの物が多々あります」

「へぇー、それこそ見るだけでも楽しそうですね。民族衣装か」


 ふと、視線を感じた。アリアと目が合う。


「ん? 興味ある? 民族衣装」

「うん!」


 民族衣装か。どんな感じなんだろうな。

 日本だと着物は民族衣装扱いだけど、よく知らないが格式によって華やかさとか威厳とか全然違うらしいし。

 他に俺が知ってる民族衣装というと、せいぜいチャイナドレスとチマチョゴリ辺りで、欧米系のは全く知らない。

 そう言えば、以前アリアと街へ買い物に歩いた時に、モンゴル衣装風のカフェがあったっけ。あんな感じのもあるのかな。


「フェリクシアは……」

「その民族のメイドが着る専用の物があれば、興味はある」


 ひどくニッチな回答が返ってきた。

 メイドを生活圏に抱えられるだけの、豊かな文化がある民族でないとあり得ないよなそれは……


「ま、何にしても、バザールは見に行こう。街の偉い人に挨拶とか必要ですか?」

「本来であれば。ですがバザールの開催時は皆忙しく、形式上の挨拶はむしろ煙たがられます」

「そっか。じゃアレかな、バザールへの直行直帰。それとも宿をあの街で取るべきですか?」

「いえ、その必要は特にございません。もちろんご興味がおありでしたら、それでも構いませんが」


 バザールだけ楽しんでそれでOKなら、その方が気楽で良い。

 街自体そこまで見所のありそうな街って感じでも無いしな、遠目に見る限り。


「じゃ、馬車降りたらそのままバザールへ行って、終わったら馬車に戻ります」

「かしこまりました。この度の遠征旅費を国から預かっておりますので、買う物がありましたらお申し付けください」


 うわお、公費で買い物しちゃうのか。大胆だな……

 ……と思ったが、英雄費であれこれ、の事を思えばまだマシか。


「停車いたします、揺れにご注意ください」


 小窓が開いて、フライスさんが言う。

 辺りの地面を見ると、砂漠では無くなっていた。サバンナの様な、堅い土の大地に、少しの草がある。

 一面砂漠だと速度が分かりづらいが、草木があるから減速していく様がよく分かる。


 次第に速度を落として……止まる。揺れ? ないない。


「では参りましょう。ライラスの街まで、歩きで15分ほどの位置と思われます」


 言いながら、ヒューさんは出入口の錠を外し、扉を開けた。ふわっと熱い風が中に入ってくる。


「精霊魔法が無いとこんなに熱いのか。フライスさんも疲れただろうに」

「呼びました?」

「うおっと!」


 遠く街の方を見つつ出口のステップに足を掛けたら、そこにフライスさんがいたので驚いた。


「ふ、フライスさん。もし体力的にでも魔力的にでも、疲れてたら言ってください。エリクサー類があるので」

「いえいえとんでもない! 御者が主人のエリクサーを使ったなんて知られたら、御者仲間に何言われるかっ」


 とフライスさんは首と手をブンブン振りつつ拒否る。

 別に構わないんだけどなぁ。1回1滴しか使わないから、いずれ無くなるにしたって当面は無くなる気配が無いし。


 今回は、魔族領での大戦闘になっても何とかなる様に、持てる物は全て持ってきた。

 俺の星屑の短剣はもちろんのこと、アリアのウロボロスの瞳、こと時の四雫。フェリクシアの7本ミスリルナイフ。

 ……あのナイフ群、女神様との戦いで1本折れた。が、本数は7本で持って来てた。1本は包丁入れてるのかな。


 更にエリクサー、マギ・エリクサーに、ヒューさんからもらった常備薬の詰め合わせも、持ってきている。

 もはや『移動ノガゥア邸』みたいになっているが、今回の目的地は『人』の住まない地域。用意はするに超した事はない。


「さて、と……砂漠地帯同様、夜は冷えそうだな」


 長く居るなら[アジャスト]を使ってしまっても良いんだが、ちょっとバザールに遊びに行く程度で告知音まで鳴らしてしまうのは目立つか。

 ふと振り向くと、既に皆、客車から降りていた。うん、フェリクシアのメイド服が、改めて目立つ。屋敷にいる分にはそぐってるんだが。


「じゃ、バザールへ行こう。何が待ってるか、楽しみだね」

「うんっ、ちょっとワクワクしちゃう」

「珍しい調味料などあると良いのだがな。中央市場では手に入らない様なハーブがあれば、最高だ」


 女性陣はそれぞれに考えと言うか思惑がありそうだ。

 フェリクシアは言葉そのまま調味料とかスパイスの店? に行ければ良いだろう。

 アリアの方は、やっぱり服かな。民族衣装もそうだけど、珍しい物があれば見繕ってあげたい。


 俺がバザールの方へと歩き出すと、さも当然の様に俺の右斜め前方にフェリクシアが位置取った。

 ん? と思い後ろを向くと、真後ろにアリアがいて、その後ろ少し離れてヒューさん。フライスさんは馬の方へと歩いていった。

 んー……これ、俺とアリアは気が抜けてるけど、先頭のフェリクシアとしんがりのヒューさんは、バリバリ気を遣ってるパターンか?


「フェリクシア、ヒューさん。かなり警戒してません?」

「ご主人様。ここら辺りは私も来たことが無く、どこに危険があるか分からない。警戒しておくに越した事はない」

「そっか。お祭りっぽい売り場だと、スリとかもよくいるって聞くしね」

「スリ?」


 おや? スリは通じないのか。


「懐の財布を、スッとこう静かに盗んでいく様な、そんな盗人(ぬすっと)

「ああ、それをご主人様の国の言葉では、スリと言うのか。抜き去り盗と言われているな、ローリスでは」

「抜き去り盗ばかりが危険ではございませんシューッヘ様。この面々ではまず心配無用ですが、婦女子の連れ去りなどもございます。

 中央権力から離れた独立区域、言い換えれば『勝手領地の勝手支配』の地域ですので、十分な警らなども決して期待出来ませんので」


 そう聞くと、随分治安の悪い市場に出向く様な気分になってくるな。

 とは言っても、このメンツで勝てない人間を探す方が難しそうだし、抜き去り盗でも強盗でも、フェリクシアとヒューさんなら何とかしそうだし。


「ま、大事な物にだけは気をつけて、楽しみましょう、バザール」

「はい。買い直せる物は盗られたところでたかが知れております」


 なんやかんや話をしながら、俺達はバザールに向けて歩を進めた。

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