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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第3章 英雄外遊編 ~ローリスからおそとへ出てみましょう~

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第3章 エピローグ1 出発式の主役は

 出発式。というか、ローリスにもこういう所があったんだと初めて知る、講堂の様な施設。

 オーフェンの大聖堂の様な雰囲気だが、あそこまで真っ白では無い。壁があり、席があり、3階席まであって、舞台と演台がある。


 俺達4人は、舞台に向かって左側に揃って座っている。荷物は昨日のうちに、フライスさんが馬で回収してくれてある。

 今はと言えば、陛下がこの英雄派遣について、力強く演説をされてる真っ最中だ。


 まだ続いている長い陛下の演説の中身からすると、今回の英雄の使節としての派遣、という事になるらしいが、それは「新しい秩序の構築」がメインテーマらしい。

 魔族との交易だけでなく、英雄だからこそ魔王との直接対談も望める可能性がある、だとか、英雄として、女神様の使いとしてこの世界に降りたった英雄がどうのとか。


 持ち上げるのは、分かる。そりゃ一応英雄が主役になる今回の遠征だから、持ち上げられるのは分かっていた。

 けれど、陛下のお言葉を聞く限り、何だか一世一代の賭けみたいな、そんな印象を受ける。


 まぁ確かに、俺自身魔王ガルドスと話が出来るかは未定、魔族領をどこまで奥へ行けるかも不明、と、分かっていないことも多い。だから賭けと言えば賭けだ。

 とは言っても、国民にそこまで『不確定要素』を正直に話してしまう辺り、陛下の性格が現れている気もする。


 因みに今日のこの講堂、国民に一般開放らしい。

 凄い数の聴衆で席は全て埋まり、立ち見も、更に建物の外にも人垣が見える。

 オーフェンでの到着式典の様なアウェイ感は無いので、緊張もさほどしないが、それにしても凄い人の数だ。



「今日この日、我が国が固有に有する人類の英雄を、魔族領に使節として送る。

 全ての国民よ、女神サンタ=ペルナ様の御名(みな)を口にせよ。サンタ=ペルナ様の御寵愛を受けし英雄、シューッヘ・ノガゥア子爵はこれより、魔族領へと旅立つ。

 シューッヘ・ノガゥア子爵は我ら人類が長く断絶の関係にある魔族との架け橋となり得る唯一の人間である。全ては彼に託された。彼に栄光のあらんことを」


 陛下の演説が終わった。さすが陛下、この国でのトップオブ・カリスマなだけあって、聴衆は皆立ち上がって拍手をしている。


 俺はちょっと不安を覚え、横に座るヒューさんに小声で尋ねた。


「ヒューさん、この流れ、俺に一言とかって無いですよね。俺、何の支度もしてないですけど」

「陛下次第でございますが、あり得ぬことでもありません。何かお考えになっておいた方が」


 一気に胸がざわっとする。20分以上は熱く演説していた陛下の後で、何を言っても盛り下がるだろうに。

 と、陛下が着席される。俺達とは演台挟んで反対側の、一番上座の席だ。すぐに、後ろに立っているワントガルド宰相閣下が前に出る。


「ウオッホン! 陛下のお言葉通り、国民は皆、サンタ=ペルナ様への恭順を示せ。天を仰ぎてその偉大なる御姿を思い浮かべ、祈りを捧げよ」


 堂々とした声で、ワントガルド宰相閣下が言い切った。

 が、言われた「国民」の側の反応が鈍い。

 横の人と互いに顔を見合わせ、何やらしゃべり出している人多数。ここからだと声までは聞こえない。

 ごそごそ、が、ガヤガヤ、に変わるのに時間は掛からなかった。

 沢山の人が、あっちこっちで勝手にしゃべり出している。


 ちょっとワントガルド宰相閣下の様子を見ると、静観、という感じで、顔色一つ変えずに突っ立っている。

 ただ、その目線だけは、会場の端から端へ、何度もゆっくり往復している。タイミングでも測ってるのか?

 ガヤガヤ、がザワザワに変わった辺りで、ワントガルド宰相閣下が再度特大の咳払いを放った。


「諸君らは、サンタ=ペルナ様の事をまるで知らず、混乱しておると見るがどうか」


 舞台上からの問いかけだったが、なるほどそれが原因だったらしい。

 聴衆の人々が大きな声で、そうだ、サンタペルナって誰だ、など様々に声を挙げた。


 と、え? 

 不意にワントガルド宰相閣下の顔が、こっち向いた。

 じー……と、俺の事を見ている。明らかに何か言いたげである。


 何? 

 この場面、何を正解として求められてるん?

 つい俺は腕組み足組みして、考え込んでしまった。


「シューッヘ様、舞台上で足を組まれてはいけません」


 直後にヒューさんからダメ出しが飛んできた。ハッとして足だけは下ろした。


 聴衆の人たちは、サンタ=ペルナ様を知らない。

 それもそうか、レリクィア教会の立ち位置もほぼ『古墳』の扱いだしな。


 結果として簡単なのは、ペルナ様にここに御降臨頂くことだが、ちょっとそれには、この講堂は今、雑多に過ぎる感がある。

 かと言って、全く想像出来ない相手に祈れと突然言われても困る、ってのは、理解出来なくも無い。


(女神様、女神様……恐れ入りますが、ちょっとこの講堂の天井辺りで『光って』頂けませんか?)


 俺は目を閉じ手を組んで、祈るように言葉を胸の内で響かせた。

 と、次の瞬間だった。講堂の3階席より上、ほぼ天井の下、という位置に、光り輝く人の形が現れた。

 おおありがたい。これはチャンスなので生かさなければ。


 俺は椅子から立ち上がって舞台のギリギリまで進み、よく見える位置に立った上で、その光の人形に向いて、大きな所作で跪いた。

 俺の意図を分かってくれたらしい陛下も、同じ様に壇上のギリギリまで進まれて、膝を折る。

 後ろを確認すると、俺の仲間達は各自自分の席の前で膝を折ってペルナ様の御光に向いていた。


「おおっ、アレが女神様なのか?!」

「め、女神様が! 俺達の前に現れてくださった!」

「あれがサンタ=ペルナ様なのか?!」


 聴衆席の方が騒がしい。まだ皆、俺達の様に膝を折ったりせず、残念なことに指差したりしている人もいる。

 女神様に御顕現など頂いて、指差す人間がいたりしたら、惨事が起きかねない。故に「光って」頂くだけにした。

 多分女神様なら、文字通りの片手間でもって、あの光を生む事くらいはなさるだろう。現に、光は強いが、特に光に動きも無い。


 ただこのままでは、いつまでも進展は無いな。ここは俺が、何とか人々を誘導するべきか。


「あの光こそ、サンタ=ペルナ様の存在を、女神様御自ら示してくださったものです! 皆さん、最敬礼をっ!」


 膝を折ったまま、大声で聴衆に向けて言った。

 子爵程度が貴族含む国民に直接命令していいものか多少迷ったが、女神様に近いのは俺だし、女神様に「光って」とお願いしたのも俺だから、俺がやらないと。


 幸い、とでも言えば良いのか、俺に文句を言ってくる人はいなかった。

 俺が言った最敬礼という言葉は、それぞれに解釈されたらしく、光を仰ぎ見て手を合わせる者もいれば、小さく背を丸めて頭を下げる者もいた。

 2階席、3階席にも視線を投げると、貴族なんだろうな、豪奢な衣服の者たちもまた、頭を下げている。


 良かった、女神様の怒りを被る事は無さそうだ。


「王様、締めのお言葉を頂けますか」


 陛下にだけ聞こえる程度に絞った声で、陛下に発言を促す。

 やっぱり俺が何か言ってそれで最後にするってのは、この国では少々あり得ない話だ。


 陛下は俺の目線に、黙って頷いてくださった。そして、再度光に向かって深く頭を下げた後、立ち上がった。


「女神サンタ=ペルナ様の御降臨を賜り、国王として感謝に堪えぬ思いである。サンタ=ペルナ様、英雄たちの旅に、御加護を」


 陛下がそう言うと、光の人形はスーッと上からここに向かって降りてきた。

 大変眩しい光の人形が、俺と陛下と等距離の前方、舞台の前に浮いて止まると、フッと前面だけ光が消えた。

 えっ? と思う間も無く、そこに現れたお顔・お身体に、俺はギョッとして床に頭着かんばかりに頭を下げた。


(ぺ、ペルナ様、光の中に、いたんですか……?!)


『まあね。イリアばっかり知られてるのも悔しいから、私も顔くらい出そうかなって』


「ま、誠に女神様が御降臨なさるとは! シューッヘ、お前がお呼び立てしたのか?!」


 陛下の言葉から、非常に焦っておいでなのが分かる。


「はい、俺としては、単に光って頂いて、象徴的にとか考えてたんですが、中身ありで来られましたね」

『あら、中身ありじゃマズかった?』

「いえ良いんですけど、だったら民衆一同に一言お願いしますよ。折角のチャンスですよ?」

『チャンス? 何の』

「お供え物とかゲット出来そうじゃ無いですか、誘導の仕方によっては」


 女神様の目が輝いた気がした。あくまで気がしただけだ。女神様のお心の内を探るなど、いけないいけない。

 その女神様は、ある瞬間光を止められた。いつもの白いワンピースに金の腰紐、というスタイルで、演台の前で浮いていらっしゃる。


「あ、あれは?!」

「あれが女神様なのか?!」


 皆、指差したりしている。いかん、顕現なさっている女神様への無礼は、死をもっての報いが来る。

 俺が危機感を持って女神様を見ると、後ろ姿からでも、何故か上機嫌そうな雰囲気が伝わってきた。アレ?


 女神様、くるっと振り返られた。


『ローリスの民に言っておくわ。今回の遠征で、英雄は世界を変える。変わる事に覚悟をしなさい。

 そして、ローリスの民として、私の礼拝所を幾つか作り、捧げ物をしなさい。必ず報う事を約束するわ。

 向こう最低100年は私の時代が続く。イリアを祈る習慣を無くせとは言わない。加えて私にも祈りを捧げなさい。

 私を祈らない者、私を無き者としようとする者には、それなりの報いをもって神として処断する。覚悟の出来た者から手を挙げなさい』



 なん、とも……げんこつ外交というか、まぁ女神様らしいストレートさと言えばそうなんだが。

 舞台から眺めていると、最初の一人の手が挙がるまでは、少し掛かった。

 が、一人が手を挙げ始めると、次々手が挙がり、見る限り会場の全ての手は挙がった。


『喜ばしいわ。ローリスはこれから益々栄える。これまで問題だった事も、次々と解決されていく。そして世界も栄えるわ。

 全ては私への祈りが集まるか否か、それで全て決まる。祈りなさい、ローリスの民よ。あなた方が世界を作るのよ』


 よく通る御声で仰せになって、次の瞬間フラッシュの様に強い光が発せられたと思ったら、女神様の御姿は既にそこに無かった。

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