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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第3章 英雄外遊編 ~ローリスからおそとへ出てみましょう~

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第78話 女神様より魔王様の方が歴史があった。


『まぁ、あんたが無事に魔族領奥地にある魔王直領まで入れれば、それだけで歴史的快挙なんだけどね』


「まおうちょくりょう?」


 よく分からん言葉が出て来た。女神様相手なんだから女神様翻訳のミスではあるまい。


『魔王直領は、魔王の直轄地ね。ローリスで言えば、この城塞都市みたいなもんかしら。魔王城もあるし』

「魔王城。そこにその魔王……名前も知らないですけど、凄いのが居る、と」

『名前も知らないのは問題ね。魔王は今はガルドスを名乗ってる。この世界の魔族の中でも、魔王は例外的なアンデッドよ』

「へっ? 魔王ってアンデッドなんですか?」


 そ、それは意外……アンデッドって言うと、せいぜいリッチみたいなのが貴族レベルにいる位のイメージしか無い。


『例外的なアンデッド、ね。殺せば死ぬし、死んだらしばらく死んでるんだけど、蘇るのよ。古代から居る魔物なの』

「は、はぁ……古代からずっと、死んだり生き返ったりを繰り返している、と?」

『そう。だから昔の事も詳しいし、魔族領内の他では途絶えてしまった様な魔法も使える。もちろん人間が使う程度の魔法は全て手の内よ?』


 アンデッドで、大魔導師、なのか。古代から……って事は、古代魔法すら常識なのかな。

 生物として生き続ければ、老いる事も当然ある。が、蘇り系アンデッドか。記憶なんか引き継いで蘇れば、老いなんてのすらクリア出来てしまう。


 そんなケタ外れに規格外な相手が、テーブルの向こう側な訳、か……こりゃちょっと一筋縄では行きそうに無い。


『まだあるわよ? 魔王は死に帰りする度に名前を変えるけれど、基本的には1体による単独・継続的な治政を続けている。

 知能の低めな種族には、その辺りが上手く伝わらず"新しい魔王様!"みたいな事もあるんだけど、人間並み以上に知性がある魔族は、その事をよく知っている。

 人間で言うなら、大長老みたいな人が、いつまでも若くて元気で政治してる、ってとこかしらね。少なくとも何万年も同じ精神体の王政が続いてるのが、魔族領なの。

 つまり、人間で言えば、彼ら魔族はずっと、神様みたいな存在が昔から今に至るまでずうっと統治してくれてる、みたいなところなの。想像付くかしら』


「想像出来なくは無いですが……リアリティは全く無いですね。何万年も、ですか?」


『ええ。私がこの惑星に就役したのが4,500万年くらい前なんだけど、その頃には既に彼はいた。まだ人型生物は彼の他いない、統治とかも無い時代だったけど』


 一気に意味不明になってきた。

 女神様がこの星に入られた時期ですら凄まじい年限だと思うが、その時以前、つまり5,000万年とかを生き続けてる生き物?

 地球で言えば、恐竜が天下取ってるみたいなものにでもなるのかな。分からん、さすがに想像の枠すら超えてきた。


『もちろん最初から最強種って訳では無くて、時代時代で彼も虐げられる側に回っていた事もあるわね。

 でも、人間がこの星で文明を築けるだけの知恵と力を身に付けた頃には、彼は安定した魔王政を敷いて、魔族領をまとめていたわ。


 人間は、文明の過度な尖りすぎのせいで、幾度か私たち神の審判の元ほぼ絶滅の憂き目に遭ってるけど、魔族にそれは無いわ。

 魔族と神族が直接手を取った時代もあったけれど、これはさすがに人間を含めた他の生物に不利過ぎたから辞めになった。

 あの時は、魔族の中に神の領域を侵そうとする者も出てくる始末だったしね。その時代以降、神は彼らとは手は切ってる。


 英雄の召喚術を人間の手に与えてあるのは、いざ魔族が暴走した時の対応の為。

 頑丈なのが多い魔族を神が全滅させる程の事をしたら、この星自体がもたない。だから人間に少し力を乗せてる訳。

 だから、召喚英雄もそうだし、自然発生的な英雄、それにイスファガルナの様に神の力で英雄になった者もいるけど、いずれも魔族の力を削ぐのが主目的なの』


 女神様が流ちょうにお話しになられる。人間の、最初の文明の時からずっと、魔王は魔王だった、という事だよな。

 英雄召喚……まさに俺がそうな訳だが、それも『魔族の暴走のストッパー』として、な訳だ。神様からすると。


 う、うーん……ストッパーな俺が、魔族と平和的に対話して、魔族との友好的交友を、とか言っちゃうのは、やはりダメなのかな……。


『あんたは、こちらからすると異世界になる地球の生まれで、しかもとびきり戦時に疎い日本の生まれでしょ?

 だから、もしかするとあんたの代から"英雄の意味"は変わるかも知れない。対魔族兵器としての英雄から、魔族との架け橋としての英雄に。


 転生を司る神としては? 別にどちらでも良いの。人間と友好関係になって魔族に何か利益があるのかは分からないけれど。

 でもまぁ、魔族としても、あんたがそう動いたなら少なくとも今後、突然、対魔族兵器としての英雄に攻め入られる危険性は、今後まず無くなる訳だし。

 魔王ガルドスだったら、友好条約でも署名しそうな気はするけどね、あくまで私の見る感じでって話ではあるけど』


「魔王は、その……平和主義者ですか? サリアクシュナ特使の言葉でも、内政には力を費やす方、みたく言ってましたが」


『それも含めて、私たち神は関わってないから何とも言えないわね。ガルドスの考えと、国の上層部の考えは違うかも知れないし』


「ああ。そうか人間と同じで、王様だけが全て決める訳でもないのか、それはなかなか……」


 ローリスだと、陛下がズバズバ決める「場面もある」けれど、それ以外の場面も当然多いんだろうと思う。

 それと同じ事が魔族の国にも言えるとしたら、大臣みたいな魔族に好戦的な相手や、人間嫌いの相手がいても不思議では無い。


『まぁ、あんたも私とこれだけ詰めて話せるところまで回復した様だから、一度城に顔出したら? ヒューが超頑固な堤防になってしまってて、困ってる人、多いわよ?』


 ヒューさん。俺の為に……


『伝えておかないといけないのはこの位かしら。

 あと、図書館の6番通路の一番奥から二つ目の、右側の書棚に、少しだけど魔族関連の書籍があるわ。

 魔族と人間とで、儀礼的な違いや習慣の違いがあるから、勉強しておいて損は無いわ。いずれ見ておきなさい』


「はい。6番通路の、右手側の奥から2つ目、ですね。他に見ておくべき書籍やお勧めはありますか?」


『アリアには、古代魔法を学ばせなさい。あの子じゃ原典は、ちょっと頭痛くなっちゃって読めないでしょうね。助けてあげなさい。

 魔力量としては、大魔法と言われる基礎数50以上の魔法も問題無く使えるから、あらゆる古代魔法を学ばせる事を勧めるわ。


 ま、そんなところね。あんたがこの星の新しい秩序を築く事に成功する事、私も願っているわ。じゃね』


 と、女神様が手を振られた……のが見えたと思った瞬間には、俺はホールに立っていた。



「戻られたか。女神様の所は如何であったか?」


 振り向くと、フェリクシアもアリアも、椅子に腰掛けていた。


「うん。結構濃密な時間だったから、少し疲れたかも。お茶もらえる?」

「うむ、今用意する。何か回復剤の類は必要か?」

「いや、単なる冷茶で」


 まだ頭の中が少しふわふわするが、自分の椅子に腰掛ける。


「お疲れ、シューッヘ」

「うん。あ、女神様がアリアに、古代魔法を学べって。しかも凄いのも含めてだって」

「凄いの? どんな?」

「俺も使えない、基礎数が50を超えるのも。因みに俺が使える最大は12ね」

「えっ?! シューッヘよりも凄い魔法使えちゃうのあたし?!」

「らしいよ? 女神様から、アリアの勉強を手伝うようにってハッキリ言われた。図書館詰め再びだねー、はは」

「ええー、また読書? もう読書要らないのにぃ」

「女神様からの指令だから拒否は出来ませーん」


 俺が笑うと、アリアは眉間に深いしわを寄せ、そののち机に顔面から突っ伏した。

 アリアの活字嫌いはよほどの様だ。それでよく生活者ギルドの講師やれてたな。実は口伝とかなのか?


「待たせた、ご主人様」


 そんなところに冷茶が届く。


「今の話、聞こえた? アリアがとんでもない魔導師になりそうな件」

「ああ。古代魔法の基礎数が50以上か。発動すらおぼつかない私など、もはや奥様に頭も上がらなくなりそうだ」

「フェリクまでそんな事言うぅー、あたしそもそも覚え悪いのよ、新しい事って。しかも凄い文字たくさんでしょ? うーきびしい」

「ははっ、まぁ奥様は、当家の最大火力として、後陣に堂々と構えておられれば良かろう。手数ばかり増やす事もあるまい」


 フェリクシアは両手にソーサーを持ってきて、一つをアリアの前に置いた。

 そのまま俺たちの対面の座席に座り、ソーサーもその目の前に置かれる。


「それでご主人様、肝心の結界は、手に入れる事が出来たのか?」


 言われて思い出した。頭ガツンとやられたアレだ。

 女神様は、これで元通り、みたいな事を仰っていたが、実際にあそこで試してないので何とも言えない。


「元に戻ったはずなんだけど、まだテストしてない。試してみるかな、[全反射型絶対結界 形状はこのソーサーをコピー]」


 机の真ん中に向けて手を伸ばし、結界を宣言する。

 と、直ちにそこに、銀色の「皿」が生じた。ちょうどアリアの前にあるカップの下のソーサーそのまんまなサイズだ。


「おお、出来た。元に戻った!」

「それは何よりだ。ご主人様の表情も、この鏡の様な皿が現れた瞬間、以前の自信のある表情に戻ったぞ?」

「えっ、そ、そう? やっぱ表情に出ちゃうものなんだな……」


 うん、そりゃ、嬉しいし、仕方ない。

 俺にとってこの絶対結界は、この世界での俺のアイデンティティーと言ってもおかしくない。


「うん。これで魔族領に行くにしても、安心して行けるってもんだ」

「ご主人様に自信が戻って、私も嬉しい。アリアは、これから待ち構える書籍の山でそれどころでは無さそうだな」


 と、フェリクシアが苦笑いをする。


「うー、誰かあたしの代わりに勉強してぇ~」


 アリアは顎を机に乗せたまま顔だけ前を向く。

 明らかに、フェリクシアに言ってる感じがする。


「無茶を言うな奥様。勉強は、個々人でせねばならないのだ。何事も諦めが大事だぞ?」

「あうー、もっと本読む習慣付けとけば良かった……」


 ガクン、とまた机に伏せった。

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