第72話 <side フェリクシア> ご主人様の部屋から下がり、夫人トーク。のち、昼ご飯。
<side フェリクシア>
ふむ。抱かれると、何故か調子が良い。気分も良いのだが、それ以上に身体の調子が良くなる。
不思議なものだな、男女の交わりと言うものは。単に部分と部分が接触している、ただそれだけの様でいて、何かが違う様だ。
シューッヘは、今はもう深い睡眠に落ちた。ちょっとつついてみても、むにゃむにゃ言うだけで起きない。
さっきまでの、悩みに満ちたシューッヘの顔付きから考えれば、今は安堵して眠りに就いている様子だ。喜ばしい事である。
プロテクターを肩に掛け、退室する用意をする。たっぷり遊んで頂いて大分あちこち湿っているメイド服。さすがに着替えるか。
メイド服もそうだが、下着がな……時間を置いて後から勝手に、中からご主人様のが垂れてくる。未だにアレは慣れない。
階下へと階段を降りていく。階段を降りる正面に、縮み模様の入った窓がある。さっきまで暗かったから、昼の日差しは目にこたえる。
1階に降り立ちホールに行くと、アリアが何とも暗い顔をして座っている。あの顔は、ずっと覗き見していたのだろう。
「私とご主人様の行為は、100点満点中何点だ? 今回は多少自信があるぞ」
さすがにあの場面を見られているのは、私としても気分は良くないし、シューッヘも不快だろう。
何とかたしなめて、今後ベッドは覗かない様にさせる方向へと持っていきたい。
「シューッヘとメイド服とメイド……どうしよ、あたしもメイド服作ろうかなぁ……」
椅子に座り上半身を机に預けたまま、何処を見てもいない虚ろな目線で呟いている。
余程ご自身のされる行為と差でもあったのか? メイド服に意識が引っかかっている様で、採点は返ってこない。
「ご主人様はお眠りになったぞ。セロトニルが良い効果を発揮したのかも知れん」
「セロトニル関係無いわよ、シューッヘの頭の中、凄かったもん……」
どう凄いのかはイマイチ分からないが、さっきの呟きからすると、メイド服に関係するのかも知れない。
「これで、夜になる位まで眠れると良いのだがな」
言いながら、アリアの正面の席に座る。目線はこっちを向いているが、視線は合わない。
どうも、私の服を見ている様に思える。汗染みとか色々あるからな、見ればそういうことの後だと分かるのかも知れない。
「ねぇ、フェリク。なんでそんなにしょっちゅう抱いてもらってるの」
「しょっちゅう? 言う程の回数ではないぞ、今ので4回目だ」
「頻度の問題よ! あたしとシューッヘがそういう関係になってから、せいぜい月2くらいなのに」
月2? 計算すると、私より1ケタ回多いくらいで、大して
「計算しないで! あたしだって、もっと抱いて欲しいのに……てっきりシューッヘ、あっちは弱いのかと思ってたのに……」
心を読まれて突っ込みを入れられると、さすがにグッと堪えるな。
まぁ、それがアリアなのだから、今後の事も考えると慣れていかねば仕方ないんだろう。
「私は、標準がどの程度か知らぬので、ご主人様が強いのか弱いのか、分からん。そうしたい時、というのがたまたま上手く重なっただけではないか?」
「うぅ……フェリクにシューッヘの頭の中、見せてあげたい位よ。メイド服メイド服って……もう」
「なるほどメイド服か。ただ寧ろ肝心なのは、私に思う思いと、奥様に思う思いの違いではないか?」
「ど、どういう事?」
「つまり、私はメイド服込みでしか見られていない。その点アリアは、そのままが見られている。飾りの無い愛情の方が、『強い』のではと思うが」
「そ……そうかな」
「私はそう思うぞ。私が丸裸になっても大した魅力も無いだろうところ、アリアはそのままでアリアとして抱かれる。女性として、と言う面では、アリアの方が優れているだろう」
「そう、かなぁ、えへへ」
「まぁ、夫婦の秘め事を比べることに意味があるとは思えん。良い事もないだろうから、あまり寝室の覗き見はされない事を勧める」
私はちょっと強めに、語尾をハッキリと、覗き見については言った。
チラチラ私とメイド服と、視線が行ったり来たりしていたが、表情は少し反省した様な顔をしてはいる。
これで本当に反省してくれて、寝室の覗き見は一切辞めてくれるとありがたいんだがな。
「着替えをしてから昼ご飯を作るが、アリアは何か望みはあるか?」
「んー、ない。何でも良い」
「その回答が一番悩ましいんだがな、まぁ良い、何か見繕って作ってみることにしよう」
席を立ち、私室へ向かう。
私の部屋は、キッチンの隣だ。更にもう1部屋空き部屋はあるが、そこはトイレの横だからな。
客人も来ないこの屋敷、トイレも殆ど使われていないので臭いなども無いが、トイレ横よりはまだキッチン横の方が気分は良い。
服は……メイド服も更に予備があった方が良いか? 2着で回しているが、不意にご主人様が燃えると、2着とも、という事もありうる。
ただメイド服は安くないからなぁ。ご主人様に言えば、きっとお許しは出ると思うが、着ない3着目がずっとあるのも、どうだかと思う。
敢えてデザインを少し変えて、それこそ『ご主人様好みの』メイド服、の様な物でも作ってみるか? まぁ今では無いな、今はそういう時では無い。
取りあえず、全部着替えだな。あと洗浄と乾燥。貴族邸だと景観維持の問題で洗濯物を外には干せないので、室内に干すか、魔法乾燥になる。
まぁ今日は、いきなり魔力を使わねばならない事態も起こらないだろう。魔法で綺麗にしてしまおう。
「[一方向・球体結界][アクア・クリエイト]」
下5分の1程度が水の結界球。俗に洗濯球、などと呼んだりするが、ここまでだと魔法洗濯が出来るメイドだと誰でも出来る。
私の場合、ここに独自の一工夫を加える。
「[棒状結界][結界融合]」
球の中に、更に結界を作り、融合させて一体化する。棒状の結界を、球の3箇所に、均等に配置する。
こうすると、衣類が棒に引っかかって落ちる、を繰り返す。その落差・叩き付けが、丁度叩き洗いの様な効果を発揮して、汚れが落ちやすい。
洗濯球を単に回しているだけだと、たらいに水を張ってグルグル回しているのと大差ない洗浄力しか無い。
軽い汚れならそれでも良いんだが、ご主人様のアレも含め、ベタベタした汚れは、こうした方が良い。
全て脱ぎ捨て、洗濯球の中に放り込む。一方向だから、外から物は入れられるが、中から出てくることは無い。
衣類入れからもう1着のメイド服と下着を出し、まず下着とプロテクターから。いつ何時、何があるか分からないからな、プロテクターは必須だ。
後は、一枚一枚着込んでいく。メイド服はパッと着る事が出来ないのはネックだ。パーツが多い。
「[スピン]」
回転を加える魔法を掛けると、洗濯球がばっちゃんばっちゃん音を立て衣服が回り始める。食事が終わるくらいまで回しておこう。
さて、何を作るか。ご主人様は寝ておいでなので、2人前だ。
私も今は空腹感はさほど無い。アリアも食欲に燃えさかってる様子では無かったので、軽いもので良かろう。
キッチンに入り、魔導冷庫を開けてみる。うーん……これとこれと、あとは外のパンで、サンドでも作るか。
中の野菜を持てるだけ取り出し、作業台に置いてみる。まぁ、彩りもこれなら問題ないだろう。
……っと。これで完成だ。シンプルなハム・トマトサンド。あまり食欲の湧かない時や、軽い朝食の定番だな。
皿に盛り付け……今日は個々の皿の方が良いな、奥様は大食らいでは無いので、4きれで良いだろう。
私は、食欲が無いと言いつつこの位は入ってしまうからな、残り全部。都合12きれが私の皿に載る。
飲み物は……確かまだ冷茶の残りがあったはずだ。
単に私が多少火照ってるから冷茶が飲みたいだけなんだが、まぁお付き合い願おう。
まとめてトレーに乗せ、出来上がり、だ。
「奥様、簡単な物だが出来たぞ」
ホールに運び出す。相変わらず奥様は、何ともだるそうに机に両腕を乗せ、その腕に顎を乗せ、ぼーっとしてみえる。
「あー、ありがとフェリク」
「奥様がその調子では、ご主人様も元気が出ないだろう。さぁ、少し食べてシャッキリされよ」
配膳する。お茶もお出しする。
「ねぇフェリク。食事前に悪いんだけど、ちょっとどうしても気になった事があるの。質問しても良い?」
「改まってどうされた。そんなに言いづらい質問なのか?」
「う、うん……その、あなたがシューッヘに抱かれてる時、だと思うんだけど、シューッヘの心の声でね、『アリアより全然気持ち良い』って言葉があったのよ。もしかして、避妊魔法使ってないのかなぁー……って」
「避妊魔法か。初めての時は、申し訳ないが使うタイミングがまるで分からず、避妊の余地が無かった。それ以降は、避妊魔法はちゃんと使っているぞ」
「うーん、そしたら、あたしのそれがよっぽど相性悪いのかなぁ……」
食事前に何か考え込まれてるなと思ったら、まだベッドから頭が抜け出せていない様だ。
まぁ、当人にとっては大真面目な話なのだろうから、付き合いはするが。
「奥様は避妊魔法を、どう用いておられる?」
「えっ? 普通にこう、中側に展開して」
「ん? 普通の女性が用いるのは、そういう魔法展開なのか? メイド養成校では、避妊魔法の最も良い使い方、というのも習ったぞ」
これは何か紙に書かないと伝わらない。
自分の分のサンドはひとまず置いて、テーブルの隅にある筆記具類を持ち込む。
「アリアは、女性の体内の構造図は分かるか?」
「構造図? そんなん見えないし、わかんないよ」
「とすると」
と、書いていく。女性の下腹部の透視図、横側から、だな。
「これは?」
「女性の下腹部辺りを横から解剖した様な図だ。ここの部分で、ご主人様を受け止める訳だが」
ペンで筒状になっている部分を上下になぞる。
メイド養成校では、この講義はかなり重要な講義として何度も受けさせられたので、すっかり頭に入っている。
見ると、アリアがにわかに赤くなっている。未経験の娘なら分かるが、何度もしているだろうに。
「妊娠に関連するのは、この部分から先だ。ここに子宮口という、文字通り『口』がある。ここだけ完全に塞げば、妊娠はしない」
「えっ?! そ、そういうものなの?」
「うむ。少しでも隙間が空くと種が入ってきてしまう、と聞くので簡単では無いかも知れないが、密な結界を子宮口全体をしっかり包む様に張りつつ、肝心の口の『穴』の部分を、綿で詰める感覚で結界で封じてしまえば、入り様がない」
「い、異物感とか、無いの?」
「柔軟抱擁結界を使うので、自分自身結界がある事すら、肌感では気付けない。因みに奥様は、どの程度の厚さの結界を、この通路部分に?」
「えーと……[柔軟抱擁結界]えい! ……こ、このくらい、かな」
目の前に筒状の、ご主人様のに被せたら丁度良さそうな柔軟抱擁結界が作られる。
これだけ精巧な形状を瞬時に作れるならば、子宮口を封じる結界など訳ないだろう。
が、如何せんこの結界、見るからに分厚い。これでは、触れてる感触すら無いのではないか?
「奥様、その結界を一枚に割いて伸ばして、ご自身の腕に乗せてもらえるか?」
「えっ? うん……こういうこと?」
「そうだ。触れてみるが……どうだ、触れられてる感覚はあるか?」
「……無い」
「つまりそういう事だ。柔軟抱擁結界は熱も感触も伝えるが、これは分厚く作りすぎだ。それでは気持ち良くは無かろう」
「また負けた、また……」
「勝ち負けがどうこう言う問題でも無かろう。さあ、サンドが乾いてしまう、食べるぞ」
打ちひしがれた様の奥様を無視して席に着き、自分のサンドにかじりついた。
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