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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第3章 英雄外遊編 ~ローリスからおそとへ出てみましょう~

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第63話 待ち続けた再誕生 揺れ動く俺の心

 あれから俺は、家に引きこもった。

 幸いメイドのフェリクシアがいるので、引きこもりでも食事など不自由はしない。

 朝起きてリビングに行けば、「おはようアリア」から始まって、食事時は「アリアも食べようね」と声を掛け、日中も色々話しかけている。

 さなぎのアリアが応えてくれる事はもちろん無いのだが、アリアがこの中に入っていると思うと、愛おしく思えた。


 それにしても俺は現金と言うか、意志が定まらない人間だなと、つくづく感じた。

 アリアが死んでさなぎになる前は、フェリクシアの事が気持ちの真ん中にあって、アリアはその時、アリアには悪いが枠外に近かった。

 けれど今は、話しかけても応えてくれない、見た目は恐竜の外皮なさなぎに向かって話しかけているだけだが、アリアへの思いが高まっている。


 女神様との『闘い』から、今日で5日目。女神様のお言葉からすれば、そろそろアリアが再誕生してもおかしくない。

 フェリクシアも、常にアリアのさなぎの様子を気に掛けてくれていて、俺が気付かなかった「動き」を教えてくれたりもした。

 昨日からの事だが、さなぎが少し左右に揺れる事があるそうだ。いよいよ再誕生が近いのだろう。


 再誕生。

 どうやって生まれてくるのかな。


「フェリクシア、アリアが生まれてくる時には、産湯の準備とかタオルの準備とか、お願いね」

「かしこまった。どのような姿で生まれてくるか分からないし、身体が冷えてても行けないので、湯は熱めに用意しておく」


 と、こんな事を、俺は昨日からしばしば言っている。


 いい加減しつこいと自分でも思うが、フェリクシアは文句一つ言わず、毎回初回の様に対応してくれる。

 アリアが生まれ直したら、産湯を使って、保温をして……あっ、そうだ女神様。すぐ女神様を呼ばないといけない。

 生まれた時の混乱でいきなり魔法を、1,000倍の威力で撃たれてはいけないので、女神様に封印してもらう必要がある。


 生まれて、ボーッとしていてくれれば、危険は特にない。俺の事を忘れてしまって……そんな悲劇が無い限り、大丈夫だ。

 問題なのは、さなぎから出て来て、少し錯乱気味になった場合。右も左も分からず、わーっ、てなってしまった時だ。

 女神様を呼ぶのが間に合わなければ、気を失わせるなりなんなり、強引な手段を執らないといけない。それは出来れば避けたい。



 俺はリビングの椅子を持って、さなぎの近くに陣取った。椅子の背に顎を乗せて、さなぎをじっと見る。

 と、おっ? さなぎが今、左右に少し揺れたぞ。これがフェリクシアが言ってた「動き」か。まだ揺れてる、ぐらぐら、という感じだ。

 アリア……急がなくて良いから、元の姿で、傷一つ無く生まれてきて欲しい……地下室でのアリアの姿が、ふと頭に浮かぶ。


 五体満足であれば、それだけで良い。そうとしか思えない程に、地下室でのアリアの損傷は酷かった。

 揺れるさなぎを眺めていると、不意に「パキッ」と言う音が聞こえた。さなぎからだ。いよいよ誕生か?!


「フェリクシア! 産湯とタオルの準備を! 俺は女神様に」

『もう来てるわよ。人間史上稀に見る危険物の誕生ですもの、当然駆け付けるわ』

「うおぅ女神様! そ、それじゃあ、もう誕生の時ですか?!」

『ええ。後はアリアが内側から破るだけ。身体の一部が出た瞬間に、封印魔法を掛けるわ。痛いとか苦しいとかは無い魔法だから、安心して』


 さなぎが更に動く。卵形だから「揺れる」と言った方がピッタリくる。

 揺れる度に、ピキッ、ピシッと音が鳴る。外観は変化が無いので、内側の層にヒビが入ってるとかなんだろう。

 ひときわ大きく卵が傾いたその瞬間、バキッと大きな音と共に足がさなぎから出た!


『[魔力抑制 増加分を全て抑制]』


 女神様がすかさず魔法をお使いになる。そうしている間にも、今度はさなぎから手が一本飛び出した。


「あ、あの女神様! アリアが出るのを手伝っても大丈夫ですか?!」

『ええ、内側から割れれば、後は簡単に割れるから。引っかかってる所とか、取ってあげなさい』


 俺は椅子から飛び降りてさなぎの横に座り、出ている足の所に手を入れ、さなぎの殻を引っ張った。

 パキン、と音がして、手のひら大の大きさで欠片が取れる。手を突っ込んで分かったが、中は粘液でベトベトだ。


「フェリクシアっ、産湯だけじゃ足りないかも知れない! ここでシャワーみたいな事って出来る?!」

「可能だ。排水が若干問題だが、湯浴びをする分には支障は無い。今準備をする」


 キッチンに行きかけてたフェリクシアが戻ってきて、さなぎの周りに目に見える結界を、少し大きめに張った。

 天井の抜けたシャワーブースの様な感じで、その中に俺とフェリクシア、そしてアリアのさなぎがある。

 俺は更にさなぎの殻を剥がしていく。胴体が見えた、丸裸だ。更に剥いでいく。中に体育座りの格好で、アリアがいた!!


「アリアっ、今出してあげるからねっ!」


 俺は粘液の中に手を突っ込み、アリアの背中に両腕を回した。そしてそのまま、グッと引っ張った。

 アリアは、その粘液のおかげか、さなぎの殻の尖った部分に引っかかる事もなく、スルリと出て来た。

 出て来たアリアは、腰まである程の長髪だった。ようやくベリーショート位になった数日前とは、随分違う。


「アリアっ! アリアっっ!!」


 俺が呼び掛けるも、目線が完全にうつろだ。聞こえていないのかも知れない。でも俺は呼び掛け続けた。

 と、俺とアリアの頭上から、湯がシャワーの様に降ってきた。アリアの体温は冷えてはいなかったが、粘液まみれだ。

 シャワーを浴びながら、アリアにまとわりついている粘液を手で払っていく。デリケートなゾーンはちょっと躊躇したが、手で扱った。

 普段のアリアだったら、絶対恥ずかしがったり何か言ったりする――けれど今は、呆然としたまま、されるがままになっている。


 とその時、アリアがうつむいて、口から粘液を大量に吐き出した。


「アリアっ?!」

『心配ないわ。肺を満たしていた液体を吐き出しただけよ』


 女神様のお言葉に、少しホッとする。口が気持ち悪いのか、アリアは何度も唾を吐くようにして粘液を吐いている。


「アリア、お湯で口をゆすごう」


 俺は手のひらでシャワーの湯を受け、アリアの口元に近づけた。が、アリアはそれには反応せず、唾を吐いている。


『今のアリアちゃんは、生まれたての野生生物みたいなものよ。一時的だけど、知能も低下してる。人間的な動作は期待出来ないわ』


 そ、そういうものなのか。いや何にしても、アリアが五体満足で、身体に一切傷も無く生まれてきてくれて、本当に良かった……!


「ご主人様、粘液は大方取れた様だ。後は私が引き継ごう。動物的となると、不意に何かあるかも知れない。任せて欲しい」

「わ、分かった。俺は、どうすれば良い? 俺に出来る事は何かないか?」

「ご主人様はまず、服ごとびしょ濡れになっているご自身をケアしてくれ。風邪でも引いてはいけない」


 と、四方を囲う結界の一枚が無くなり、フェリクシアが結界外に置いていたタオルを俺に渡してくれた。


「奥方様が心配なのは、私も重々分かる。だがご主人様も大切なお方だ。ここは危機対応も出来るメイドに、全て任せて欲しい」

「……分かった。俺は……何もしてないと気がおかしくなりそうだから、部屋のシャワーで粘液を落とすことにする」

「それが良い。この粘液も必ずしも毒性が無いと決まった訳では無いからな。ここ数日気を張っておられたのだから、昼寝でもなさると良い」

「うん……寝られるかは分からないけど、ベッドに横になるよ。一気に張り詰めてた気が抜けたのは、確かだし」


 結界シャワーブースから出ると、魔導空調が強めに動いていた。臨時シャワーの湿気に反応したんだろう、きっと。

 俺はアリアの事は任せて、自室に戻りシャワーを浴び、そのままベッドに倒れ込んだ。

 自分でも分からない程、思いの外疲れていた様で、睡魔はすぐにやってきた。



 ***



「アリア、食べれるかな?」


 俺はアリアの口元に、木製のスプーンにすくったお粥を近づけてみた。

 アリアはぼんやりと俺の顔を見ている。いや、視野に入ってるだけで見ていないのかも知れない、とも思う。

 何も見えていない様な瞳で真っ直ぐ前を向いていて、スプーンに焦点が合わない。


「アリア、こうやって、食べるんだよ」


 アリアの口元に差し出したスプーンを引き、俺が大きく口を開けて頬張ってみせる。

 気のせいかも知れないが、アリアの視線がスプーンを追った様に見えた。


「アリアも食べれるかな? 食べないと、元気になれないぞ?」


 お椀から小さく一口お粥をすくい取って、再びアリアの口元に寄せる。

 と、アリアはゆっくりした動きで大きな口を開けると、スプーンにかじりついた。ガリッと音が鳴る。


「アリアっ、中身だけ、中身だけ! スプーンは食べられないから」


 アリアがガッツリとスプーンを咬んでしまっているが、スプーンを上向きに立てる様にして、その口から抜く。

 口に入ったお粥を味わっているのか、口がもぐもぐと動く。いつもの様な元気なもぐもぐではなく、ちょっと動いているだけだ。

 一口お粥を食べたアリアは俺の事を「ごはんくれる人」と認識した様で、視線を合わせてきた。じっと見つめられる。何だかこっちが恥ずかしい。


「じゃ今度はスプーンは咬まないでね、中身だけだよ?」


 さっきより少し多めにすくい、口元に。今度はさっきより小さく口を開いた。ちょうどスプーンが入るくらいの隙間。

 そこにスッとスプーンを差し込んであげると、アリアが唇を閉じた。そのままゆっくりスプーンを引き抜く。お粥は無くなっていた。成功だ。

 また何回かもぐもぐとして、飲み込んだ。そしてまた、こっちが赤面しそうな熱視線。


 ただ食べさせてあげてるだけなのに、何でこんなに恥ずかしいんだ?!

 とにかく俺は、お椀のお粥が無くなるまで、給餌(しょくじ)を続けた。



「アリアの部屋は、ここだよ」


 日中アリアはずっとリビングにいた。リビングの方が、フェリクシアも見ていられるし、危ない物も置いていない。

 日が暮れて、夕食もアリアに食べさせた。まだ肉は早かった様で、口からべーっと出してしまっていた。

 その日の夕食はパンだったので、それをスープに浸して、柔らかくして与えた。

 お粥の時と少し違い、せっつく様に上半身前のめりになっていた。気に入ってくれたのかな?


 夜になり、俺はアリアを、アリアの部屋へと連れて行った。ひとり寝は無理かも、とは思いつつ、部屋は安らげるかも、とも思った。

 アリアをベッドに導いてあげると、ベッドに座るやすぐ、頭を枕とは反対側に置いて、スッと目を閉じた。

 本能的に「寝る」事は出来るのかな。介護、と考えていたが、地球で聞いた、認知症の人のそれとも随分様子が違うので、戸惑う。

 目を閉じたアリアがスースーと寝息を立て始めたので、俺は部屋から出て行く事にした。

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