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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第3章 英雄外遊編 ~ローリスからおそとへ出てみましょう~

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第56話 ヒューさんを招くことにした。アリアの事は、ちょっと心配。


「これは……あのわずかの間に、二度、柱を切っておいでですな」


 ヒューさんが屈んで、木片を拾って、見つめている。


「高熱で焼き切った様な状態。光と言えど、集束すれば破壊的な力になりうる……」

「す、すいませんヒューさん。ベッドは俺が弁償しますので」

「弁償は別段構いませんが、寧ろ後ろの壁、または更に向こうが心配になります」


 ヒューさんは再び立ち上がり、ベッド裏の書棚の方に向かっていった。

 白いベールが掛けてあるので、書棚の部分は見えない。ただそのベールも……


「書棚の目隠しは、見事に焼けております。焼きゴテでもここまでは行きませんな」


 感心した様な口調で言うヒューさん。

 白いベールは、焼き落ちてこそいなかったが、黒く焼かれた筋、俺のブレた様そのままになんだろう、左右に大きく付いている。


「ううむ。書籍も、背表紙のみの様ですが大分やられておりますな」


 ベールの向こうから声がする。さすがにそれまでより少し沈んだ声をしている。

 俺、どう償えば良いんだろう。ヒューさんの書架だから、余程貴重な本もあっただろうに。

 ヒューさんが大切に集めた本を、俺が台無しに――と、背中をツンツンと(つつ)かれる。


「アリア?」

「シューッヘ、ごめん。あたしが『細く』って言い過ぎたからかも。あなたのレーザー、誰よりも細くて、本当に線みたいだったから」


 レーザーの集束。レーザーに憧れはあるが、地球のレーザーが実際どういう仕組みで出来ているのかはよく知らない。

 けれど、太陽光を虫めがねで集束すると、黒い紙を焼き切って火を付けたり、石に焦げ痕すら付けられる。

 光の集束は、やり過ぎると危ない……それは太陽光に限らず、レーザーでも同じなのかも知れない。


「シューッヘ様。幸い書棚が密であったため、それが壁となり後ろへは抜けておりません。秘密が破れた形跡はございません」


 と、ヒューさんが再びこちらに歩いてきた。俺はヒューさんの顔を、目を、見られなかった。


「ヒューさん、その……大切な本を」

「いやいや、お気になさらず。必要な本の中身は、全てこの頭の中に入っております故」

「でも、ヒューさんが集めた本ですよね? 傷つけられたくない、大切な本があったのでは……?」

「ええ、まぁ……とは言え、本でもって城を守れたのであれば、元老院の元・長としての職責は果たせたと、その様に思います」


 切り替えが早いのか、俺の前で無理してるのか、俺には分からない。

 ベッドは、豪華ではあるがオーダーって感じでも無いので、代品を持ってくる事は何とかなりそうだ。

 ただ本は……絶版の本など、変わりは決して用意できないし、この世界での出版の難しさも俺は知らない。

 図書館もある位だからある程度本は普及してるんだろうが……もし本が貴重な世界なら、俺はとんでもない事を……


 と、またツンツンされる。耳元にアリアが口を寄せてくる。


「あのね、ヒューさんホントに気にしてないみたい。寧ろその言葉通り、城が真っ二つにされる姿を思い浮かべて、それが無かったと安堵してるわ」

「ほ、ホントに?」

「うん、間違いないわ」


 俺はこほんと咳払いをして、自分の気持ちを切り替えようとした。

 と言って、簡単に切り替わるものでもないが……ヒューさんが『別のこと』で安堵している事は、俺の罪悪感を薄くしてはくれた。


「えーと……ヒューさん、いずれにしてもベッドがこの惨状では寝られないのでは?」


 俺はフェリクシアに目配せをした。気付いてくれたフェリクシアが、ちょっと考える素振りをしてから、俺を見て頷いた。


「部屋の準備は出来ると思うので、俺の屋敷で泊まってはどうです?」

「私が、シューッヘ様のお屋敷に、ですか?」

「ええ、ヒューさんさえ良ければ、ですが」


 と言うと、ヒューさんは普段通りに微笑んでくれて、


「喜んで参上致します。かえってご迷惑ではございませんか、ご夫人との間柄も含めまして」

「いえまぁ、妻たちとはいつでも居られるので。ヒューさんとじっくり話をするのも楽しそうだな、と」

「それはそれは。では、この残骸を粗方片付けましてからお宅をお訪ね致します。何か持っていきますか?」

「これもまた本で申し訳ないんですけど、何か魔法のアイデアになる、特に光を使う魔法のヒントになる物があれば、是非」

「光魔法、または外形上光魔法類似のもの、ですな。心当たりがございます。探して、持参致します」

「すいません、単にお招きすれば良いだけなのに、余計な仕事まで増やしちゃって」

「いえいえ、私など最前線に立つことは出来ぬ年ですので、若い方のお役に立てるのであれば、それに勝る喜びはございません」


 ヒューさんは幸い、ニコニコとしてくれた。

 光の、操作。光魔法。何かアイデアがあれば、扱いの難しいレーザーよりも安全に、かつ効果的に使える『何か』があるかも知れない、と思う。

 女神様も、光線操作の方を、レーザーより推しておいでだった。となれば、女神様では無いが小手先のレーザーにこだわるより、もっと別の何かを習得出来ればより良い。


「それじゃ、ベッドの手伝いを……」

「いえいえ! それには及びません。この程度が片付けられなくなったら、いよいよ老年にございますので」


 ……落ちた天蓋片付けられるのは、老年云々関係無くひたすら怪力だと思うんだが……

 まぁ、ヒューさんが遠慮がちに言うのだから、下手に手伝うのも野暮なのだろう。この場は退く事にしよう。


「じゃ、先に屋敷に戻ってますね。どの位で来られそうですか? 昼ご飯は一緒に食べられそう?」

「そうですな、大した片付けではありませんので、昼ご飯、ご一緒致しましょう。ご夫人方も、それで宜しいですか?」


 ヒューさんの問いかけに、フェリクシアがまず頷いた。続いてアリア。


「じゃ、戻ります。部屋の封印を解除してもらって良いですか?」

「おおこれは失礼致しました。只今解除致します」


 ヒューさんがなにか高速で唱える。一瞬、魔法陣の様な図形がふわっと光った。


「これで自由に通行が出来ます。それでは後ほど、よろしくお願い致します」

「こちらこそヒューさん。……重ね重ね、お部屋、すいません」

「いえ、お気になさらず。初めての魔法に、失敗は付き物ですので」


 笑顔のヒューさんに送り出され、俺はヒューさんの部屋を出た。



 ***



「ワインと、蒸留酒、それにパン。後は、手早く出来る物だと、焼き串などはどうだ? ヒュー殿は年だ年だと言いつつ、かなり食べる方だからな」


 キッチンが見える壁の窓に両肘を乗せ、フェリクシアがあれこれと提案をしてくれる。

 しっかりした形で客人を迎えるのは、これが初めてかも知れない、そう言えば。

 年末の振る舞いは……アレは雑踏・群衆・混乱。全然趣が違うからな。


「食事はそれで良いとして、部屋はどこを使ってもらう? 2階で良いかな」

「簡易的に箱を土台にして、その上に厚めに布団を重ねるだけだから、設営はどこでも可能だ。

 部屋も、2階に1部屋の空きと、1階はリビング左側の奥2部屋は未使用で空いている。使うなら軽く掃除もするが」

「どうしようかな。2階だと、俺達もヒューさんも互いに気兼ねしそうだから、1階の左側がいっか」


 と……アレ? なんか、女子2名の様子がちょっとおかしい。目線が泳いでいる。

 俺、何かおかしな事言ったっけ。普通の事しか言ってなかったつもりなんだが……


「その……『俺達』って、言ってたけど、あたしの部屋は、あなたの横のままで、良いの?」


 そこかっ。

 アリアは第二夫人だから、という事を気に掛けているんだろう。


「部屋は、それぞれ家具が入ってるし、それを入れ替えるのは手間だから、そのままの方が良いよ」

「じゃ、あなたがフェリクを抱きに行く時は、あたしの部屋の前を、通っていくのね……」


 ちょっと悲しそうな顔をして言う。


「う……も、もしそれが嫌なら、俺がフェリクシアを自室に呼ぶよ。フェリクシアの部屋は、前チラッと見たけれどそこまで広くは無いから、俺の部屋に来てもらった方がゆったり出来るし」

「そ、そうね。あなたの部屋に、行ける人が、抱いてもらえる人で……」

「アリア……? 俺、今全然、そういう雰囲気じゃないよ?」


 寧ろ心配になった俺は、アリアの顔を下から覗く様にして見た。

 うつむいていたアリアだったが、俺の視線に気付いてか、目を大きく開いて、赤くなった。


「ふ、夫婦の事って難しいわよねぇ。それも1対1じゃなく、1対2だしー」


 アリアは照れ隠しのつもりなんだろうか、ちょっと大きな声で言いながら立ち上がり、ヒューさんが使うであろう部屋の方へと廊下を消えていった。


「うーん。抱く・抱かないって、そこまで大事なのかな、やっぱり」

「私には、少し理解が及ばないところではあるな。確かに抱いてもらって嬉しい、というのはあるが、四六時中そういう気分というのは、私は、無い」


 フェリクシアが言い切る。俺もそこは、フェリクシアに同意だ。


 今のアリアは、少し不安定に思える。女神様に新たに『力』を頂いても、必ずしもそれだけで、俺の心を鷲づかみに出来ている訳でも無い。

 さっきのヒューさんの部屋でのやり取りで、アリアに俺の心が丸見えでも、決して悪くない、という感触はつかめた。だから、マイナスでは無い。

 けれどアリア自身が何に固執しているのかは、俺からは分からない。今この瞬間の俺のこの困惑こそ読んで欲しいが、この場にいないしな。


「そう言えばワインと蒸留酒って、痛んだりはしないの? 地下、少しひんやりはするけれど」


 ワイン18樽に、蒸留酒8樽。これが全部飲めない程に痛んでしまったら、余りに勿体ない。

 もしそうなるようであれば、まだ飲める内に「数」としてだけだが、女神様にお供えしてしまうのだが。


「地下の温度を少し操作した。低温貯蔵庫と同じにしてあるので、長期間になっても酒が痛む事は無い」


 と、フェリクシア。

 そっか、痛まないのであれば、また来年の振る舞いに出しても良いし、使いようだな。


「じゃ、酒2種とつまみの串焼きと。あと何か、締めになる様な物があると良いかな」

「今回は趣向を変えて、初めて麺を出してみたいと思っている。1月1日に麺類を食べると長生きする、という言い伝えにならっただけなんだが」

「麺類?! 俺、この世界に来て初めて麺類食べるよ、それ凄い楽しみだ!」

「う、うむ。ご主人様のご期待に沿える味になるかどうかは、正直分からないが、何とか最善を尽くそう」


 そう言って、フェリクシアは翻ってキッチンの中へと消えていった。

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