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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第3章 英雄外遊編 ~ローリスからおそとへ出てみましょう~

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第54話 俺、新必殺技を会得する。女神様に溜息吐かれながら。

 あの後、本命の話のはずが完全に別件並になってしまった結界の話を、女神様とした。

 女神様が仰せになるには、無条件で結界を作る権限、というのを削除なさったのだそうだ。

 更に、権限の付与や削除は、女神様が御降臨なさっていないと出来ないとのこと。


 アリアと同じく俺もあの光の柱の中に……とは思っていたが、アリアが横で静かに首を横に振った。

 理由はともかくとして、それは無理なんだなと悟った。となれば別の方向を考えるしかない。


 それで俺は女神様に、結界というもの自体について伺うことにしたんだが――――



『結界、っていうのが理解出来ないのは分かるわ、地球には無いものね、まだ』

「……まだ? って事は、そのうち出来るって事ですか?」

『技術的には全然違うけれど、現象としては似た様な物が、近いうちに出来るわね。もう20年か50年か、その位は掛かるけれど』


 なるほど。アニメや漫画にあるバリアー的な物が、その位すれば出来てくるのだろうきっと。

 ただ、今地球の話を懐かしくしてても意味が無い。俺に必要なのは、今使える結界だ。


「女神様、結界ってそもそも何なんです? 絶対結界を例にすると、ありとあらゆる物を、定めた境界線でもって弾く、ですよね?」

『そうね、現象として結界を見た場合、そういう風な観察の仕方も可能かも知れないわね』


 女神様の言葉の歯切れが悪い。つまり、実際はそうではない、という事だろう。


「んー、じゃ結界って言うのに似た物として、鏡を考えるとします。鏡は光線を反射しますが、これと結界はまるで別物ですか?」

『うん、それは別物ね。鏡が光を反射するのは、金属表面の平面光沢を利用したもの。結界は、微細に見れば、力の進入禁止ゾーンを作るものよ』


 進入禁止ゾーン? それを、人力で作る訳か。あぁ、だから魔法が無い地球では厳しい訳か。


「仮にその進入禁止ゾーンを作るとして、これは入って良い、これはダメ、と定義すれば、通すものと通さないものを分けた結界が出来る、という事ですか?」

『そう、よく辿り着けたわね。要はそのゾーンとして括られる、または隔てられる境界で、何を通過させるか、阻害するか。また阻害するにしても、反射するか吸収するか、っていうのもあるわ』

「反射型結界は、今までの結界がそうでしたよね。でも、女神様の結界を王様が叩いた時、怪我はしませんでした。完全な物理反射型、という訳でも無いのですか?」

『私の結界は、反射型に見える外形をしているけれど、9割を吸収して1割だけ反射する結界よ。だから叩いても怪我するほどじゃないの』


 おお、なるほど。俺が作っちゃった結界は、恐らく純粋な反射型だったんだろう。アリアが怪我する羽目に遭った。

 結界、というと、どうしても壁的なものだったりドーム的なものを思い浮かべるけれど、境界線だけで良いのなら……


「女神様、少し試してみて良いですか? 何だか、出来そうな気がするんです」

『ええ、良いわよ。機嫌も良いから、添削指導してあげるわ』

「ありがとうございます、では」


 俺は部屋の左の方、ヒューさんのベッドの手前辺りに意識を集中した。

 そこに、丁度パーテーションの様な、左右は空けた状態の、一本線の『境界』を引くことにした。

 性質はシンプルに、光だけ進入禁止。まずはこれで行ってみる。


「んんー……境界線設置・結界、発動!」


 結果は見事なものだった。天井まで至るパーテーションが立った、左右は無事空いている。

 反射光なんだろう、相変わらずミラー状だが、色合いがちょっと鏡のそれとは違う。


『なかなか良い線行ってるけど、縦を規定しなかったのは失敗ね。天井突き抜けてるわよ、それ』

「えっ! ま、[マギ・ダウン]!」


 唱えると瞬時に結界が姿を消す。


『今のは光だけを対象にした結界だったから良かったけれど、対物結界で同じ事してたら、天井が崩落してたかもね』

「あぶなー……因みに、今の結界は人が触っても安全ですか?」

『ええ、さすがに結界を通り抜けようとした者は、視界が一瞬真っ白に染まるわね。でもそれだけ。支障は無いわ』

「すると目隠し程度には良いのか、あれでも。じゃ次に、対魔法、対物の結界を、まとめて張ってみたいんですが、しくじったら強制停止して下さいますか?」

『分かったわ。縦横奥行きと、あと魔力量に気をつけてね。結界線引く時の魔力量がそのまま、結界の耐久力になるから』


 ほう、つまり莫大な魔力を籠めて結界線を引けば、超頑丈な結界とか作れる訳か。

 今回は寧ろ、簡単に崩れるくらいの方が危険は無いから、弱く、よわーくして、小さな魔力量で行こう。


「対物・対魔法結界、境界線定義……発動!」


 俺は宙に浮かぶ立方体を意識して魔力を放った。魔力で空間に線を刻みつける感じだ。

 そのイメージで問題無かった様で、ガラスキューブの様に一部光がズレて見える、ボーリングの球くらいの縦横奥行きの立方体が生じる。


「どうでしょう女神様。品質は」

『うん、随分弱く作ったらしいけれど、これだけで普通の剣の斬撃程度なら防げるわ。魔法は、ちょっと小さすぎて、大体の魔法への対処は厳しいかな』

「因みに、反射とも吸収とも考えずに作ったんですが、この場合はどうなりますか?」

『結界は、"定義無し"の状態が一番怖いのよ。どう転ぶか分からない。厳密には、その場のマギの有り様によって、性質が変わるわ。だから』


 と、さっき光の柱が立ったところに、LEDの光の様な、鋭くまぶしい光が灯った。


『一応これは魔法の光に分類されるんだけど、これをあのブロックに当ててみるわね?』


 LED状の光が集束し、レーザーの様に真っ直ぐキューブに当たる。

 少しヒューさんの部屋はほこりっぽいのか、レーザーが直進しているルートもよく見える。

 しばらくレーザー光っぽいものに照らされていたキューブが、突然まぶしく輝き始めた。


『こうなったのね、これは。吸収型、プラス、拡散放出型ね。ある程度吸収すると、一転して拡散放出に変わる。放出は、結界の魔力量依存よ』


 しばらくビカビカ光っていたキューブは、ある瞬間に光るのをやめた。次の瞬間、キューブごと霧散した。


『今のタイプの結界は、例えば敵陣地で集中砲火を受けている様な時に、狙って張るならありかもね。でも結界からの自動反撃が尽きた瞬間結界が無くなるから、悪手ではあるわ』


 うーむ、定義しない、というのが一番マズいのか。意外と定義しないといけない事柄が多くて困るなこれ。


『あら、毎回全部定義しないといけないってなると大変だから、普通は重要じゃないところは固定化しちゃうわよ?』

「えーとそれは、以前の結界だと、その反射率とか、形の大まかなところとか、ですか?」

『そうね。形は"意志に従う"とだけ事前定義しておいて、反射吸収なんかのタイプは、"結界は、こう"って決めつけちゃうの。楽でしょ?』


 決めつける。なるほど、思い込みはダメだってさっき思ったばかりだが、思い込む事でプロセスを省けるメリットもある訳か。

 今までポンポン張ってきた結界だが、改めて1から組むとなると結構大変だ。大変だけど、応用幅が分かるのはありがたい。


 これで何とか、実用的な結界が張れるかな。今までより格段に時間が掛かるのはネックだけれど。

 そこ、どうにかなれば……どうにもならないのかなぁ、伺おう。


「女神様、仲間をこう、まとめて守れる様な結界を、即時に発動する方法ってありませんか」

『これも事前定義次第だけれど、難しいわね。仲間がどの範囲にいるか、敵が近接していないか、その辺りをクリアしないといけないから。

 ただ、方向性としてはアリだと思うわ。緊急時結界、みたいな形で普通の結界とは別離しておいて、それは範囲だけを定義する様に事前指定。それ以外は、緊急時結界はこういうもの、という決めつけで済ますの』

「おお、それだと使えそうです。因みに俺の命が危険にさらされた時の結界はどう張れば? 俺自身気付かない事もあると思うのですが」

『アレは作成権限とは別よ。あなたに紐付いている自動結界だから、あなたしか守れないけれど、あなたは守る。完全にね』

「へっ? あのオートの結界は、今もあるんですか」

『試してみる?』


 えっ、と思った瞬間目の前が暗転した。

 ただ後ろを振り向くと、背部には結界は無い。


 と思ってる間に目の前の『壁』の様な真っ黒いものも消える。


『今の見てた人、解説してあげて』

「シューッヘ様、只今女神様の御手より、先ほどと同じく細く直進する光が放たれました。その瞬間には既にシューッヘ様の前を結界が塞いでおりました」

「つまり今のは、殺人級レーザーって事ですか、女神様。もし俺それ使えるなら是非欲しいんですが」

『んー、集束して直進する光は、意外とこの世界では珍しいからね。あんまり技術として模倣されたくないから、与えたくはないんだけど……』


 これは、もう一押しの予感っ!


「レーザーは、あれば絶対役立つと思うんです。放射線ボムは広範囲・無選別でしか対処出来ませんが、レーザーなら個別撃破出来ますしっ!」

『うーん、教えてあげても、良いんだけれど……あまり人が見ている領域で使わないように。それだけ守れるなら、教えても良いわ』

「……その『人』は、人間の事ですか? それとも、魔族も含みますか?」

『対魔族戦を意識してるんだと思うから、魔族に見せるなとは言わないわよ。ローリス人に見せると、多分厄介な事になるから。気をつけて』

「はいっ! で、ではその方法を……」


 俺の有様に、溜息の様な御声が聞こえた。


『がっつくわねぇ。工学系じゃ無い魔法だから、仕掛けは実は単純よ? まず、魔法粒子を細い線の様に紡ぐの。こよりみたいにね。

 それは短くて良いんだけど、とにかくしっかり圧縮すること。それで、その線の性質を、魔力光に転換する。

 最初に撚った魔力粒子の糸が光線に変わる時、推進力を生んでくれるから、後は届く範囲までどこまでもレーザー級の光が届くわ。

 但し、間違えても反射型結界に撃ち込まない事。真っ直ぐあんたに返れば結界が守ってくれるけど、角度がズレれば仲間を射貫くわ。そこは気をつけて』


「女神様、ありがとうございました! これで結界の事も、更に俺に必殺技的な物が無い事も、解決出来そうです!!」

『あんたの必殺は、光線操作でしょ? 寧ろそんな小手先の技でレーザー作ってないで、光線自体を操作すればより良い攻撃手段になるのに』

「えっ?! 俺の光って、そんなに自由になるものなんですか?!」

『あんたねぇ。女神が与えた力よ? そんな不自由させる様な不細工な力を与えると思う? 工夫こそ地球人の力なんだからね、しっかりしなさいよ』

「は、はぁ。ともかく、頂いた手段と、光の操作とで同じレーザーが生める様に訓練しますっ!」

『レーザーに固執する意味がわかんないけど、ま、新しい目標が出来たのは良いことかもね。頑張んなさい』


 ありがとうございました、と俺が言い終えた頃には、女神様の雰囲気はその場には無くなっていた。

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