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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第3章 英雄外遊編 ~ローリスからおそとへ出てみましょう~

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第53話 アリアが手にした新スキル 俺が失った妄想の自由


「め、女神様っ!! 一体なんて力をアリアに!」


 俺はありったけの抗議をその言葉に籠めた。


『あらぁ、だって、アリアちゃん可哀想じゃない。第一夫人からは下ろされちゃうし。

 かと言って第一夫人に復帰する為にはフェリクシアちゃんに勝たないといけないんでしょ?

 フェリクシアの異才から考えれば、この位のスキル付与してあげて、ようやくトントンよ』


 女神様はあっけらかんと言い放った。いやいや、心の秘密って大事なんですけど!


「あたしだって別に、四六時中ずっとあなたの気持ちを見抜いてやろうって訳じゃ無いわよ……見たい時だけ、見る。そのつもり」

「う、うぅ……とは言っても! 魔族のサリアクシュナさんも言ってましたけど、精神の秘密はっ!」

『あらそこで引用するのね、じゃ寧ろ聞きたいんだけど、あなたが守りたい精神の秘密って、具体的に何?』

「えっ。具体的に、ですか。つまり、その……」

『大体やらしい事でしょ? そんなの、別に言葉にしなくたって、女性から見たら大体何考えてるのかなんてすぐ分かるわよ』

「えっ?! そ、そういうもの、な、の?! えっ、フェリクシア?」


 俺が言葉と共にそちらを向くと、先ほど来の赤みに追加で少し色が乗った顔が、縦に振られた。


『アリアだって、そういうのは分かるわよね、もちろん。一応"分からないふりをしてあげる"優しさがあった、っていうだけよね?』

「はい、そうです」


 あぅ。

 となると、俺がフェリクシアを見てぽややんと考えていた事とかも、何考えてるかの詳細はともかく、バレバレ……


「うん、バレバレ。詳細の部分も、きっと半分位は当たってるんじゃ無いかなって、思うわ」


 ぎゃーん! 俺もう変な想像とか出来ない……


「ううん、そう捉えないで欲しいな。その……変な想像するなら、あたしがそこをカバーするから。夫婦だもん、何しても良いから、さ」

「た、例えば?」

「そこは寧ろ、シューッヘの番だよ。例えば?」


 言われてふと頭に浮かんだのは、地球のショーガールなんかの番組で見かけたバニースーツの女性。

 こう、前傾姿勢で胸元を強調した姿勢で、顔を少し傾けてニコッとしてる、そんな姿。


「ふーん……兎人属、とはちょっと違うわね。エルフとのハーフ? それとも、これは地球固有の種族?」


 ぎゃゃーん! ディテールまですっかり見られてる! 言葉だけじゃなくて、ビジュアルの意識すら……


「シューッヘがそういう姿の子を抱きたいって思うなら、服も調達するなり縫うなりするわ。もっと想像して、教えて?」


 は、恥ずかしすぎてもうなにをかんがえればいいのやら。


『あははっ、面白いものが見られて楽しいわ。私は機嫌が良いわよ。自分の妻なのに、あんた覗き見られるのはそんなに嫌なの?』

「そ、そりゃ、嫌ですよー。だって、その、道ばたでちょっと目を引いたとかも全部……ですよね?」

『そうね、全部ね』

「全部ねって……俺これから、何も想像しない修行しないといけないですよ? 楽しくないですよそれ」

「あたしね、あなたの好みに『なる』事にしたの。だからそれにはまず、あなたの好みを知らないと。どんどん考えて、教えて?」


 アリアが手をグッと握って、力強く言った。


「ご、拷問だこれ……」

『あはははっ、シュ、シューッヘが本気でヘコんでるー、あははっ、たのしいーー!』

「女神様……なんでそんなに楽しそうなんですかぁ、俺にとっては大惨事の発生ですよ?」

『あんたまだ、ははっ、この状態のメリット、分かってないの?』

「なんにもわかりませんがっ」

『つまり、あんたの奥さんを、どこまでもあんた好みにカスタム出来るってことよ。勝手にディテールまでしっかり読んでくれて。最高じゃない?』

「えーーー、それ最高じゃない気がしますけど……」

『まぁ、あはっ、数日何も気にせず過ごしてご覧なさい。きっと、私とアリアが一緒に考えた、あんたへの"メリット"が分かるから』


 うう、ううう。俺の妄想の自由は、奪われた。悲しい。


「シューッヘ、その……あたしは、あくまであなた好みの女性になりたいの。あなたに……抱きたいなって、思われたいの。

 その為の努力が、どうしてもあたしの自力だけじゃ追いつかないから。それで女神様にお願いしたの。真っ先に抱かれる女になりたいって。

 そうしたら女神様が、この力を授けて下さったの。間違えても、シューッヘの嫌がる事をするつもりは無いの。そこは、信じて欲しい」


「俺の……心の奥の秘密とか、勝手にこじあけて覗いたり、しない……?」

「しないよ。あくまでシューッヘが、ぼんやりでも、『望んでる』事だけしか見ないし、見なかった事にするし」

「なんか……俺だけ見られて、俺は見られないのって、不公平な気がする」

「そこはー……多分女神様の仰る『メリット』が見えてきたら、そんな気持ちは吹き飛ぶと思うよ? 大丈夫、シューッヘを嫌な気持ちにはさせないから!」

「……ホント?」

「ホント! だから安心して? ね!」


 アリアは俺の横にストンと座って、俺の頭を撫でてくれた。

 うんこれ……今まさに俺が望んでいた対応そのものだ。優しく撫でてくれる手が、温かくて気持ち良い。


「これが、メリット……」

「うん。あたしはもっとあなた好みになる。あなたは、好みに仕上がった女を抱けて、更に別口でフェリクシアも抱ける。どう? 良いでしょ?」

「何だか俺が、下半身でしか物事考えてないみたいに思われてる気がする」

「男はみんなそうだって聞いた事あるよ? だから、その気持ちを余さず受け止められる妻になりたいって、そう思ったの。

 でも、昼間のシューッヘも素敵よ? みんなの事を一生懸命考えて。オーフェンのあの演説なんか、しびれたもん、あたし」


 メリット、か。

 今の『これ』だけでも、そのメリットとやらが『微に入り細に入り』なのは、分かった。

 殆ど意識さえしていない、こうあったらいいのに、みたいな事を、しっかり読んで、そうしてくれる。

 相談とかもしやすいんだろうなぁ、伝わりづらいところも伝わったり。それに、夜の……


「うん。遠慮も要らない。もっと求めていいんだよ? そこ、気付いてあげられなくて、ごめんね」


 いつも、夜ふとムラムラしても、それをすぐアリアにぶつけるのはきっと違うって思ってた。

 もっとこう、雰囲気とか作って、お互いにって言うか寧ろアリアが乗り気になってくれたら初めて……と、思ってた。

 だから、雰囲気作りが上手くない俺は、なかなかアリアとベッドを共に出来ないでいた。けれど……


「そう、けれど、なのよ。あなたは、あたしをどれだけでも求めて良いの。って言うか、あたしは求められたいわ。いつでも、ね」


 そっか、取り越し苦労だったんだ。今までの、遠慮は。

 なんだか……胸の中の重しというか氷漬けの何かが、一気に氷解した思いだ……


「ご主人様。奥様はご主人様にぞっこんのご様子だ。これならば、私が第一夫人などと言う大それたものになる必要もあるまい。違うか?」


 フェリクシアが言う。その目は、円満解決を見届けた様な、そんな目をしていた。


「ううん、ダメ。シューッヘが決めた事なんだから、シューッヘがその気にならない限り、このままよ」


 えっ。アリアがそれを言うの? 第二夫人で、良いの?

 フェリクシアは顔に「何故?」と書いてある様な、難しい顔をしている。


「アリア、その」

「うん。第二夫人って基本的には、第一夫人と主人との取り持ち役よね。でもあたしは、対等に挑むわよ。もちろん第二夫人として振る舞いながらね」

「そこよく分からない。第二夫人として振る舞えば、フェリクシアと俺との仲を保つ方向じゃないの? 第一夫人の座からは遠ざかる気がするけど」

「ふふ、あたしはぁ、どうしても実力でもって、シューッヘを奪いたいの。あたしがいなきゃ絶対ダメって、思わせたい。厄介な女よね、でも、そうしたい。

 そのためには、第一夫人が立ちはだかるくらいが丁度良いの。当て馬みたいにしちゃってごめんねフェリク、でも、負けないわよー」

「負ける負けない以前に、私は参戦するつもりがないんだが……」


 と、言ったフェリクシアの顔を、アリアが真っ直ぐ指差した。


「ウソ発見。あなたは、昨晩抱かれた時の気持ちを、忘れられてはいない」


 アリアは言い切った。少し間を置いて、フェリクシアの頬が真っ赤に染まった。


「お、奥様……私の、心まで……読んだか?」

「あらごめんなさい? 実力のある第一夫人相手ですもの、使える手段は全て使わせてもらってるわ」

「なるほど、ご主人様が狼狽えなさる気持ちが、今理解出来た。これはなかなか厄介だな……」


 フェリクシアが手を組んで、額をそこに当て目を閉じた。

 これは、俺は満足しても、フェリクシアが居づらくなったりするんじゃないのか?


「シューッヘ、その心配は必要ないわ。今は敢えてやったけど、あなたの以外の心を見るつもりは無いの。あなたにこの力を求められない限りは、ね」

「ん? それはつまり……例えば交渉の場で誰かの、みたいなのも出来るって事?」

「うん。問題は寧ろその後で、あたしがつかんだ内容を、どうやってあなたに伝えたら良いか、って辺りだけどね」

「な、なるほど奥様は外交上の切り札にもなる事が出来る、という事か。これは強いな」


 復活してきたフェリクシアは、何とか口をかみ締めて頬の赤みを振り切った様で、いつも通りの堅い口調で言った。


「あくまで副産物なんだけどね、それは。あたしが求めてるのは、シューッヘの心だけだから。でもシューッヘが望むなら、誰彼構わず丸裸にしてやるわっ」


 安心して良いのか良くないのか、まだイマイチ分からないが、取りあえず俺が日常生活を送るのに支障は無さそうだ。良しとしておこう。

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