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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第3章 英雄外遊編 ~ローリスからおそとへ出てみましょう~

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第49話 俺は勢いだけで動ける男でない事は、俺が一番知っている。

 俺は思い切ってぶちかました。

 英雄が魔族の最大の敵であるならば。その英雄が親書を持って来訪するとなれば、敵意があれば100%殺しに、交渉の意があれば100%交渉をと、それ自体は成立するのではないか。

 そう考えて、陛下には多少不敬かと思ったが、言ってみた。

 1回だけの外交経験だけれど、何となく勇気が付いた感じだ。


「我が親書を持って、か。それが出来れば話は早いんだろうが……ヒューよ、エルクレアから魔族領へ入れるルートはありそうか?」

「実際どうかは分かりませんが、軍人やそれに類する者、または明らかに魔力量の多い魔族が行き先を阻んでいる、つまり関所の様な箇所は、エルクレア周辺にはございませんでした」

「ふむ。物理的には可能、と言ったところか。だがさすがに少し待ってくれ、ワシとしても、あの魔族領だ。ヒューにしろ英雄にしろ、簡単に捨てて良い人物では無い」


 真っ直ぐ視線を向いて、その首が横に2回振られた。

 むざむざ死にに行くつもりではないので、その辺りは何とか伝えないとな。


「そう言って頂けるのは嬉しいですが……女神様がオーフェン王に、交易範囲拡大という形で魔族領に入り込む様にとの仰せがあったのは、ご存じですよね。

 オーフェンに先を越される……まぁ危険を先に排除してもらえるのでそれでも良いのかも知れないですけど。ただ、その先陣もまた、英雄の仕事かなぁと」

「先陣か。確かに、魔族にしてみれば最大の天敵が来れば、その態度はより鮮明に明らかになるだろう。敵対にせよ、融和にせよ。

 向こうさんにしてみても、とんでもない厄介、えらく危険な代物が来る、という認識にもなろうしな。どの程度警戒されるか、というのも、指標になろう」

「とは言っても、さすがに俺がそこまで出しゃばるのは、他の貴族の人たちからしても面白くは無いですよね。役に立てるかなぁとは、思うんですけれど……」

「貴族共の事なぞ考えんで良いわ。ワシからの勅命、しかも行き先はあの恐ろしい魔族領。寧ろお前さんを死地に送ったとワシが叩かれそうだ」

「そ、そうなんですか? サリアクシュナさんの様子をこの目で見てるので、死地に行く感覚は全然無いんですけど……」

「そのサリアクシュナ特使は、オーフェン王の引き立てで大臣扱いとなったそうだぞ。まぁ、他国のとは言え、神が公認として後ろに付いている者、軽々には扱えまい」


 と、陛下がフーッと息を吐かれた。

 そして、ワントガルド宰相閣下に目で何か合図をしている。何だ?

 それを受けた宰相閣下、赤い顔のまま軽く一礼をして、玉座の間の袖にドシドシと歩いて行って消えた。


「それで英雄。書記の記載によれば、女神サンタ=ペルナ様が『結界作成権限削除』と仰せになったと聞いたが、今はもうあの結界は使えないのか?」

「どうなんでしょう、試してないです。ただ、その時目の前で、ペルナ様を包むように展開したはずの結界が、ふわーっと消えてしまったのは間違いないです」

「ふわーっと、か。お前さんの結界、いや女神様の結界と言うべきか。アレの展開は相当早かったはずだが、さすがに女神様御本尊に掛かればそれも追いつかず、か」

「でした。ただ結界作成はあれ以来やってないんで、試しにちょっとやってみましょうか」

「いやいやそれは辞めてくれ。また城を揺すられてもかなわんからな、今その話でワントガルドをワシの私室に行かせたのだ」

「その話? つまり、女神様関連、という事ですか?」


 俺が言うと、陛下は目を伏せしっかりと、深く頷いた。


「例年であれば、1日の夜に神官をワシの私室に呼び祭壇を組ませ、供物の儀をもって女神様へのご挨拶とするところであるが、ペルナ様はひと味違うからな」

「あー、なるほどそれで王様の私室へ……それじゃ丁度ヒューさんが出張から帰ってきてたのも、タイミングとしては良かったですね」

「うん? ヒューでも構わんとは女神様より伺っているが、別にお前さんでも良いんじゃないのか?」

「それはそうですが、たかが子爵ですよ? いやそれを下さった王様にそう言うのも何ですけれど。子爵に王様が頼み事って、どうなんですか」

「どうもも何も、最も適した者を『自由に使う』事が出来るのは王の特権の様なものだ。ヒューよりお前さんの方が女神様のご寵愛が厚いのは間違いない。最適であろう?」

「それはまぁ、確かに」


 何となくだが納得はしてしまった。ぐうの音も出ない。今日2回目だ。

 そうだよなぁ、確かにヒューさんでも良いってお話しは女神様からあったけれど、あくまで「でも良い」だしな。

 ヒューさんが女神様の御声が聞けるのは間違いないし、俺が呼び掛けた時には話にも入れるけれど、ヒューさんからの呼び掛けに……応じては下さらないのかな。


「あ、ワントガルド宰相閣下が来る前に。私事なんですが、フェリクシア、その、前アルファを、第二夫人にすることにしました」

「ほう、メイドに手を付けたか」


 ちょっと語尾にいじわるさが乗っている。


「ううー、そこ俺的にはちょっと違うんですが、確かにこれからもメイドでいてもらう訳ですし、メイド服も好きですけど……」

「何とも歯切れが悪いな。もう既に1つベッドで夜を共にしたのだろう、その様子であれば。ならば堂々とすれば良いのだ」

「そ、そういうものなんですかねぇ……ただ、言いましたけどこれからもフェリクシアは俺達のメイド兼警護役として務めてもらうつもりです」

「まぁ、それぞれの家の都合があるのだろうな。フェリクシアと言ったか。英雄によく仕える様に」


 話を振られたフェリクシアが大きな声で


「はっ!!」


 と叫んだ。いや単に答えただけなのか。気合いが凄い。


「ははっ、さすがアルファの座を誇っていただけあるな。如何様な敵でも、簡単に焼き払いそうだ」

「はっ……オーフェン大使館の防衛戦では、私はあまり、活躍できませんでしたが」

「先だっての敵は魔族絡みだと聞いている。それ相手に、英雄不在の中大使館を陥落させなんだだけでも十分であろうよ。なぁ英雄殿よ」

「へっ、あ、はぁ……」

「相変わらずと言いたいが、今日は一段と歯切れが悪いな、シューッヘ。どうした、何か気になる事でもあるのか?」


 言われて、ふと考える。

 今のところ、俺は俺で私生活は更に充実しているから、その辺りで悩みは無い。アリアの嫉妬心はちょっと気がかりだが、それは夫の度量の見せ所でもあるだろう。

 気になると言えば、俺が言い出したことではあるのだが、魔族領の話が気にはなる。経路は大丈夫、直接乗り込む分には、オーフェンとエルクレアの中間の砦は無視出来る。

 ただ、サリアクシュナ特使がまだ動いていないのであれば、敢えて俺が突出するのも邪魔になったりしないかな、と今更ながらに思ったりはする。


 とは言え、それらは些事と言えば些事だ。魔族との関係性を築くのは、サリアクシュナさんというクッションがあろうが無かろうが、結局人類に課せられたタスクだ。

 今のところ話は三国同盟の内側だけで進んでいるが、賢王様たちの治政の様に、数百年単位掛けて魔族との親交・融和が、人類全体に広がるのかも知れない。

 勿論逆に、真っ向勝負でぶつかってくるのであれば、俺の生きている時代であれば、俺が英雄としてねじ伏せる。……うーん、やっぱりそこ、なんだよな。


「少々不安が、無い訳ではありません」


 俺は頭を改めてもたげた問題に、少し頭重を感じながらうつむいた。


「その様子からすると、女神様絡みの話か」

「そう、ですね。直接、では無いですが、絡んでるのは間違いないです。しかも、魔族領へ乗り込むのならば、という大前提にもなる話ですね……」


 ふうむ、と陛下は唸って、腕組みをされた。

 そこへ、ドシドシと重そうな足音が響いてきた。ワントガルド宰相閣下のお戻りの様だ。


「おう、ワントガルド。2本とも持ってきたな?」

「はい。先だってのお申し付け通り、陛下が漬け込まれた薬酒、2本ともお持ち致しました」


 と、陛下の右側の床に、一升瓶の様なガラスボトルを2本、ワントガルド宰相が置く。


「うむ。今日の日まで事故無く2本とも上手く漬かった。おい英雄」

「はっ?」


 突然のお声がけに、素っ頓狂な声になってしまった。


「これを1本、お前さんにくれてやろう。ワシが丹精込めて漬け込んだ、秘蔵の薬酒だ。もう1本は女神様に奉じてもらう」

「へっ? 女神様に2本とも、ではなく?」

「英雄が気鬱では、我が国としても色々と宜しくないのでな。厳選した30種の薬草を、特製の酒で漬け込んだ薬酒だ。元気も出るし、マギも強くなる」


 陛下が床から一本お持ちになり、俺の方へ向けてぐいっとそれを押し出される。

 すぐそれをワントガルド宰相閣下が受け取ると、その足で俺の元までやってきた。


「陛下からの正月祝い、とでも思って受け取るが良い。お主が気鬱では、魔族相手に負ける気しかせんからな」

「は、はぁ……」


 ワントガルド宰相閣下の腕でもって俺の胸に瓶を押しつけられ、危うく後ろに転びそうになった。

 何とか踏ん張って受け取ったが……いやいや、俺より女神様が先じゃね? これって。


「あの王様……どちらかと言うと、俺に下さるよりまず女神様へ、かと思うのですが……」

「女神様とて、正月から陰気な男より酒を奉じられるよりは、明るく軽い気持ちの者の方が良かろう。おいワントガルド、グラスを」

「はっ、只今」


 ワントガルド宰相閣下が、素早くさっきとは逆サイドの袖へと消え、すぐ戻ってきた。手にはグラスが1つ。


「英雄ノガゥア・シューッヘ。魔族を相手にどうこうするのであれば、お主の力は絶対に必要だ。が肝心のお主がその顔ではな。さあ、一杯飲んで、少しマシな顔になれ!」


 栓を外されたボトルから、3口分くらいの量、薬酒が注がれる。

 薬酒の色は、なんだか漢方薬を思い起こさせる色合いをしている。苦そうだ。


「ほれ、さあ飲め!」


 ぐっと目の前にグラスが差し出されたので、ともかく受け取る。

 女神様より先に飲んでしまう事にためらいが無いではないが、そんな酷い顔してるのなら、飲んでスッキリ、するならした方が良いか……

 俺は一息に薬酒を呷った。


「苦っ!! にっが!!!」


 思わずむせた。

本日で冬休み投稿期間終了です。次回9日より、通常の隔日投稿になります。

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