第18話 階段猛然ダッシュ! 明るい日差しの中ゴール! ご褒美にはアイスティーがCool!
兵士さんが駆けていって、2~3分かな?
待っていたら、その兵士さんとはちょっとだけ衣装に違いがある、恰幅の良い兵装の男性も共に駆けてきた。
「お待たせしたしました英雄様! 警備兵長がご案内致したいとの事ですので、ここで引き継ぎさせて頂きます!」
入口の兵士さんの兵装は、肩と腹部に薄そうなプレートがある、他は革素材っぽい衣服だ。
これを革の鎧と言うにはあまりにも軽装で、防御力は無さそうである。
警備兵長さんと言われて来ているその男性は、頭髪が多少寂しいがそこそこ迫力がある。
雰囲気なのかな、笑顔なのだが多少の威圧感が伴う。強いんだろうな。
服装は入口兵士さんと大差ないのだが、首から赤いバンドの様な物を腰辺りまで下げてある。
もしそのバンドの色が白かったら、ファンタジーで出てくる聖職者、って感じのバンドだ。
ただ、赤いだけのバンドで呪文みたいなものとかは書かれてないんだが。
「シューッヘ様、実は2度目にお目に掛かっておりますこと、お気づきですか?」
と、警備兵長さんがニヤッと笑みを作る。嫌みの無い笑みで、謎かけを出された気分だ。
「すいません、分からないですが……もしかして、謁見の間の兵士さんでしたか?」
「残念惜しいです。当日は謁見の間の扉番になっておりましたので、シューッヘ様とヒュー様がお部屋にお入りになるのを誘導致しておりました。まぁ、気付かれず当然ですが」
と、警備兵長さんは明るく笑った。
警備兵長、なんてちょっと怖そうな役職の人だが、気さくで話しやすそうで良かった。
「それではシューッヘ様、この王宮のオススメ順にご案内しようかと思いますが、お時間は大丈夫でございますか? ご案内もお時間のご都合に合わせますが」
「今日明日は何も言われていなくて、多分することも無いので、出来ればオススメのフルコースでお願いします」
「フルコースと来ましたか! 足が棒になりますが良いですか」
と、笑う。よく笑う人だ。
「俺、結構運動不足なんで、付いていけるか分からないですけど、この国にお世話になる以上は、この国のことを少しでも知りたいと思っていまして」
「はー左様ですか、さすがに英雄様、志・お気持ちが違いますな」
「い、いえいえそんな大した事は考えてないんですけど……」
ちょっと褒められすぎな気がして、恐縮してしまう。
やはりこの国では、英雄、というのは特別な意味を持つようだ。
しみじみ……オーフェンでなくて良かった。
「ではフルコース、承りました。AコースとBコースがございますが、どちらに?」
と、またさっきと同じようなニヤリ顔。
うーん、Aが順当なコースなんだろうなぁきっと……
「じゃあBで」
「おぉ、なかなか逆張りをなさる。それでは早速参りましょう。こちらへ」
警備兵長さんが歩いて行くので、その後を付いていく。
「そう言えば警備兵長さん、お名前を伺っていませんでした」
「私ですか? 私はファベルと申します。英雄様は、確か貴族様でしたな?」
「いえ、まだ貴族にはなってないと……俺の世界では、名字は全員持っていましたから」
「なるほど、たしかに叙爵のご発言は、国王陛下より無かったと、近衛より聞いております」
そんな話しをしながら、中央を奥に歩いて行く。
ついキョロキョロしてしまうが、とにかく明るい。そしてホールがだだっ広い。
50メートル走くらい出来そうな広いホールに、燦々と日が差している。
更に床が白い大理石の様な石材だからなおさら、目にまぶしい位の状態だ。
そして、ホールの先にはそのホールの3分の2位の幅がある階段がある。
下から見上げる限り、階段で各フロアがオープンに繫がっている。
階段があって左右廊下、階段があって左右廊下、という構造だ。
さすがに王座の間がある5階へは、この階段ではいけない模様である。
……というか、ヒューさんに連れられて玉座の間に行った時、こんなところは通っていないな。
やっぱり王様のおられる所は、簡単には行けない様になっているのかも知れない。
と、ファベルさんが、ふふん、という感じの笑顔を携えて言った。
「さて、ではBコースを選択頂きましたので……まず手始めにこの階段を一気に最上部まで上がります」
ええええぇぇぇぇ……俺の心の声は、口からは漏れなかったが多分顔色に出てた。
***
か、かい、階段を、い、一気に、な、何段だ一体、4階フロアまで、昇った。はぁ。はぁ。
ファベルさん、結構太めに見えるんだけど凄い軽やか……筋肉だったか、あのガタイは。
王宮自体かなり高い建物で、各フロアの天井も高い。必然的に1フロア分の階段の段も多い。
思い切り息切れしながらも階段を何とか昇りきった。
「シューッヘ様、そのまま後ろを振り返ってくださいませ」
ほ? と思いつつも振り返ると、ちょうど前面には極めて大きなガラスの一枚窓があり、街の光景を望む事が出来た。この窓があるから、1階でもとても明るいんだな、納得。
「運動不足と仰ったのは本当のようですな、まぁ息を整えられたら、街中にありますドーム、窓の真ん中辺りの建物をご覧下さい」
ファベルさんが手を窓の、真ん中辺りを指し示す。
ちょっとグロッキーだが何とか顔を上げて差された方を見る。
街の真ん中……なのかな、街が広すぎて分からないが、王城からは少し離れたところに、随分変わったドームがある。
距離が分からないので大きさもよく分からないが、かなり大きそうには見える。
何が変わってるかって大きさではなくて、ゆっくりだが、色を変えながら虹色に輝いているのだ。
「あのドームは、我が国の国防と諜報の要。セント=イリアドームと申します」
「ドームの、はぁ、はぁ、あの色は、何、ですか」
「あれは実際には色というより、反射にございます。ドームはあらゆる方向からの光に反応し、中に取り込む光、はじき返す光を、魔法で調整しております。故にあのような不可思議な光り方をするのです」
確かによく見ると、虹色に輝いているが、時折水面に水滴が落ちたかのように虹色の波紋が広がったりするのが見えた。
「魔法の、ドーム……国防の要ともなると、その、働きとかは、聞け、ないですよね」
「そうですな、英雄様と言えど、セント=イリアドームの詳細は秘匿事項でございます」
にしても……眺めている分には飽きないな。色が常に変化していて、綺麗だ。
「じゃその、働きとは別に、もし雨が降るとあのドームは何色に?」
「面白いところを突いてこられましたな。雨の日はドームの働き自体が無くなる故、施設自体を守る最低限の防護魔法のみ外側に張りますので、その防護魔法の色として薄く白い膜のようなものが見えます」
なるほど……完全に外の光に依存した施設か、あーようやく息が戻ってきた。
となると、雨の日に攻められると、実は重要施設が使えなくてマズいとかなのかな。
まぁ、今は聞かないでおこう。何せ「Bコース」はまだまだ続きそうだから……
「では、ここからは観光ガイドならぬ、軍事観光にございます、まずはこちらを」
と、差された方向は上がってきた方向の左。禍々しい呪文文字の様な、全く読めない文字らしきものが描かれ、見ているだけで背中がゾクッとする感じがある。
「こちらの扉の中には……いや、説明申し上げるより、実際『鑑定』されるとより楽しめるかと存じます。鑑定魔法はお使いになれますか?」
言われたが……どうなんだろう、全属性が使えるんだから、鑑定も出来るのかな?
そう思った俺は、シンプルに
[扉の中を鑑定]
意志を固めて心の声で宣言した。
すると、見事魔法が発動したようで、扉が透けるように感じられ、その向こうに
白い箱状のものが幾つもあるのと、その向こうに階段があるのが分かった。
「見えました……奥に階段があるので、この扉の封印とかを破れて初めて、5階に上がれるんですね。手前の箱類は、武器か何かを?」
「そう思えますでしょう? 実は部屋自体がトラップでして、階段は上に抜けておらず、中に5名以上の者が入り込むと箱が爆発する仕組みになっております」
「うわこわっ。え、でもそうしたら、この扉のこの……凄そうな封印は?」
「罠ですから、苦労して入ってもらわねば困るので、ペイントで雰囲気を増して更に上級封印魔法にて扉の開閉を封じております。外見は完全に飾りです」
……この物々しい、禍々しいのは、単なる「絵」だったようだ。
「さてでは、今度は逆サイドですな、あちらに参りましょう」
と、光まぶしい階段の踊り場を再び戻り、その向こうに行く。
こちらも、左右対称の構造になっているのか、扉がある。
ただ、こちらの扉は綺麗な白いペイントのされた木製扉、というだけで、禍々しい呪文的なものもなければ怪しい雰囲気も無かった。
と、不意に扉が開いた。
「おやファベル、どう……おぉ、シューッヘ様! どうなさいましたか」
不意に出てきたのはヒューさんだった。
さっきまで随分酔っ払っていたはずだが、もう普段通りの様子に戻っている。相当酒に強いのか?
「今ファベルさんに、お城の中を案内してもらっているんですよ」
「左様でしたか。後でまたこちらへお寄りください、ファベルでは入れぬ秘密の某のようなところも、ご案内致しましょう」
ファベルさんが苦笑する。
「シューッヘ様、ヒュー様の仰るとおりでして、今この表階段をご案内していますが、ここ以外の場所は大抵、警備兵長ですら入れないのです」
「へぇ……あれ、でもそうしたら、その区画って誰が警備するんですか?」
「実はそれなんですが」
「ファベル」
「うわっと危ない……詳細は、もし教えてくれるようでしたらヒュー様より」
ヒューさんがちょっとドスの利いた声でファベルさんの名を呼ぶと、ファベルさんは危険物を避ける様に身体をよじって一歩退いた。
「では、私がご案内できる『表向き』な範囲のご紹介を続けましょう」
ファベルさんの立ち直りは早かった。すぐ笑顔に戻り、俺と視線を合わせてくれる。
「こちらのお部屋、ヒュー様がおられることでもある程度意味深かと存じますが、ヒュー様に限らず位の高い方のティールームにございます」
「ティールーム? ですか? わざわざこの4階に?」
「はい。眺めが抜群に宜しゅうございますからな。ヒュー様、宜しいですか?」
とファベルさんがヒューさんに目線を振る。
ヒューさんは頷いてそれに応えた。
「では、是非ティールームにて、一休みなさってください。階段一気昇りはシューッヘ様には少々堪えたご様子ですので」
俺がちょっと頭を下げてティールームの方に進むと、ファベルさんは最敬礼で俺を送り出してくれた。
中に入る。パタン、カランカラン、と鐘の音がなる。
日本の古めの喫茶店みたいだ。
テーブルは2つ、イスは各3で計6つ。更にカウンター席にもイスが2つ。
最大8人が入れるティールームか……けど、ヒューさんみたいに偉い人と同席しちゃったりすると、緊張したりしないんだろうか?
「さぁシューッヘ様、どうぞこちらへ。只今メニューをば」
と、イスを引いてくれた上でキッチンスペースの方へと行くヒューさん。
俺のために本当に親身になってくれて、細々としたことさえもしてくれるけど、この人、この国の超重鎮なんだよな。王様に軽々会えたり、王様の代わり・名代として他国への外交をしたりしてるんだから。
「こちらがメニューにございます。何にされますか?」
「えーと……じゃ、シンプルにアイスティーで」
「ではオーダーを入れて参ります、このティールーム自慢の風景も、どうぞご堪能下さい」
言われてヒューさんのいたカウンターの方から、窓側へと目線を振った。
ここからは見えないさっき来た階段中央には、壮大さと威厳があった。
それに対してこの小窓から眺める風景は、まるで外に見える建物が、そのまま額縁に納まったかのようだ。
1つの小窓に1つの建物が上手く入る様に窓が付いている。
ヒューさんがこの席を勧めてくれたのも、この景色を、ということなんだろうなぁ。
「気付かれましたか。いかがですか、あの建物は。貴族街区にある、この国で最も古い教会なのです」
「白亜の立方体の組み合わせ……あぁ、俺って表現力無いなぁ」
「はっはっ、どのように感じなさっても良いのです。自由ですからな」
いやそれにしても、こう遠目から眺めても綺麗でもあり、不思議でもある建物だ。
白亜、と思えるがよく見ると黒い自然の線が入った巨石。表面は光沢が強い。
その巨石を、いくつか組み合わせて積んでみた……みたいな形になっている。
……俺、ホント表現力とか美的センスとか無いな。
見て、考えてる俺自身、言葉に直すとその美しさが再現出来ない。
「教会、と言うと、何だかもう少し豪勢ってイメージがあったんですが、この世界の教会は、あんな感じで質素なんですか?」
教会に抱いていたイメージと違ったので、そこは聞いてみることにした。
「それが……教会というのが……」
聞いて、それでこの国は大丈夫なのか、と思った。
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