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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第3章 英雄外遊編 ~ローリスからおそとへ出てみましょう~

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第3章 外伝の2 第3話 嫉妬と今後の展望・事後処理。

 ふぅ……まさに、ふぅ……としか、言い様がない。


 フェリクシアは、既にメイド服を着直し始めている。

 この部屋には鏡が無いので、何となくという感じで髪型も直している。

 ベッドも触れてみて分かったが、フェリクシアの髪は硬い。コシがある、と言うべきなのか? よく分からないが。

 手ぐしで直る辺り、メイドさんとしては便利なんだろう。手早く身繕いが整う、というのは。


 ベッドは、1時間半ほど、位だろうか。時計なぞ見ている余裕は無かったので体感でしか無いが。


 初めてさんのリードはとても難しかった。表情硬く頬を染めて恥ずかしがる様は、見ていて微笑ましいと言えばそうだが、随所で俺の方が止まった。

 そりゃ、ベッドに入るなり、気をつけの姿勢になってしまうフェリクシアを、どこから動かせば良いのかという。難題も難題だった。

 全部あれこれと俺が指示を出し、フェリクシアがそれに従う……そんな調子で進んだが、それでも何とか事は成せた。


「シューッヘ」

「うん? どうかした?」


 メイド服の腰にある幅広の紐をキュッと結びながら、あっち向いてるフェリクシアが俺の名を呼んだ。


「やはり私は、どこまでもメイド気質が抜けないらしい。抱いてもらっている間だけは別だが、ベッドから降りると、元の意識に戻ってしまう」

「それは、つまりどういう事? もう俺に抱いて欲しくは無い、って言う事……?」


 精一杯心くばりはしたつもりだったが、ダメだったか……?


「いや、そういう意味では無い。ご主人様の胸の中は温かく、心地よかった。まだ下半身は慣れが必要そうだが。

 そこでは無くて、行為が終わり、ふわふわとした気持ちが落ち着くとすぐ、メイドとしての意識に戻ってしまう。

 それがご主人様にとっては奇異に映るかも知れないし、私としてもメイドの意識でご主人様を名で呼ぶのが、どうにも不自然なんだ。

 だから、と言ってしまって良いのか分からないが、常時呼び捨てには、どうにも出来そうに無い。第二夫人にしてくれたのに、申し訳ない」


 ふーむ。アイデンティティーレベルの意識は、そう簡単に変わらないのか。

 それはそれで、フェリクシアにとっての『自然』なんだから、俺は受け入れる事にしよう。


「じゃ、二人きりの時だけは名前の呼び捨てで呼んで、それ以外は今まで通り、かな? フェリクシアの呼びやすい呼び方で良いよ」

「助かる。どうしても自分の心に引っかかる呼び方だと、何というかこう、モヤモヤしてしまうのだ」


 ふとフェリクシアが振り返った。この表情だ。

 何故か好きなんだな。フェリクシアが何か困った時にする、眉をひそめた顔付き。渋い顔なんだが、無性に可愛い。


「じゃ、今俺の事をご主人様と呼んでるって事は、もうメイドの意識になってるんだね」

「ああ。夫婦であるのに私の身勝手な要望のせいで『それらしく』無くなってしまって申し訳ないが、許して欲しい」


 フェリクシアが何だかいつもより饒舌に感じる。簡潔明瞭な言葉が主なフェリクシアにしては珍しい。


「夫婦って言っても、どうなんだろうなぁ……ローリスの文化が分からないから何とも俺には分からないんだけれどさ。

 メイドさんから夫人にクラスチェンジした場合、一般的にはメイド卒業で夫人の地位に、とかなのかな?」


 と俺の方に向き直ってくれたフェリクシアは、そのままベッドの隅を回るようにベッドサイドテーブルの所に足を進めた。


「まぁ、メイドがしたくてメイドをしている者などそうはいないからな。夫人になれたら、メイドは辞めるだろう、大半の者は」

「フェリクシアはメイドさん、続けたいんだよね。そしたら、対外的にはどうする? あんまり第二夫人って事、知られない方が良い?」


 夫人に迎えた事を一切黙っていても、メイドさんが常にいるのは『普通』だから、外から見た姿は変わらない。

 アリアはああ言っていたが、きっと俺の真横のポジションは、今後一層、アリアが占めるだろう。

 となれば、第二夫人に迎えた事を秘しても、問題自体はない様に思う。あとはフェリクシアがどう考えるか、だ。


 と、真剣な顔付きで考えていたフェリクシアが口を開く。


「どうかな……結婚は、知られて問題にはならないと思うが、第二夫人ともありながら生活の雑務を細々としている事を奇異に思う者はいるだろう。

 ただこれも、話は堂々巡りだが、メイドは私の本分でもあるので続けたいし、夫人になったからと言って特別扱いも望まない。今まで通りで良い。

 今まで通り、このノガゥア家のメイドとして務めたいし、その上で、ご主人様の寵愛も、その……受けられるのであれば受けたい。

 ワガママを言っているのは自分でも分かっているのだが、こればかりはご当主の意見に従いたい。私の気持ち以前に、ノガゥア家当主の意思だ」


 なるほど、俺が決める、決め打ちする事、になってくる訳か。

 まぁ確かに、外から奇異に見られたところでそれを気に病む様な面々では無いのがうちのノガゥア家、でもあるし。

 フェリクシアの気持ちを尊重するのは大前提だから、新しいメイドを雇ってフェリクシアをメイドで無くする、というのもナシだ。


 となると……うーん、第二夫人ですがメイドです、と言うのは、如何にも変ではある。

 変だが、当事者がそれで納得しているのだから、それでも良いのかな……難しい。


 と、不意にドアがノックされた。

 ノックする人と言えば、一人しかいない。きっと心中穏やかでは無い、アリアだ。


「ど、どうぞー……」


 俺が怖々言うと、ドアが開いた。


「終わった? 話し声が聞こえるようになったから来てみたけど……随分静かだったわね」


 聞き耳っ。第二夫人迎えるつもりなんて無かったから、アリアの部屋は俺の横の部屋だ。

 壁の防音がどの程度か知らないが、話し声が通ってしまう程に壁は薄いのか? かなり気まずいな……


「静かだったのは、ご主人様が耳元でささやく様に声を掛けてくれたからだ。盗聴魔法を使っても、壁も壁だし、更にこの部屋の広さでは、音はそう取れなかっただろう」

「……と、盗聴魔法、なんで気付いたのよ」

「この屋敷の壁は、魔力に反応する。そして全ての壁は接続されている。故に、何か壁に魔法を使えば、こちら側の壁からでも何をされているか、大体分かる」


 ってつまり、俺はアリアの監視下でもって、その……行為を、進めていた、と言う訳か。

 アリアの嫉妬深さは時折感じるが、第二夫人との初めての夜まで聞かれてたとなると、気分は良くないな。


「アリア。さすがに新しい夫婦の、事もあろうにベッドの様子を盗み聞きしようっていうのは、俺はちょっと許せない。

 俺にも失礼だし、新妻をこころよく思っていなかったとしても、フェリクシアに対しても失礼だ。俺は、怒ってる」


 ベッドで足を伸ばしたまま、腕組みをして、出来るだけハッキリした口調を心掛けて伝えた。

 アリアは、聞いてはいたのだろうが聞かなかった事にしたいのか、顔色も変えずにそのまま俺のソファーの真ん中に座り込んだ。


「アリア、聞いてる? 俺は」


「聞いてる。盗み聞きした事は、ごめん。あたしまだ、第一夫人として余裕持って振る舞う、なんてとても出来ない。

 嫉妬深いのはシューッヘにはもうお見通しで、その上これだから、あたしが自分で、自分の立場を危うくしてるって、それも分かってる。

 けど……あたしは、フェリクの想いが叶って本当に良かったって、これは本当。でもその想いがあたしの想いとぶつかるって……

 正直まだあたし、さっきホールでは色々言ったけど、全然冷静になれてないんだと思う。でも、フェリクを抱いてるシューッヘの事を想像して、もう……」


 アリアが言葉を詰まらせ、顔を手で覆って下を向いた。

 うーん……難しいが、アリアの気持ちも分からないでは無い。嫉妬、という感情自体は俺にはあまり理解は出来ないが、自分の夫が別の女と……となれば、気持ちはざわつくだろう。

 アリア自身、第一夫人としての余裕、と言ってるが、これから先第二夫人にフェリクシアが座る以上、その嫉妬は何処かで消してもらわないといけない。行動がしづらくなる。


「ねぇアリア、俺がフェリクシアを抱く、って考えると、それは確かに気持ちがざわめくのは理解出来る。けれど逆に、俺がアリアを抱いた時に、フェリクシアも同じ思いをするんじゃない?」

「フェリクは……なんだかその辺り、上手く気持ちの切り替えとかしそう」

「ってアリアは言うけど、フェリクシアはどう? そんなにスパッと切り替えが出来そうなもの?」


 俺がフェリクシアに話を振ると、また再び考える仕草に戻って、少し時間を置いて、言った。


「既に奥様も壁越しに聞いておられただろうが、私はどうにも、メイドとしての意識が根源にある様で、抜けない。ホールで、たった一度で良い、と言ったのも、決してやせ我慢では無い。

 既にその『たった一度』を済ませた今となれば、ご主人様が望まれればもちろん応じるが、自分から進んで望む程の事では無いのかな、と思ってもいる。

 故に、というのもおかしいが、私の場合メイド業が常であって夫人の立場立ち位置はメインでは無い。だからこそ、メイドに立ち返る事で、意識の切り替えは簡単に出来る」


 プロ、だな全く。ただ敢えて言ってしまえば、新妻を迎えたがワンナイト新妻にすらなってしまってる様な、随分ドライな印象すら受ける。

 俺はあの、フェリクシアの熱い想いに打たれて、フェリクシアを第二夫人に迎える事を決めたんだが……うーん、ドライ過ぎて、少し戸惑う。


 と、不意にアリアが言う。


「でも、シューッヘとの夜って、心地よいでしょ? あなたも認める様に。だったら、我慢せずに何度でも、求めたら良いじゃない。あたしへの気兼ねなんてナシにして」

「まぁ、夜の感覚と言うか、なるほどこういう事なのか、という理解がようやく出来たのが、つい先ほどの話だ。まだ私には早かったのかも知れないと、今はそう思う」


 フェリクシアの言葉は、良くも悪くも淡々としていて、俺が何か言う空気では無い感じが漂っている。


「フェリクシアは、確かに慣れてなかったんなら、今の今じゃ良さが分からないかも知れないわね。でも、何度も抱いてもらえば、絶対分かるわよ」

「ううむ。ご主人様は私を抱くにあたって、気遣いの枠を超えた尋常でない気の使われ方をなさっていた。ならば、ご主人様にご負担を強いるのは……」

「それは誤解よ、間違いなく。シューッヘが初めての子を抱きたいって思ってたのも事実なんだし、けどそれがそう上手くは行かなかった、ってだけで、さ」

「そもそも初めてというのはそれ程価値があるものなのか? ご主人様も、随所で頭を随分と絞らねばならない様であったし、特段の価値は……」

「ねぇシューッヘ。初めて、初めての子抱いてみて、価値観とか変わった?」


 唐突に俺のターンが来る。まぁ、来ないで女子だけで結論出されても困る、という面もあるけれど。


「そうだね、結構ハッキリ変わった。女神様に言った『不思議な力』は働かないし、体位とか取らせづらいし」

「シューッヘって、開拓していく、みたいな方向性の楽しみは持たないタイプ? 自分好みに調教する、みたいな」

「ちょう……う、うーんどうなんだろう。俺自身、女性との性に出会えて日が浅いから、自分の性癖はつかめてない。あ、けど、メイド服は好きかな」


 と、俺が付け加えた一言に、不穏な、凍り付く様な空気感が流れる。えっ、俺変な事言った?


「って言う事はぁ……シューッヘは、メイドのフェリクシアを抱きたいって事よね。違う?」

「ち、違う、のかなぁ。俺も正直分からない。単に、メイド服のフェリクシアを思ったら、なんかこう、盛り上がった、ってだけだから」

「余計ややこしいことになりそうね。シューッヘ・ノガゥアの第二夫人でメイドで、夜の扱いもメイドで。ご奉仕、みたいな?」

「ご、ご奉仕みたいな事はさせるつもりは無いよ。あくまで俺の奥さんだから、俺が愛情を掛けて抱きたいって思う」

「でも服装はメイド服のまま、着衣でしたいなー、みたいな方向よね? 違ったら言って?」

「……違わない、かも知れない」

「男の人って、性癖でハマり込むとのめり込みがちだからなぁ……あたしはしばらく抱いてもらえないの確定かしら、はぁ」

「ご主人様との話を遮ってすまない。アリア。ホールでも言ったが、私はあくまで一度で良いし、アリアのシューッヘ殿、と私も思っている。全ては解決している。今後、私が抱かれなければ良いだけだ」

「そう上手く行くかしら。シューッヘも若いし、自分の好みの、悪く言えば性癖の虜になるのは、目に見えてる気がするんだけどなぁ……」

「ご主人様、その辺りはどうなんだ? 私がその、メイド服姿のままベッドに入る事は、それ程嬉しい事になりそうか?」

「…………ごめん、なりそう」


 フェリクシアの顔が、いつもの渋い顔になる。

 困らせてるのは今回は俺なので、その顔が好みだとか言ったら余計ややこしくなるので黙る事にした。



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