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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第3章 英雄外遊編 ~ローリスからおそとへ出てみましょう~

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第3章外伝 第4話 大盛況

外伝後半3話です。今年もお世話になりました、来年も読みに来て下さい!!(^^)


 ―――― そして…… ――――



「すいませーん! 降りますのでちょっと場所を空けて下さーい!」


 既に人混みというよりぎゅうぎゅう詰め状態の門の外。そこにどんと鎮座している樽の上から、飛んで降りられない程の人が来ている。

 何とか隙間が生まれたのでそこに飛び込んだ。ドラゴンブーツのお陰で、2~3段の階段から飛んだ時の様に、膝も曲げずに着地。


「通ります! 道を空けて下さい!」

「おぉっ!? あんちゃん自分だけ先に飲もうなんてぇのは」

「俺はここの当主、シューッヘ・ノガゥア子爵です!!」


 俺は絡みかけてきた男に、ことさら大きな声をぶつけた。

 さすがにひるんだようで、男は一歩後ずさった。

 しめた、とばかりに俺はその隙間に強引に突っ込んだ。


 門の中。庭は、激しく混んではいるが外の密集状態に比べれば隙間はあった。俺は人混みを縫って、急いで屋敷に駆け込もうとした。

 と、ちょうど玄関の手前で、フェリクシアさんが押して出て来たサービスワゴンにぶつかりそうになって急停止。


「おお、ご主人様。門の外はどうなっている?」

「もう[エンライト]の呼び込みは要らない! 中央市場からずっと人の波が続いてる!」

「な……他の貴族達は何をやっているんだ。引き留められなかったのか?」


 と言いながら、グラスやらコップやら湯飲みやら、しまいには小ぶりのボウルまでワインに満ちたのが載っているサービスワゴンを押して、フェリクシアさんは庭に出て行った。

 俺は俺で、玄関前の左右に設置したつまみに伸びてくる手をかわしながら、屋敷の中に飛び込んだ。


 ふう……間違って入ってきている人はいない。そこはひとまず安心か。


「キッチンは……アリアさんがいるか。樽の中身は大丈夫かな……」


 魔力は危ないので籠めず、樽を横から平手で叩く。空っぽの音が響く。

 更に下の方を叩いていくと、コックのギリギリ上までしか無いのが分かった。


「アリアさん! 樽の交換が必要だ、サービングをフェリクシアさんと代わって!」

「はい! 10秒後に行く!」


 10秒。なんてタイトな時間繰りだ……確かにその位のシビアさでないと、回らないのは間違いない。

 キッチンでガシャガシャとグラスを洗浄していたアリアさんが、腰に回した紐に掛けたタオルで手を拭いながら、キッチンから駆けて出てくる。


「アリアさん、この状況、恐らく夕方、下手すりゃ夜まで続く。中央市場まで人波がずっとつながってる」

「はっ?! 中央市場からずっと?! うわぁ……」

「体力ヤバくなったらすぐ言って! 今日ばかりはエリクサー使ってでも乗り切らないといけないから!」

「そ、そうね。とにかく、フェリクの所に行ってくる!」


 アリアさんが駆けていく。

 俺も俺で、洗い物得意じゃ無いけれど、とにかくグラス1つでも復活させないと回らない。キッチンへ向かう。



 まず駆け寄ったキッチンの流しは、水が張ってあった。その中に多数のグラスやらボウルやら、「ワインが注げそうな物」なら何でも入っている。

 1つでも洗おうと手を伸ばした時、その張ってある水に強めの魔力を感じた。魔法で洗浄してるのか? となれば、ここはこのままだ。


 振り返り、キッチン中央の作業台へ。かなり大きな作業台だが、3分の1は使用済みのグラスやらで埋まっている。

 しまった。俺が洗い場をする想定はしてなかったから、グラス手洗いしか考えてなかった。この数に手洗いじゃ、正直焼け石に水だ。


 考えろ俺……大量の汚れ物、一気に片を付ける方法を。

 グラスの底に残ったわずかなワインを無くすこと、それから口が付いた部分を何とかすること。

 下手な水魔法は使えない。グラスが倒れて割れでもしたら、余計サービングが回らなくなる。


 こうなったら多少雑に考えるしかない。

 ワイン残りは後でザブンと水をくぐらせるとして、口が付いた部分は、特に汚れが見えなければ、殺菌さえ出来ていればそれで良い!


 俺はキッチンの出口まで下がり、手だけキッチンの中へと伸ばした。


「[女神様の御光 1キロワット 照射5秒 照射領域・照射方向固定 波長を紫外線域に固定]!」


 唱えてすぐ手を引っ込める。UVは目に見えない。だが有害だ。

 オーフェンで結界を作成する権限を削除されてしまった俺は、危険な光を防ぐ完璧な術を失った。光が当たる所から離れるしか無い。


 5秒カウントして、再びキッチンに入る。

 ん? 何か不可思議な臭いが作業台付近からする。紫外線が強すぎたか?

 有害ガスだと行けない。ちょっとだけ勝手口を開けて換気しとこう。


 ともかくこれで、殺菌は出来た。油ものは出していないから、洗剤類はこの際必要なしとする。

 魔法が満ちた水に蛇口の水が混ざって良いのか分からないが、この際細かい事は気にしていられない。

 グラスやら食器やらを、次々蛇口の水だけですすぐ。濡れているが、使えない事は無かろう。


「ご主人様、洗い物はその流しの水にくぐらせるだけで良いぞ?」


 と、フェリクシアさんがキッチンに戻ってきた。


「いや、色んな人が来てるからね。口を付けた所から病気がうつっても行けないから、作業台の上のは殺菌をしたよ」

「さっきん? いや、グラスに口を付けただけで、汚れてはいないぞ?」

「食中毒もそうだけど、色んな病気って、口から入る事がある。病気って、目に見えない微生物とかのせいで起こるんだ。だから微生物を全部殺さないと、衛生とは言えないんだよ」

「びせいぶつ? よくは分からないが、そうなのか。病気は空気が悪いものだと思っていたのだが……」

「今は細かい解説してる余裕はないから、また今度ね。グラス、濡れたままでも大丈夫?」

「ああ、濡れていて構わない。早速その『さっきん』を済ませたものから使っていく事にする。流しの中のもそれをお願い出来るか?」

「分かった、やっておく。あと樽がそろそろヤバい。交換が必要になる」

「了解した。ワゴン分だけ出したらすぐ地下に向かう」


 俺はとにかく猛スピードで、作業台から蛇口経由で横の空きスペース、という流れを繰り返す。

 しかし作業台には、回収されたグラス類がまた次々乗せられていく。うーん無限ループ。

 濡れて並んでいるグラス類は、次々サービスワゴンに搭載されていき、フェリクシアさんと共に消えていった。


 殺菌する為には、水の中だと紫外線が反射されるかも知れない。出そう。

 もう少なくとも100個以上はこの水をくぐってるはずだが、水は澄んでいる。殺菌効果あったりするのかな。

 ただ今日はとにかく安全策を採ろう。「あの貴族の酒には毒が入ってた」みたいな事になっても困る。


 溜め水の中から次々出しては作業台に並べていく。うむ、この順の方が楽かもな。ワゴン、流し、作業台、殺菌、ワゴン再び。


 ……あれ? 

 洗剤で洗う時間が無くて、何か魔法は使っていたようだけど、本気の殺菌って、俺しか出来なくね?

 まぁ……呼び込み役はしばらく必要ないから、殺菌紫外線の照射係に徹しても問題はないか……?


 考えながらも手と足は止めない。流しから作業台、流しから作業台。

 流しが空になったので、一度水を抜こう。排水口を塞いでいる木の蓋を取った。

 ゴゴゴと水が流れる音を背にして、再びキッチンに手だけ残して、紫外線照射。

 今度は絞って100ワットにした。処理後また若干臭うが、さっきほどではない。


 紫外線って、100ワットでも強いのかなぁ。可視光線で考えると、ギリギリ直視しても何とかなる程度の光なんだけど……

 いや今はそんな事考えている余裕は無い。強い分には、安全側に振るだけなので良しとする。作業者の俺に害毒があったら、後でエリクサーで治す!


 殺菌が終わった水浸しのグラス。曇りが無いな。

 よく考えれば、手の脂くらい付いててもおかしくないんだが……


「あ、シューッヘ君! フェリクが地下に飛んだわ、空樽の撤去お願い!」

「あいよっ! そこのグラスは全部殺菌済みだからすぐ使える、あと流しの水流しちゃったけど何か魔法掛かってた?」

「油分分解の洗浄魔法掛けておいたの。ダメだった?」

「いや、そしたらごめん二度手間になっちゃうけど、もう一度その魔法をお願い出来る?」

「うん、分かった。ところで『さっきんずみ』って何が済んだの?」

「あーざっくり言うと、目に見えない毒性の生物を全滅させた。食中毒の元にもなる様な生物とか」

「えっ、食中毒って生き物のせいなの? 初めて知ったわー」


 アリアさんのびっくり顔が可愛い。いやいや、今は樽撤去が優先だ。

 正確に同じ場所に同じ規格サイズの物が転移してきたら、元ある物が強制的にどけられる。

 いっそそれで粉砕させても良いのかも知れないが、新しい樽の酒に木くずやらが入ってもいけない。樽をどけよう。


 俺は駆け足でホールに出た。魔力を手に充填。高圧ガスの噴射をイメージ……

 うん、良し。両手で空樽をホールドし、そのままひょいと持ち上げる。腕の(魔法込みの)筋力だけで軽々上がる。ひとまずこの樽は、テーブルの横に下ろす。

 30樽の空き樽なんて、当然このホール内にストックは出来ないから、樽のタガを外してバラして片付けるしかないな。

 樽に掛かっている黒い金属製のタガに手を掛ける。う、思いの外堅くて外れん。さすがこれだけの樽を締めてるだけある。


 仕方ない、切っちゃおう。俺は腰の短剣を抜き、飛び上がって樽に斬りかかった。

 短剣の刃はまるで小枝でも切るかの様にスカッとタガを切り裂いた。上下・真ん中のタガ全てが一度に切り離された。

 と、樽がふくらんだ。いや違う、締めてたのが無くなったからばらけるのは当然、うわっ危ない板がっ!


 ……頭の上でクロスした、魔力強化してある頑丈な腕に、厚い板が3枚。後の板は八方にばらけてぐらんぐらんしている。樽の板だからな、緩いカーブがある。

 底板の所を見ると、少なからずワインは残っていたようで、床はワインでびたびた。あぁ、またフェリクシアさんの手間が……


 おっと。テーブルに寄りかかってる板だけはどけておかないと。わざわざ樽をどけた意味が無くなる。


 よいしょっと。

 樽が俺の背丈よりもうんとデカいから、板も当然長い。うん、刻もう。

 短剣でもって、板をぐーっ持ち上げてはカット、持ち上げてはカットし、1枚の板を3つに切った。

 短剣の刃は木の板程度まるで手応えすらなく切れる。相変わらず規格外の刃物だこいつは。


 1枚の板が3つの部材になったその時、ふっと空気が動いた感じがした。背中を押された様な感じ。

 振り返ると、新しい樽がテーブルの上に鎮座していた。よかった、間に合った。後は板類をなんとかすれば終わりだ。

 と、アリアさんがトレーを持ってキッチンへの通路をこちらに駆けてくる。もちろんトレーにはグラス類が満載だ。


「ありがとシューッヘ君! 早速注いで、サーブしてくる!」


 言うや、グラスを構えてコックを開いた。結構な勢いでワインが流れ出てくる。

 注いでは次、注いでは次、という感じであっという間にワントレイ分のワインがグラスに入った。量は結構まちまちだが、概ねこぼれそうな程に注いである。


 アリアさんが小走りで玄関に駆けていくと、入れ替わりでフェリクシアさんが通路から現れた。


「樽はっ……おお、問題無く移動できたか」


 文字通り胸をなで下ろしているフェリクシアさん。

 そう、今回は練習なしの本番一発勝負。まさに今回が「初めての樽交換」だった。胸をなで下ろす気持ちはよく分かる。


「樽の板、バラバラにしちゃったけど、酒問屋に返さないといけないとかあった?」


 フェリクシアさんに言うと、うつむいて首を横に振った。


「本来は返すべき、利用価値のある樽なんだが、今日ばかりはどうしようもない。後で金銭で補償をすれば良い」

「今これ、タガを切って、更に板は3分割にしようと思うんだけど、その廃材は勝手口から捨てとけば良いかな。段々山積みにはなるけど」

「ワインの樽は香りが良いから、3分割と言わずもう少し細かく刻んで、客側に出そう。少しは持っていってくれるかも知れない」

「なるほど、香りか。じゃ、人が手で持ち帰れるサイズまで刻むか」


 3分割を更に半分にすれば良いかな。それっ……うん、このサイズなら、持っていける。

 けれど、細かくなればなるほどかさばる。いっそ外に持ち出して裁断するか。


「フェリクシアさん、ばらけた長い樽材を庭に持ち出して、来てる人の前で切り刻んでも良い? この短剣の切れ味も、多分面白いと思うんだ」

「おお、それは良いお考えだ。飲んでつまむだけよりは、芸があるのは楽しいだろう」


 なんか大道芸人にクラスチェンジする模様である。


「じゃまぁ、早速やってみることにするよ」


 俺は短く刻んだ板をテーブルの隅に置いて手を空け、抱えられるだけの長い樽材を抱えて玄関へ。

 さすがに客人らも驚いた様で、がやがや、といった感じが、ザワザワ、に変わった。


 完全に庭に出た。庭はそこまで広くはないので、長い材木で人垣がすっかり割れている。

 俺は1枚の板だけ残して庭に放った。その1枚を、ぐっと空に掲げる。いざオンステージである。


「さーさーっ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! ここにあるのはワインの大樽、タガを外した樽の板だ!」


 俺が大声でしゃべり出すと、更にザワザワ感が増した。そりゃ何が始まるのか気になるよな。


「そこに持ち出すのがこの水晶の短剣、さあこれで板をサクッと切れるか切れないかっ!」


 俺が腰の短剣を抜き、手首をうねうねさせて短剣をアピールする。

 ザワザワは更に大きくなり、言葉も聞き取れるようになった。無理だろそりゃ、割れちまうぞ、その辺りが主流派だな。


「さぁさぁいざご覧あれ、種も仕掛けもありゃしない、それそれそれ」


 俺は左手に持った板を右手の短剣で斬り付ける。

 乱雑に3回短剣を振るって、軽々と板の切れ端がすっ飛んでいく。


「役には立たない土産だが、シューッヘ・ノガゥア子爵自ら刻む樽板の欠片、欲しい奴は持って行ってくれぃ!」


 すかさず板を顔の前に構え、左から右へ立て続けに切り刻んでいく。一片が大体5センチほどの木片が次々生まれる。

 最初ちょっと尻込みしている感じの酔客だったが、俺が刻んでいる足下に屈み手を伸ばして木片を拾った男が、


「おぉ、こりゃぁ良い! 酒の香りがするぞぉ!」


 と、酔いどれ特有のだるめの大声で叫んだ。

 すると、今までの引き気味だった様子が一変し、我先にと俺の足下に人が集まってきた。

 俺は伸ばされた人の手を踏まない様に気をつけながら板を持ち上げつつ進み、どんどん木片を作っていく。


 次第に背丈よりも長い木の板も、全長を持ち上げられるサイズになってくる。それでも刻む。ひたすら刻む。


「そりゃ、次はこっちから行くぞー!」


 刻み切って、今度は門側に立つ。さっきとは逆側から板を持ち上げ、これもまた刻んでいく。

 逆サイドに回り込んで分かったが、思ったより需要が高い。かなりの個数の、木札の様な木片を作ったが、既に粗方拾い尽くされている。



 俺は2枚の板材を木片に変えた。

 それらは見事に()けた。こりゃ樽のゴミをストックしなくて良いし、客人は土産話にも出来る物も拾えて、一挙両得!





 ……なんて思っていた時もありました。はい。すいません。


 俺が刻むが早いかどんどん持って行かれる。そこまでは良いんだが、門の外でうずうずしてる連中まで中になだれ込んでしまい、庭が押しくらまんじゅうになった。

 仕方ないので、この大道芸は門の前でやる事にした。まぁ、待ってる人も暇だろうし。木片は帰りにでも持って帰ってもらえば良いし。


 山ほどある板をもっと山ほどの木片に変え、呼ばれたら中に飛び込んで殺菌灯になって、また外に出たり、樽のタガ切って更に板を生産したり。



 このお土産サービスは想定外の評判を生んだらしく、後々聞いた話だが一時最後尾は、城塞南部地区まで達したそうだ。うーむ、5km位の行列。

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