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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第3章 英雄外遊編 ~ローリスからおそとへ出てみましょう~

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第45話 反逆者、置物になる。

 

「コカトリスをご存じですかぁ? 女神様」

『コカトリス? 魔族領でも、もう保護種で、年々数が減ってるって聞くけど、それが?』

「魔族領にいるコカトリスでは無くて、魔界の方のコカトリスを、闇魔法で召喚しますっ!」

「ちょっと待てデルタ、コカトリスなんて召喚すんの、どんだけの魔力が要るか分かって言ってんのか?」

「うーん、知らないですけどぉ」

「ふざけんな! 命の重さと実体の重量の積に従って、倍々増に必要魔力が増えんだよ! コカトリス分かってんの?! これ位あるぜ?!」


 と、イオタさんが手を横に広げる。次いで縦に。それぞれ同じような幅・高さの様で、イオタさんの肩幅と同じ位だ。

 イオタさんは比較的小柄な人なので、肩幅と言ってもそこまで広くはないが……ニワトリ比で考えるとデカい。

 コカトリス、何となくこれまでニワトリの有害バージョンみたいに思っていたが、どうもこの世界のコカトリスはデカいらしい。


「はいそこで、ジャジャーン! 英雄閣下の出番です! 古代魔法大法典、死者の書の3巻12章の1の1にある、[テンポラリー・スピリットボウル]を使います!」


 ……[テンポラリー・スピリットボウル]? 

 初めて聞く魔法名だ。古代魔法らしいから、魔力量さえ足りればある意味ごり押しで発動は出来るけれど……


 と言うか、古代魔法大法典って言ったら、あの超分厚い、超細かい字の、とても読んで居られないアレだ。辞典以上に厚い、厚すぎてサイコロみたいな本。

 俺も興味本位で、第一巻『(ことわり)の書』の第3章、魔法概念概論の後編までは読んだ。それ以降の部分は、もっと軽い本で読むしかなかった。

 俺も努力はしたが……死者の書なんて言ったら、サイコロ10個読み終えた後に続く代物だ。とても俺の頭で読み切れる量じゃ無い。


 そうなると、デルタさんはあの大法典を、恐らくだが全部読んでるのか。

 細かい章の先の先まで把握してるんだから、まず間違いないだろう。


「デルタさん、その[テンポラリー・スピリットボウル]って、どんな魔法? それに、概論系以外だと、魔法基礎数あるよね。基礎数いくつ?」


 古代魔法は、そのコストに応じて基礎数というのが明確に書かれている。

 俺が、原典と入門書と研究書、合わせて8冊ほど読んだ範囲では、1から13まではともかくあって、ちょうど時空魔法が換算の基準になっている。


 1分戻す魔法が基礎数1。これが2分なら、基礎数2になる。

 そうかぁ……そう言えば時空魔法が失伝してるから、基礎数から計れる魔法量自体もあんまり理解はされてなくて、それで誰も使えないとかなのかもな。


「基礎数は7なのですよ。なので、英雄閣下の力が、ぜぇったい必要なんです!」

「7か。それだったら、何とかなるかも。どんな魔法? 構築プロセスに特殊な点は無い?」

「シンプルに、何かの入れ物を作るつもりで、魂の器、つまり魂専用のボウルを生成してもらう魔法になります! 生き物だったら、その生き物の姿とかです!

 ただ、その魔法で器に魂が宿れるのは、10秒が限界です! なので、時間との勝負なのです!

 その10秒でするのは、イオタの異界召喚! 魔霊界のコカトリスの死んだ魂を()んでもらいます!」


 しっかしテンション高いなぁデルタさん。

 何となく思い出すのは、『同族に出会って興奮して話すオタク』。

 早口でまくし立てて、周りは聞きづらいんだけどその空気に気付けず、ずっとそのテンション、ってアレだ。


 ま、俺もそちら側に近かったから、そういうテンションも理解は出来るし会話も付いてはいけるけれども。


「デルタにしちゃ、やるじゃねぇか。魂だけ喚ぶなら、魔法的に重くねぇからな。英雄さんよぉ、コカトリスの魔眼っての、知ってる?」

「ん? アレかな、見られると石になるって言う」

「惜しいな。魔眼も、生体魔法の一種だから、そいつが行使しようとしなけりゃ発動しねえんだよ」

「だと……10秒のうちに、そのコカトリスを喚んで、魂の器に宿らせた上で、コカトリスに石化させたいと思わせなきゃいけない?」

「そうなるんだろうな、なぁデルタ、お前コカトリス喚ぶは良いけどその後どうすんだよ、コカトリスだってよっぽど怒らせないと石化使わないぜ?」

「気持ち良くなってもらいます、砂場を用意して、砂浴びしてもらって」

「……はい?」


 イオタさんの視線が、まさに殺すぞコラと言ってる様な、強烈に冷たくキツい視線になっている。


「ま、まだ続きあります! 気持ち良くなってもらったところをそのお……お尻を蹴り上げて、ヌメルスにぶつけますっ!

 ぶつかった衝撃と気持ちよさからの急転落で、反射的に石化視線の照射がされて、石化完成です! でも、まだ続きがあるんです!」


 まだあんの? 石化したら終了じゃないんだ。


「石化したヌメルスは、死んでいるようで死んでおらず、痛みも感じます。そこに更に古代魔法[物質転換]で、石を金属に変えます!」


 石像を金属像に変える訳ね。まぁ銅にして銅像辺りか? [物質転換]は古代魔法の中でも基礎魔法なので、その部分では使えなくは無い。基礎数は2。これも問題無い。

 罪人を永久保存するのって、この世界の処刑の文化なのかな? 地球だと讃える人こそ銅像とかにするけど……


「あぁん? ヌメルス銅像にして讃えてどうすんだよ」


 そこは一緒か。じゃなんで金属の像にするんだろ。石像でも悪くないと思うんだが。


「そうじゃないんです、石には細かな空洞があるので、魂がいずれ抜け出てしまうのです。でも、金属の像なら、魂を永久保存出来ます!」

「なるほどねぇ、石像は、風化もするしねぇ」


 全てを察したのか、イオタさんが目を横に引き延ばした様な顔をして、ニヤァっと気色悪くすら感じる笑顔を浮かべる。


『つまり、ヌメルスの魂を銅像に封じて、晒すなり叩くなりしよう、って事で良いのかしら?』

「はい! 国民みんなで総叩き大会ですっ!」

「ふざけるなクソ共がぁ!!」


 かがみ込んで足先を押さえ、冷や汗を流しながら押し黙っていたヌメルスが、突然大きな声を出した。


「私を殺すならば正当な法の手続きを要請する! 私は裁判を受ける権利がある!」


 と、オーフェン王が数歩前へ進んで、ヌメルスを上から見下ろす位置に立った。


「ここはオーフェン、儂の国だヌメルス。ローリスの法体系とは異なり、オーフェンで行われた犯罪は全てオーフェンが裁くのが、オーフェンの法律だ。

 最高司法権は儂にあるので、儂はヌメルスを裁判無しの死罪とし、その手法や方法は、女神様始め皆様にお任せする」

「そ、そんな馬鹿な事があるかぁぁ!!」


 けたたましく響くその声は、とても老人のそれとは思えない力強さがあった。




 ***




「じゃ、行くよ! [テンポラリー・スピリットボウル]」


 俺はコカトリスのディテールを知らないので、ニワトリのデカいのをイメージする。

 古代魔法も現代魔法と変わらずシンプルで、結果をしっかり意識して魔力を行使すれば、その形になる。


 ぼてっ


 中空からでっかいニワトリが降ってきて、既に準備されている砂山に半分埋まるように落ちた。

 が、これは単なる器。魂が宿っていないので、動く事はない。


「じゃあたしね、[サモン・コカトリス]」


 単なる器で動かなかったニワトリが、突然パッと羽を開いた。

 そして、その場でウズウズし、砂浴びを始めた。うん、上手く行ってる。


 後は、蹴り係のサリアクシュナさんが正確に蹴ってくれれば……


「じゃ、蹴るわよ。それっ!」


 コカトリスに正確にヒットしたキックは、バスンと、サンドバッグでも叩いたかの様な鈍い音を立てた。

 コキャー、と言うか、クキェー、みたいな、本当に痛そうな叫び声と共に、デカニワトリは真っ直ぐヌメルス向けて飛んでいく。

 この死罪執行、かなりとばっちりの危険性があるので、ヌメルスは縄で縛り、広間の角に配置した。

 ターゲットが広間の角なので、蹴りが少しブレても、まぁ大体角には行く。


 ボスッとコカトリスがヌメルスの顔面にヒット。見事な蹴りだ。

 床に落ちるコカトリス、羽が口にでも入ったか、唾を吐き出しているヌメルス。

 そのヌメルスの方を、コカトリスが睨み付けた。コケーっ、と高らかに一鳴き。


 ヌメルスの表情に恐怖の色が生じたその瞬間には、もうヌメルスの顔面は動かなくなってた。

 と、コカトリスの姿が消える。10秒経ったんだな、短い時間だ。


 これで、ヌメルスは死んだ。死刑自体は、ともかく執行された。もう危険性は無い。

 俺はゆっくり広間の角まで歩を進め、石像ヌメルスの様子をじっくり見てみた。


 ヌメルスの表情は、恐怖で目を真開き、口も半分位絶望に開き、眉の辺りや目元の辺りにその絶望感がよく現れている。

 縄に縛られて座ったまま、と言うのもまた、処刑としては味があるのかも知れない。

 徐々に石化の状態がしっかりとしていく。石化はヌメルスの生身だけに留まるのかと思ったら、スタッズジャケットの上に着ていたローブや縄にまで及んでいる。


『シューッヘちゃん、今はまだ触っちゃダメよ。石化中は少し脆いからね。完全に石化するのを待ちましょう』


 俺は女神様の方を向いて黙って頷き、固まったままどんどん石の色になっていくヌメルスを、女神様を銃撃したテロリストを、見届け(ひるがえ)った。

 そうしていると、俺の横にイオタさんが寄ってきた。すり寄る、という感じで、随分と近い。


「旦那ぁ、あんな大魔法、よくもそう易々と使えたもんだね。旦那が使った魔力の余波だけで、あたしの全魔力と同じくらいありそうだったわ」

「まぁ、古代魔法だしね。燃費? 要するに、使った魔力に対して生じる結果のバランスも、かなり悪いんじゃないかな、ダダ漏れ方向に」

「ローリス帰ったら、あたしの事、側室にしないかい? 愛妾でも良い。強い男が好きなんだ、魔力的に」

「俺にはアリアさんがいるからね。アリアさんが正室で側室で愛妾だから、空きは無いよ」

「はん、かたぶつ」


 そう言うと、くるっときびすを返して、去って行った。なんなんだ。

 まぁ、イオタさんにとってはアレなのかも知れんが、残念ながらイオタさんは俺のストライクゾーンにはいない。小悪魔系ロリは厄介そうなので要らない。

 じゃ好みだったら良いのか? という事は別途あるにしても、今の俺はアリアさんラブでいっぱいだ。空き枠は無い。


 イオタさん、きっと今の処刑で興奮してたんだろうな。あんな突然の告白をしてくるなんて。


「英雄閣下っ、やりましたね! 後は[物質転換]だけですが、行けますか?!」


 デルタさんのテンションは今もまだ高い。いや、もしかすると、いつも高いのか?

 まぁテンションはともかく、[物質転換]は意外とミスが起きやすい魔法である。

 大法典によれば、「簡単に発動できる中では、最も結果が正しくならない魔法」とも記載があった。


 物質転換かぁ……使いこなせれば、まさに錬金術なんだけどな、ホント。


 地下室練習では、石を拾ってきて金に変えてみようとした事が幾らかある。

 結果は失敗ばかり、出来ても金メッキの石になっただけだった。

 要するに、表面の極薄くだけ、金属に変わった訳だ。メッキとは仕組みが違うが、見た目は同じだ。


 どうしても視覚がオープンだと、その元々の色や形、有り様などに引っ張られてしまい、変化すらさせづらい。

 かと言って、目を閉じて魔法を打つと、色だけ同じ別の金属になったりもする。

 鉄を金にしようとして、アレになった。有名な『愚者の黄金』、黄銅鉱に化ける。金だと思って喜んだんだが。

 フェリクシアさんに鑑定魔法で「無価値だなこれは」と言われた時の、がっかり感たるや。


 ただ今回は、単に金属に変えればいいらしい。金属ならなんでも、とデルタさんは言った。

 イオタさんは銅像とは言っていたが、別に純銅である必要も、銅である必要すら無いのだとか。


 雑草という草が無いのと同じく、ただの金属、と言われても、少々困ってしまう。

 貴金属に変えては、讃えている様になるからダメだろう。金・銀・白金辺りは、アウト。

 平凡な金属と言うと、この世界でも鉄や銅となるようだが、日常生活で鉄や銅を意識するシーンって、そう無いんだよな。


 うーん、どうしよう。金属金属……出来るか分からんが、アレにするか。屋敷の電源パネル。

 ミスリル混の鉄材だから、いざとなったら溶かして資源にも出来る。

 石像と同じく痛みを感じるらしいから、魔法をよく通すミスリルは、魔法による拷問にもなるかも知れない。


 死者にムチ打つ、とは、まさにこの事だな。

 まぁ女神様に銃口向けた報いがそれなら、まだ軽い方だと俺は思ってしまうが。


 何にせよ、金属像にしてしまえば、国民がバットで叩けばそれだけの、頭どつかれた痛みと衝撃は、ヌメルス本人に伝わるのだそうだ。

 更に、金属が完全に朽ちる、つまり酸化鉄の様に脆い物質に変化しない限り、魂の拘束は続くと。ある意味、相当エグい。


「さて……デルタさん。魔法自体は打てるけど、結果はあんまり確約出来ない。大法典読んでるみたいだから、分かると思うけど」

「そうですね、古代の人々をしてさえ、正確な物質転換はかなり難しい部類らしいですから、とにかく金属であれば!」


 金属であれば、ねぇ。

 まぁ電源パネルは、2、3日に一度は触れているから、何となく感触も分かってる。


「ご主人様、そろそろ石化が完成するぞ」


 いよいよ最終工程か、やれやれ、随分プロセスの複雑な死刑だこと。


「今行くよ」


 俺は足を進め、恐怖の表情に固まった、石のヌメルスの前に再び仁王立ちした。


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