第44話 The goddes has an American symbol in her hand.
女神様がめちゃくちゃわざとらしく「見てないよ」という事を、ルールの例外が使える立ち位置に立てた事を教えて下さった。
んっ、でも声は出せないな……見ーつけた、とか言われかねない。
動いてもいけない。光学迷彩って動くと少し不自然さが出る。
困ったな……
フリーズしてる分には完璧な光学迷彩だけれど、サリアクシュナさんの、せめて真横にいないと、時空魔法は使えない。
『どうしたのかしらねぇ。熱探知でもしてみようかしら、それとも反響音探知の方かしら』
うぇっ。例外の立ち位置に、ずっとは居られない様だ。
身動きが取れない、距離が遠い……よしっ、アレで行こう!
俺は意を決して自分の魔導線を意識した。これも[マギ・ビュー]みたいな魔法を使わないと見えないから大丈夫。
意識して32本の魔導線を、左腰の星屑の短剣に立て続けに全て接続する。
身体に、ぐぐっと魔力が入ってくる感覚がある。俺は更に意識を絞り、俺自身の魔力のブレーカーを落とした。
短剣から来る魔力は俺の中に入れず溢れ、俺の周りに渦のように満ち満ちているのが感じられる。
これなら、出来る。
(古代魔法・ダブル詠唱)
俺の目の前に、魔力で光る俺の等身大の分身が発生する。ちょうど俺自身よりもサリアクシュナさんに近い位置だ。
『あら、ローリスの英雄に背格好のそっくりなエネルギー体があるわね。近くに居るのかしら? でも本人じゃないものね』
まずっ……ギリセーフと言ったところか。
もうこのまま一気に畳みかけていこう。
魔法体を意識で動かし、サリアクシュナさんの、大きく開いた背中の穴の上に、その手をかざす。
([時空魔法 サリアクシュナさんの身体の状態を5分前の状態に])
魔法体の手がキラキラと光り輝く。
サリアクシュナさんの身体が、ある瞬間にしゅんと元に戻った。
「……う……ん、あれ? あたし、なんかよく分かんない胸の痛みで、あれ? 死んでたんじゃなかった?」
サリアクシュナさんは立ち上がり、自身の手をグーパーさせ、次いで穴が空き血まみれのバスタオルをつまんで引っ張っていた。
「思い出した。あんたの武器ね」
「馬鹿な! おい女神、ルールじゃ無かったのか!!」
これでもかと言うほどの大声でヌメルスが叫ぶ。
『ルールはルールよ? でも、誰がやってるのか分からないんじゃ、ルールの当てようが無いじゃない』
「馬鹿を言うな! ついさっきから、あの若造が、見えないだけで、全て明らかじゃないか!」
『じゃ、そのルール違反した人はどこにいるの? 指差して教えてくれる?』
「そ、それは……」
俺は石像をイメージして動きを止めている。光学迷彩がブレない程度に、ごく細い呼吸で。
『指、させないの? じゃあやっぱり、何かした人間はいないってことね。神として見届けたわ』
と、女神様が俺に、パチッとウィンクを飛ばされた。
俺は、大きく息を吐いて、自分の中の自然な魔力循環に身を任せた。魔法体が瞬時に消え、俺の中に膨大な魔力が充填される。
気が抜けすぎたようで、光学迷彩も同じく解除された。
「そ、それ見ろ! そこにいるじゃないか!」
『いるわね、ローリスの英雄、シューッヘ・ノガゥアが。でも、事態の全てを私が神として見届けた後にふと現れたんだから、無関係ね』
「無関係?! そんな馬鹿な話があるか!! よく分からん魔法で見えない様になりながら、時空魔法とやらを使ったんだ!」
『もう一度しか言わないわよ、ヌメルス。ローリスの英雄が現れたのは、私が神として全てを見届けた後の話。だから、無関係』
「ふっ、ふざけるなこのクソがぁ!」
ヌメルスは女神様に食いつかんばかりの様子で……えっ、もう一丁持ってるの?!
「貴様が死ねぇ邪神がぁ!」
ダァーン
『あんた本気でやってる? 女神にこの程度の威力の銃撃で、なんとか出来ると思ってるの?』
「フェリクシアさん!」
サッとフェリクシアさんがヌメルスの背後に回り、銃を持つ手を蹴り上げた。
銃はヌメルスの手を離れ、広間の壁に当たって落ちた。
「ヌメルス! 俺を打つならともかく、女神様に発砲するなんて!」
「黙れ小僧! いや、邪神の使いめがぁ!!」
『ヌメルス。あなたの発明はなかなかだったわ。けれど、本来銃って言うのは、こういう物なのよ』
と、女神様が手を後ろに回されたと思ったら、出て来たのは厳ついオートマティック拳銃。コルトガバメント、とかいうアレだ。
ドン
チュン
ヌメルスの足先の石床が、火花を散らして砕けた。
「ぐっ……邪神は守るべきローリスの民に銃口を向けるか!」
ドンドンドンドン
チュイチュイチュイチュイ
ヌメルスが踊っている。いや、足下を撃たれてつい足が動いてるんだろうな。
しかし、シュールだな。神々しくお美しい我らが女神様が、アメリカンな拳銃で人の足下撃って遊んでらっしゃる。
『守るべき民の中に、あなたは入らないわよ。機械化兵団の長にして魔族領全占領計画の立案者、ヌメルス。
銃の完成までにどれだけの動物を、魔族を、そして国民を、その的にしてきたか。自分の胸に手を当てて考えなさい。
ローリス国籍を剥奪され放逐されなかっただけでもありがたい位なのに、今回も軍の機密倉庫から銃一式持ち出して。
それで、言うんでしょ? 活躍したから将軍職に戻せって。あなたのような危険人物を、軍に置く訳にはいかない』
ドンドン
チュイン
「ぐっ!」
ヌメルスがいきなり屈み、足先を押さえている。当てたのか、当たっちゃったのか。どっちだろうな。
念のため、と言うかある意味必然的に、ヌメルスを忠心にその周りをみんなで囲む様、内向きに立っている。
オーフェン王も、サリアクシュナさんもその輪の中にあり、徹底的に冷たい視線を床にかがみ込んだヌメルスに向ける。
ヌメルス包囲網は、更に外側にも。
俺達の後ろの方、扉の辺りには、生き残った人たちが生け垣となった壁がある。
肩と肩とで、アメフトのスクラムの様にがっちり組んでいる。
『さぁどう始末つけようかしらね。シューッヘちゃん、何か良いアイデアある?』
「えっ、俺ですか? アイデアって言っても……女神様に発砲した程の大罪人、何をやっても足りないですよ」
『じゃあ、オーフェン王。何かある?』
「自ら開発した兵器の餌食となれば良いかと」
『そうねぇ。でも銃って、一瞬で死んじゃうから、懲罰になりにくいのよね。サリアクシュナ特使は?』
「もう特使就任済みなのね、神ってプロセスとか考えないのかしら……取りあえず、目を潰してそこに石でも詰めたら?」
『悪くないわね。でもそれだけじゃ、また何やるか分かったもんじゃないし……アリアちゃんはどう思う?』
「え? あ、えーと、ううーん……ごめんなさい、ちょっと気持ち悪い……」
『あらあら、アリアちゃんに聞いた私が悪かったわ、ごめんね。オアシス大使は?』
「本国にて、法典に則った正規の手続きで死罪を課すのが、やはり筋かと思います」
『その法典、神を銃撃した罪って条項、あるの?』
「……失礼致しました、私の発言はお忘れ下さい」
と、突然声が。
「はいはいはいはい、はーーい、はーーーいっ!」
場の空気が……
デルタさんが思いっきりピンと挙手して立ち上がっている。
『あら、あなたはグレーディッドの、土魔法使いちゃんね。あなたが言うんだから、やっぱり生き埋めとかかしら?』
女神様は目を少し大きく開き、首をかしげながらデルタさんの方を向かれた。
「私1人じゃ出来ないんですけどぉ、英雄閣下とぉ、アルファとぉ、イオタとぉ、私の4人揃えば出来る、特っ上の刑罰があるんですよぉー!」
う、うーむ。デルタさんがやりたい事は、きっと何か凄い規模の魔法で、かつ複数属性の魔法絡みなんだろう。
特上の刑罰、という概念自体が既に俺の中の常識にない代物だから、俺が出来ることがあるのか、イマイチ分からないが……
それにしても、目をキラキラさせて、最後にぴょんっと跳ねて言う内容じゃないよな、その特上の刑罰ってのは。
女神様のご様子を窺うと、うむこれは……間違いなく、ちょっと戸惑ってらっしゃる。
平静を装っておいでだが、口元辺りに出てしまっておられる。
『と、特上、なのね? えっと……具体的には、どうするの、かしら』
あぁ。なんと嘆かわしい。
デルタさんの天然の空気感は、なんと女神様すら困惑に陥れる程であった。
それじゃ俺が今感じてる『なんとなくかみ合わない感じ』ばかりでは無いんだろうな。女神様は鋭い御方、敏感でらっしゃるし。




