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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第3章 英雄外遊編 ~ローリスからおそとへ出てみましょう~

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第43話 反逆者

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『交易商品の選定は、オーフェン王に任せて大丈夫そうね。だけど、別の問題があるわ。

 魔族はエルクレアを制圧・併合して、更にオーフェン中間地点に当たるルーカロット砦で現在集結中。近々オーフェンへ攻め入るつもりの様よ? どうするの?』


 ううむ……人間側がようやく魔族社会にある文化性に気付いて、文化的で平和な交流をしようとしても、遅すぎたか。

 魔族側は既に軍隊が動いている。軍は簡単に出したり引っ込めたりする様なものじゃないから、一度出て来たら戦果を挙げないとまず退いてはくれない。

 それこそ、俺が前面に出張れば、殲滅するのは容易だ。けれどそれでは、人間対魔族の紛争を後押しするばかりで、平和的交流の芽を摘む事にしかならない。


「女神様」


 震えながらも座り直し、正座に近い形になったオーフェン王が言う。


「今回の魔族軍の進軍目的次第にはなりますが、魔族軍の指揮官に、魔王とのトップ会談を申し入れます。儂が魔族領へ赴き、魔王と直接話し、実際に魔族領の中を見て参ります」


 行動力凄いな。

 王様なんて、所詮どこの国も自分の城から出ないものだと思っていたが、魔族領まで出る覚悟があるのか。


『言うのは簡単だけど、魔族軍がそれを許すかしら?』

「場合によっては、ルーカロット砦にこちらから全軍をもって攻め入り、有利な戦況下で魔族に停戦案を飲ませます。その停戦案に、魔王との会談を含めます」

「同族殺しにはならんのかねそれは」


 不意に飛んできた声は、ヌメルス将軍のものだった。

 オーフェン王がヌメルス将軍に視線を向ける。嫌悪感露わ、という感じだ。


「同族殺しとはどういう事だ、老人よ」

「老人か。私も老いて見られる歳なのだな。それはともかく……ルーカロット砦には、オーフェン全軍のうち相当数の離反者達がいるのではないか?

 つい先ほど戦火を交えた様子から言うと、離反者達は恐らく魔族アンデッドにされている事だろう。だがその見た目は人間。軍に討伐指示を出したとして、従うか?」


 ヌメルス将軍の言う事はもっともだ。アッサス将軍に賛同してかなりの離反者が出たと聞く。

 そのアッサス将軍は、首が飛んでも死なない、もう人とは呼べない異質なものになっていた。魔族の配下になったんだろう、恐らくだが。


 もっとも、アッサス将軍もまた他のアンデッド化した兵と同じく虫型魔族の寄生虫にやられただけの、単なる被害者なのかも知れないが。


「討伐指示に抗う者は即退役とし、罰金も科す。逆に討伐部隊に参加した者には漏れなく報奨金を与え、更に活躍に応じた金の積み増しもする」

「軍人の心が分かっちゃないねぇ。軍人は、国を守る為にならどれだけでも戦いに出るが、過去の同士を討てと言われて、金を積まれたからと素直に応じる馬鹿の方が少ないさ」

「う、ぐぅ……ならば軍部に対して、離反者は魔族に侵蝕され身体を奪われた事を開示し、広く伝える。そうすれば、同士討ちとのいわれは無かろう」


 オーフェン王の苛つきがこちらにまで飛んでくる感じでピリピリする。

 ヌメルス将軍もそんな煽る様な声音で言わなくても良いのにな。


 でも、それが今の現実か。


「王が考えている編成は知らんが、軍を動かせた、と。作戦地域に着いた、と。そこにいるのは、少し前まで共に訓練をした同士の顔ぶれだ。さて、兵はこれを討てるのか?」

「過去の同士だろうが、今の敵である。討てない者は後衛に下げるか、場合によってはその場で処刑するのみだ」

「何とも策の無い軍隊だねぇ。まぁ商人の王が軍を動かすんだから、まともな兵運用が考えられんのも無理ないか」

「貴様。何が言いたい」

「本当の軍人には忠誠心があるって事だ。あんたに忠誠を誓う者は少ないだろう。となれば、家族を守る為、仲間の為、その辺りで何とか軍人でいられる。

 軍は、言うまでも無いが下っ端兵士の数で戦力が決まるところがあるよな? その下っ端兵士同士は、強い仲間意識でつながっているもんだ。

 そんな兵士たちが、つい先日まで一緒に訓練してきた、名前も呼び合った仲間を斬れるかってんだ。士官級ならやれるだろうが、兵卒には無理だ」


 無理だ、と言い切る頃には、ヌメルス将軍の顔付きもまた、最初の茶化す様な顔付きから変わって、真剣そのものになっていた。


「貴様に何が分かる」

「私はこれでもローリス軍機械化兵団を預かった将軍だ。あんたよりは軍の内部はよく分かる」

「くっ……確かに儂は軍部とは近くは無い。だが統帥権を持つ最高指揮官だ。指示に反する者を処罰し、従わせる事が出来る」

「信用も信頼も無い最高指揮官が、無理無体な指示を出すとどうなるか分かるか? 軍が蜂起してその司令官を討つのさ。あんたの方が死ぬぜ?」

「…………」


 押し黙ったオーフェン王の表情を端的に言い表すと、こう言う表現になるんだろうな。

 苦虫をかみ潰したような表情、と。


「そこまで言うならば、対案の一つでも持ってるのであろうな」

「対案なんて無いさ。魔族への態度は変わらない。全て滅ぼすだけだ。あんたの娼婦もな」


 ヌメルス将軍がローブの内側から取り出したのは、小型の銃だった。

 地球世界の銃とは形状が違う。強いて言うなら、ライフルをミニチュアにした様な感じだ。


 銃は、サリアクシュナさんに向けられている。


『ヌメルス。私の決定に抗うというのなら』




 ズダァーン





 広い石造りの空間に、銃弾が1発撃たれた音が轟いた。






「もとより死は覚悟の上さ」


 ヌメルス将軍、いや、ヌメルスは、銃をその場に放った。

 単発銃だったのか? それとも、女神様に銃は効かないと考えたからか?


 いやそんなことより!


 視線を壇上に向けると、サリアクシュナさんの胸には(えぐ)られた様な痕があり、大量の真っ赤な血が流れ出ていた。

 そうして、真っ直ぐを見た姿のまま、傷口に触れる事さえなく、ただゆっくりと、サリアクシュナさんは倒れた。


「サリアクシュナさん!」


 俺は壇上に駆け上がった。王もまた、血だまりの中にあるサリアクシュナさんに這い寄った。

 見ると、背中側の方がよほど酷い。前から見た分には、抉った様な痕だったが、背中は……大きな穴になってしまっている。


「ヌメルス将軍、何故撃った。ローリスをお守り下さる女神様の意に反してまで何故!」


 フェリクシアさんがヌメルスに詰め寄る。

 単に詰め寄ったかと思ったが、床にあった銃を蹴り飛ばしていた。壁際まで銃がくるくる回りながら滑るように飛んでいった。


「魔族は敵だ。たとえ人間より倫理観や技術があろうがなんだろうが、滅ぼすべき敵だ!」

「敵だった、ではないのか? サリアクシュナの話では、人の側が」

「黙れ若造! ローリスの民が魔族に虐げられた過去を忘れたか非国民め!」

「昔は昔だ。対話すらせずに互いに理解し合う事はあり得ない」


 頭に血が上ってくるのが分かる。

 けど何故か、意識はこれほどまでと言うほどに、静かで冷静だ。


 ヌメルスは、古いタイプの保守的なローリス国民の代弁者に当たるだろう。ああいう国民がいても不思議は無い。

 ただ普通の国民と違うのは、自ら開発した兵器を、必殺の銃器を、持っていることだ。自由に、殺したい相手を殺せる。

 そして今まさに、ヌメルスの自由勝手でもって、サリアクシュナさんは死んだ。胸にここまで大穴が空いては、魔族と言え無事ではあるまい。


 もっとも。

 自由に殺しやがるヌメルスがいる一方で、自由に生き返らせられる俺がいるんだけどな。ヌメルスの良いようにはさせねぇ!


「サリアクシュナさん、戻って! [時空魔法 サリアクシュナさんの身体を1分前の状態にロールバック]!!」

『[魔法破壊]』


 女神様の御声。えっ、時空魔法が、消え去った?!


「め、女神様! 何をなさるんです!」

『生き物はいつか死ぬもの。サリアクシュナのそれは、今だった、という事よ』


 こちらに向けられた手を元に戻されながら、静かな口調で仰せになった。


「そんな! 女神様だって、サリアクシュナさんに特使を任せたいと思われていて、時空魔法を使えば生き返らせる事だって簡単に」

『簡単に生き返らせちゃ、ダメなのよ。死というのは、特別な事。死が訪れる事を回避出来なかったら、大人しく死ぬのがルールよ』


 そんな。

 いやでも、俺は過去に……


「で、でも! 俺は時空魔法を過去2回使って、1回は確実に死に向かっているヒューさんを、もう1回は死にそうなほどの異常状態のフェリクシアさんを助けました! だからっ」

『よく考えて。その二人は《死にそう》ではあっても《死んでいた》訳じゃ無いでしょ?』

「え、あ……」

『死にそうなのを助けるのは良いの。けれど、死んだ者を蘇らせるのは、少なくとも私が見ている所でやらせる訳にはいかない。神として、ね』


 仰せになる女神様の表情を窺うと、見つめる俺を慰めるような、それでいて哀しそうな瞳をなさっていた。


「じゃあ、サリアクシュナさんは、死ぬしかない、と……」

『そうね。既にサリアクシュナは絶命している。今出来るのは、彼女を弔ってあげる事だけ』


 ……そんな。

 いざとなれば時空魔法で生き返らせれば良いって、俺は思ってた。その為の練習も、地下室でたくさんした。

 魔法体を星屑の短剣から生み出して、俺の安全範囲を確保しておいても、25分は安全に戻せるようになるまで準備をして、それでオーフェン入りした。

 なのに……


「女神様……例外は無いんですか。サリアクシュナさんは間違いなく、魔族と人間の架け橋になれる。最重要人物です。それでも……」

『例外は無いわ。神の目が届いている世界にあなた達がいて、その神のルールが絶対である以上、例外はあり得ない』


 女神様は静かな口調でもって、言い切られた。

 ただ、何か……女神様の瞳というか、目元でもって、何かを訴えてらっしゃるような、複雑なお顔付きをなさっている。


 何か、あるのか? 抜け道が。

 女神様は何と仰った? さっきの御言葉も……


 考えろ、考えろ俺。

 女神様のあの複雑な表情は、絶対何かを言っている。

 それを言葉に出すのが「ルール違反」になるのかも知れない。

 とすれば、例外になる抜け道があるはずだ。考えるんだ俺!


 例外……死んだ者は死んだまま、それが原則、例外は無いと言う。

 例外が無いのは、ルールだから。ルールが俺達に適用されて……


 ん? ルールは何故守られるんだ?

 女神様はどう仰った? 思い出せ……





 ……少なくとも私が見ている所でやらせる訳には……




        ……神の目が届いている世界にあなた達がいて……






 はっ! そうかっ、どうにかして女神様の目が届かないようにすればいい!

 それだったら、ちょっと不敬だけど……


「女神様っ、女神様の御力を濫用をすること、お許し下さい! [絶対結界]」

『[結界作成権限 削除]』


 女神様を包みかけた鏡の結界が、霧散して消える。


『私が与えた力を私に使ったら、対抗されるに決まってるじゃない』


 う、それは確かに……でも女神様がお怒りになっているご様子はない。例外探し自体は、間違ってない……!


 女神様は、結界権限削除と仰せになった。結界はもう使えない。

 今までで俺が知る魔法で、女神様の目すら欺ける何かがあるのか……?


 欺く、

 見られない、

 隠れる、

 消す……


 ……そうだっ!!


「[光学迷彩MAX]!!」


 俺は声高に叫んだ。随分前に、王宮の廊下を通るのが恥ずかしかった俺が作った、地球産アイデア・俺オリジナル魔法だ。

 光学迷彩の効果は完璧で、俺自身ですら俺の手が見えなくなる。


『あらぁ? ローリスの英雄の姿が、この地上から消えてしまったわねぇ。これじゃあルールも当てはめようが無いわ』


 ……やった!

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