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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第3章 英雄外遊編 ~ローリスからおそとへ出てみましょう~

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第27話 石造り8階建て以上という色々常識外の城の塔 ~あ、マーケット見えた!~

 晩餐会は、宰相閣下による乾杯の発声がやたら長かった事を除けば、非常に気楽なものだった。

 国王の挨拶や発言は、明日の為に聞き逃さないようにと思っていたら、挨拶自体無かった。拍子抜けした。


 結局ただ飲食しただけ、という感じの晩餐会。飯は確かに最高級なんだろう、とにかく美味かった。

 酒担当のアリアさんは、目に涙をうっすり浮かべながらグラスを空けていた。聞くと、感動が止まらない程美味かったそうだ。


 晩餐会で主賓に当たる俺、何かスピーチとかしなけりゃいけないのかな、と思ったが、それもナシ。

 何だか、晩餐会という名称を冠しただけの、豪華夕食会に来たような感覚になった。



 そんな晩餐会の最中、オーフェンの役人さんみたいな人が俺の席を訪ねてきて、グラスにハーブ水を注いでくれた後で、言った。


「明日は陛下とのご会談にございます。陛下のご希望で、警備含め全ての人員は1つ下の階にて待機、正真正銘、サシでのご対談です」


 えっ?! オーフェン王、警備まで全部下げるの?

 もし俺が、ちょっとでもオーフェン王に恨みを持っていて、殺害しようなんて思えば、出来てしまうんじゃない? それだと。


「警備まで下げちゃうって、俺、他国の人間ですよ? 警戒しておかなくて良いんですか?」

「これはあくまで陛下のご要望ですので、我々は従うほかにございません。なお、お出迎えの馬車を明朝10時に大使館へ着けます」

「は、はぁ……」


 取りあえず明日のスケジュールは決まった。となると、明日の襲撃は午前中でほぼ確定か。

 襲撃の事を俺が幾ら考えても始まらない、全てフェリクシアさんを始め『戦力』に頼るほかに無いのだ。


 俺は、俺の出来る事を。

 オーフェン王が警備下げてまで何を話したいのか。警備がいると不都合な何かがあるのか。または単なる気まぐれなのか。

 深く考え込んでも仕方ないので、俺は目の前の皿に載る熟成ワイルドボアのステーキにフォークを突き刺した。



 ***



「じゃ、行ってくる。お互い、最善を尽くそうね」


 見送りに、大使館の門前まで来てくれたみんな。

 色々言いたい事はあっても、迎えに来ているのがオーフェンの兵士なので話せない。最善、という言葉に全てを込めた。


 馬車に乗り込み、窓に貼り付く様にして、席から乗り出して手を振る。

 万が一でしか無い。けれど万が一には、これが今生の別れになる。

 ちょっと涙ぐみそうになったが、(こら)えた。


 馬車は急坂を下り、そのまま昨日の、晩餐会の時と同じルートで城門前に着いた。

 動きを止める馬車。いよいよ決戦。ここからは一挙一動、気が抜けない。


「英雄閣下、どうぞ」


 馬車の扉が開かれて、そう言葉を掛けられる。踏み台も既にそこにあった。

 馬車から降りて、見上げる。王城はとても立派で、そして白い外壁がとても綺麗だ。

 ローリスのそれより、歴史的な重みを感じさせる。岩盤削り出しの城と聞いた。


 見上げれば首が痛くなるほど、一番高い塔の部分は高い。裏の岩盤より高いので、さすがにそこは削り出しではなく後付けだろう。

 威厳もさることながら、壮麗美麗である。白一色の壁面には、如何にも王城らしい窓が幾つも付いている。


「閣下、どうかされましたか?」

「あ、いや。オーフェン城の美しさに見入ってしまって。ローリスの城とは、俺が言って良いか知らないが、比べものにならないなと」

「閣下は審美眼をお持ちなんですね。オーフェン城の美しさは、我らオーフェン国民共通の誇りでもあります」


 誇りか。そりゃ誇りにも思うよな、これだけの城があるって。

 それにしても和やかだな。兵士さんも柔和で、会話にも応じてくれるし。

 まぁ対戦すべきは国王であって、全オーフェン国民では無いしな。


「それでは、会談会場までご案内致します。東の塔の8階ですので、息が切れてもいけません。ゆっくり行きましょう」


 迎えの兵士さんの気遣いが温かい。

 いやしかし8階って。オーフェンの城は高層建築だな。


 ***


 東の塔は、大聖堂寄りに立った塔だった。てことは、城の正面は南面か。日当たり良さそうだな。

 らせん階段になっているのを、ゆっくり進む。確かに息は切れないが、足の筋肉は疲弊して来るのが分かる。


 こういう時は、身体強化かな。


 俺は足に意識を集中して、血液の乗って魔力がそこに集まる意識をし、一瞬歯をグッと咬んだ。

 ぐぐっと足に力が湧いてくる。少し上げづらくなっていた足が、軽くなった。


「えーと。今、6階ですよね。8階ともなると、上の方ですし、狭い部屋なんですか?」


 言葉を出す余裕も生まれた。


「8階は、城の裏手側に回廊が回っており、西の塔とつながっています。その回廊に沿って1部屋張り出した部屋があり、森側を一望出来る眺望の大きな応接室になっております」

「へえ、8階からの展望ですか。ローリスじゃ考えられないな」

「ローリスと違い地面・地盤が堅牢ですので、高い建物も安全に建つのです。ただそれが7000年前の作、というのが、時代を感じさせてくれます」

「えっ?! 7000年前に、このお城ってもう、8階建て以上の高さで、このままにあったんですか?!」

「はい。当時の魔法建築技術は今とは比べものにならない程に優れたものだったらしく、岩盤から削り出した城の原型に更に岩を積み接着をし、ここまでの建物になったと、オーフェンの歴史書にございます」

「この塔も、後ろの岩盤より背が高いので後付け、ですよね。こんな高い位置に石を運んで組んだのか、凄い魔法だな……」


 階段を見ても、ズレ・隙間一つない。この世界の文明は、7000年前の方が優れていたのか?

 でもさすがにメンテナンスとかしてるだろうから、今も高い技術水準にはあるんだろう。凄いなオーフェン。


「こちらの7階で、英雄閣下を御案内した後は私は控えます。お飲み物とお菓子をお出ししたら下がる様にと言われております」


 7階の閉じた木の扉の前で、兵士さんが言う。


「そうなんですね。その……俺が言う話では無いとは思うんですが、不用心に過ぎませんか? もしも俺が暴れるとか、王様に危害を加えるとか……」

「我々も進言はしたのですが、国王陛下はどうもお一人で英雄閣下とお話し為さりたい様で、譲っては頂けませんでした」


 兵士さんがちょっと困ったように苦笑いをした。そりゃ、国王一人だけを外国の、素性のよく知れない者と二人きりにさせるのは、心配だろうに。

 しかし、そうか。完全にサシの話し合いか……余計に何が出てくるか分からない。気を引き締めよう。


「閣下、失礼ですが腰の短剣は……」

「あ、これですか?」


 星屑の短剣に目線を置いて、兵士さんが言う。


「陛下はきっと何も仰らないと思うのですが、警備を担う者としては、ちょっと……」

「ああこれ、装飾品なんですよ。刀身を見てもらうと分かります」


 俺は、短剣をちょっと掴んで鞘から半分ほど引き抜いた。


「水晶で出来た剣です。殺傷能力どころか、刀身の方が折れますね、薄いですし」

「ちょっと拝見……ああ、確かにこれは、刃のように綺麗に加工もされていますが水晶ですね。大変失礼致しました、そのままでどうぞ」

「すいません、ややこしい物を身につけてて。これ、結婚をした時に恩人から頂いた、魔除けとしての剣なので、いつも持っているんですよ」

「なるほど。オーフェンでも剣や刀の類は魔除けになると言いますが、ローリスでも同じなんですね」

「はい。光が入るととても綺麗に輝くので、そこも気に入ってるんですけどね。物としては飾り物です」


 はい、うそ八百。

 星屑の短剣ほど恐ろしい切れ味の剣は他に無いだろう。

 何せ、ミスリルを超える切れ味と言うし、実際机の角が切り落とせる程だ。

 しかも、魔法剣として使えばそれこそ殺傷能力はズバ抜けている。

 兵士さんには悪いが、女神様からこの短剣がキーアイテムになる事は告知されている。手元に置かない訳にいかない。


「ここが8階です、どうぞ」


 らせん階段はまだ続くが、そこにあった木のドアを、兵士さんが開けてくれた。

 ぱあっと明るい光に目の前が満ちる。右手に廊下、左手は分厚そうなガラスの壁になっていて、日の光が燦々と入ってくる。さすが南面。


「街が一望出来るここは、我々でも許可が無いと入れません」

「そうなんですね。お、マーケットはあそこか、人多いな……そう言えば、国王陛下はもうご在室ですか?」

「陛下は西の塔からお見えになると伺っています。まだ入られないはずですので、ごゆっくりご見物下さい」


 俺が絶景に見入っているのを気遣ってくれて、止まっていてくれる。

 昨日の荒っぽい兵士とは違うなぁ……まぁ、オーフェンの兵士だからって一括りにする事の方が乱暴か。


「いやー……国王陛下との会談の前に、気持ちがスッキリしました。ありがとうございます」

「英雄閣下には、是非陛下と忌憚なくお話し頂きたいと、これは一国民としてですが、思いますので」

「お心遣い、助かります。緊張が少しほぐれて、肩の力が抜けましたよ」

「それは良かった。では、参りましょうか」


 そうして兵士さんの後に続いて進む。直角に曲がると、長い長い廊下があった。左右の塔の渡り廊下なんだろう。

 その廊下を進んでいくと、進行方向右手側に、赤い革張りで金の縁取り金具で装飾され、金の縦の装飾付きのバーの引き手の、かなり大きな扉が現れた。


 ここか、会談会場は。


「こちらが本日の会場となります。どうぞお入り下さい」


 扉がズズズッと重そうな、絨毯を擦る音を立てながらゆっくり開かれる。


 中に一歩入ると、正面は全面ガラス張り、どこまでも続くかと錯覚しそうな森林が、クリアによく見える。

 足下には赤い絨毯が敷かれていて、その部屋の真ん中には円形の机がある。螺鈿細工の様な豪奢な飾りが施され、高級品そのものだ。その机の左右に、こちらも随分と立派な椅子があった。

 天井からはシャンデリアが下がっている。ふと感じる違和感は、向かって左側の壁。どうも後付けの様で、金銀装飾の豪華な壁紙であしらわれているが、よく見ないと気付けない切り込みがある。扉だろうか。


「あの左の壁って、後付けですか? 切り込みは、扉ですか?」

「はい。切り込みは扉となっております後付けの壁にございます。本来ですとあの中に、警護の兵が詰めたり、会談内容を筆記する書記官が詰めたりします。今日は誰もいませんが」


 なるほど、警備兵もそうだが、書記官が詰める事もあるのか。重要な会議とかする部屋なんだな、ここは。


「陛下は、必ずこの壁側の席にお座りになられます。今日もそう伺っておりますので、英雄閣下はこちらの席を」


 案内されて行ってみる。

 椅子で見えなかったが、その足下に、膝の高さ位の小さなサイドテーブルがあった。


「後ほどお持ちします飲み物などは、こちらの小机をご利用下さい」

「分かりました」

「それでは、もうしばらくで陛下もお見えになると思います。私は茶菓の準備をして参りますので、お掛けになってお待ち頂ければ」


 俺は主人のいない豪華な部屋の椅子に一人座る事に居心地の悪さを覚えつつも、言われるままに椅子に腰掛けた。

2022年11月28日(月) 誤字訂正

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