第25話 目の前で見る初めての銃器 ~でもやっぱり一部異世界フォーマット~
一部武器性能の調整をしました。
バーベキューが終わり、軍の兵士さん方は総出で一気に片付けて、庭は元通りになった。素早いな、軍人さん。
軍人さんも役人さんも、宿泊所に引き上げていった。今は大使館には、最小限のメンバーだけだ。
オアシス大使はヌメルス老とは初対面であったようだが、そこは情報にも秀でている大使、名前と功績、軍内部での動きなどは知っていた。
ヌメルス老は、以前店に行った時には、とても紳士な様子の人だったが、今はちょっと違う。言葉も荒く、男っぽい。軍人として、という感じなのかな。
「それで……試射と調整が必要、という事ですか」
「ああ、そういう事だ大使殿。まだ完璧な完成を見た兵器ではないので、移動する毎に微調整が必要になる。面倒なもんさ」
俺達は庭に出ていて、積み上がった箱の近くにいる。まだ箱は開けられていない。
箱は2階から、軍人さんの手を借りて俺も手伝って下ろしたんだが、本当に重かった。
計4門の、恐らく銃器が入っているだけ。なのにこの重さ。銃ってそもそもそんなに重いものなのかな、よく知らないが。
「しかし、ここでぶっ放すにしても、ストッパーは必要だな。デルタのお嬢ちゃん、壁を作ってもらえるか?」
「はぁーい、どんな壁です? 分厚い砂壁、硬い土壁、なんでも出来ますよぉ~♪」
「ははっ、お嬢さんは今日も変わらないな。壁は、薄くて鋼鉄並みに堅いのを10枚並べたのを、あの辺りに4セットと、砂の山の様に柔らかくて分厚い、斜めの大きめな壁が土地の端に1枚欲しい」
ヌメルス老が手ぶりで壁の形と場所を伝える。
鋼鉄並みの壁って出来るのか知らないが、あとは砂山か。そっちがマシンガン用かな。
「では、開梱していくぞ。組み立ては私がやるから、英雄殿とアルファ殿、部品を出してもらえるか」
「了解した。私がやるから、ご主人様は別に手を煩わせなくても良いぞ」
「いいや、これは俺も手伝う。もしかするとこれ、地球での主力武器と同じ可能性があるんだ。少し、ワクワクする」
ヌメルス老が、俺の目を見てふふっと笑った。気にせず箱を開ける。
と……足? 金属製の土台になるような足が5本と、それをつなぐパーツっぽいのが出て来た。
「これ、えーと、据え置き式魔導砲、の方の足ですか?」
「そうだ、英雄閣下は察しが良いな」
「いえいえ、ますます機関銃に似たのが出て来たな、と」
「機関銃? そう呼ぶのか、英雄閣下の故郷では」
「あまり詳しくないですけど、軽機関銃と重機関銃と、2種類ありました。女神様翻訳が正しければ、これは重機関銃に分類される様ですよ?」
「そうか、機関銃……なかなか響きの良い名称だ。今後はこれら兵器は『銃』と呼び、その足のは『重機関銃』と呼ぼう」
ヌメルス老は目を見開いて笑みを讃えている。
ちょっと危ない人っぽくなっているが、将軍だ。大丈夫、なのだろう。
足1本が随分腰に来るほどに重い。しかし5本足で支えないといけないマシンガンって、どれだけの反動があるんだ。
と、俺が足1本に四苦八苦しているうちに、フェリクシアさんは既に他の4本足とパーツを取り出し終えていた。ショック!
「フェリクシアさん、早いね」
「身体強化を使っているからな、この程度の重量は、わけない」
そ、そうかっ、身体強化魔法を使えば良かったのか。俺も使おう。
「次は、下の、それ、その箱だ。砲身と機関部が入っているから、少し慎重にな」
言われた箱を開けると、俺の手を広げた幅より長い砲身。太さもかなりある。
身体強化を念じた俺はそれをゆっくり持ち上げた。フェリクシアさんが中に敷いてあった布を地面に敷いてくれたので、そこに静かに置く。
「その危険物の刻印が3つ焼き付けてあるのは私がやるから、もう1つの方を頼む」
俺は指定を受けた方を開けてみた。地球製のそれよりも、やや簡素な狙撃銃が出て来た。
簡素と言っても、構造を見るに、火縄銃の様な感じのではなく、火薬銃弾を使うタイプに思える。
しかし、俺の知ってる狙撃銃とちょっと違うな。とにかく砲身が長く、太い。重さも相当だ。
スナイパーライフルと言えば森に潜んで……みたいな感じを思っていたが、これ重すぎて多分木の上に乗れない。
一方ヌメルス老の方は、箱から更に木箱に入った何かを取り出し、どんどん積んでいっていた。
多分アレが銃弾なんだな。4、8、12、16箱か。1種類しかない様だから、弾丸は共用の様だ。
***
試射は、スムースに終わった。
まぁ、この独自の銃を扱える射撃主はヌメルス老しかいないので、俺達はサポートオンリーだ。
銃声がかなり響く、と言うのをヌメルス老が気にされていた。
俺は女神様結界をちょっと修正して空気の振動だけ遮断する結界を作り、大使館敷地全体を覆った。
いやしかし、とんでもない銃声と威力だったな、どっちも。
狙撃銃の方は、ゲームで知ってる程度の、あの感じかな? と思っていたら全然違った。
と言うか、箱から防音耳当てが出て来た時点で、少し嫌な予感はしたんだ。
ドウッと腹に響く短い轟音と共に、デルタさんの作った壁を6枚抜き。
デルタさん叫んでたよ、まさかそんなっ、て。
更にとんでもなかったのがマシンガン、重機関銃の方だな。アレは、マジでヤバい。
連発速度は1秒に10発以上と、まさにマシンガンっ感じなんだが、撃つ度に空気がひずむ。寧ろ砲。
なんと表現すべきか分からんが、音速超えてるのかなぁ、ドンッって発射音と共に、ひずんだ空気がこっちに飛んで来る感じ。
独特な感じだけれど、使ってる弾丸が同じなので威力的には狙撃銃と変わりないらしい。
弾丸、てっきり火薬があるのかと思ったら違った。弾を持たせてもらっても、弾丸部分に重さは集中していた。
なんでも、圧縮魔法の重ねがけでその中心に火魔法系の爆発魔法があるらしい。いずれにしても、威力は十分に戦争用のそれでしかない。
当日は、ヌメルス老は大使館の屋根に狙撃銃を構え、大使館2階に重機関銃を設置するとの事だ。
大使館の屋根はフラットになっているので、確かに狙撃に構えるには向いていそうだ。
重機関銃については、メイドさん達も、アリアさんも、撃たせてもらっていた。
誰が射手になるか、当日にならないと分からない部分もあるからなぁ。
いずれにしろ、戦力が増えたのは良い事だ。
***
で、試射も終えて、晩餐会までの待ち時間を、ちょっとゆっくり大使館で過ごしている。
とそこに、軍務省のラインさんが尋ねてきた。
「ラインさん、お仕事お疲れ様です」
「はい、ありがとうございます。明日は特例として兵を下げますが、それ以外の日の警備・警護をご指示頂けますか」
あーそう言えばそんな事も言ってたな、ラインさん。
「んー、あんまり物々しくしても、警戒しているってメッセージになっちゃうので……多くても通常程度、という感じの陣容にして下さい」
「兵種は、通常の陸兵で良いですか? 必要であれば魔導兵も従軍しておりますが」
魔導兵。つまり、魔導師さんなんだろうな。
ただ、昨日の野盗襲撃に即応出来ていなかった魔導師さんでは、いてもいなくても、という感じだ。
「魔導兵は特に必要ではないかな? えーと、こう、『今重要な人がいますよ』というのがアピール出来る感じの、そんな警備体制って出来ます?」
「あぁ、寧ろ見た目重視ですね。でしたら、兵装を革鎧の軽装から変えて、プレートアーマーにしましょう。威圧感はガッツリ出ます」
「それ、それですね。威圧感。そんなに沢山は必要ないので、大使館の門に2人か4人か、偶数を、あと大使館の庭にも数人欲しいです」
「分かりました! では早速、その警備警護体制の準備をし、実施致します。明日は、それらも含め全兵を下げると陛下から言われていますが……本当に大丈夫ですか?」
「はい、それは。野盗襲撃の時見て頂けた様に、フェリクシアさん、あーつまり、アルファ始めグレーディッドの力は圧倒的で、100人兵士が束になっても多分勝てませんよ」
「グレーディッド。彼女らは天賦の才に恵まれた、まさに天才です。確かに100人200人と数を増やしても、何の意味もないでしょうね」
ラインさん、軍務担当なのに脳筋じゃないんだな。
脳筋だったら、じゃ500人ならっ! とか言いそうだと思ったが、判断が冷静だ。
「それでは、失礼します。晩餐会の前には、オーフェンの馬車が迎えに来ると思いますが、その時にはアーマー兵が横に立てる様、用意しておきます!」
「ありがとうございます、よろしくおねがします」
お辞儀をして、ラインさんが去って行った。
「ねぇ、シューッヘ君。今ふと思ったんだけどさ、良いかな?」
「ん? なになに?」
「今回の襲撃は、アッサス将軍とその軍で決まりよね? あの狙撃銃って言うので、遠方からアッサス将軍を打ち抜けたら、終わりじゃない?」
「どうだろうね。頭を失った兵は、弔い合戦的に一気に攻めてくる可能性もあるし、アッサス将軍に魔導師が結界重ねてるかも知れないし」
「英雄殿、私の狙撃銃であれば、上級に当たる魔導師が6枚重ねた結界も破る。丁度デルタのお嬢さんの砂壁と同じ程度の硬度だ」
「となると、ヌメルス将軍が射止めて終わり、かも知れない。それだけ簡単に終わってくれると、本当にありがたいんだけどなぁ……」
どうにも、不安はある。けれど、ヌメルス将軍の参戦は大きい。
この魔法しか強烈な攻め手が無い世界で、銃がある。火薬発火の銃では無いが、威力は申し分無い。
大使館の立地も、俺達が上がってきた、大使館から見て左手ルートは急な坂道になって、道が狭いので進軍はしづらいし、無理にそこを通ると渋滞して的になる。
逆側は、ずっと相当向こうまで続く、開けた1本道だ。進軍が始まれば遠くから視認も出来る。当然、狙撃も出来る訳だ。
ただ……やはり女神様の御言葉は気になる。集められる戦力は集め、手厚くした。これで勝てるのか?
これはいっそ、女神様に再度伺ってみる方が良いだろう。




