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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第3章 英雄外遊編 ~ローリスからおそとへ出てみましょう~

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第21話 イフリート反省会


「とんでもない威力だったね、イフリート」


 暗い室内に戻ってきたフェリクシアさんは、特に息を乱す事もなく、平然としていた。

 ただ、少しぼんやりしている様には感じられる。大魔法使った後だから、なのかな?


 俺は照明のスイッチをひねった。白熱灯みたいな色合いの光で、室内が明るくなる。


「フェリクシアさん?」

「あ、ああ済まない、少しぼんやりしていた」

「フェリクがぼんやりなんて珍しいね、やっぱりさっきの魔法、キツかった?」


 窓際に構えていたアリアさんも、既にベッドの端に戻っている。


「魔法の発動自体には殆ど力は使わなかった。だが熱風が激しすぎて、その防御結界に力を割かれた」

「うぇ、敵味方関係無しの熱風なの? かなり不便な魔法だねそれ、威力は凄いにしても」

「どうもイフリートの言うには、指定してくれれば味方除外なども出来るそうなんだが……指示の出し方がよく分からない。今回は一瞬で片が付いてしまったし」


 イフリートの言うには、と言う辺り、あの精霊とのコミュニケーションが成立したんだな。

 対話が出来るのであれば、呼び出し方……例えば「敵のみを殲滅せよ」とか、それで何とかなる気がする。


「そう言えば、決着が付いた後にイフリート随分縮んだ様に見えたんだけど」

「ああ、あれだけ大きかったのが、私の背丈程度の小柄な精霊になったな。そう言えばその時は、熱波を感じなかった」

「因みに、魔法行使の時はどう命じたの? 言葉を理解して、敵味方も理解してくれるなら、呼び出し方次第かなって思うんだけどどうだろう」

「そうだな……今回は、『炎の精霊よ、その力を余す事なく発揮し前方の敵を焼き尽くせ』と、そう召喚の時に言った。そうしたらあの有様だ」

「なるほど、確かに『余す事無く』『前方の敵』は丸焼けだね。集まってたっぽい所も、離れてた一団みたいなのにも、同じように火の玉降ってたしね」


 思い出す。フェリクシアさんの前方数十メートルに渡る火の海、そして離れた場所にも着弾して、そこも火の小島みたいに燃えてた。


「恐らく離れた所には魔導師群がいたのだろう。力押しの主力とは離した配置をするのは王道だ」

「じゃ、見事に殲滅出来たんだね。でも熱風がキツいのか……ねぇ、フェリクシアさん」


 俺はふと思った。精霊は、最後フェリクシアさんに向かう時は熱波を発さなかったと言う。

 それだったら、ここで呼び出してもらって、調教というわけでも無いが「通常どうすべきか」を教える事も出来るのでは無いか?


「フェリクシアさん、ここにイフリートを呼んでもらえる? 目的はあくまで、俺との対話の為に、と」

「さっきの、あのイフリートをか? あまりに危険過ぎるぞ?」

「いや、最後にフェリクシアさんと話した時には、熱波も無かったんでしょ? そしたら、『対話の為だけに現れなさい』みたいに命ずれば、攻撃的な行動も無いのかなと思ってさ」

「う、ううむ……理屈上はそうかも知れないが、やはりあの威力を目の当たりにした後で、この部屋に呼ぶのは……」


 フェリクシアさんの躊躇が見て取れるほど明らかだ。

 眉をひそめ、唇をかんで、俺の言い出したワガママ難題を考えてくれているようだ。


「んーと。あの最初の魔法陣は、どうやってもあのサイズっぽい? としたら、出てくるのもあのサイズかと思うけど」

「いや、そこは。あの回転する魔法陣は割と自由になりそうだ。しかし、本当に『ここに』呼び出すのか? 宿が焼け落ちなければ良いが」

「まぁそこは、俺との対話の為に一切熱を発せず現れろー、みたいな感じで何とかならない?」

「ううむ……分かった、そこまで言うのであれば、試してみよう。奥様は私の保護結界の内に置く。ご主人様は、自ら守れるな?」

「うん。中途半端な熱波だと熱いしやけど程度はするかも知れないけどね、死ぬほどだと寧ろ大丈夫だから」


 余裕を感じている俺に対して、フェリクシアさんはやはり随分慎重になっている。それもそうか。

 ただ、せっかく女神様から賜った大魔法、精霊魔法になるのかな? それが「自由に使えない」では、頂けない。

 恐らく俺の不在時に攻められる際には、街中での戦闘になるだろう。その時に無差別火炎攻撃しか出来ない、では使えない。

 あくまで滅するのは敵であって、オーフェン全土を火の海にして焼失させるのが目的じゃ無い。


 と。

 フェリクシアさんとアリアさんは、窓辺にスタンバイした。

 俺はその反対側、廊下側の壁に立つ。


 フェリクシアさんが両手を前に伸ばすと、直ちに俺の前に魔法陣が浮き上がる。

 文様が複雑だなぁ……これぞ魔法陣、と言った感じの、解読不可能な文字だか文様だかが、ぐるぐる回っている。


「炎の精霊イフリートよ、我が主シューッヘ・ノガゥアとの対話の為に、今ここに現れよ。一切の攻撃はこれを禁ずる」


 おぉ念入り。対話目的だと定義した上に、攻撃それ自体を明示で禁じるとは。

 フェリクシアさんの言葉から一瞬遅れて、魔法陣が強く光る。たださっきの「光の柱」が立つ様な様子は無く、部屋が明るくなる程度の光り方だ。

 そして、カッとフラッシュの様な強い光。思わず目を閉じてしまったが、目を開くとそこに、跪いている上半身裸体の、赤い筋肉マッチョな男がいた。

 体中赤い染料で染めた様な赤だ。履いているズボンも赤い。アラビアンな雰囲気のズボンと腰巻きに、髪は一つ縛りの長髪、これだけは黒い。


「……イフリートさん、ですか?」

「如何にも。まさか我を従える者が誰かしらに従っているとは思わなかったが、主の主殿の事は何と呼べば良いか」

「シューッヘ、と呼んでくれれば」

「理解した。シューッヘ、貴殿が」

「おいイフリート。ご主人様を呼び捨てにするな、敬称を付けろ。ご主人様もイフリートに『さん』など付ける必要は無いぞ」


 うお、フェリクシアさんの声にドスが利いている。主人と精霊の関係性って厳しいのね。


「これは大変失礼した、シューッヘ様。シューッヘ様が我と対話を望まれる目的は何であるか」

「えぇと……イフリートの戦い方について聞きたい。さっきの、無差別・広範囲な魔法だけ? 今回想定される主戦場は、街の中なんだ。敵味方入り交じった乱戦になる可能性も高い。その中で、イフリートは戦える?」

「お安い御用だ、シューッヘ様。我が力は何も先ほどの様な広範囲の火炎弾ばかりにあらず。特定の1名だけを狙って、突如着火し火だるまにも出来る」

「敵と味方の判別はどう付ける? フェリクシアさん、あぁ、あなたのご主人様の意志や意図を読んで判別出来るか?」

「意図を読むのは難しいが、殺気を放ちこちらに向かってくる者・攻撃を放つ者を敵と認識する」


 敵認識は、人がするそれとそこまで差は無さそうだ。

 となると、その辺りはフェリクシアさんが指示して使う、という事になるだろうか。


「じゃイフリート、いざ本戦となった時には、フェリクシアさんの指示によく従ってね」

「勿論である。我はご主人様のしもべであるので、主人の言う事は絶対だ」

「だそうですよ、フェリクシアさん」


 俺が窓辺のフェリクシアさんに声を飛ばすと、イフリートは素早くそちらへ向かい膝を折り屈み直した。


「イフリートに問う。魔法陣の出現無しでの召喚は可能か?」

「我が主。この身をこの世界に顕現させる為には、どうしても魔法陣が必要にございます」

「更に問おう。今こうして、人の身の姿でお前は現れているが、そのままでいられる期間はどの位だ?」

「もってせいぜい1日。激しく魔法を使えば、半日と保てません」

「そうか……長ければここからこのまま連れて歩こうかと思ったのだが、まぁ良い。次に呼び出す時は恐らく戦闘の最中だ。指示を与えている暇があるか分からないから、もし指示が無ければ、敵と思われる相手を『牽制する事』をまず第一義とせよ」

「畏まりました。それでは、我はこれにて」


 フェリクシアさんに深々と礼をし、イフリートの姿がパッと消えた。


「熱くは無かったなイフリート……あ、フェリクシアさん負担とかは無い? 大丈夫?」

「ああ。イフリートはやはり高位精霊なのだな、まともに会話が成立するし、主従関係もハッキリ理解出来ている」

「ん? って事は、高位じゃない精霊だとそうは行かないの?」

「私も精霊魔法の系統を行使するのは初めてで、書物によるところではあるが、下級精霊は単なる魔法と変わらない、意志もなければ会話も出来ない力の塊に過ぎないのだそうだ」


 へぇー、会話出来る知能があるのは確かに凄いよな、そう言えば。

 精霊って存在がいるのか、魔法的にそういう存在の形をしているのかよく分からないが、自律して攻撃とかも出来そうだから、応用幅は広そうだ。


「外は……大分鎮火してきた?」

「その様だな。幸いこの宿が坂の上、しかも今日は風上で、実に良かった。かなり広範囲に焼いているので、煙が大変そうだ」

「暗くて煙までは見えないけど、あの炎だもんねぇ」


 イフリートがもたらした炎を思い出す。そこそこ離れた宿の2階の窓が熱されるほどに熱かった。


「そう言えば、兵士さん達は大丈夫だったの? ここまで熱波届いてた程だったけど」

「兵は、遠方からの魔導師の攻撃に備え、宿の前方に展開して防御陣形と結界を張っていた。恐らく怪我も火傷も無いだろう」

「それならいっか。にしても、女神様の予言も、必ずしも全てを言ってくれてる訳じゃ無いみたいだね、この夜襲の話なんて無かったし」

「そうだな。いっそご主人様のいない時の襲撃予言も外れてくれれば、それに越した事はないんだが」

「全くだね」


 俺は思わず苦笑いだ。女神様が言う事は絶対、だとは思うけど、確かに外れて欲しい未来ではある。


「下に、様子を伺ってくる」


 フェリクシアさんが軽く黙礼をして部屋を出て行った。


「アリアさん、俺達はもう一眠りする?」

「うーん、寝られる自信ないわね。まだ心臓ドクドク言ってるしあたし」

「そっか。じゃ俺、下に飲み物何かないか聞いてくるよ。喉も渇いたんじゃない?」

「そうね、カラカラ。果物ジュースかなにかあったら一番嬉しいわ」

「聞いてくるね」


 と、俺も部屋を後にして、つい数時間前までごった返していたフロアへと降りた。

 今は、その外の方がガヤガヤしている。兵士さん達が点呼取ってたり。

 ま、俺は今回の戦闘要員じゃないから、ここはスルーしてドリンクを確保しに行こう。

いつもありがとうございます。ご評価、本当にとてもありがたいです。

より一層頑張りますので、是非この機に「ブックマーク」といいねのご検討をお願い致しますm(__)m

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