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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第3章 英雄外遊編 ~ローリスからおそとへ出てみましょう~

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第14話 ウェルカムトゥー「ファザーンリゾート」

 子爵領地まで辿り着くと、そこには簡素だが広い門があった。

 が、フルオープンで、一応門兵はいる、という感じ。警戒感は無い。


「ようこそ、ファザーンリゾートへ!」


 門兵と思っていたが、挨拶係も兼ねているらしい。厳つい城塞都市の門とは全然違うな。


「ここ、ファザーンリゾートって言うの? ファザーン子爵様?」


 門兵に聞けば良い様な話だが、ついフェリクシアさんに聞いてしまう。


「そうだ。やはり領地の一大施設ともなると、自らの名前を付けたい貴族は多いようでな」


 頷いて、応えてくれる。情報面ではフェリクシアさんに頼りっぱなしだな、俺。



 特に通行証のチェックとか、ありがちな事は何も無く、そのまま門を通り抜けていく。

 門の向こうには、今度はリゾートっぽい入口がある。遊園地の入口。

 プールメインを主張したいんだろう、水柱やら大波やらが描かれた壁があり、その壁にチケット売り場がひっついている。


「チケットを買ってくる。少しの間、荷物を頼む」


 フェリクシアさんは言うとその場にティーセットバックを置き、すぐチケット売り場へ駆けていった。


「ようやくプールね! 楽しみだわー」

「俺も、砂漠の国でプール入れるとは思わなかったから、楽しみだよ」


 アリアさんはニッコニコ。俺も釣られて笑顔になってしまう。

 今の時間が……日の高さから言って、概ね14時くらいだろうか。遊ぶには今の時間が一番気持ちよさそうだ。


 と、フェリクシアさんが3名の男性と共にこちらへ戻ってきた。

 いずれもコスチュームが統一されていて、水の魔神か何かのイメージの様だ。この世界でターバンは初めて見た。

 背格好も似たような感じで、剥き出しの腕や足の筋肉の付き方も似ている。

 顔面にも派手なラインを引いてあったりと化粧が激しいので、正直3人の区別が付かん。


「ようこそファザーンリゾートへ! 本日御案内させて頂きます、イルアです!」

「カザンです!」

「ファイニィールです! 3人合わせて、【ファザーンおもてなし隊】です!!」


 フェリクシアさんを飾るように、ダンサーの様な決めポーズを作っている。


「えーと、イルアさんにカザンさんに、フ、ファイニィールさん、だね?」


 嚙んだ。


「誰が誰か分からなければ、どれかの名前をお呼び下さい。手の空いた者が素早く対応させて頂きます」

「と、言う訳だ。今日は特別厚遇プランでの入場で、ホテルもこの時点で押さえられた。メイドがメイドを雇うのは少々アレなんだが……」

「あーなるほど、リゾート内限定のメイドさんって考えれば良い訳か。感覚が掴めたよ」


 そうだよなー、フェリクシアさん、いつもずっと働き通しだけど、きちんと息を抜くところは、自分で調整出来るんだな。

 さすが俺より2つ上の社会人。社会人経験はもっと長そうな感じはするし。


「じゃイルアさん、かな? 早速俺と妻のアリアさんを、それぞれ着替え場所に案内してくれるかい?」

「はい喜んで!」

「奥様の方は、途中で女性のスタッフと交代致します。お着替えもお手伝い致します」

「ありがとう、カザンさ……ん? すっかり聞いてなかったけど、フェリクシアさんもプールの準備は?」

「一応してきてある。私もリゾートを楽しんで良いか?」

「そりゃもちろん! アリアさん担当の、えーと、カザンさん? フェリクシアさんもまとめて担当してね!」

「かしこまりましたー!」


 おもてなしスタッフのテンションが結構高くて、それだけでリッチに遊びに来た感が結構ある。

 アリアさんから袋を手渡された俺は、えーと、イルアさん? 違うか、ファイニュールさんかな? が持ってくれて、移動。

 ここかな? と思った大きそうなスペースは無視して奥の廊下へと進む。そこじゃないの?


 で……辿り着いたのは、VIP用っぽい豪華な扉の部屋。男性のはポセイドンっぽい飾りが、女性の方はヴィーナスっぽい飾りが、それぞれの扉に付いている。


「えーと、ここでそれぞれ準備?」

「左様にございます! ご婦人担当の者も、すぐに参りますので!」

「そっかー、じゃ、ともかく俺着替えちゃうかな。じゃ担当の……」

「イルアが担当します! どうぞ中へ!」

「じゃ、アリアさん、フェリクシアさん。先に着替えさせてもらうね」

「うんっ、似合うと良いなっ!」


 俺としては、俺の水着はある意味添え物、ステーキのパセリであって、メインはアリアさんの水着姿だ。

 でも、あれだ。今日、意図せず道中でアリアさんの髪をいがぐりにさせてしまった。

 そのいがぐり頭を完全にスルーするイルアさんらはプロだなと思えたが……果たして水着は似合うだろうか?


 俺はドアをくぐり中へと入った。テーブルにはフルーツがデカいカップに山積みされている。

 その横には、アイスクーラーに入ったワイン。ドリンクサービスまで付いているようだ。


 最初っから一杯引っかけてては、存分に楽しめないかも知れない、俺弱いし、酒。

 取りあえず着替えをしよう。


「イルアさん? 水着、その袋の中にあります?」

「はい、こちらですね! 競技スタイルの、スポーティーなモデルで大変格好いいですね!」


 パッと袋から出て来たのは、思い切りビキニスタイルの黒い小さな長三角形。

 えーと……俺、最近食べ過ぎてて少し腹出て来てるけど大丈夫なのこれ。


「あーと……これ、俺の奥さんが用意してくれたんだけど、そもそも入るかな」

「伸縮性はございますので、まずはどうぞお試しを!」

「うーん、不安しかない」


 と言うものの、アリアさんが買ってきてくれたんだから、履かない訳にはいかない。

 俺はちょっぴりの覚悟を決めて、スポーティーなモデルと称された三角形に着替えるべく全部脱いで、早速足を通してみた。

 かなりタイトなのかなと思っていたが、思いの外伸縮性がある。石油素材が無いこの世界でこの伸縮性は凄いな、何から作ってるのかな。


「サイズは、何とか良い感じ? かな?」

「お似合いです!」

「そ、そう? ちょっと布面積狭い感じが……」

「大丈夫です! セクシーにバッチリ決まっています!」


 せ、セクシー。俺の締まらない肉体にセクシーという形容がされるとは思ってもいなかった。

 まぁ、ようやくそこのイルアさんが『褒め担当』なんだなとは分かったが、一応聞いてみるか。


「アンダーヘアーとか、はみ出てない?」

「アン……失礼、今一度お願い出来ますか?」

「えーと、下の毛」

「あぁ、城塞都市ではアンダーヘアーと呼ぶのですね! 田舎者ですので、存じ上げませんで失礼致しました!」


 い、いや城塞都市関係無いが……まぁ説明するのも面倒だな。


「幸い、少しはみ出しているだけですので、ハサミにて!」

「えっ、切るにしても、鏡無いよ?」

「切って差し上げますので、ご安心下さい!」

「えぇぇぇ、安心って、なんか違うー」


 水の魔神の格好をした野郎に、股間周辺を晒して、チョキチョキとハサミを動かされる。

 どうにも肝が冷える。チョキ、って切られないか、脱いでないからそもそも心配ないんだが、どうにも、腰が引けてしまう。


 かと言って、女性スタッフにやらせて良い仕事でないのは間違いないのだが、他人の男にこの部分を任せるのは……

 うーん、自分がもう少し器用なら、この位チョキチョキ出来たような気もするが、仕方ないな。我慢我慢。


「……はいっ! 仕上がりました! はみ出しも、チョロ見えも、ございません!」

「ちょ、声デカいよ」


 何処までも元気が売りですと言わんばかりのバカでかい声に、ちょっと先行きが心配になる。

 まぁ今日は、こんな感じの太鼓持ちを連れて、リッチに遊ぶ日なんだなきっと。


「ここで待たれますか? 奥様方の方へ行かれますか?」

「うーん、ドア前までしか行けないけど、向こう行ってみようかな」


 俺の何気ない発言で、イルアさんが扉をバーンと開いて道を作る。いちいち動きがデカい。

 気にしないようにと思いながら、俺はヴィーナスの扉の前に立った。


「アリアさーん、そっちの準備はどうー?」


 俺が呼び掛けると、中から少しくぐもった声で、


「もうちょっと掛かるかもー、フルーツ食べて待っててー」


 と、回答があった。

 うむ、女性の水着お着替えにどれだけ時間が掛かるのか知らないが、男ほど簡単では無いのか?

 まぁ「待て」と言われたからには、素直に待つ事にしよう。


「残念でしたね旦那っ、奥様のお着替え、ご覧になりたかったのでは?」

「妻のはともかく、メイドのフェリクシアさんの見たら、多分首と胴体が分離されるから無理」

「またまたぁ。でも旦那は紳士でいらっしゃいますね! さぞモテるでしょう?」

「それこそ『またまたぁ』だよ。俺は妻一筋なの」

「おーっ格好いい! モテる男の余裕ってヤツですね!」


 と、ポセイドンの扉をまた開いてくれて、中に入る。

 どうもこのイルアさんは、若いようだ。着てる装束と顔の化粧ってかペイントのせいで年齢が分からんが、話し方が若い気がする。


「うーん、フルーツか。この中で一番珍しいのってどれ?」

「こちらのフレアグレープですね! 燃える様な赤色の粒で、珍しいんです」

「どれどれ」


 プチッともぎって、口に放り込んでみた。

 皮残るかなーと思ったが、皮まで食べられる品種の様で、そのまま美味しく頂けた。


「美味いね。じゃ逆に、この中で一番庶民的な、普通のフルーツは?」

「変わった事を仰いますね。一番……このリモージでしょうか」


 おっ。これがリモージか。色合いはオレンジっぽいが、少し小ぶりで角がある。レモンっぽいと言えなくも無い。


「リモージ、良かったらカットしてくれる? 俺切り方知らないんだ」

「かしこまりました! 少々お待ち下さい!」


 戸棚から木の板のまな板とナイフが出てくる。

 見ていると、リモージの頭とお尻をタンタンと落として、上手い具合に切り込みを入れて、ムキッと皮を剥ききった。

 更にそれを手で一房ずつに分けて、綺麗に並べて……そのまな板とナイフがこっち来た。これで食べるのか。


「あむ……んーんー、こんくらい甘いとんまいね、ここまで来る時に飲んでた高山リモージはやっぱちょっと酸っぱい」

「高山リモージがお好きなのですか?」

「いや、リモージ自体今日初めてなんだけど、うちのメイドさんがピクニックドリンクに高山リモージのジュースを用意してくれたんよ」

「高山リモージの。スッキリしていて飲み口は良さそうですね」

「うん、スッキリはしてたけど、ちょっと酸っぱくてね。俺はこの普通のリモージの方が好きだな」

「大変失礼ですが、旦那のご職業など伺っても構いませんか? 何だか想像が付きませんで……」


 イルアさんの顔を見ると、「この人何物?」と言いたげな表情をしている。

 うん、リモージを「今日初めて食べた」とか、それはローリスの「普通」じゃ考えづらい相手ではあるだろう。


「あーんと……職業は、英雄? ローリスとしては、シューッヘ・ノガゥア子爵の肩書きの方が通るかもしんない」

「ノッ!! ……ノガゥア卿でいらっしゃいましたか、こ、これは大変失礼致しましたぁっ! その、私どもでは、失礼があるやも知れません、大丈夫でしょうか……」

「遊びに来ただけで外交しに来た訳じゃないから、精一杯楽しく遊ばせてくれれば」

「左様ですか! それだったらお任せ下さい! 当施設を知り尽くした我らおもてなし隊、水遊びの楽しみ方については、自信があります!」


 良かった、自信を取り戻してくれたようだ。

 まぁ後は、貴重品の保管かな。さすがに幾らVIPルームだからと言っても、星屑の短剣も時の四雫も、置いてはいけないほどの貴重品だ。

 こんな所にまで来て仕事させちゃって悪いけれど、フェリクシアさんに預けるのが一番安心だ。


「旦那っ、貴重品ですか? こちらのロッカーへどうぞ!」

「うーん、その程度の鍵のロッカーに預けて良い代物じゃないからねこれ。うちのメイドさんに預かってもらうよ」


 少し残念そうなイルアさんではあるが、こればかりは仕方ない。フェリクシアさんからも、さっき強く言われているし。

 と、そんな事をしていたら、ドアがノックされた。入って良いーって? もちろんだ!



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