第5話 秘密の特訓 のはずが、きゃあ突然入ってこないで!!
さて、今日も今日とて地下4階。俺の秘密修行の基地だ。
今日まで、アリアさんの目が離れる時間を狙って、しばしばここに来て、自分なりの修行を進めている。真夜中とかね。
既に、火・水・風の属性、4大属性のうち3つは、感覚が掴めた。水属性は少し苦戦したが、ベータさんの講義が今になって参考になった。
火属性については、感覚自体は掴めたが俺が行使する事はまず無いだろう。
何せ、火属性のカリスマとも言うべき『アルファ』さんが、俺のパーティーにはいる。
俺がもし、もっと火属性を操れるようになりたいと思えば、フェリクシアさんに頭を下げれば良い。
ただ、一般的な火魔法を、仲間を巻き込まずに使える位に場所が開けていたり、引火物が無かったりするならば、俺は『女神様の光』を使う。
女神様の光も、少しずつトレーニングをしていて、出来る事・出来ない事が少しずつ分かってきた。絶対結界についてもだ。
「ま……取りあえず準備運動と行きますか」
俺は意識をして、頭と身体の魔法のスイッチを落とした。
身体に自然とまとわれる魔力の感覚がスーッと消え失せ、地球にいた時と同じ様に、空気の動きが肌で感じられる。
「[エアロカッター]」
口先だけで唱えたエアロカッターは、当然発動しない、何も起きない。
地球で詠唱したら、何をどうしようがこんな感じだな。
前回は、エアロカッターを1,000回、壁に向けて打ち込んだ。
それでも魔法力が一向に尽きない。尽きないばかりか、むしろみなぎる感じさえあった。
魔力の天井知らずなのは、必ずしも良い事では無いんだがな。
発動しない事を確認した上で、再度意識して魔力の流れを自分の近くに寄せる。但し、その中心から自分を隔離する感じで。
ちょうど、自分の正面の位置に、自分の等身大の魔力人形を作ってる様な感覚だ。俺にはリンクするが、俺のボディーからは離れている、様な。
何でこんな事をしているかって?
古代魔法書に書いてあったのを、何とか実現出来ないかってね。それだけさ。
今俺が目指しているのは、魔法による魔法の詠唱。通称ダブル詠唱。意味不明だがこれが古代流。
単に複数の魔法を使うだけなら、立て続けに詠唱なり行使なりして連続して魔法を使えば良い。
古代魔法で言うダブル詠唱は、エネルギー源を2つ使う。
1つは自分の生体魔力。もう1つは、体外に作った『魔力体』の魔力。
魔法書曰く、この2つを混同している状態で魔法を使うと、魔力の消耗がそのまま生命力の消耗に繋がるのだそうだ。
ローリスで使われている魔法はまさにその「2つを混同している状態」の魔法。全てがそうだ。だから、魔力切れは死を招く。
俺の使える魔法に、時空魔法というレパートリーがある。今までに2度使った。
1回目は、死に瀕したヒューさんを助けるため。あの時は、マギ・エリクサーで助かった。
2回目は、女神様の光を軽々に受けたフェリクシアさんへの、万が一を考えての事。あの時は、イリアドームの魔導回路に接続してもらって助かった。
こんなひょいひょい死にかける様では、安易に時空魔法が使えない。
時空魔法が使えれば、時間さえ過度に経過していなければ、死者すら蘇らせられる。
一方方向にしか流れないはずの『時間』に対抗出来る唯一の手段が、時空魔法だ。
アリアさんは『時の四雫』、別名『ウロボロスの瞳』という魔道具で、1度だけなら生き返れるらしい。
あの魔道具も時空魔法なのか? とか考えるが、特殊すぎる物だから検証しようがない。
取りあえず「アリアさんはエクストラ・ライフを手に入れた」という事実だけで納得しておくしか無い。
ただ、アリアさんだけでは無い。フェリクシアさんもまた、失いたくないメンバーだ。
酔ったアリアさんの言うような色恋というより、あくまで仲間として。俺の、ノガゥア卿一団の、一員として。
万が一フェリクシアさんの首が物理的に飛ばされても大丈夫と、時空魔法があれば俺が安心出来る。
そりゃ、運命とやらが味方しない時だったら、どうにもならない時もあるだろう。離れた所で殺されたとかね。
でも、俺のお膝元にいるのに死なれるような事は、絶対に起こしたくない。
だから俺は、時空魔法を自在に使えるようにする。
その為には、このダブル詠唱の技法が、間違いなく役に立つ。
今俺の前に集まって、少し光り始めている『俺の立体人形』は、そのまんま全部魔力。
その立体人形は消耗品として使い捨てられるから、この立体人形に時空魔法を使わせる。
時空魔法を操るに足るだけの魔力が集めきれなければ、魔法は途中で途絶して失敗する。
ただ上手いタイミングで魔法を引き継げば、今度は俺の魔力で「続きから」発動させられる。
最終形態としては、立体人形だけで時空魔法を使いたい。
けれど、時空魔法が消耗する魔力量が、数値的にも体感的にも分からない。多量なのは間違いない。
今のところ、数秒バックする時空魔法であれば、魔法体だけでの発動が可能なようだ。
しかし、数秒では実使用には心許ない。
となれば、俺自身がバックアップとして遡る時間を引き継ぐしか無い。
立体人形を使い切って届いた領域を受け継いで、更にそこから魔法行使する、という訳だ。
俺が『2つを混同している状態』で時空魔法で30分まで戻せる(死ぬけど)のは確定している。経験済みだ。
だから結局、目指す「今のところの」ゴールは《俺が引き継いでも死なない程度まで、魔法体だけで時空魔法を使える》ことだ。
魔法体は、魔力的には俺そのものと同じだし、リンクはしっかり作っているので、俺が意識をすれば魔法を発動出来る。
ただ難しいのは、意識を魔法体にトリッキーに専念しないと、俺と魔法体で同時に同じ魔法を「つい」使ってしまう。これでは意味が無い。
だからこそ、一度俺自身の魔力のスイッチを切って、『リンクはしてるが深くはならない』様にしている。魔法書に書いてあった方法だ。
俺は、意識を魔法体に向けた。
([この部屋全体の時間を、15秒前に戻す])
魔法体がキラキラと輝く。魔法が行使されている証拠でもある。何も無い部屋なので変化は目に見えないが。
と、光っていた魔法体がパッと強く閃光を放って消える。魔法の感覚自体は、残渣が残っているのが分かる。
15秒未満戻して魔法体消滅。完遂失敗である。今回のは大体10秒行ったかな位だ、まぁ良い方。
因みに時空魔法の詠唱者自体には、時間巻戻りは掛からない。
下手すると世界が無限ループになるからな。何か時空魔法の神様か女神様かのセーフティーなんだろう。
今日は……うっかり何も持たずにここに来てしまってので、魔法が戻した時間の量が正確に計れない。
次回これをやる時は、使ってない客室の置き時計を持って地下に潜ろう。
それともう一つ問題。
あくまでこの魔法体が上手くしっかり出せるのは、この「魔法を吸いまくったミスリル壁」に囲まれた、この部屋だ。
外で食事をしてる時、トイレに立った時にこっそり個室で、魔法体の創造を少しやってみた。
が、光り方はとても薄く、明らかに魔法量不足の魔法体しか出来なかった。
まぁ、トレーニングと日常だけで言うなら、宅内で出来るだけでも御の字ではある。
壁は魔法的には全て繋がっている様だから、屋敷の中であれば同じ様に魔法体は育つ。時空魔法も少しは使える。
だが、今回俺が習得に必死になってるのは、あくまでオーフェンで『万が一』があった時の為。屋敷オンリーでは意味が無い。
もう1回やるか。今度は「魔法引き継ぎ」の練習だ。
さっきまでのプロセスを、もう一度辿る。魔法体を出して、用意をする。
さて、と魔法体に意識を向けた、その時だった。
「ご主人様、何をしておいでか?」
ぶっ、と思わず吹いてしまった。ついでに集中とリンクが切れた魔法体も消し飛んだ。
「フェリクシアさん?! も、もう帰ってきたの?」
「ああ、私だけだ。大枠の方向と私からの分は決まったので、後は奥様が一人でじっくり選ぶそうだ」
「あれ? 護衛は?」
「貴族街の中の店なので近いし、よほど心配は要らない」
そう言うと、フェリクシアさんは俺に言った。
「地下から膨大な量の魔力を感じた。それと共に、入口の魔導板が相当熱を持っていた。何か魔法を使っていたのか?」
「あ、うーん……フェリクシアさんになら、話しても良いかな」
俺は古代魔法の事、時空魔法の事を、フェリクシアさんに話した。
フェリクシアさんはちょっと驚いた様な顔を一瞬したが、すぐに元に戻った。
「私を救う為など、別に構わないぞ? 死んだらそれが死ぬ時だったというだけだ」
「それは……俺自身の気持ちが許さない。ノガゥア一団として、護りたいんだ」
「そうか。そこにご主人様の気持ちがあるなら、これ以上とやかく言わない。しかし、古代魔法を使えているのか?」
「まぁ、初歩的な項目だけね。古代魔法自体ってより、その準備部分みたいな」
「それだけでも規格外だな。魔力量の関係で、古代魔法はその準備だけであっても、誰も出来ない。伝承の中だけの魔法だ」
フェリクシアさんは腕組みし、関心なのか呆れているのか分からない大きな息を一つ吐いた。
「それで、今は何をしようとしていたんだ? 膨大な魔力が、ご主人様の『外』にあったように感じたが」
「ああ、俺の意志で魔法を行使出来る俺の魔力体を作る練習してたんだ」
「魔力体?」
「あぁえーと、魔力の塊の、俺の分身? かな」
そこまで言うと、フェリクシアさんが腕組みしたまま天井に目線をやった。
「……それは、これとは違うのか? [トリ・セパレート・ボディー]」
フェリクシアさんが魔法を詠唱すると、突然フェリクシアさんの左右に光で出来たフェリクシアさん人形が現れた。忍者か!
「ぶ、分身の術?!」
「まぁ、分身と言えば分身だな。意識を3分割するのがかなりキツいので、3倍早く動いた方が楽、というあまり役に立たない魔法ではあるが」
「そんな魔法が……あ、でもその状態って、全部の身体から100%の力の魔法って打てる?」
「それは無理だ。元々ある魔力を分割している上に、分身体自体の維持生成に魔力を喰らう。せいぜい20%が3発同時に撃てる程度だ」
「良かった、俺の努力は無駄では無かった……俺のやり方だと、その、分身体、俺の言う所の魔力体に、最大で100%まで魔力を持たせられる、らしい」
「ほう。そうすると本体と同時詠唱で2倍の魔法威力、ないしは2つの別の100%魔法か。それは確かに有用だ。しかし、弱点は?」
「分身の魔力体を生み出すのに、周囲の魔力が高くないと凄い遅い事。意識の2分割がちょっと難しい事。まだ全然100%まで魔力持たせられない事、かな」
「なるほど。その中の2つは、ご主人様であれば解決が付く問題と思う」
「へっ?! いきなり解決案?! 教えて!」
「ああ、それは……」
聞いてなるほど、今までなんでやらなかったんだろうと、俺は思った。
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