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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第3章 英雄外遊編 ~ローリスからおそとへ出てみましょう~

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第1話 図書館で勉強するのが俺の役。うんうん頷いて聞いてくれるのが妻の役。

第3章、始まります!!

 婚礼の儀から2週間。今日も今日とて、朝から暇である。

 使節団の話は、ヒューさんに聞く限りだと、メンバーの選定で揉めているらしい。

 そりゃまぁ、使節団という表向きの名称はともかく、実際は通商交渉だとか軍事協定だとか、色々まとめたいらしい。

 強気に押したい人もいれば、弱気に出て相手の譲歩を引き出したい人もいる。そりゃ面子は揉めるだろう。


 当初では、今頃使節団として会合がある頃だったのだが、結局まだ一報すら無い。

 なので、今日も今日とて朝からフェリクシアさん手作りのコンソメスープと、お気に入りのパンを頂いている。


 パン屋は、俺とアリアさんでは発見出来なかったが、フェリクシアさんがとても美味い所を見つけてきてくれた。

 米も良いんだが、あちらはまだ『正解』が見つかっていない。どうしても、日本のそれと比べると、見劣りする。

 一方パンは、俺自身今までそれ程パン食をして来なかったのだが、意外とハマるとハマった。噛み締めるに、美味い。


 フェリクシアさんが言うには、粉からパンを焼く事もできるとの事だが、もうしばらくはこの美味い店のを堪能しようと思っている。



 と。

 これだけでは何だか俺が食って寝てばかりの様だが、一応使節団の団員として恥をかかないようにと、図書館に日々通っている。

 アリアさんも誘ったのだが、あまり本を読むのが得意ではないとの事で、俺だけ。もちろん確実に毎日と言う訳でも無いが。


 あれから、ソファーも買って、それも届いたし、キッチン前の壁はフェリクシアさんがナイフで切り開いたし。

 いや普通それナイフじゃないだろうって感じはしたが、


「切れるし刃も痛む様子は無いから、問題無いだろう」


 の一言で、木工工事まであの首狩り用のマチェットみたいな長めのナイフ(あれだけ片刃なんだよな、よく見たら)で仕上げていた。

 壁壊して大丈夫かと思ったが、どうも元々木のパネルの仕切り壁なだけだったらしく、建造物として大事なパーツは無かったそうだ。

 壁に、窓の様なスペースが空いて、ホールからキッチンの様子が見通せる様になった。料理の香りもよりホールに届きやすくなり、腹が鳴る。


 フェリクシアさんは、そんな活躍をしていて、そして毎日市場に出掛けて、新鮮な食べ物を買ってきては料理してくれる。

 王宮メイドは料理の機会が無く手持ち無沙汰だった、と言うのが本人の弁だ。どうも料理するのが好きらしい。

 食べるばっかりで作る事が出来ない俺にとっては、非常にありがたいサポーターさんである。



 そんな俺だが、この2週間図書館に詰めて、オーフェンについて様々に学んだ。図書館が充実していたので、使節団員として行く前に、色々学べて良かった。



 商人の王国と揶揄されるオーフェンだが、寧ろそれはオーフェン国民にとっては誇りであり、恥ずべき事では無いのだそうだ。

 オーフェンは、実は歴史が長い。がしかし、その歴史ある王位を、今の国王が前王から金で買った。と、言われている。


 が実際のところ、そう簡単な話では無いのだ。分厚い公式資料を読んで初めて知った。


 20年程前。つまり国王交代の5年前頃のオーフェンはとても荒れていて、生活困窮者ばかりの、貧しい国だった。

 今の国王エンポロス・ド・オーフェン1世は、元はオーフェンのさる侯爵領で外国と貿易をする、国内きっての大商人だった。

 だが、国が荒れ治安も悪化し、更に幾度か重なった天候不順で作物も皆やられ、大規模な飢饉まで発生した。

 後にオーフェン1世となるその商人は、自分の拠点の領地内をまず守った。私財を投じて食料を遠方から買いあさり、領地の飢餓を救った。


 それを見ていたのが、齢90になる前王であった。その商才、手腕を、属領地ではなく国に活かして欲しい、とその商人に頼んだ。

 それに対して、その商人は即拒んだ。なぜなら、既存のオーフェンでは、幾ら何をやっても、焼け石に水だったと判断したからだ。

 国民に権限がまるで無く、産業たる強い産業も無い。意味不明な規制と既得権益と汚職ばかりで、金も正しく回っていない。

 商人として見て『死に体の国家』と。だからこそ、沈む船に乗る事を拒んだのだ。


 だが、前王もただでは引き下がらなかった。王国が代々秘蔵する魔道具の幾つかを譲渡する代わりに、経済大臣として働いてくれぬかと、頼んだそうだ。

 これには後のオーフェン1世も気持ちが揺らいだのだろう。魔道具というのは稀少だ。売れば幾らにでもなる。ただ、それだけでは無かったのだろう。


 オーフェンという国は、歴史だけは長い。ローリスの様に魔族に支配され文化が途絶える様な事も無く、少なくとも7,000年の歴史の蓄積がある。

 その歴史ある国が確保し続けている秘宝としての魔道具。興味の方が勝ったのかも知れないし、長期的な商売を考えついたのかも知れない。


 そして、老王の鶴の一声でもって、後にオーフェン1世となる商人は、財務経済大臣としていきなり国の重鎮となった。


 そこからは早かった。商人であった大臣は、各国の大商人に「オーフェンへの本支店出資の招待」をした。

 税優遇もする、規制撤廃もする、権利各種は守れる様にする。そんな約束をして。


 もちろん、その発言が信頼される様な国では無かったからこそ、商人は見限ろうとしたのだ。

 大臣は、幾度も命を狙われ、瀕死の重傷を負った事も一度二度では無いらしい。

 全て、既得権益にメスを入れる時に、既得権益を味わっている側から襲われた。

 だが大臣は、たとえ黒幕が分かっても直接的な報復という手段は執らなかった。

 新参者が襲われ、古参に報復したとなれば、寧ろ新参者の方が悪く言われる。その位には、酷い国家体制であったのだ。


 だが、何度命を狙われても、商人はへこたれなかった。手法こそぼかして書かれていたが、様々な謀略と暗躍とで、内閣の陣容を一新させた。

 そこからは一気、改革の風が吹き荒れた。規制撤廃・緩和、金にならない因習の禁止に留まらず、多くの学校も建てた。子供達の識字率も俄然上昇した。

 一方大人達には、商業ギルドの支局を増やし、そこで商売講義を常置した。誰でも・いつでも・無料で受けられる、商売の神髄。大臣にまでなった商人がそれまで得ていた商売の極意を、全て余す事無く伝えさせた。


 こうして、歴史だけしか能が無いような荒れ果てた汚い国は、幾多の商人が安心して商売が出来る、健全な国になった。

 当然、商人は利益が上げやすい国に集まる。地球で人件費の安い国に工場を移す例があったが、それと構造は同じだ。

 そこでまた大臣は、各国の大商人に、そして各国首脳部に、産業誘致の手紙を出した。税優遇の約束書きと共に。

 オーフェンの変貌を見ていた他国は、今こそ商機とばかりに、多数の工場や農業者・林業者をオーフェンへ。オーフェンは益々栄えた。


 経済的にも安定したオーフェンは、元々その商人が個人で行っていた多国間貿易も国として積極的に行い、まさに『世界の商業の中心』と目されるまでになった。


 が、その時は来た。

 今から15年前。商人が大臣になって、5年。

 前王が突然崩御した。


 元々齢95の高齢であるから自然な事でもあるが、前王はただ1つだけ遺言を残した。


『王位を、商人へ』


 遺言の開封に立ち会った、王族や公爵家など王位に近い人々は、絶句したり怒り狂ったりと、大層荒れたそうだ。

 そして、王位継承権第1位の公爵が、遺言で名指しされた商人を前王の眠る部屋へと呼びつけた。


 呼びつけられた商人は、およそ何があったか、感づいていた。この場で斬り殺される可能性の方が寧ろ高い事も、分かっていた。

 そこで、一世一代の立ち回りをしたのだ。



 ~~~~

 陛下の御亡骸を前にして、わたしは酷く打ちのめされております。

 陛下に、この国家が世界一となる姿をお見せしたかった。わたしはただその一心で働いて参りました。

 されど今や陛下は彼岸へと旅立たれ、わたしを頼って下さる方もおられません。

 然ればわたしは、昔の領地に戻りまた一から商売を始めましょう。


 新しい国王陛下がお決まりになられましたら、是非私の商館にお越し下さい。

 東の最果てからワイバーンの肉を取り寄せ、西の最果ての魔族から得る火の魔石で焼いて差し上げましょう。

 南の最果てから取り寄せた数々のフルーツと北の最果てで採れる甘い木の蜜を、オーフェン直領地の小麦で作ったパンケーキに乗せてお出しします。


 皆様方も是非ご一緒にどうぞ。新しい陛下共々、どうぞ手ぶらでお越し下さい。私の商館には全てがございます。そう、世界の全てです。

 私の商いは今や国の一つ二つ買える程になりました。これも陛下のおかげでございます。


 たとえた話でございます。誇り高く歴史に裏打ちされた血族であっても、金が無ければ外套の一枚も買えませぬ。

 ですが私であれば、全ての誇り高き高貴なる方々の外套を、幾らでもタダでお渡し出来ます。銅貨1枚たりとも必要ございません。

 えぇそうです。公爵閣下にはワイルドグレードベアの外套がお似合いでしょう。ご夫人には、雪うさぎのスリッパなどいかがですか。

 王族の方々には、更に上等な品物をお渡しする事も出来ます。はい、全ては『私が生きていれば』ですが。

 ~~~~



 この、少々戯曲めいた商人の発言は、丁度そこにいた書記官により一言違わず記録されていたため、今の公式資料に載っている。


 商人風情が、と唾棄する様に思っていた『尊い方々』は、思い知ったようだった。

 既にオーフェンはこの男によって、事実上支配されているのだ、下手をすれば世界を股に掛けて……と。


 王位継承権第1位の公爵は、「約束を違えるな」とだけ言って、その場を立ち去った、と、その様に記録されている。

 そこからは話は飛躍して、オーフェン1世即位の話になる。今日まで読んだ全ての資料が、そういうスタイルだった。


 この話だけだと、何だか商売だけの話の様だったが、別の本にはオーフェンの庶民の話もあった。

 主に王位継承後に、因習・悪習・不合理、そう言った事柄を、立法と国王命令とでどんどん改めていったそうだ。

 民衆も住みやすい、真に安心出来る国が出来たのだとか。


 確かに、あの日オーフェンの市場を見た時の活気は凄かった。

 住人としてそこで生きている人々が、皆元気で、活き活きとしていた。


 少しややこしい立場に置かれたのは貴族達。古い因習・伝統が無ければ、そもそも貴族制度を正当化出来ない。そう考え、当初王に反意を持った者もそこそこいたと記されていた。

 が、とにかく貴族達には『税の優遇措置』が効いたのだそうだ。そりゃ、自領地で出た利益から天引きされる重税がほとんど消えれば、領地運営は至極やりやすい。国王支持派が圧倒的となった。


 貴族達からすると、貴族位の正当性云々は、自分たちが正当だと言いたい、と言うより、正当で無いから消せと言われたくない、というのが主流だった模様だ。


 ただやはり、王族で無い者が王冠を(いただ)く事に、反感を持つ市民や学者は一定数いた。いわゆる政治的な運動家も、それらに含まれた。

 何処へでも出張る、がめつい商人丸出しのオーフェン1世王は、「(わし)が仕切ってるから住みやすいのだ、出来るものに権力をまとめるから良いのだ」と言う強い自説を、反発を示した全ての学者や運動家に、膝詰めでこんこんと話したと、本には書かれていた。

 真実が本当にそうかは分からない。実は粛正とかも、もしかするとあったのかもしれない。

 が、それでも今では現王、オーフェン1世は、貿易の実績と国力増強の成果を根拠に、強い王権を誇っている。


 事実を反映しているか不明だが、図書館にあったオーフェンの雑誌にアンケート結果が載っていた。

 そこでは、国王の民衆支持率は高く、民衆からの評価や「国王を誇りとする国民」という項目のポジティブ度も高かった。




 ……という話を、分かりやすくゆっくりテンポで、アリアさんに語る。

 お茶を飲みながらの、気軽な話の様に。難しいとすぐすねちゃうんだもんこの子。

 もうすっかり日が落ちてきた。随分時間が掛かった。


「ふーん、オーフェンの王様って、支持されてるのね」

「そうみたい。俺が召喚された時は、怖い・恐ろしい王様って感じだったけど」


 とそこで、階下から夕食を告げる声が響いた。

 今日はビーフシチューだそうだ。ビーフ、異世界にもあるのな。そういや牛乳もあったっけ。


もし「面白かった!」「楽しかった!」など拙作が楽しめましたならば、

是非 評価 ポイント ブクマ コメントなど、私に分かる形で教えて下さい。


皆様からのフィードバックほどモチベーションが上がるものはございません。

どうかご協力のほど、よろしくお願い致しますm(__)m

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