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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第1章 現代の敗者が異世界転移すると勝者になるのって確定ですか?

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第12話 偉い人の話は長い。けれど、さすが偉いだけあって普通知れない様な事をガンガン知れた。

 俺は息を飲んで、誰かが言葉を出すのを待った。

 俺の問いかけに、最初に声を返してくれたのは、王様だった。


「ふむ。シューッヘはかなり高等な教育を受けてきたとみえる。ワシと、そこのドワーフの宰相、ワントガルトがそれぞれ、答えやすい方を答えよう。

 まずは種族と地位や扱いについて。これは当のドワーフより説明を受けた方が、よりリアルであろう。ワントガルト」


 はっ、と頭を下げたワントガルト宰相閣下は、俺の方に再び向き直って話し始めた。


 そして、最初に前置きのように言った。


「今からお話しするのは、あなた様のご質問への答えであるのみならず、この世界の『今』が何故このような形かをお教えするものです。

 故に大変長い。高等な教育を受けたシューッヘ殿であれば何とか聞いて理解も出来ましょう。あくまでそう信じて、お話し致します」


 ドワーフ族の真剣なまなざしは、顔の作りから、やもすれば威圧感が強いとすら感じる。

 悪意がないのは分かっているので怖くはないのだが、突然この顔で迫られたら、多分ビビりまくる。




「ではお話し致します……」



 まず私、ワントガルト=ルッツは、ドワーフである。職は宰相を務めているので、この国の政治体系に於いては、国王陛下に諫言を申し上げられる数少ない人物でもある。

 因みにドワーフであろうとエルフであろうと、また言葉をあまり得意としないコボルトやトロールなども、概ねの諸国法にあっては「人」という1つの括りで扱っている。


 この世界でも、およそ500年前までは、人と人でないもの、一般に亜人などと呼んでいたが、その差は『差別』に当たるだけのものがあった。

 ドワーフやエルフなど、比較的人に近い文化を持つ種族はまだそこまで苛烈な差別は受けなかったが、それでも王宮に仕えるなど夢のまた夢であったと聞く。


 それが変わったのは、500年前に出来た賢王会議によるものである。

 賢王、賢き王と言っても、ただ一国の王がいかに優れた治政をしようとも、他国が追従しなければそれは単なる内政でしかなく、また下手な内政は他国からの難民の急増を生むなど、場合によっては害にもなる。


 しかしその時。まだローリスとオーフェン、北方のエルクレア王国の他に、今はもう滅びた魔族領と領地を直接接していたルナレーイ軍事王国があった時代。

 この4ヶ国全てに、賢王と呼ぶにふさわしい高貴なる王が即位した。

 王たちはそれぞれの国の利益よりも、魔族がいるこの世界にあって全ての知的平和的生物が共同で魔族に立ち向かうことこそ利益であると結論づけ、賢王会議の名で全世界に対して、亜人差別撤廃を訴えた。

 当初は、魔族領との争いが地理的に遠い東のガルニア聖王国、更にその南や東の諸国群は、まるで従わなかった。明確に反対をしたのはガルニア聖王国くらいだが、他の国も賢王会議の決定をおよそ無視した。


 しかし、当時西方四国と呼ばれた賢王たちの国では、亜人差別は徹底的に禁止され、その治政はぶれることもなく150年続いた。

 どうしても差別意識は一朝一夕には消えなかったが、150年の時を経て、ルナレーイに初めてドワーフ族の王が誕生した。

 その後も、西方四国では亜人と呼ばれていた階級の人々が高級官僚となって国を動かしたり、同じく将軍となり兵を率いたりした。

 それも、亜人それぞれが持つ特有の性質を活かした活躍が非常に多かったため、150年を経てようやく『賢王たちが亜人を差別せず組み込もうとした意図』が広く理解されるに至った。


 賢王会議から150年。

 亜人の王も現れ、差別という意識自体が希薄になり始めたところで、ようやく、150年前に意に介さない態度を取っていた諸国も変わり始めた。

 どの国でも、「亜人はその持ち味を活用すれば国益になる」ことが端々まで理解され、ある国では鍛冶地区を自治領としてドワーフが主となる専住地域を設けて、武器や防具などの開発・発明に尽力させ、

 またある国では、長命で聡明、それでいて人嫌いなエルフに対して、治水など自然との共存をどのように図るかを、30年50年の長い単位で考える事業を任せるなど、種族属性に合わせた働き方をしてもらった。

 どの例も見事なまでに成功した。ただ賢王会議はあくまで「決定」のみを掲げたものであったので、本当に賢王たちが考えていた世界がこれだったのか、というのは結局謎の中、歴史の闇の中になってしまった。


 賢王たちが、議事録も含め文献を残さなかった事は、何故あれだけ聡明な賢王たちが「あえて」そうしたか。

 今でも議論が結論をみないところでもある。




「……と、種族の扱いとその歴史については、概ねこのようなものです。

 今でも、種族特性を活かした職業に就く者が多いですが、種族間で何らの偏見もない現状では、あえて違う道を志望する若手もたくさんおります。」


「なるほど。となると、奴隷制度なども、無いんですか」


 偏見がないなら、奴隷もないだろう。

 そう思って気軽に言ってみたんだが、


「うむむ、奴隷制度は、今でも悪しき習慣として残っている国はございます。

 賢王会議の様に全世界に対して力を持てるだけの『大きな力』なき今、各国の内政にとやかく言える国は、今はございませんので……当国ローリスでは、賢王様の時代に廃されましたが」


 と、少し苦々しそうな表情で答えが返ってきた。


「この世界の歴史を、その歴史の流れと意図まで、しっかり教えて下さり、ありがとうございます」


 俺はワントガルト宰相閣下に、深く礼をした。




「では、第2の問いはワシから答えることにしよう」


 と、王様が玉座から声を発した。

 思わず背筋が伸びてしまったところを、またも苦笑いの顔でもって、手で「それはなし」みたいな事をされた。




 ヒューを全権大使として送り出す際に、召喚者を「意地でも手に入れろ」とは命じなかった。

 それは簡単なことで、我が国の方針に合わない程はっきりした個性を有している場合、むしろ国が乱れる危険性の方が高かったからだ。

 ヒューは、あらゆる点に於いてその観察眼は天下一品だ。それ故、我が国の発展に寄与するか、または魔族との最前線になる北方戦線に対して寄与する事で他国に恩を売れそうな者なら、手に入れよと命じた。


 ただ、それらの条件はあくまで「単なる召喚」が前提であって、女神様のご加護を直接受けている者である、となるとその前提は完全に崩れる。

 故に、王命として下した判断材料は、実際には一切役に立たず、ヒューの現場判断に任せた形になった。


 ヒューは当初、光の女神の加護という三種のモノクルの判断から、当然の如く、ここ3,000年の我が国の統治神であらせられる、サンタ=イリア様のご加護を受けた者だと判断した。

 しかしそれはすぐ、お前さん自身の発言で覆される事になった。サンタ=ペルナ様は、何千年に一度御降臨になられ、この世界の善し悪しを判断なさると言われている神。

 今の世界が残すに値しないとご判断されたなら、文明含め全て滅ぼされるとも言い伝えられている。実際過去の遺跡の中には、どのように強力な火魔法を用いても不可能な程に、

 広い範囲で地表のガラス化が起こっている遺跡や、実際訪れる事は出来ずあくまで魔法観測のみだが、人類が到底辿り着けない超深海にある大遺跡など、「何かの力で強引に滅んだ」ことが明らかな遺跡は多々ある。


 ヒューも、恐らく迷ったのであろう。イリア様のご加護であったり御使者様であったりすれば、単純に我が国にとっては崇拝すべき女神様がいらっしゃった、ということ。

 イリア様は豊穣と平和、そして多産と繁栄の女神様であらせられるので、人口は増え産業は伸び、穀物は豊作となり他国との争いがたとえ生じても、女神様の干渉をもって即座に沈静化する。

 即ち、女神様に裏打ちされた「約束された繁栄の一時代」が来た、ということになる、はずだったのだ。


 しかし、シューッヘ。お前は、イリア様ではなく、ペルナ様のご加護を受けた者。

 御使者かどうかは、まだ情報が少なすぎて判断は付かぬが。


 故に、極端に言えば、我が国がお前を迎えることにした、またはそうなったのは、流れの中での偶然とも言える。

 ただ敢えて言えるのは、もしサンタ=ペルナ様の御寵愛を受けた使者様であった場合、一度「もらい受ける」と宣言しておいて「やはり捨てる」などと手のひらを返した途端、王都に火の雨が降るか水の壁に押し潰されるか、何にしても国が滅ぶだけの神罰が下るのは間違いない。

 その点だけ捉えれば、ヒューはとんだ災厄を拾ってきた、とも言える。


 だが、「『国が滅びるのが怖いから』シューッヘを捨てない」、という意図は、ワシは少なくとも持っておらん。

 サンタ=ペルナ様は、既に話した様にその時代を審査なさる神。となれば、審査されるべき「時」が到来したのだ、と考えるべきだと、ワシは思っている。

 たとえシューッヘが他国に属したとしても同じように、世界を審査する何かが行われ、それに応じた強大な「結果」がもたらされた事だろう。


 仮にそうであるとすれば、ではどこの国がシューッヘを、サンタ=ペルナ様を遇するに最適か。

 それは実は、言うまでもなく我が国ローリスなのだ。


 ローリスの信仰神は、サンタ=イリア様であると表向きには言っている。

 だが王家の伝承として、サンタ=ペルナ様がお出ましになられた際には、「サンタ=ペルナ様に世界の『今』をお知らせ申し上げる責務」というものが伝えられている。


 他国にその様な伝承がある、という話は聞いた事が無い。

 もとより、光の神という括りでは、イリア様のみが一般的で、サンタ=ペルナ様はそのお出ましになられない時の長さから、恐らく他の何処の国も「忘れている」女神様であろうと思う。




「……とこのようなことでな。シューッヘのプライドは傷つくかも知れぬが、ヒューの独断で今回の様になった、というのと、たとえヒューが拾わなかったならば、

 寧ろ王家の全ての力で他国から奪い取ってでも、我が国に来て頂かなければならなかった。階位などは関係無い、女神様の存在こそが理由の全てだ」


 王様は強く断言するように、女神様の存在、という言葉に重さをグッと載せて言った。


 そして、王様がヒューさんに向く。


「ヒュー。この度は見事な目利きであった。サンタ=ペルナ様の御使者を見逃したとあれば、我が王家の存在価値に関わるところであった。

 更に、第1階位であることなど、オーフェンの様な細かい実利でしか動かぬ国が、恐れ多くもシューッヘを始末しない様にしっかり釘を刺して我が国の保護下に置いたこと。榮典国上大褒賞1等叙勲に値するが、受けるかヒュー」


 と、問われたヒューさんがゆっくり、大きく首を横に振った。


「わたしは既に、国王陛下からは両手で持ちきれない程の褒賞を頂いております。また元老院での勤めも、なかなかに楽しゅうございました。これ以上何やら望むということはございません」


 とヒューさんは静かに目を伏せた。


「そう言うと思っておったわ。謙虚なる忠臣は、時にどのように遇すれば良いか分からぬな」


 王様がふっと苦笑いをする。

 そして、


「そう言えば、魔族との戦いについての話が残っていたな」


 と、俺の最後の質問を思い出してくれたようだ。

 王様を俺がじっと見つめていると、話を始めたのはヒューさんの方だった。


「国王陛下に御報告致したい事がございます」

「相変わらず堅苦しいな、何でも報告でも伝達でも、自由に話してくれ」

「はっ! 実は……」


 ヒューさんは、つい半日程前の、俺の『初陣』の話をした。

 内容自体は、盛ってない。30あまりの敵を、見えない光で秒の単位で殲滅したと。これは確かだ。

 しかし、「悪なる者へも慈愛をお持ちになって」とか「せめて苦しまぬ様にとお心遣いをされ」とか。


 あの時は必死でそんなこと考えてもないよ!!


「ふむ。シューッヘ」

「は、はい!」

「今、ヒューが報告した事は、全て誠であるか?」

「全てかと言われると……俺は、どんな悪人だとしても、人を殺すことなんて初めてで、震えまくって、泣きまくって……

 そういう情けないところが全部カットされてて、更になんか殺すことにも余裕で相手の死に方を気遣ったりしてとか、全然そんなのないのにそんな風になってたりはしますが、秒、えぇと、セクトの単位で殲滅した事だけは、間違いなく事実です」


 王様は寧ろ納得した様な、安堵の笑顔を浮かべた。


「そうであったか。シューッヘは、心根の優しい青年と、ワシは確信した。

 確かにヒューが言う、『見えぬ致死性の光』というものが、規模も何もかも自由になるのなら、対魔族戦線では圧倒的に優位になろう。されど」


 と、王様は一度言葉を切って、自らの顎先を指でつまむようにして、


「シューッヘは、たとえ魔族という圧倒的な敵であったとしても、

 一度に千や万を秒で根絶やしに殲滅することが、心を壊さず出来るか?」


 王様の言葉に、謁見の間は静まりかえった。

 ヒューさんも、きっとそれは懸念していただろう。しゃべらない。

 王様も、そう言ってるという事自体が、反語として「出来ないだろう?」と言っているようなもの。

 そして俺も、魔族は悪で、殺さないと殺される、と分かっていても……多分心が死ぬ。


 殺戮自体は、多分とても簡単だ。魔族領の中心・その上空に、ガンマ線の塊を、ギガワット単位の超大出力で発生させれば終わる。すっきり全て終わる。

 残るのは、強烈に放射線に汚染されて使い物にならない魔族領地と、なんで死んだのかすら理解出来ずに斃れた、数知れない魔族の遺体のみ。


 う……想像したら気持ち悪くなってきた。


「ヒューさん……」


 俺はふらふらとヒューさんの肩に手を置いた。足がガタガタと震えが来て、立っていられない。

 ヒューさんにガタガタ震える身体を預け、必死に吐き気を耐える。


 ヒューさんは、俺の背中をポンポンと軽く叩き、そのまま手を当ててくれている。


「国王陛下。老翁なるわたしの最後の大仕事として、シューッヘ様に、何とか『平和的に』ご活躍頂く道を模索致します」

「うむ。稀代の知恵者・叡智の聖者とも呼ばれた大賢者ヒュー・ウェーリタス。お前にシューッヘを任せる」


 俺はヒューさんの身体にもたれかかりながら、そしてもう片側を兵士さんに支えられながら、謁見の間を後にした。

もし「面白かった!」「楽しかった!」など拙作が楽しめましたならば、

是非 評価 ポイント ブクマ コメント いいねなど、私に分かる形で教えて下さい。


皆様からのフィードバックほどモチベーションが上がるものはございません。

どうかご協力のほど、よろしくお願い致しますm(__)m

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