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【完結済み】破壊神のしもべはまったり待機中 ~女神様がほぼ仕事しないので、俺ものんびり異世界青春スローライフすることにした~  作者: 夢ノ庵
第2章 砂漠の魔法国家で貴族するのに必要なのは、お金とかより魔力の様です。

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第76話 図書館勉強会 オーフェンで恥かくのは避けたい一心。

 図書館。の、1階の奥にあるグループ室。

 地球の図書館でも、大きめな図書館だとあったりする「複数名で利用する部屋」だが、ここは更に防音がしてある。

 防音と言っても、壁面が頑丈とかそういう訳では無くて、防音用の魔法が掛かっていて、中で話した声や音が外に漏れない。


 今回学習しているオーフェンについては、それぞれが知っている事、というのも大切だが、ノガゥア家で統一見解を持っておいた方が良い事もあると思う。

 この防音なグループ室を用意してくれたのはヒューさんだ。実にありがたいことである。


 因みに、黒板とチョークも、自由に使える様に置いてあり、今黒板にはオーフェンの大まかな地理が描かれている。


「と、この地理図からすると、オーフェン城と大聖堂でしたっけ、それは山を背にしてる、と。頑丈でしょうし攻められづらいですけど、不便じゃ無いのかなぁ」


 城と聖堂は、背後に山。

 というより、山をくりぬいてそこに建てた様な構図だ。

 山側、土砂崩れとか大丈夫なのかあれ。土砂降りに降ったら、切り立った裏山が崩壊とかしそうなもんだが……


「仰るとおり、これがもしローリスであったなら、風は通らず暑さは籠もり、常に日が差さぬ部屋も出来てしまうなど、宜しくないのでしょう。

 されどオーフェンの場合、まぁ日が差さぬ部屋等はどうしても出来ますが、利便性を落としてでも、城自体を落とされぬことの方に知恵を割いた訳です」


 オーフェン城は国防意識が優先、と。

 大聖堂は? 立地的にそこしか無かったのか?


「ヒューさん、大聖堂と、あとオーフェンの宗教ってどうなっています? 大聖堂の、オーフェンの中での位置づけとか」

「それはこちらの図解入り辞典が詳しゅうございます」


 ヒューさんがにゅっと手を伸ばしてこちらに分厚い辞典を寄せてくる。俺、辛うじて端っこを受け取り、重さで落としそうになる。


「おっと……えーと、どの辺りに?」

「冒頭でございます。そちら『オーフェン聖堂巡り』のガイドブックにございますので、大聖堂はトップとなります」

「聖堂巡り? そんなんって、ローリスには無いですよね」

「無いですな。オーフェンの信仰は軽い、と申しますか、真摯に篤く信仰をするというより、気軽に神に近付く、という様な感触です」

「なるほど、寧ろ俺がいた世界の俺の国のそれに近いですね」

「そうなのですか? オーフェンは珍しい信仰形態だと思っておりました」

「いや、間違いなく変わってるとは思いますよ。俺がいた日本の信仰スタイルも、他国からするとかなり異質でしたから」


 言いながら、ガイドブックのページをめくっていく。大聖堂はフィデース大聖堂というのが名称らしい。

 あの大聖堂では怖い目に遭ったけれど、振り返って見た時のインパクトは結構なものだった。白亜の美麗な尖塔がたくさんある建物。印象に残っている。


「オーフェンの神様は? ローリスとは違う神様ですか?」

「はい。各国ごとに信仰神は異なる、と思って頂いて結構です。オーフェンが信仰するのは、命の神ハイマ、そして商売の神マネリアです」

「……他国の神様には、様は付けない主義です? ヒューさんって」

「特にそう言う強い主張がある訳ではございませんが、全く馴染みが無いものですから、単なる呼称、という感じですかな」

「向こうであまり宗教の話題に触れるつもりは無いんですが、神様含め宗教問題で気をつけた方が良い事はありますか?」

「ハイマ神の話題はされない方が良いでしょう。オーフェンの民がハイマ神に祈るときは、結婚と出産の時くらいと聞きます」

「徹頭徹尾、商売の国なんですね、オーフェン。金で買えないものだけは祈る、あと金も祈る、みたいな」

「左様ですな、シューッヘ様の仰るとおりかと」


 聖堂巡りのガイドブックもなかなか分厚い。ただ、この世界には写真が無い。その為、イラストが描いてある。

 イラストでフィデース大聖堂のあの迫力と美麗さは伝わっては来ない。他の聖堂に関しても同じ様なものだろう。


 幾つかページをめくりながら気付いたんだが、聖堂毎に「ご加護」という項目がある。

 同じ神様でも御利益が違う? まぁ、日本でも同じ神様が祀られてても御利益違う神社さんって結構あったけど。


「ヒューさん、聖堂毎に『ご加護』が違うのって、これも俺の国のに似てるんですけど、そういうものですか、オーフェンの信仰は」

「そうですな。ある種のエンターテインメントであり、ある種の神頼みであり、ある種の余興です。軽い信仰ですので」


 その最後の一言に、ヒューさんが持っている、オーフェンの信仰に対する意識が透けて見える。

 ローリスは、基本イリア様一徹の固い宗教だ。ペルナ様も、信仰対象としてはかなりがっちりしてる。

 それに対して、日本風信仰スタイルのオーフェンだと、聖堂毎に御利益が違ったり、聖堂巡って楽しんだり。

 確かにガチの宗教者からすると、信じられないスタイルだろうし、場合によっては軽蔑の対象だろう。

 日本での、御朱印帳集めの趣味者の話なんてしたら、思い切り眉をひそめられそうだ。


「宗教に関しては大体分かりました。生活レベルは? 貴族制度はあるにしても、庶民の中に階層はありますか?」

「なかなか鋭いご質問です。オーフェンにも貴族制度はございまして、旧来の貴族と、現王即位後の貴族に二分されます。


 旧来の貴族は、歴史と伝統に基づく貴族、まぁ一般的な貴族を考えて頂ければ概ね該当します。問題は、即位後貴族の方です。

 即位後貴族は、金で貴族位を買った者たちです。言うなれば、大商人が貴族化した者たち、とも言えます。彼らは通例の貴族とはかなり異なります。


 旧来の貴族が、格式と伝統を重んじるのに対し、即位後貴族はあくまで儲けが出るかしか考えていません。常に商売です。

 まぁ金で爵位を買った者ですから当然ではありますが。ただ、国への貢献という面では、互いに出せないものを出す、という形で協調路線が取れています」


 互いに出せないもの? 旧来貴族が出せないのは金として、商人貴族が出せないのは……何だろ。


「ヒューさん、旧来の貴族が金が出せないのは想像付くんですが、即位後貴族が出せないのって?」

「一つは軍備。旧来貴族は、主に領地軍を持っていますので、国防、及び戦争時の兵拠出を担います。もう一つは正当性です」

「正当性?」

「はい。オーフェン国王は、旧公爵家を金で買い、そこから王位まで金で買ったとされています。それ故、歴史に裏打ちされた正当性がございません」

「確かに、そうですね。金で買えるなら、別に金持ちなら誰でも王様になれる」

「左様です。そこがオーフェン国王の上手いところで、旧来貴族が支持する、というのを正当性の根拠として、今の地位におるのでございます」

「はーいはーい質問して良い? ねぇ、オーフェンの王様って、名前は?」


 アリアさんが勢いよく手を上げて突っ込んでくる。うん、グループディスカッションの良いところだよな。


「そう言えば申してませんでしたな。『エンポロス・ド・オーフェン1世』。これが正式名称でございます。一般にはオーフェン陛下と呼ばれます」

「エンポロス陛下、では無くて?」

「はい。オーフェン陛下、と呼ぶのは普通考えれば国名ですのでおかしいのですが、何故かそれで浸透しております」

「ふーん……国によって、色々あるんですね」


 手元にバラバラと置いてある本をひょいと手に取ってみる。それは『オーフェン国儀礼辞典』という、如何にも堅苦しく難しそうなタイトルだった。


「ヒューさん、オーフェンとローリスで、この儀礼の項目で違う事ってありますか? 片膝じゃなくて両膝折るよ、みたいな」

「そうですな……基本オーフェンでは、長々しい挨拶は好まれません。国王に話しかけるにしても、『国王陛下には御機嫌麗しく、さて例の件ですが』といった風に、国王の返答も待たずにいきなり本題に入っていきます」

「かなり違いますね、ローリスのスピード感と」

「そうですな。商人の集合組織の様な国ですので、何より時間を労する事を嫌います。外交使節団として此度は参りますが、それですらローリスの様な通常の儀礼は無く、かなり省かれます」

「ローリス基準で考えない方が良いのか……付いていけるかなぁ、そのスピード感」

「わたしもあのスピード感に付いていくのは難しく、文化の差をつくづく感じます」

「あっ、もしかするとあたし意外と行けるかも。ギルド時代はとにかく時間詰め詰めだったし」

「そうだの。アリアのチャキチャキした性格と速度感が国を為していると思えば、概ねその速度感で正しいかも知れぬな」


 と、ヒューさんはふふ、と笑っている。

 確かに、アリアさんは意外とスピード感はあるし、話も早い。英雄妃の立場で行くのだから、ある程度アリアさんに前面に立ってもらっても良いのかも知れない。

 いや待てよ、そうなると問題になるのが……


「男女の発言力の差って、オーフェンはどうです? ローリスだと、女性の発言権はかなり低くされている、と俺は見ていますが」

「シューッヘ様から見られると、ローリスの女性の発言権は少ないですか? これでも前王陛下の時代よりはかなり改善されておるのですが……」

「低いですね。発言権もそうですが、立場が低い。女性閣僚とかいないんじゃないですか?」

「そうですな。貴族当主を眺めても、女性当主は2名のみです」

「別にそれが悪いと言う訳ではなくて、今回俺が考えている事に、少し必要なので聞きたいんです。オーフェンでは、どうです?」

「オーフェンは、女性がのさばっ……いえ失礼、女性の社会進出が大変発展しております。男性でも女性でも、稼げる者が正義です」

「では、外交使節として行った時に、俺が話すだけで無くてアリアさんが前面に立って話しても、文化的には問題にはならないですよね?」

「そうですが……あまりアリアが前に出ると、今度はローリス国民の反感を買います。使節団は両国の注目の的ですので」

「あーそうか、ローリス側の目もある訳か。そこは少し考えないといけないなぁ……」

「ねぇシューッヘ君、あたしも色々話したりするの? 黙って横にいるだけじゃなくて?」


 アリアさんが、鳩豆鉄砲な顔をして俺に問うてきた。


「いやあのさ、俺の世界がそうだったんだけど、女性の活躍度が高い国からすると、ローリスみたいな国って『女性を搾取している』って見られがちなんよ。

 それって結構辛辣な批判に繋がって、国の評価落とす元になるんだよね。としたら、アリアさんにも前面に出て外交してもらうと、相手国からは馬鹿にされないかなって思って」


 俺の発言に、ヒューさんはちょっと驚いた様に軽くだが背を伸ばした。


「なるほどさすがシューッヘ様です。確かにローリスの中では、女性が出張るとろくでもない叩かれ方をしますが、オーフェンであれば……女性が黙っていると『女性だからと黙らせて』と言われかねないところはございます」


 ヒューさんは、ローリスの重鎮であるし老年でもあるから、どうしてもローリスが意識の中心になってしまう。

 けれど、オーフェンがそれだけ進歩的な国であるなら――というか単に商業特化とも言えるが――女性の進出妨害は人権問題だ。

 この世界に人権の観念があるのかは分からないが、他国から人権レベルの話で嘲られるのは、やはり少々悔しい。


「あ、女性問題で思い出したんですけど、亜人と人との扱いの差は? オーフェンのマーケットを見た時には、ローリスとは異なりほとんど差は無い様に見えましたが」


 こうして質問を色々積み重ねて時間は過ぎていった。

 アリアさんは途中から少し退屈そうに椅子をガタガタさせてヒューさんから怒られたり。飽きたの分かりやすすぎである。

 万全と言えるかどうかは分からないが、この日の勉強会でかなりオーフェンの知識が増えたのは間違いない。


いつもありがとうございます。ご評価、本当にとてもありがたいです。

より一層頑張りますので、是非この機に「ブックマーク」といいねのご検討をお願い致しますm(__)m

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