第70話 男性と女性それぞれの身体の都合 ~朝ガン見するのはよしてください……~
また朝が来た。もうそろそろ3ヶ月位か? 最初の頃は日付をカウントしてる余裕も無かったので、日付については曖昧だ。
取りあえず言えるのは、今日が10月の1日に当たる日、という事くらい。俺がこの世界に飛んできたのが、多分7月の末頃。
あの時点で、日付の概念とかカレンダーの概念とかを、もっとしっかり確認しておくべきだった。
まぁでも……今更確認したところで、地球からこっちへは一方通行だから、地球との互換性を考える必要は無い訳だが。
昨日の夜は、のんびりとアリアさんと二人で、これからの事を色々話した。これからのノガゥア家の事、決めないと行けないルールとか。
もちろんそんな堅苦しい話でもなくて、実態は少しアルコールを頂きながらわいのわいのしていた感じである。
飲んでみてよく分かったのは、俺は赤ワインは好みじゃない。白ワインが美味いと感じる。アリアさんはどっちも行ける。
そして、酒の限界量についても、俺は随分飲めない一方で、アリアさんはかなり飲める。飲んでもグダグダには崩れない。
あー……昨晩のアリアさんの、うつらうつらしながら俺を心配してくれる姿、可愛かったなぁ。
思わずそのまま流れで、俺のベッドに迎え入れて朝を迎えてしまった。シャワーすら浴びずに、だ。
今日のスタートはまずシャワーからかな、と、思っていたら、アリアさんがベッドでむずむず動き出した。
「あ、起こしちゃったかな」
「う……うぅーん……んあ? あれ、ここ……あー昨日、こっちで寝ちゃったんだぁあたし」
アリアさんはかなりまだ眠そうだ。辛うじて薄目が開いているが、まぶたの重さと格闘している様な状態である。
「シューッエくん、おあよー、おは……ひゅう……すー」
うむ、まぶたが勝ったか。見事に二度寝入りである。
女性が二度寝に突入する姿なんて、それはそれで希有なものが見られる立場な俺って、なんて言うか、ありがたいものだ。
アリアさんを再び起こさないように気をつけながらベッドから抜け出す。
この屋敷、全域が靴仕様で、ベッドとお風呂に入る時には脱ぐ、という仕様だ。
こういう時に、館内用のスリッパがあると良いな。今日も今日とて買い物リストがまた膨れ上がっていく。
取りあえず、ブーツを履くのは大変だから、まぁ素足で良かろう。そんなに床も汚れてもいないだろうし。
「はっ! ご、ごめんあたしまた寝ちゃった!」
「んー、おはよアリアさん」
何だか慌てふためく様のアリアさんだが、別に今日も今日とて決まった予定がある訳でも無いし、何時まで寝ていても誰も怒らない。
と言うか、時間で言えば今はまだ7時半頃。朝の、普通なお目覚め時間と言っても良いのではないかな? この世界の平均は知らないが。
「シューッヘ君、改めておは……」
「おはよ……ん? どうかした?」
「その……凄いのね、それ……」
「え、ん? うわっ!」
指差された先を見て、俺は思わず前を隠して前屈みになってしまった。いや男子の朝はこうなるんだからどうしようもない。
トイレで用を足せば収まるんだけど、そんな細かい説明が出来る状態ではない、アリアさんのじっくり視線がやたら恥ずかしい。
一度身体を交えれば、そういう事で恥ずかしいとかって無くなるのかなと思っていたんだが、存外そうではない。顔から火が出そうだ。
俺は手を伸ばしてバスローブを羽織り、ささっと重ねて前を隠しつつベッドから離れた椅子に腰掛けた。
ちょっとこの状態になってる時に、アリアさんに近付くのは、良い事なのかどうなのか、今の俺には分かりかねたので、場所はここだ。
「シューッヘ君、そんなに恥ずかしがらなくても」
と、アリアさんがクスクスと笑う。いやいや、何の『良い雰囲気』も無い時にこの臨戦状態になってるのって、恥ずかしいんだって!
「ちょ、ちょっとトイレ行ってくる。そうすれば、普通に戻るから」
「えー普通に戻しちゃうのー? せっかく立派なのに」
「立派って言われてもなぁ、これ単なるバグみたいなのだよ? 朝こうなるのって」
「バグ?」
「えーっと要するに、間違い機能!」
「えっ、そうなの? てっきり朝からその……ぐいぐい、みたいな気分なのかなって思った」
「違う違う、これ若い男性特有の変な機能なんだって! そんな気分も無いし雰囲気もないよっ!」
言いながら、何とかトイレに駆け込んで扉を閉めた。ふう、視線が無いのって安息だ。
用を足す。と言っても、昨日の夜に結構飲んだせいか、あんまり出たい感じでも無いんだよな。どうしよ。
しかもついでに言えば、何処の世界でも便器というのはこの形に進化する運命にあるものなのか、朝立ち男には使いづらい。
仁王立ちのままだと照準があやふやになるし、座ってするにはいきり立ってるのを思い切り押さえつけないといけない。意外とそれが痛い。
とは言っても、トイレを汚すのは宜しくないので、強制的に着座になる訳だが……よく折れないもんだなこのモノも。角度150度位下向けてんのに。
液体がちょろちょろと出て行くに従って、戦闘状態もジワジワと解除されていく。膀胱がスッキリする頃には、すっかり普段通りの俺のである。
「あー恥ずかしかった。アリアさんに超恥ずかしいの見られた上に誤解されてた……」
「んー、てっきり朝からもう我慢できないとかなのかなって思ったー。もしそうなら、言ってくれれば、あっ……」
「ん? 言ってくれれば?」
「やん、あたしの方が恥ずかしくなっちゃった、今のナシナシ!」
と、今度はアリアさんが赤面して手をブンブン振っている。
因みに今は下半身だけしっかりベッドに入ってはいるが、昨日の洋服のままであるので上半身もヌーディーとかでは全然無い。
「んー、シャワーどうする? 俺、先に浴びても良い?」
「うん、そうして欲しいかな。生理中で汚い物見せちゃうのも嫌だし」
「汚い? ごめん俺が女性の生理について詳しくないから変な事言うかも知れないんだけど、生理ってこの世界だと汚い物扱いなの?」
「えっ? 汚い物扱いって言うか、人様に見られる・見せれる物じゃないと言うか……」
「その……アリアさんが嫌ならそれはそれで良いんだけど、俺アリアさんの生理を汚いとは思わないよ? 誰でも、女性に毎月あるものだし、出てくるのも元を辿れば細胞の壁と血液だし」
「し、シューッヘ君生理に……詳しい?」
「へっ? 多分詳しくない方に入ると思うけど、それでも経血が何かとか、月経が何かとか位は知ってる。俺って、もしかしてこの世界的には変?」
「う……うん。かなり変。普通、女性の月経は汚いもので、月経中の女性に触れると厄が移るとか、過激な人だと『部屋から出るな』って命令する旦那様とかもいるって言うわ」
「マジで? うわー凄い前時代的に感じる。俺のいた国も、昔はそんなだったって聞くけど……今の俺くらいの年齢だと、そこまでの人は、いないなぁ」
「で、でもシューッヘ君、ホントにキレイなものじゃないよ? 色もそうだし、臭いもするし」
「色は正直見た事ないからわかんないけど、臭いは……例えばだけど、その、俺の、その……白いのと比べて、より臭う?」
「う、うーん……どっこいどっこい? 臭いの種類が違うからなんとも言いづらいかなぁ」
「俺の白いのって、やっぱり汚い?」
「ううん! どうしてもベタベタしたりするのは仕方ないし、そこはちょっとイヤって思っちゃう事もあるけど、汚いとは思わないよ!」
「アリアさんの経血と俺の精液を並べて議論するのは変かとは思うけど、俺は俺で自分の精液汚いなって思ったりすることある。けど、その精液で、俺たち繁殖してるじゃん?」
「う、うん」
「それは男性側の話で、女性側の、受け入れ側の定期メンテナンスが、月経な訳じゃん。『生殖に付きまとう汚さ』って、やっぱりあるかも知れないけど、俺はアリアさんの月経は汚い物だとは思えないんだよなぁ」
シャワーの話から、つい月経について暑苦しい語りを入れてしまった。
ただ俺としては、月経だから、という理由でアリアさんがこそこそしないといけないのって、イヤなんだよな。
それ自体、社会的にそうだ、となったらどうしようもないのかも知れないけれど、せめてこの屋敷の中だけでも。
生理の日は、明るく対策して気楽に過ごせる様に環境整えて……そんな風にして、生理だから○○出来ない、みたいなのも、出来るだけ無いようにしたい。
「ちょっと熱が入っちゃった。ごめんね、朝から」
「ううん! シューッヘ君が、女性の身体の事、真剣に考えてくれてる事が分かって、あたし嬉しいよっ!」
「うん。じゃ、今日はともかく俺が先にシャワー浴びるね。アリアさんに抵抗が無くなったら、自由な順番にしよう」
アリアさんはベッドの上で、口角を上げてニコッとしながら、頷いてくれた。
***
「今日の奥方様は、朝から機嫌が良いな。何か良い事でもあったか?」
朝ご飯の際、配膳をしながらフェリクシアさんが俺たちに聞いてくる。
なんか、一昨日より昨日、昨日より今日と、次第に俺たちの席が近づけられてる様な気がするのは気のせいか?
「シューッヘ君が、優しい旦那様だったの、ふふ」
「そうか。のろけが出る位の方が、新婚という時期には丁度良いだろう」
フッと、本当に一瞬だが、フェリクシアさんも口角が上がって笑顔になっていた。
メイドさんの立ち位置と言うのは、この世界に来て初めて考える事ではあるが、仕えている家の主人と夫人が仲良いのは、やはり嬉しいものなのだろうか?
「あぁ、言っていなかったが、昨日回収しておいた掛け時計などは、全てそれらしくは掛けておいた。直したい所があれば言ってくれ」
言われて気付く。正面上の壁部分に、大きめの仕掛け時計があった。時計店で俺が買った物だ。
丁度時間が9時を指す頃になっていた。少し待つ……長針がピクッと動いて真っ直ぐを指すと、遅れて『チャーン』とチャイムが1度だけ鳴った。
「これは案の定、仕掛け時計になっていたか」
「うん、そうなんだ。8時には鳴らなかったの?」
「あぁ、聞き逃しただけかも知れないが、8時には鳴らなかったな」
「何でも、夜は鳴らないんだってさ。25時間ずっと鳴るとかだったらシャレにならんと思ったけど、朝は9時からなのか。良いね」
「そうだな。貴族で朝から急き立てられねばならないなんて言うのは、忙しすぎる。この位の時間にのんびり朝食を取れる程度の忙しさであると良いな」
「やっぱり貴族って働かないものなんだね」
「そうだ。貴族が働くのは、領地開拓の真っ最中か、権力闘争の真っ最中か、そのどちらかだ」
うーんなるほど、そんなことでも無きゃ貴族は働かない、というのが、この国での貴族のイメージなんだな。
俺自身そのイメージに縛られるつもりは無いけれど、忙しすぎるよりは多少暇を持て余す方が、貴族として良いのは俺の世界の歴史も証明している。
貴族達が戦いにいそしむと文化は廃れる。平和の時代には、非常に文化が多様性を増し、芸術が花開く。
このローリスには、まだ芸術的と思える様な活動が日々されている痕跡は無い。どこにもそんな余裕は無い感じだ。
だったら、そういう余裕は、暇な貴族の戯れから巻き起こしていくしか無い。丁度、俺のような。
とか言いつつ、俺が何か芸術活動が出来る程才能があったりする訳でもないんだがな。
とそんな事を考えていると、玄関扉がノックされた。扉が金属で堅いからなのか、ノックの音は大変よく響く。
俺が立ち上がろうとするとそれをさっと手を向けて制し、フェリクシアさんが玄関に駆けていった。
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